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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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王都にて パーティへ1

 オルナーガの家でドレスを着せてもらった。私の瞳と同じエメラルドグリーンの生地に小花の刺繍が入ったすっきりとしたデザインのドレスは綺麗だけれどなんとも動きにくい。手袋をしないで来たので腕が露出していて能力は使いやすそうだが、もしいきなり襲われでもしたら素早く逃げられる自信はない。


 キースは着替えた私を見ると、細い目を大きく見開いてしばらく固まってしまった。「おーい」とつつくと、ようやく我に返ったキースは顔を赤くして私から顔ごと背けた。


 私も一応女なのだから、好きな人からの反応は気になるもの。そのキースの反応でだいたいはわかったけれど、わざとキースの視線に入るように移動してみた。


「……何だよ」


「ううん」


 じっとキースの顔を覗き込むが、キースはすぐに顔を逸らしてしまう。私はむーっと膨れて、


「触っても良い?」


 と、自分の手をキースの顔に向ける。


「わ!」


 キースは驚いて私から飛び退いた。


「酷い……そんな反応、女性に向けて失礼だと思うな」


「うっ……」


 傷ついた表情を見せてみると、キースはあからさまに狼狽える。そんなキースを見ているのが楽しい。


「私はキースの素直な感想が聞きたかっただけなんだけど」


「あぁ……」


 キースはバツが悪そうに頭を掻く。そんなキースもタキシードがバッチリ似合っていてなかなかに格好いいと思う。


「まぁ……その、悪くない、と思うぞ」


「悪くない」


 私は平坦な声でその言葉を復唱する。綺麗なドレスを着せてもらって、自分でも悪くないとは思ったけれど、そこまで良くもなかっただろうか。キースを虐めて遊んでいただけなのに、なんだか本当に不安になってきてしまう。


「あ、いや、その……」


 キースはコホンと咳払いした。


「綺麗、だと思うぞ」


「……本当に?」


 お世辞じゃないだろうかと疑いの目を向ける。


「ドレスが、じゃなくて?」


「……リコルが」


 恥ずかしそうに小さく呟いたキースを見て、私はようやく安堵する。


「良かった。キースも格好いいよ」


「リコル、俺をからかって遊んでるだろ?」


「そんなことないよ。ただ、女性としては、エスコートしてもらう男性に気に入ってもらえたかどうか、心配になっただけ」


「そうかよ」


 気を取り直したキースは私の手を取って、しっかりとエスコートしてくれた。ふふふ、照れるキース見るのは楽しいな。


『こんなに綺麗だとどこを見たらいいかわからねえな。普段も可愛いけど、雰囲気が違うとまた違った良さがある。他の男がよりつかないように、ちゃんと守ってやらないと』


「!!」


 常に優位に立っていたはずの私はキースの心の声に不意打ちされる。こんな、こんな風に逆襲されるなんて!


「リコル、まさか……俺の心を」


 赤くなって見上げた私を見て、キースが察したらしい。


「しょ、しょうがないじゃない!」


「別に責めちゃいねえけど」


 2人で赤くなってしまう。今日、キースにずっとエスコートしてもらうに当たって、事ある毎にこんな本心が聞こえてくるのかと思うと、大変な1日になるな、と自分の心臓が心配になってしまった。


***


 パーティ会場はアイレーン王子が主催するだけあって王都でも格式高い場所だ。到着するとそのきらびやかさに頭がクラクラとしてしまう。人も多く、私は思わずキースの側にさらに近づいた。キースは私を守るように肩を抱いて建物に入った。


 ブルームとレイリーズとは会場で待ち合わせ。イオルとベルロイ、ルシェは外で待機している。もし私達に何かあれば、3人が助けに来てくれる。ベルロイは火魔法の制御ができず、魔法を使ってしまっては会場が消し炭になってしまうので、魔法は禁止。代わりにルシェが武器を持って待機しているし、ベルロイも素手でかなり戦えるのでなんとかなるだろう。


 私達が危険な目に合うかどうかはわからないが、もしもの時に助けが来るとわかっていると、それだけで安心できる。


 ロビーに入るとすぐにブルームとレイリーズを見つけることができて、私はホッと安堵した。レイリーズは水色のドレスを着ていて、あまりの美しさから立っているだけで目立っている。タキシードを着て普段よりもしっかりして見えるブルームが周りを威嚇するかのようにレイリーズの腰を軽く抱いていた。そんな2人は絵になりそうなくらい美しい。


「リコ!」


 私達を見つけてレイリーズが手を挙げて合図をするが、何だか綺麗な絵画を汚してしまうようで近寄りがたいとすら思ってしまった。


「すごく綺麗ですよ、リコ」


「今のレイに言われても嫌味にしか聞こえないよ……」


「えぇ!? 何故ですか!?」


 レイリーズは自分の容姿に関しては無自覚らしい。そういうところも可愛いな、と思いながら、


「レイも綺麗だよ」


 と、言った。


「さ、会場に入るか」


「そうだね」


「なるべく4人で固まって行動しよう」


「目立ちそうだよね……」


 容姿が美しいレイリーズ。普段こういったパーティには現れないオルナーガ家のキース。黙っていても人が寄ってきそうだ。


「俺から離れるなよ」


「うん」


「レイもね」


「はい」


 レイリーズを気使っている様子のブルームの視線はどことなく優しい。私とした約束をちゃんと守ってくれたのだろうか。


 そんなことを考えながら、私はレイリーズとブルームの手に触れた。


『何かあったら私に触れて。私に伝えようと思考してくれたら、私はちゃんと読み取って答えられるから』


『わかりました』


 2人はしっかりと頷いた。


「じゃあ行こう」


 私達は揃って会場へ足を踏み入れた。


 会場に入ると、まずはビブリオを探すことにする。彼の交友関係がある人物とできるなら話を聞きたい。しかし、会場には思った以上に人がいて、探すのは簡単にはいかなさそうだった。


 程なくしてキースを知っているらしい貴族の人が次々と寄ってくる。キースは私の二の腕辺りを抱きながら、その人物がどんな人かを脳内で説明してくれる。


 貴族の人々はキースの珍しい参加と、そのキースが連れてきた私に無遠慮に興味の瞳を向けてくる。キースは鬱陶しいと感じながらも、きちんと大人の対応を続けていた。


 なかなか会場の中心に進めないまま時間だけが過ぎ、静かに流れていた音楽が途切れた。前を見ると、1段上がった段の上にビブリオと並んで黒髪の男性が中央に立った。遠くにいるのに神々しく輝く金色の瞳がはっきりと見える。


 その姿を見て、私は思わず頭を下げた。私でも知っている。あの方はユーロラン帝国の第二王子、アイレーン様だ。


「皆、今日はよく来てくれた」


 よく通る声が会場に響き渡る。


「どうか楽しんでいってほしい」


 言葉を発したのはその2言だけだったのだが、一気に会場の空気が熱くなったのがわかった。これが王子の力。


 挨拶が終わるとパーティが始まる。私達は足を早めて舞台の方へ急ぐ。ビブリオに挨拶をしなければならないからだ。そして、アイレーン様と間近でお会いする。


 離れていてもあんなに萎縮してしまったのに、近くで会うなんて大丈夫だろうか。キースも緊張している様子が手から伝わってきた。


 人をかき分けてなんとか前まで辿り着くと、アイレーン王子とビブリオの姿を見つけた。アイレーン王子は誰かと談笑していて、それを守るようにビブリオが立っている。ビブリオはアイレーン班の隊長なので、側で守ることは当然のことなのだろう。


 しばらく離れてその様子を見ていると、ふとアイレーン王子の視線が私達へ向いた。視線が向いただけで固まってしまうが、アイレーン王子は薄く微笑んで、話をしていた人達に断りを入れて、こちらへ歩いてきてくれた。


「こんばんは」


 私達は敬礼をしてそれに返事をする。


「息子のキースです」


「わかっているよ」


 後ろのビブリオがキースを紹介するも、アイレーン王子はキースのことを知っていた様子だった。


「隣の女性は噂の恋人さんかな?」


「お答えしろ」


 ビブリオが睨みをきかせてきた。


「はい。リコル・イヤルダと申します」


 私はアイレーン王子に向けて頭を下げる。王子はずっと見ていると恐怖を感じるような、そんな不思議な雰囲気をまとっている。


「隣は?」


「はい、ブルーム・ガリオンとその婚約者のレイリーズです」


「そうか……ブルーム。君の母上にはお会いしたことがある。彼女が亡くなったのは僕の部隊に入れようとしていた矢先の出来事だったから、深く記憶しているよ。こうして息子の君と出会えたことを彼女に感謝しよう」


 ブルームも深く頭を下げた。ブルームのお母さんも守護兵団だったのだろうか。後で聞いてみよう。


「若い兵士と話す機会はそうない。どこか別室でゆっくり話をしようか」


 アイレーン王子がそう言うと、ビブリオが給仕を呼び止めて何やら話をつける。そして、私達は言われるがままに2人について会場から出た。貴族の控室などが並ぶ1室に入っていく。


 ビブリオやアイレーン王子と話をするためにこのパーティに来たのだが、こうも上手くことが運ぶと思っていなくて警戒してしまう。キースも、


『油断しないようにしよう』


 と、自分に言い聞かせるようなことを思っている。

●豆知識


氷の乙女

ブルームの母親、ケイティ・ガリオンの異名。

あまりにも高い氷の魔力を持っていたためにその名がついた。

任務で既に亡くなっている。

銀髪で強い目つきの美しい彼女は守護兵団内で有名な存在だった。

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