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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
3.特務部隊の危機!
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王都にて手がかりを掴め6

 翌日の夜。私は昨日とは違う動きやすい服装で第一会議室に待機していた。これにマントを羽織ってフードで顔を隠せば完璧だ。


「さて、じゃあ予定通り、今日は私とブルームの二人で行ってくる。キースとベルロイは店の近くで待機。さらに離れた人通りの多いところにレイとルシェ、イオルは待機ね。私が合図したら来て」


 私が再度今日の配置を確認すると、全員緊張した面持ちで頷いた。


「今日はもう細かい作戦はないから。とにかく私達がガイラスから情報を引き出すだけ」


「上手くやれよ」


「わかってる」


 隊長の言葉をしっかりと受け取ってから、


「じゃあ、行こう」


 と、言って立ち上がった。


 私の懐にはいくらかの金貨の入った袋が2つある。情報屋との交渉には金が不可欠だ。無理言って特務部隊の経費として用意してもらった。これでも少ないが、あとは何とかするしかないだろう。


 フードを深く被って人混みの中をすり抜けてバー・クランクに向かう。久しぶりの大きな交渉の仕事だ。私は上手くやれるだろうか。目的地に近付いてからそっと手袋を外した。


 予想通り店の近くに人の気配がある。あえてそれを悟らせているのだろう、私でもわかる気配だった。私は目で合図をしてキースとベルロイをその場に残して地下へ降りる。店のドアにはクローズの札がかかっていた。


 ドアを開けて中に入ると、昨夜と同じトーンで、


「……いらっしゃい」


 と、マスターが出迎えてくれた。私は被っていたフードを外してカウンターに近付いた。店には誰もいないが、奥のドアは開いている。


「奥へどうぞ」


 そう言われて、私達はドアの中へ案内された。そこには革張りの2人掛けソファが2つ、向い合せで置いてあり、真ん中には長方形の低いテーブルがあった。


 パタン、と静かに扉が閉められた。私達は片方のソファに並んで腰を下ろす。前のソファとは距離がある。手を伸ばしても避けられてしまえば相手の身体に触れることは叶いそうもなかった。


 コンコン。


 腰を落ち着けてから10分程経っただろうか。ピリリとした緊張感の中、私達は黙って座っていると、ようやくドアが控えめにノックされた。


 ガチャリとドアが開き、静かに入ってきたのは大柄な男だった。黒髪に白髪が少し混じったその男は、ドサッと私達の前のソファに腰を下ろすと、微かに青みがかった瞳で私達のことを交互に見つめてきた。私もただそれを見つめ返す。


 私達の容姿や振る舞いから様々な情報を得ようとしているのだろう。私よりもブルームに視線が向けられる時間のほうが僅かに長かった。


 再度控えめなノックが聞こえて、マスターがグラスを持ってやってきた。男達には酒を、私には昨夜頼んだものと同じカクテルが出された。


 マスターが下がると、男は喉を鳴らして酒を飲んだ。私達は口をつけずに男のその様子を見守った。


 男はグラスの半分を一気に空け、豪快にテーブルに置いてから、


「ガイラスだ」


 と、野太い声で名前を告げた。


「私はリコル。こちらはブルーム」


「ブルーム。なるほどな」


 ガイラスはソファの背もたれに左肘を置いた。


「私達の正体はだいたい掴んでた?」


「まぁな。王都であれだけやれる人間は限られてる」


 ガイラスは私達の正体を知っていたことを匂わせることで、自分の情報網のすごさを知らしめようとしているのだと思った。


「早速本題に入らせてもらうわ。お互いに時間は貴重でしょうから」


「違いねえ」


 ガイラスの声は笑っていたが、目は笑っていない。


「王都にやってくる薬物について知りたい」


「薬物、ねぇ」


 こちらをあざ笑うかのような笑みを浮かべた。気持ちのいいものではなかったが、私はまったく動じないふりをして続ける。


「ポリー商会は知っているでしょう? その商会の倉庫の場所は知っている?」


「報酬は?」


 私は懐から布袋を1つ出してテーブルの上に置いた。ガイラスは慎重にそれを持ち上げると、中身も見ずに顔をしかめた。


「これじゃ無理だな。10倍はもらわねえと」


 ガイラスは口を僅かに開けて笑みを浮かべる。開いた口からは黄ばんだ歯が覗いた。


 私の懐にもう1つ忍ばせてある袋には、出したものと同じだけの金貨しか入っていない。それでは交渉の材料にすらならないだろう。


「その額で出せる範囲の情報でいいわ」


「そんなのねえな。俺達を舐めるな」


 ガイラスは布袋を私に投げて返してきた。ブルームが臨戦態勢になりかけるのを目線で止めた。


「それでは、私達の持つ何かであなた達の望むものはある?」


「金だ。あんたらの隊長に頼めば金なんていくらでも出てくんだろ」


 嫌な笑いだ。ガイラスはキースのこともすっかり把握している。


 実はキースが「金が必要ならどうにかする」と、言ってくれてはいた。しかし、それではキースだけに負担を強いることになってしまう。それは最後の手段として取っておきたかった。


「このバーを潰されたいの? それとも捕まって守護兵団に行きたい?」


 できるだけ柔らかな笑みを浮かべてガイラスに尋ねた。


「どっちも願い下げだね。あんたらにそんなことができるもんか」


 実際にガイラスは守護兵団に捕まるような弱みは残していないのだろう。捕まえるのには大義名分が必要だが、日中調べた範囲ではそれは見当たらなかった。


「適当にでっち上げればどうにでもなるわ。それだけの力と戦力が私達にはある」


「随分焦っているようだな」


「ふっ、そんなことないわ。ただ、そんなことをするのが面倒なだけ。ここであなたが折れてくれたら時間の節約になるもの」


 ガイラスは居住まいを正して私に視線を向けた。薄く楽しそうに笑っているのに、瞳は驚くほど静かだった。


「確かに戦力はあるようだな。昨日はうちのもんが世話になったようだ」


「襲われそうになったから正当防衛よ。謝らないわ」


 笑い合っているのに空気はピリピリとしている。何も言わずに座っているブルームの喉が渇いた音を立てた。


「お前は何者だ? 調べたがまったく掴めねえ。守護兵団にいるような人間には見えないがな」


「情報屋に自ら素性を明かしたりなんてしないわ」


「そりゃそうだ」


 ガハガハとガイラスが大声をあげて笑った。今までとは違う、心からの笑いのように見える。


「こりゃ珍しいもんが見れた。ここに来るまで信じちゃいなかったが、本当に女で俺にここまで吹っかけてくるとは」


 しっかりと細められた瞳が私を再び捉えた。


「わかった、金はいらねえ。その代わりに、あんたらには仕事をしてもらう」


「仕事?」


「厄介な護衛を頼んでる荷馬車があってな。そいつらに利益を根こそぎ取られてこっちは迷惑してんだ。あんたらだったらその護衛を倒せるだろう」


「護衛を頼んでる荷馬車」


 そんな荷馬車、聞いたことが無い。積荷はまさか────


「俺が出せるのはその情報だ。そいつらの後始末はあんたらに任せるよ。それでどうだ?」


「その情報が私達の求めているものでなければ、私達はあなた達を捕らえなければならないけれど」


「それは俺の名にかけて保証しよう。ただ、あんたらが俺達を裏切って俺達を捕まえるようなら、その前にあんたらに不利な情報を兵団に流すぜ」


 もちろん私達のことを監視するつもりなのだろう。ガイラスは静かな瞳で私を見据えている。信じていいかどうか、判断させてもらおう。


 私はガイラスに向けて手袋が嵌っていない左手を差し出した。ガイラスは私の手をチラリと見てから、自分の左手で私の手を握った。


「あなた達が正確な情報をくれるのならば、私達はしっかり仕事をこなしましょう」


「頼んだぜ、特務部隊さん。くれぐれも俺達のことは国には言わないでくれよ。あんたらの家族が大事ならな」


『これでようやく片がつく。貴族連中に一泡吹かせるチャンスがやってきた』


 ガイラスの決して綺麗とは言えない手からはそんな思考が伝わってきた。貴族連中とは何のことを言っているのだろうか。


 少なくとも嘘を言っている様子ではない、か。私達の戦力を本気で利用しようとしているだけのようだ。


「それじゃあ交渉成立ね」


 もう一度強く手を握るが、しめしめ、等の悪い感情は伝わって来なかった。私達は手を離して再び座りなおす。


「ベルサロムからフィデロに向かう大通りは知っているな? だいたいのベルサロムの人間がリークル神国に巡礼に向かう時に通る道だ」


 私がブルームを見て確認すると、ブルームは頷いた。


「その通りから一本ミョルン寄りに荷馬車がギリギリ通れるくらいの狭い通りがある。その通りを5日に一遍通る荷馬車がある。布の張っていない簡素な荷馬車だが、やけに体格のいい男が二人、前後を馬に乗って護衛してる。全員能力か魔力持ちだ。その荷馬車を狙え」


 情報を頭で整理して叩き込む。少し間を空けてからガイラスは続けた。


「次、その荷馬車がベルサロムからフィデロに向かうのは明後日だ。行き先はフィデロの小さい宿場町ナンルムル。その側にやつらの倉庫があるが、そこに行ってからでは手遅れだ。狙うなら道中しかない」


「出発地は?」


「それはやつらに聞いてみろ。狙い目はフィデロとの境からナンルムルの間だな。あの辺りは人通りも少ない。通過する時間は昼から夕方。相手は警戒しているからそう簡単にはいかないと思うが」


「それは大丈夫。私達は強いから」


 私はその戦闘では役に立たないだろうが、特務部隊のメンバーは強い。必ずやってくれると確信できる。


「そうか、じゃあ頼んだぞ」


 話は終わったらしい、ガイラスが残っていた酒をゆっくりと飲み始めた。私は立ち上がってマントを羽織る。


「それにしても、王都の薬物、ね。今に始まったことじゃないんだけど、不思議な事だね」


 ガイラスがぽつりと呟いた言葉に私は動きを止めて目線だけでガイラスを見る。しかし、ガイラスはそれ以上は何も口にしなかった。

●守護兵団の制服


守護兵団では正装である白を貴重にした軍服と動きやすいカーキ色の服が支給されている。

正装は公式の場で着る他、会議や室内での勤務の時に着用する。

フード付きのマントも支給されていて、春夏用は腰辺りまでの短いもの、秋冬用は膝上くらいまでの長いものになっている。

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