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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
1.特務部隊、発足!
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一年前の春 ミョルン地方にて3

 私達はブルームの照らす氷の光を頼りに、山へ向かって慎重に進んだ。

 氷による寒さもあるが、身体の中から湧き上がる寒さもあって、私の手は固くなっていた。


 今は野盗よりもただブルームが怖い。私の本当の能力に気がついていないとは思うが、ここまで怪しまれるとは思わなかった。


 私の能力は、守護兵団には『手で相手の肌に触れると気絶させることができる能力』と登録してあるが、本当はそうではない。

 正確には『手で相手の肌に触れると脳内に侵入できる能力』だ。相手の脳内と繋がることができるこの能力で、相手の脳内に直接衝撃を与えて気絶させている。

 そして、相手の脳内と繋がることによって触れた人間の心を読むことができる。


 『触れた人間の心が読める』と、言っても、やはり万能ではない能力で、相手の蓄積された記憶を読み取っているわけではなく、触れている時に考えることが伝わってくる、というものだ。

 だから、気絶させては何も読み取れない。触れた上で、会話によって思考を誘導して読み取っているにすぎない。


 この能力を何故隠しているのか。それは、私が子供の時のこと。

 顔もぼんやりとしか思い出すことができない父親が言った言葉。


「お前の持つ、その能力のことは誰にも言ってはいけないよ。言えば、お前は周りに利用され、自分の意志で生きていくことができなくなるのだから……」


 父親のその言葉の意味を、子供だった私は正確に理解することができなかった。しかし、何故かその言葉が心に残り、父親がいなくなった後も律儀に守り続けた。


 大人になって、その言葉の意味がわかるようになってきた。


 まず、この心を読む能力は珍しいのか、はたまた同じように隠しているのかはわからないが、私が19年生きてきた中で、私と同じ能力を持つ人と一人として出会ったことはない。

 あの言葉を残した父親は同じ能力を持っていた可能性が高いが、真相はわからない。


 そして、人の心を読むことができるということが、どれだけ恐ろしいことか、ということもわかってきた。


 私はこの能力のせいで、聞きたくもない人の心の汚い部分をたくさん聞かされてきた。上辺では笑顔を見せていても、心の中では真逆のことを思っているなんてしょっちゅうだ。人が一番秘密にしたいことを、意図せず聞いたこともあった。


 日常生活において、それは嫌になることばかりだったが、それが政治や軍で使われたらどうだろう。敵とする人物に触れて心を読めたなら、それを利用するためにどれだけの人がその能力をほしがるだろうか。


 私の父親、もしくは先祖は、この能力で人生を奪われたのだろう。だから、隠して生きていくことにしたのだ。

 そうぼんやりと理解できてからは、より慎重にこの能力について隠してきた。その甲斐あって、今まで誰にもバレずに生きてくることができた。


 それが、このたった一日でブルームという男に何か引っかかりを残してしまっている。しかも、この男はユーロラン帝国の兵士。最もバレてはならない人間だ。


 目の前に小さな山の山肌が見えてきた。山、というより巨大な岩のように見える。

 確かに、ここなら洞窟もあるかもしれない。


 道はどんどん細くなり、獣道のようになってきた。時折、身体に木の枝が当たって痛い。

 

 そんな人も通るのに苦労するような場所なのに、下を見ると何かを引いたような跡が残っていた。

 これは恐らく荷馬車が通った後。この先にアジトがある、で間違いなさそうだ。


 とうとう、岩の壁が目の前に迫り、私は馬を降りた。荷馬車の車輪の跡は真っ直ぐに岩の壁に向かっていて、その先には木と草が不自然に生えていた。


「ここがアジトみたいだね」


 私が何か言わなくても、ブルームも車輪の跡を見て気がついたらしい。私の隣に立って声を潜めて言った。


「あの木、どかせそうだな」


「木っていうか、木で作ったハリボテだね。簡単に持ち上がるんじゃないかな」


 キースとブルームが相談を始める。


「でも、一人でどかせるか? かなりデカいぞ」


「キースなら行けるでしょ」


「能力で吹っ飛ばす、ってか?」


「上に飛ばせば中に被害はない、でしょ?」


「……そうだな」


 私は二人の話を聞きながら手袋を取った。


「吹っ飛ばしたら中にいる野盗を俺が魔法で倒す」


「気絶、させないでね。アジトにいる野盗で全員か、確かめないと」


「了解」


 ブルームはウインクをして私に笑顔を向けた。


「よし、じゃあ詠唱が終わったら合図しろ」


「はいよ」


 ブルームが静かに詠唱を始めると、ぴりぴりと空気が冷えてくる。

 ついさっきまで氷を出して辺りを照らしていたというのに、かなり大きな魔法を生成しているようだった。

 魔力を持った人間は今まで何度も見てきたが、その中でも群を抜いて魔力が多いのだろう。


 ブルームが目でキースに合図をした。キースは頷くと、右手を前方に突き出した。


「行くぞっ!!!」


 静かな空気を消し去るキースの罵声に近い声を合図に、目の前の草木の固まりが上に飛び上がった。予想通り、草木があったところからは、洞窟の入り口が顔を出した。


「何だっ!?」


 洞窟の中から数人の男の声が聞こえて、赤い光がこちらに近づいてきた。顔が見えるか見えないかの段階で白い光が洞窟内で輝いた。

 それがブルームの魔法だと理解すると同時に、


「ぐはっ!」


 と、いう呻き声が中から聞こえた。


「襲撃だ!」

「人を回せ!」


 中から混乱する人々の声が聞こえて、次から次へと出入り口に向けて武装した野盗が出てくる。それを、キースとブルームが面白いようになぎ倒していく。


 中の人間の声が聞こえなくなる頃には、洞窟の中にはひんやりとした白い煙が立ち込めていた。


「終わった、か?」


 キースが警戒しながら洞窟の中に入っていく。


「ふー、結構いたね。疲れちゃったよ」


 ブルームは依然洞窟の方へ手をかざしながらも、纏う張り詰めた空気を緩めて笑顔を見せた。私も自分が息をつめていたことを自覚して、ゆっくりと息を吐き出した。


「気絶、してないといいけど」


 ブルームはそう言うと、周囲を警戒しながら洞窟の入り口に向かった。続いて私も中に入ると、キースの、


「全員倒したようだ」


 と、いう声が洞窟内に響いた。何人もの野盗が折り重なるように倒れている。


「くそっ……どうしてここがバレたんだ」


 一人の野盗の声が聞こえて、私はその男のところまで近づいた。野盗は今にも襲うかのように下から私のことを睨みつけたが、キースがその野盗の手を後ろで組んで押さえつけた。

 私はさっきと同じように野盗の首元に手を当てると、絶望の色が野盗の脳内を通して伝わってきた。


「貴方達の仲間はこれで全部?」


 私の問に、野盗は憎々しげに目を逸した。


『あいつらはやられたのか? そろそろ戻ってくる時間だが……』


「ちなみに、ここに向かっていたお仲間は私達が倒したわ」


「くっ……!」


 心の中の疑問に答えてやると、野盗の顔が歪んだ。


「お前ら、何者だ? 守護兵団か?」


「そう」


「ちっ、何でこんな場所に……」


 それもそうだろう。このアジトがあるミョルン地方の西側には大きな街もなく、守護兵団の手薄な場所だ。

 特に、仕事に熱心でないミョルン地方の守護兵団のことだ、普通だったら見つけることはできなかったであろう。


「もう……これ以上仲間はいない」


 野盗の言葉を聞いて、心の声にじっと耳を澄ます。

 心からは相変わらずの絶望と言葉通りの思考が伝わってきた。嘘はついていないようだ。


「そう」


 素直に教えてくれたお礼に、私は力を抜いて軽く気を送り込んだ。野盗は白目を向いて気絶したが、きっと朝には目を覚ますだろう。

 私が立ち上がって砂を払うと、キースも野盗の手を離して私に向き直った。


「信じるのかよ?」


「……えぇ」


「それは、リコルちゃんの、勘?」


 ブルームが後ろで嫌な顔をして笑っていた。私はきっと睨みつけて、


「把握していた被害から考えられる野盗の人数はだいたいこんなものだと思う」


 と、言った。


「それは失礼」


 ブルームは愉快そうに笑うと、野盗をまとめて縛り上げる作業に入った。

 私はアジトの中を確認すると穀物などの奪ったと思われる荷がたくさん見つかった。酒盛りをしていたのだろう、酒と簡単な料理が地面に置かれていた。


「野盗にしてはずいぶんいい酒を飲んでるね」


 置かれた瓶を持ち上げてラベルを見ながらブルームが言った。


「武器もいいものが多かった」


 遅れてやってきたキースも注意深く中を確認している。


「ダイス帝国からの荷は穀物が多いけれど、武器も多少はあるからね。それにしても、いい酒、か……」


「変だねぇ。ダイス帝国から酒は流通してないはずだし、ここにあるものはそんなに儲けられる荷だとは思えないけど」


 ブルームの言う通りだ。

 私はまだ未成年だから酒は飲まないが、この酒が高いものだというのなら、野盗にしてはお金を持っていることになる。酒は一般庶民にはなかなか手が届かない高級品だからだ。


「他に別の仕事でもしていたのかしら」


 こんなことなら気絶させる前に聞いておくべきだった。


「まぁ、それは今後調査していくとして、だ。これからどうする?」


「外は暗い。下手に動けないな。このアジトの野盗も見張らないとならないし」


「でも、こいつらが目が覚める前、朝一番にはミョルン地方の守護兵団は来てもらいたいところだね。そのためには演習場に戻って、通信しないと。それに、残してきた新人達も気になる」


 うーん、と頭を悩ませていると、


「俺がここに残る。ブルームとリコルは演習場に戻れ。ブルームの氷の光でなんとか戻れるだろう」


 と、キースが言った。


「それがいいな」


 ブルームは何故か嬉しそうな顔をして同意した。


「待って、私も残る」


「リコルちゃんも? 危ないよ?」


 私は首を振った。


「元はと言えば、これは私の、ミョルン地方担当としての仕事だもの」


「でも……」


「いや、そうしよう」


 不安そうな顔をするブルームを遮ってキースがそう言った。


「ブルームの氷の光もそんなに強いものではないし、一人の方が安全だ。それに、何の役には立たなくても、いたいって言うなら別にいる分にはいいだろう。自分の身くらい自分で守れるだろうし」


 キースの言葉に思わずムッとする。役に立たないって……確かに否定はできないけれど。しかし、なんて失礼な男。

 ただ「自分の身くらい自分で守れる」ということはダメ五、と馬鹿にしていた時よりは、私に対する評価はましになったということだろうか。


「わかった、じゃあ気をつけてね、二人とも」


 ブルームは最後に意味深な笑顔を残して馬に乗って去っていった。

●豆知識

魔法の詠唱について


詠唱には時間がかかる。

詠唱を終えて発動まで魔法を溜めておくこともできるが、その溜めておく時間が一番苦しいらしく、長時間はキープできない。

ブルームが夜道を照らしているのは、大きくて光を反射する氷を出現させているからで、詠唱を続けているわけではない。

ただ、そんなに溶けにくい氷をずっと浮かせている魔法も高度なものなので、ブルーム程の使い手でないと難しいようだ。

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