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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
3.特務部隊の危機!
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フィデロ地方にて怪しい荷馬車を調査せよ2

 第三守護兵団の馬小屋から馬に乗って王都を出る。栗毛の馬に、


「名前がセンスルに決まったよ。よろしくね」


 と、小声で囁いてみたが、いつも通りの静かな瞳で私を見返してきただけだった。


 今日はフィデロの小さな宿場町ナンルムルに宿泊予定だ。王都からフィデロまでは大きな道が通っていて走りやすい快適な旅路となる。


 しかし、走り始めてみると今日は風が強いのが厄介で、スピードを上げると顔が痛くなる程だった。そのため、スピードを緩めて進んでいく。


 王都から1/3程進んだところで少し早めの昼食を取ることにした。通り沿いに大きな食事処があり、そこに入った。馬から降りると手がじんじんとしていて頭痛の気配すら感じられた。


 馬に乗り慣れないルシェとベルロイ、レイリーズと一緒に乗っていたイオルもぐったりとしている。席につくと口数少なく全員がスープを頼んだ。


 スープをお腹に入れて温まると、少しずつ会話が出てくる。その様子を見ながらこんなに大勢で食事をしたことがないな、とぼんやり思った。


「ルシェ、大丈夫?」


 自分も疲れきった様子なのにベルロイが優しく声をかけている。


「はい……なんとか。まだ道のりは長いですから」


「ルイフィス副長に釘刺されちゃったからね、ルシェだけは無事に帰さないと」


「それは……忘れてください」


 からかうブルームの言葉にルシェは耳を赤くして俯いた。


「ルシェのお父さんが一班にいるなんて知らなかったな」


「ルイフィス様は人使い荒いから、イオルは苦手ですっ!」


 ちゃっかりブルームの隣を陣取ったイオルが可愛い声で毒を吐く。


「人使い荒いって……兵士なんだから当然です」


 そんなイオルにルシェが噛み付く。イオルはキースとブルームに顔を見られないように背を向けて、鋭い目つきでルシェを睨みつけた。ルシェもだいぶイオルに慣れてきたのだろう、負けじと睨みつけている。


「ルイフィス副長はすごい方だと聞きましたよ」


 レイリーズがフォローを入れると、ルシェの顔がぱーっと明るくなった。


「シャロク家で硬直能力を使いこなせるようになったのは父が初めてなんです。それまでは素手か剣で硬直させていたので、自分も同時に硬直してしまうのが難点な能力でした。その力を弓に込めて放つ方法を編み出したのが父なんです」


 ルシェは得意気にそう話す。父のことを心から尊敬しているようだ。


「それまで第四守護兵団の兵士止まりだったシャロク家で初めてここまで出世できた人でもあるんです。俺は家族の中で唯一父の能力を受け継いでいるので、俺も父のように功績を上げて父より更に上に行くのが目標です」


 そう話すルシェを私はとても眩しく感じた。ルシェは私とは違う理由でこの部隊で頑張ろうとしているんだな。


「隊長、副隊長陣は家柄も重視されるからね。無名の家でここまでのし上がってこられたルイフィス副長は素晴らしい人だよ」


 ブルームが付け加えた言葉にルシェはさらに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「じゃあブルームも結構な家柄なの?」


「うーん、まぁそこそこかな。俺の父はもう引退してるけどね」


 そう言うブルームの顔が少し陰ったように感じた。


「リコルはそういう所、全然常識ないわよね」


 イオルが愛嬌はあるがどこか気持ちの悪い笑顔を私に向けた。


「私は出身もパリスで養成所にも入ってないし、守護兵団に入ってからもすぐにミョルンに配属されて王都にもほとんどいなかったから」


「イオルだってフィデロ出身で養成所にも入ってなかったけど、王都に来る前にはいろいろ調べてほとんど知ってたわよ。もちろんキース様とブルーム様のことも、ですっ!」


 甘えた声にキースは顔を歪め、ブルームは愛想笑いを返している。このアプローチ、もしかしなくても全然効果ないんじゃないだろうか。


「あんた王都出身じゃないんだ」


「……悪い?」


 イオルの声に棘が含まれた。


「別に? パリスよりはフィデロの方が随分都会だし」


「そういえばイオルちゃんは今回の任務の後、実家に寄らなくていいの?」


「え~! イオルはキース様とブルーム様と離れるのは寂しいから、帰りませんよ~!」


 ブルームの言葉にイオルは甘えた声を出して擦り寄っている。そんなイオルをレイリーズが顔を赤くして睨み付けている。


「レイリーズが睨んでくる~怖いです~!」


 イオルはレイリーズの視線に気がついてブルームに訴えかける。


「仕事中にベタベタしているからです」


「今は休憩中だもん! ね、ブルーム様?」


「ブルームさんも迷惑しているじゃないですか!」


「まぁまぁ……」


 二人の前に座ったベルロイが苦笑いでなだめている。


「本当はレイリーズもブルーム様にくっつきたいからそんなこと言ってるんでしょ? イオルわかるんだから!」


「なっ……イオル!」


 レイリーズは耳まで赤くしてイオルに向けて軽く手をあげた。


「レイ!」


 ブルームの声に私達の空気が凍りついた。レイリーズを嗜めた声が思いの外鋭いものだったからだ。レイリーズはあげた手をそろそろと下ろした。

 ブルームの眉間には皺が寄っている。それにはレイリーズだけでなくイオルも顔を強張らせ、そっとブルームから身体を離した。


 ブルームはそんな私達の様子に気がついたのか、ゆっくりと表情を戻して愛想笑いを浮かべた。


「……ごめんごめん、食事を続けよう」


 何事もなかったかのように食事を再開したブルームだったが、それ以降イオルとレイリーズは大人しくなったのだった。 


***


「何だか……ブルームさんの様子がおかしい気がします」


 食事を終えて外に出ると、私の隣を歩いていたレイリーズが小声でそう言ってきた。


「さっき怒鳴られたこと、気にしてるの?」


「気にしてるというか……リコは何か気が付きませんか?」


「全然」


 キースの隣を歩くブルームを見るが、あれからおかしな様子はまったく感じられない。


「確かにあんなに感情を露わにしたブルームは初めて見たけど……」


「何というか……いつもより元気がない気がします」


 レイリーズは怒鳴られたことを気にしているというよりは、心配そうな顔でブルームを見つめている。


「元気がない、か」


 そういえば昨夜、バーから戻った後のブルームも少し様子がおかしかった。いつも飄々としているのが影を潜めているような。


「よし、行くぞ」


 キースの声でそれぞれ馬に跨ったのでレイリーズとの会話はそこで途絶えてしまった。ブルームに元気がないとしたら、それは私のせいでもあるのだろうか。

●豆知識


この大陸では冬、春、夏、秋の4つの区切りで分かれていて、それぞれ90日ほどの日にちに区ぎられている。

現在は春22日である。

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