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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
5.スパイを捕らえろ!
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パリス地方 帰省1

 翌日、私とキースはリークル神国へ向かうブルーム達と別れてパリス地方へと出発した。目的地である私の故郷カンネという小さな街はパリス地方の南の方になる。誰に狙われているかわからないため、大通りは避けるルートを選ぶので、私とキースの足でも2日はかかってしまいそうだ。


 カンネのことを思うと気が重い。嫌な思い出しかない故郷。二度と行くつもりのなかった場所。


 重い気持ちを晴らすために馬を飛ばす。キースも馬に乗り慣れているので、私は気兼ねなく馬を飛ばすことができる。風を切って走ることができるのは楽しい。センスルも私の求めに応える走りを見せてくれた。


 見晴らしのいいところで昼食を取ることにした。街を離れると草原が広がっていて気持ちがいい。死角もないので、誰かに狙われる心配もなさそうだ。


 キースと並んで昼食を食べる。そういえば長い時間こうして二人きりになるのは初めてのことかもしれない。


「キース、疲れてない?」


「心配されなくても大丈夫だ。リコルは自分の心配だけしていろ。体力を残しておかないと、誰かに襲われたときに対処しきれない」


 私が先導して飛ばしてきたので少し不安になりキースに尋ねると、逆に忠告されてしまった。私は「はーい」と軽く返して、宿で作ってもらってきたサンドウィッチを頬張った。


 このままカンネに行かず、どこまでも走り続けられたらいいのに。そんな叶いもしないことを考える。


「……本当に良かったのか?」


「え?」


 何を尋ねられたのか上手く理解ができなくてキースを見つめ返すと、その瞳は静かに私を捉えていた。


「故郷に帰ることだ。本当は行きたくなんてないんだろう?」


「あぁ……」


 私の重い空気をキースは感じ取っていたのかもしれない。自分の感情を隠すのは上手い方だと思っていたのに。私は思わず苦笑いを零した。


「そりゃあ……ね。あんまりいい思い出はないから。でも今更やめる、なんて言うつもりはないよ」


 私は笑顔を作ってみせたが、キースの表情に変化はおきなかった。


「これから向かう情報屋のこと、聞いてもいいか?」


「あぁ、うん」


 そういえば詳しく話していなかった。あいつと対面する前に、いくらか話しておく必要があるだろう。私はあの白髪の混じったの男のことを思い出しながら口を開いた。


「アスモディウス・ベーク。本名かどうかはわからないけど、あいつはそう名乗ってる。呼びにくいからみんなアスモって呼んでる」


 胡散臭い男。何が本心で何を考えているのかまったくわからない。あいつは唯一、私の能力を把握し、心を決して読ませてくれないのでわかりようもない。


「表向きは医者で、呼ばれればパリス地方のどこにでも診察に行く。治療費は法外に高い料金を取ることもあれば、気まぐれでタダで治してあげたりもする。情報屋の方はきっちり高めの料金をもらってるけどね」


「パリス地方の情報ならば大抵は知っている?」


「と、思うよ。知ってて教えてくれない可能性はあるけどね」


 もし、パリス地方からダイス帝国のスパイが入り込んでいるとしたならば、アスモならば当然把握しているだろう。


「簡単には教えてくれないということか?」


「どうだろうね。あいつはひねくれてるし気まぐれだから。まぁ、どうにかして聞き出してみせるけど」


「リコルの頭が切れるわけだな」


 キースは納得した様子だったが、私は何だか気に食わない。確かにあいつのせいで心理戦には慣れたと思うけど、それをあいつのおかげとするのは嫌だった。


「リコルはそのアスモという男のことは良く思っていないのか? 一応命の恩人なんだろう?」


「そうだけど、あいつは自分の利益のために私を助けただけ。感謝する筋合いはないよ」


 私はそう言い切る。あいつは私の能力を知っていて、それを情報屋の仕事で使うために私を引き取った。一応部屋と食事は用意してくれたけれど、それは決して良い環境とは言えないものだった。


 アスモのことを考えていると、もやもやと腹立たしさが身体の中で疼く。本当を言えば私はあいつのことを特別嫌いというわけではないのだろう。それなのに、一緒にいる時はいつも腹を立てていた気がする。そうさせる才能がある男なのだ。


「あぁ、そう思えばちょっとブルームに似てるかもね」


「ブルームに?」


「そう。上っ面では軽い笑顔を浮かべる癖に、腹の底では何を考えてるかわからない感じ」


 だから私は初めて会った時からブルームのことが気に食わなかったのかもしれない。キースは少し笑って、


「なるほどな」


 と、言った。キースにも思い当たるところがあったのかもしれない。


「どのくらいぶりに帰るんだ?」


「守護兵団に入団した時以来だから2、3年振りかな。そう思うとそんなに経ってないね」


 随分久しぶりに帰る気がしていた。それだけたくさんの出会いや出来事があった。それは、あの街にいたら味わうことのなかったであろうことばかりだ。


「実家には顔を出さなくていいのか?」


「行くわけないでしょ。誰も歓迎しないわよ」


 むしろ、疎まれるだろう。あの家に私の居場所なんてない。


 久しぶりに母親と弟妹達の顔が浮かんだ。みんな一様に私に憎しみの目を向けている。その顔のまま罵声を浴びせる。殴る、蹴る……。


 ぽんっと温かいものが頭の上に乗った。キースが私の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でていた。


「今思えば、私は何であんな家にいたんだろう」


 暗い思い出を振り払うように明るい声で言う。キースは私から手を離して黙ったまま続きを促した。


「だって、私と血が繋がっている人は1人もいなかったんだよ。あんなに嫌なんだったら捨ててしまってもよかったのにね」


 私は薄く笑う。私を育てた母親は父親のことは一度も口にしなかった。だから、私は自分の出生についても何も知らない。


 もし、私が弟や妹の立場だったら、血の繋がらない姉が家にいる意味がわからない。しかも、母親も愛しておらず、疎ましく思っている。私を嫌っていたことも自然なことのように思える。


 そう考えると、弟妹の気持ちが少しわかる気がした。私はやっぱりあの家にいちゃいけなかった。出るのが遅くなったせいで、弟にあんなことをしてしまったのだ。


 キースの大きな手が私の頭に乗って、今度はぐしゃぐしゃと撫でられた。


「ちょっと、髪乱れるよ。結びなおさなきゃいけなくなるじゃん」


「結び直さなくてもいつもぐちゃぐちゃだろ」


「あ、キース酷い! そんなんだと「女心がわかってない!」ってブルームに怒られるよ?」


「余計なお世話だ」


 笑いながら軽口を叩き合うと、少しだけ気持ちが晴れていく気がした。

●豆知識


カンネ

リコルの故郷であるパリス地方の南に位置する田舎街。

小さな商店がいくつか並ぶエリアを中心に、パラパラと家が点在している。

住民のほとんどが農業で生計を立てていることもあり、家と家との間が広く、移動に馬は欠かせない。

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