顔合わせ3
そんな出来事から一年。まさか、またこのコンビと再会するなんて夢にも思っていなかった。そして、その再会が、こんな形で果たされるなんて。
特務部隊のメンバーは私のことを目を丸くして見ていた。心を読まなくたってわかってる。
『どうしてダメ五がこの二人と知り合いなんだ?』
そう思っているんでしょう。私はブルームを睨みつけながら、
「あんたが……あんた達が、この部隊の隊長と副隊長、なの?」
と、聞いた。
「おっと、そうだった。ちゃんと自己紹介しなきゃね」
ブルームは今気がついたようなリアクションを取って、私達を見回した。みんなの視線はブルームに移ったが、何故かレイリーズだけは私をきつく睨みつけていた。
「ブルーム・ガリオンです。この特務部隊の副隊長に着任することとなりました」
軽くにやけながら敬礼してみせた。それに合わせて他のメンバーも敬礼をするが、私はどうしてもそんな気持ちにはなれない。
「前任は第二守護兵団、戦時対策部隊でした。氷魔法を使います」
そして、ブルームが副隊長、ということは────
隣に立った、相変わらず人相の悪い男が口を開く。
「キース・オルナーガ。特務部隊の隊長を任された」
オルナーガ?どこかで聞いたことのある名前だ。
「前任は第二守護兵団、戦時対策部隊。能力は空気砲だ」
前に座ったイオルが先程よりもキラキラした瞳でキースとブルームを見つめている。
「さ、固い挨拶はここまでにして、部隊の詳細は明日ミーティングがあるんだし、今日は楽しく親睦を深めましょう!」
ブルームがパンっと手を打って、グラスを持ち上げる。私も仕方なくグラスを手に取った。
「乾杯!」
ブルームの明るい声と、他のメンバーの固い声、という不協和音が響き渡り、親睦会は始まった。しかし、誰も何も喋らない。
ブルームだけが一人で楽しそうに料理に手を付けていた。
「……ねぇ」
私は堪らずに声をかける。
「私をここに呼んだのってあんた達?」
レイリーズが私を振り返って酷く怖い顔を向けた。
「リコル! お二人に対して『あんた』とは……」
どうやら私の態度に腹を立てているらしい。
「レイ、いいんだ。リコルちゃんとはちょっとした仲で、ね」
ブルームがレイリーズにウインクしてみせる。
「ちょっと、誤解を招くような言い方はやめてよ」
この部隊では猫を被って大人しくしていよう。そう思っていたついさっきまでの自分が、肩を落として自分から離れていくのが見えた気がした。
しかし、それを止めることもできないくらい、私は動揺している。だって、ブルームは私の能力について、何か気がついているかもしれない人物なのだから。
「あぁ、リコルちゃんをここに呼んだ理由、だっけ?」
ブルームの言葉に全員が注目しているのがわかった。
「まぁいろいろあるんだけど、確かに人員を選定する会議で名前は出した気がするなぁ」
ブルームはここに来てなお、とぼけ調子でそう言った。
「ふざけないでよ。私の能力、大して使い物にならないって知ってるでしょ?」
「そうかなぁ」
ブルームの終始小馬鹿にしたような軽い調子が私の神経を逆撫でる。
「一体何を考えて……」
「俺はリコルちゃんの能力、使い物にならないなんて思ってないけどね」
私の言葉を遮って、少し真剣な口調になったブルームがそう言った。室内の光に反射して、眼鏡の奥のブルームの瞳がはっきりと見えない。
「それに、リコルちゃん、受けたんでしょ? この部隊、断ることもできたはずだけど?」
確かに異動の通知には受け入れるかどうかの返信が求められていた。そして、私はそれを受け入れた。
私は唇を噛み締めてブルームを睨みつけた。こいつ、やっぱり食えない男だ。腹が立つ。
「さ、これからは同じ部隊ってことで。仲良くやろうよ」
ブルームは軽い調子に戻って楽しそうにそう言った。
***
気まずい雰囲気の顔合わせ会がようやく終わった。
レイリーズはどうしても私の態度が許せないようで事ある毎に私のことを睨み、不機嫌そうだった。私だって隊長と副隊長にはちゃんとした態度を取る常識くらい持ち合わせているつもりだった。でも、それがあの二人じゃ今更、ね。
イオルは猫なで声に戻って、終始キースとブルームに絡み続けていた。キースは迷惑そうにあしらい、ブルームはさらっとかわしていたのだが。
ルシェとベルロイと私はそれぞれ座って別のところでごはんを食べていたが、特に会話を交わすことはなかった。きっと、私という人間が何者なのか、接してもいいのかわからなくなっているのだろう。
ブルームが終わりを告げると同時に部屋を出た私は、廊下を歩きながらうーんと伸びをした。ようやく解放された。
結局、私がここに配属された理由はよくわからなかった。部隊の人事なんて機密事項なんだろうけど……。
ブルームが副隊長。私の能力のこと、バレないように気をつけなければ。
後ろから足音が聞こえて振り返ると、同じくすぐ部屋から出てきた様子のキースと目が合った。
「久しぶり、だね」
「……あぁ」
キースは私と並んだ。キースもあの時は私の能力に気がついていないみたいだったが、時間が経った今となってはブルームに何か聞いているかもしれない。キースのこともしばらくは警戒しなくてはならないだろう。
「あ、敬語使ったほうがいいのかな? 隊長だし、レイリーズにも睨まれちゃったもんね」
「今更やめろ。気色悪い」
キースは吐き捨てるように言った。今、キースの心の中ではどんな言葉が浮かんでいるのだろうか。
「隊長なんだね、キース。そういうの嫌いそうに思ってたけど」
「嫌いだよ。でも、俺にとっては必要なことだ」
「必要?」
「リコルだってそうだろ?」
必要、か。確かにそうだ。だから、私はこの異動を受け入れたんだ。
「愚問だったね」
誰もいないカウンターを横目に見ながら薄暗い階段を登る。私の部屋は二階だったよな。
「この組織にいて、上に行きたくないやつはいない」
キースの発した言葉に疑問を感じるのは、私がダメ五出身だからだろう。
ダメ五の人間は守護兵団にいられるだけで十分。第二や第三守護兵団だって、現状に甘んじるだけの人間は多いはずだ。
それでもキースがそう言うのは、キースの瞳には上しか見えていないからかもしれない。
キースと過ごしたのなんてたった数日のこと。フルネームだって今日初めて知ったくらい、私はキースのことをほとんど知らない。
21歳で部隊長を引き受けたキースは一体何を背負っているのだろうか。
「じゃあな」
いつの間にか二階に着いていて、キースはあっさりと私を置いてさらに上に登っていく。私はその大きな背中に、
「おやすみ」
と、声をかけた。キースは私を振り返らないまま、
「また明日。遅れるなよ」
と、告げた。「また明日」か。
私は部屋の鍵を握りしめて自分の新しい部屋へと向かった。
●登場人物の見た目紹介
イオル・グロール(18)
性別:女
身長153、赤茶の瞳。
金髪の髪の毛は癖っ毛。
毎朝早く起きて髪を巻いてカールさせているのは、癖っ毛を可愛くセットする方法がこれしかないかららしい。
さらさらストレートヘアの女子は全て彼女の敵。