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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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オルナーガ家へ2

 馬車に揺られること2日。ようやく王都に近づいてきた。乗ったことのないような豪華な馬車でキースと2人。国が荒れるかもしれないユーロラン帝国の秘密を握っているというのに、なんだか現実味がない。


 それでも王都に近づいてきて、いよいよキースのお父さんでありスパイ騒動に関わっている可能性があるビブリオと接触すると思うと緊張感が漂ってくる。私とキースは相変わらず手を握り合って、今日の対面に向けて作戦会議をする。


『今日の目的は父上が事件に関わっているかどうか掴むことだ』


『任務中で遠いパリス地方にいた息子を呼び戻すくらいだから、私達が真相に近づいていることに気がついているのかな? だとしたら警戒されているわけだし、いくら息子が相手とはいえ、簡単に白状するとは思えないけど』


『とりあえずは父上の出方次第だな』


『うん』


 繋いだ手からは緊張の感情も伝わってくる。はっきりと聞いたわけではないけれど、キースは養子だってこともあって、お父さんとは仲が良いわけじゃないんだよね。それにスパイの件まで加わって、緊張するのも当然だ。


 私がしっかりしなくちゃ。私は握った手に力を込めた。


 馬車の揺れが止まり、ドアが開いた。


「到着いたしました」


 執事服の男性に促されて外に出ると、豪邸と数人のメイド達が目に飛び込んできた。


「おかえりなさいませ、キース様」


 うやうやしく頭を下げるメイド達を見ると、オルナーガ家が名家だということを思い知らされる。今まで私は誰かに頭を下げられたことなんてないので、悪いことをしているような気分になってキースの後ろに身体半分だけ隠した。


「旦那様のお戻りは夜になります」


「わかった。じゃあそれまで部屋で待たせてもらう」


「かしこまりました。それで……」


 執事の男性が私に目を向ける。明らかに不審な顔をしていた。


「この女性は俺の大事な人だ。父上に会わせる」


 キースは有無を言わせぬ勢いでそう言い切った。大事な人、という言葉にドキッとしてしまう。私をオルナーガ家から守るために言ってくれているのだとわかっていても、やっぱり嬉しい。


 執事は一瞬驚いた顔をしてから、


「……かしこまりました」


 と、頭を下げた。


***


 オルナーガ家の中は外観だけでなく内装もすごかった。広すぎるロビー、光り輝くシャンデリア、飾られる絵画や彫刻。それらすべてがオルナーガ家のすごさを物語っていた。


 通された部屋も客間とのことだったが、ものすごく広い。アスモの診療所の5倍くらいの広さがある。


 そんな広い部屋で、私とキースはソファに並んで腰掛けた。すでに作戦は始まっている。その名も『付き合いたてで一時も離れたくない恋人作戦』だ。


 お茶を運んでくるメイドの視線を感じながら、私はキースの腕にベッタリと張り付く。


「すごく素敵なお家ね、キース」


「気に入ってくれたか?」


「もちろん!」


 私がにこやかに答えると、キースが空いた手で私の頭を撫でる。


「それはよかった」


「キース……」


 熱い視線をキースに向ける。しかし、キースの顔は今にも笑い出しそうで肩も震えている。


『ちょっと、笑わないで!』


『だってお前、演技下手すぎるだろ。棒読みになってるぞ』


『キースだってぎこちないじゃない!』


『リコルほどじゃない』


 心の中で言い合いをしていると、メイドが目線を下げたまま会釈をして部屋を出ていった。ふぅ、と一息つくが、どこで見られているかわからないので、私達はくっついたままでいる。


『上手くいくかな。ビブリオの前でもくっついていなきゃならないから』


『父上は……どうだろうな。苦い顔はするかもしれない』


 キースも不安に思っているようだ。


『ビブリオ様ってどんな人?』


『厳しい人だ』


 キースはそれだけ私に伝えると、自分の思考の中に入っていく。そこに少なからず恐れの感情を感じ取ることができた。キースが恐れるお父さん。スパイ騒動に関わっている可能性がある男。一体どんな人なのだろうか。


***


 ビブリオが屋敷に戻ってきたのは私達が到着してから2時間程経った頃のことだった。私達は緩みそうになった気持ちを引き締めて応接室に向かう。キースはしっかりと私の手を握ってくれていた。


 応接室に入るとすぐにその人物が目に飛び込んできた。大きな身体、色の抜けた金髪のその人は、強い獣を連想させる。ソファに座って何やら書類を見ていたが、私達の気配を感じると顔を上げた。私達を捉えた瞳は薄い灰色で、人相の悪いキースの瞳よりもさらに鋭く感じて怯みそうになってしまう。


 ビブリオは私を凝視している。思わず後退りそうになるが、キースが私の手をぎゅっと握ったのでなんとか踏みとどまることができた。


「お久しぶりです、父上」


 キースは固い声でそう言いながら、私の手を引いてビブリオの前のソファまで進んだ。


「先日は特務部隊存続の為に動いてくださってありがとうございます」


「あぁ」


 ビブリオは私から目を離さぬまま声を発した。私達は「失礼致します」と断りを入れてから前に座る。


 ものすごい威圧感だ。特務部隊発足の時に間近で会ったキューレ班ゼノ隊長に似た威圧感。その鋭い眼光から、ゼノ隊長よりも遥かに脅威を感じる。


 この人がキースの血の繋がらないお父さんで、第二王子アイレーン班ビブリオ隊長。私はごくり、と生唾を飲み込んだ。


「縁談について、と伺いました。突然ではありますが、父上に紹介したい人がおりまして、ここに連れてきた次第です」


 キースは丁寧に言葉を紡いでいく。私を凝視していたビブリオの瞳がようやくキースに向いた。


「この女性はリコル・イヤルダ。自分の部隊の兵士です」


 キースに紹介されて、私は頭を下げる。しかし、ビブリオはもう私なんて見ていなかった。


「俺はこのリコルと結婚したいと思っています」


 ビブリオの鋭い瞳に捉えられながら、臆することなくそう宣言した。嬉しい報告なはずなのに、2人の人相と雰囲気があまりに悪いものだから、裏社会の取引を見ているような気持ちになる。


「リコル・イヤルダ」


 ビブリオの口から私の名前が出てドキリとする。


「聞かぬ名だ」


 キースは黙って頷く。私はキースを支えるどころか、ハラハラしながら2人の会話を聞いているしかなかった。


「能力者か? それとも魔力を?」


「能力です」


 私の代わりにキースが答える。


「触れた相手を気絶させることが出来る能力です」


「珍しい能力だが……あまり使えるとは思えんな」


 この父親もはっきりと物を言うものだ。


「彼女は特務部隊でしっかりと功績を残してくれています。それに、俺はリコルを愛しています。父上の気持ちもわかりますが、俺は彼女以外の女性と結婚するつもりも、子を為すつもりもありません」


 キースはこの場に私が留まるためにそう言ってくれているのだとわかってはいるのに、真剣な言葉についときめいてしまう。なんだか本当にキースと結婚するみたいだ。


 ビブリオはしばらく黙ってから、ふんと鼻を鳴らし、


「まぁ今は良い」


 と、言った。今は、という言葉が気になるけれど、ひとまずキースの強い気持ちは受け止めてくれたらしい。


「お前もそろそろ自分のこの先について考えるべきだ。本当に自分の力だけでオルナーガ家を継いでいけると言うのなら、それもいいだろう」


 私との結婚を良く思っていないことが伝わる。家の名前というのはそんなに大事なものなのだろうか。


「お前ももう今年で22。私と共にこの家を支えてもらわなくてはな」


 この家を支える。そのためにダイス帝国からのスパイをこの国に入れる必要があるというのだろうか。


「はい。リコルが側にいてくれるなら」


 頑ななキースに一瞬顔を顰めてから、


「それでは、そろそろ特務部隊は離れ、こちらに来る準備をしろ」


 と、言った。こちら、という言葉にぞっとする。キースもスパイに関わらせるつもりなのか。


「こちら、とはアイレーン班に入れ、と?」


「そうだ」


 ビブリオは有無を言わさぬ迫力で肯定する。


『どうする?』


 キースの頭の中も混乱してきていた。


『アイレーン班に入るよりも、次期皇帝であるキューレ班に入ることの方を目指すべきでは?』


「アイレーン班に入るよりも、次期皇帝であるキューレ班に入ることの方を目指すべきではないのですか?」


 私の考えた言葉をキースが口に出す。それに対してビブリオはふん、とまた鼻を鳴らした。


「とにかく一度アイレーン王子にお会いしろ。明後日、アイレーン王子主催のパーティがある。そこにお前も行くのだ」


 アイレーン王子に……? 事態の急展開っぷりに寒気がしてくる。


『行くしかないか?』


『そうだね……。でも、キースだけで行くのは危険すぎるよ。ビブリオのこの言い方、何だか怪しいもの。私と、あとブルームは一緒に行けないかな?』


「わかりました。パーティですから、リコルも連れて行きます」


 キースはそう言い切った。ビブリオは苦い顔をしながらも、


「好きにしろ」


 と、一応認めてくれた。


「あと、特務部隊の副隊長で、俺の信頼している男がいます。その男と婚約者も連れて行っても?」


「……名前は?」


「ブルーム・ガリオンです」


「ガリオン……氷の乙女の息子か」


 氷の乙女? ビブリオが言ったことがわからず困惑していると、


「いいだろう」


 と、あっさりと認めてくれた。


「大事なパーティだ。粗相のないように」


「はい」


 ビブリオはそれだけ言うと、テーブルに置いてあった書類に目を落とす。どうやらもう話は終わりという合図らしい。私達がスパイを捕らえたことについては、まだ知らないのだろうか。


『このまま退席していいか? もう少し何か聞いてみるか?』


 スパイについては何も聞けていない。でも……


『いや、今はここでやめておこう。あんまり聞いて、私達がスパイについてかなり掴んでいることを知られてもよくないし、大勢人が集まるパーティでもっと簡単に聞けるかもしれないから。万一何も掴めなくても、もう一度ビブリオに会えばいい』


『そうだな、わかった』


 私達は相談をしてから立ち上がって、退席した。応接室を出て廊下を歩くと、だんだんと力が抜けてくる。短時間だったにも関わらず、ものすごい威圧感に当てられてすっかり疲れてしまった。

●登場人物の見た目紹介


ビブリオ・オルナーガ(48)

性別:男

身長185、灰色の瞳。

色の抜けたキラキラとした金髪で恰幅のいい体格は巨大な獣のよう。

キースと血は繋がっていないのに、人相が悪いところはどことなく似ているような。

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