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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
1.特務部隊、発足!
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一年前の春 ミョルン地方にて2

「お前、魔法は何を使う!?」


 馬小屋へ向かう途中、横を走るキースが声をかけてきた。


「……触れた相手を気絶させることができる能力」


「お前、能力者か」


 キースはすごく意外そうな声を出した。この男は、前回私が怒ったというのに、それでもダメ五を馬鹿にした態度を改めない。

 確かに希少価値のある能力者はダメ五にほとんどいないが、だからと言っていないわけではない。第二守護兵団にいる能力者と比べれば、比べ物にならないくらいの能力なのだけれど。


「あと私、お前じゃなくてリコルだから」


 お前、と言われるのは好きじゃない。


「ちっ、めんどくせえな。おい、リコル」


「何よ?」


 失礼な態度を変えないキースに負けじと声を張り上げた。


「俺はキース。能力は空気砲だ。圧縮した固まりを撃つ。人の骨くらいなら砕ける」


「それって弓、みたいなもの?」


「そうだな、道具を使わない弓。詠唱のない魔法弾、というところか」


 流石は第二守護兵団の教官様。なかなかすごい能力をお持ちなようだ。


「俺は氷魔法だ」


 いつの間にか追いついてきたブルームが、反対側から話に入ってきた。


「よろしくね、リコルちゃん」


 そう言ってウインクする様はいかにも慣れていて、私はぞくぞくと寒気を感じながら、


「ちゃんと働いてよ!」


 と、言い放った。


 演習場の馬小屋へ駆け込み、足の速い三頭を見繕った。

 ここの馬は近所の農家に委託して世話をしてもらっている、完全なる訓練用の馬だ。しかし普段、無人の演習場を自由に走り回らせているせいか、今すぐに戦場に出てもおかしくないくらいのスペックを持った馬が揃っているのだ。


 それぞれ馬を引いて急いで馬小屋を出る。


「リコル、馬には乗れるのか!?」


「乗れるわよ。ダメ五だからって馬鹿にしないで!」


 失礼なキースにそう言いながら私は馬に跨った。子供の頃から馬に乗る機会があったので乗り慣れている。


「襲撃場所はここから南西。そこからさらに西へ行ったということだ」


 ブルームも軽々しく馬に乗ってそう告げた。


「それじゃあここの小道を真っ直ぐ行けば先回りできるかもしれない」


「急ごう」


 私達は狭い道から森の中へ入った。

 決して真っ直ぐではなく足場も悪い小道だが、キースもブルームも遅れずについてきている。能力や魔力だけではなく、馬にもかなり乗り慣れているようだった。


 辺りは暗くなりつつあって、森の中へ入るとより視界が悪くなった。これでは野盗もそう遠くへは行かないだろう。


 野盗を仕留めて荷を取り戻す。そして、必ずあるはずのアジトを叩く。


 しばらく進むと、先を行っていたキースが私を振り返って下を指差した。走りながら目を凝らすと、荷馬車が走ったような痕があった。

 この先に絶対にいる。私は自分の手にはまっている黒い手袋を見た。

 もしアジトがわからなければ、二人に気がつかれないように野盗の心を────


 私はぎゅっと手綱を握り締めた。


 突然、キースがパッと片手を広げてスピードを落とした。私も合わせてスピードを遅くして息をつめると、前方から微かに馬車の音がした。

 背後からひんやりとした空気を感じたので見ると、ブルームが詠唱を始めていた。魔法の生成には時間がかかるので、野盗との遭遇に備えているようだ。


 私もそれを見て口で利き手である右手の手袋を取った。


 荷馬車の姿が暗がりの中からうっすらと見えてきたその時、突然ガタガタと音がして荷台が傾いた。


「何だ!?」


 前方から数人の男の慌てた声が聞こえてきた。あっという間に荷台は崩れて横倒しになり、馬が吠えながら立ち上がっているのが見えた。

 キースは左手を前へ向けていて、荷台を空気砲で崩したのだろう、ということが想像できた。


「襲撃だ!」


 馬に乗った野盗がこちらに気がついて剣を構えていた。

 後ろからブルームが私を追い越してキースに並んだ。二人の背中はものすごい威圧感がある。


「野盗を気絶させないで!」


 私が慌ててそう叫んだ瞬間、野盗の乗った馬が悲鳴を上げながら横に倒れた。


「うわっ!」


 野盗も地面に投げ出されたが、まだ戦う意志はあるようで、すぐに立ち上がって、


「この野郎!」


 と、言いながらキースに向かって立ち向かってきた。

 キースがそちらに手を向けるより早く、地面から白く輝いた氷の柱が生えて野盗の剣を吹き飛ばした。野盗が飛ばされた剣に目を向けた間に、キースの手が野盗に向いて、野盗も吹き飛ばされて崩れた荷台に強く打ち付けられた。


「お、おい!」


 荷台の前方から別の野盗が顔を出して、吹き飛ばされてきた野盗を見ると一歩後ろに飛び退いた。逃げる────


 そう思った瞬間、


「うわぁぁぁ!」


 と、いう声と共に野盗の足元が一気に凍りついて、野盗は尻もちをついた。キースは馬で野盗の近くまで駆けていくと、


「これで全部か!?」


 と、言いながら辺りを見回した。


「そのようだね」


 すっかり先程までの殺気をしまって、落ち着いた様子でキースの横まで行ったブルームがそう答えた。私はその場で動けずにそんな二人を見つめていた。

 相手に何もさせずに一瞬で戦闘不能にした。連携もバッチリ。やっぱり第二守護兵団の人は違う────


「気絶はさせなかったよ。一人だけね」


 ブルームが私に向けて笑顔を見せていた。そうだ、今は感心している場合じゃないんだ。


 私もゆっくりと馬を進めて二人の側まで行くと、地面に降り立った。

 恐怖の表情を浮かべる野盗を見下ろす。髭面の身なりの汚い男だ。野盗と目線を合わせるために屈み、野盗の首筋に手袋を外した右手で触れた。


『くそっ! 何なんだ、こいつらは!』


 悪態をつく声が私の頭に響いた。そんな元気があるなら、まだ懲らしめ足りないのかもしれない。


『早く俺を助けろ、使えない新人め! そこで見てるんだろ!』


 その野盗の思考にハッと血の気が引いた。近くにまだ仲間がいる。


 パッと立ち上がってキースを見ると、後ろの木の陰にキラリと光るものが見えた。


「キース! 後ろ!」


 私の発した声に弾けたようにキースは後ろを振り返った。それと同時に矢がキースに向かって飛んでくる。


「きゃっ!」


 恐ろしくなり思わず目を閉じると、木の陰から、


「ぐっ!」


 と、言う呻き声が聞こえた。

 恐る恐る目を開けると、キースは変わらず馬に乗ったまま右手をかざしていて、ブルームが木陰に向かっているところだった。


「大丈夫!?」


「あぁ、少し腕にかすったが、軌道を逸したから大したことはない」


 キースは辺りを見回しながらそう答えた。私はふぅ、と息を吐いて、もう一度屈んで野盗の首筋に右手を当てた。


『くそう! あいつ、しくじりやがって! 今日はもうこれ以上、近くに仲間はいないっていうのに!』


 私が尋ねる前に野盗は必要な情報を教えてくれて、息を吐いた。もう、これ以上は仲間はいないようだ。


「アジトの場所を教えなさい」


「はっ! 誰が言うもんか!」


 野盗は私を睨みつけてきた。やっぱりお仕置きが足りないみたいね。

 しかし、この野盗の心の中は実に素直で、


『もう少しでアジトに着けたのによ……』


 と、言っている。


「アジトはこの先?」


 私の問に野盗は、


『はっ! 女のくせに生意気な!』


 と、思いながら、私に向かって唾を吐いてきた。汚くて臭い。

 私は、これが終わったら絶対にお仕置きしてやる、と睨みつけた。


『絶対に言わねえ。そして、絶対にお前らには見つけられねえ。入り口は木で隠してあるし、山の洞窟じゃあ、暗い夜には見つけられねえだろうよ』


 実に素直な男だ。


「ふーん、どうも」


 私は小さくそう言うと、野盗の脳内に一気に力を送り込んだ。


「うっ……!?」


 野盗は小さく呻くと、気を失って倒れた。


 私は立ち上がって二人を見ると、二人とも不思議そうな顔をして私を見ていた。

 私の能力は見た目には何も変化はないので、二人には私が何をしていたのかわからないだろう。そして、この『心を読む』能力については、誰にも言えないので隠さなくてはならない。

 万が一にも悟られないために、能力を人前で使うことも控えているのだが、この場合は仕方ないだろう。


 しかし、この二人をどうアジトまで誘導するか。『心を読んでアジトの場所を聞き出した』とは言えないが、二人の力なくしてアジトに乗り込むのは危なすぎるだろう。


「能力で気絶させたのか?」


 キースが私に尋ねた。


「あぁ、うん。まぁ、そんなとこ」


 野盗を見下ろすと、泡を吹いて倒れている。少々やりすぎただろうか。


「すごいね、リコルちゃん。キースを狙う野盗に気がつくなんて」


 ブルームがにこやかに近づいてきた。


「どうして気がついたの?」


 そのブルームの表情に私はぞっとした。笑っているのに、笑っていない。何か掴みかけているような、そんな表情。


 私は冷や汗をかきながらも変わらぬ調子で、


「勘。私、勘が鋭いの」


 と、言った。


「へぇ、勘かぁ。すごいねぇ」


 ブルームは愉快そうに笑った。それは以前と変わらない軽くてチャラチャラした雰囲気だったが、この男は危険だ、と感じた。食えない男、そんな感じ。


「アジトについては話す気配、なかったねぇ」


 隣にやってきたブルームは冷ややかさの交じる瞳で野盗を見下ろした。


「この近くであることは間違いなさそうだけど、こんなに暗いと探しようもない、か」


 ごくり、と気がつかれないように唾を飲み込んだ。

 この食えない男に気がつかれないように誘導するのは大変そうだ。それでも、私だってここで引き返せない。


「少し探してみない? 私、この先に怪しいと思う場所があるんだけど」


「怪しい場所?」


 ブルームの眼鏡の奥の瞳がキラリと光った気がした。


「そう。山があるんだけど、そこはほとんど誰も寄り付かないところだし、アジトがあるとしたらその辺りかも」


「ふーん」


 冷たい汗が滲む手をぎゅっと握った。


「私、これでも一応ミョルン班だから」


 不自然な沈黙が流れた。私はじっとブルームの瞳を見て、逸らさない。ブルームも私を見ているが、その瞳の奥で何を考えているのだろうか。


 一瞬とも、数分とも感じられるその沈黙の後、


「行こう」


 と、声を発したのはキースだった。


「めんどくせえが、明日になれば残りの野盗が逃げるかもしれない。叩くなら、今だ」


「うん、そうだね。そうしようか」


 ブルームもいつもの口調で同調すると、さっと馬に跨った。


「それじゃ、先導はお願いするね、リコルちゃん。俺の氷の光で地面を照らすようにするからさ」


●登場人物の見た目紹介


ブルーム・ガリオン(23)(この時点では22)

性別:男

身長179、紫の瞳。

銀髪をオールバックにしているが、短いひと束がおでこに残っている。

眼鏡のフレームは銀色。

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