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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
3.特務部隊の危機!
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告げられる危機

 翌朝は朝からフレイを交えての会議だ。今日から本格的にポリー商会や薬物の保管場所についての調査を開始する。


 会議室に集まると、時間になってもフレイどころかキースとブルームの姿もない。どうしたのだろうかと案じていると、5分遅れで3人はやってきた。しかし、その表情が険しいものだったので、何かあったかと私達は緊張が走った。


「遅れてすまない」


 前に立ってフレイが口を開いた。


「少々まずいことになった」


 私は険しい表情のフレイをじっと見つめる。


「まず、尋問からは何も得られていない。商人も荷を運んでいただけで、ポリー商会の詳しいことなどは何も知らされていないようだった。兵士達は相変わらず口を開かない。さらに、」


 フレイは一旦言葉を切って間を取ってから、再度口を開いた。


「どこからか聞きつけた第一守護兵団の皇帝陛下の部隊が口を挟んできたんだ」


 皇帝陛下の部隊といえば守護兵団のトップだ。


「まず、検問を担当していた兵士達に処罰を下すとおっしゃられた。解任して地方に送る、と。そうなってしまうと実質的に尋問ができなくなってしまう。もちろん異議は申し立てているが、兵士の任命権は皇帝陛下の部隊にあるので、今のところは手が出せない状態だ」


「えっ……」


 私の隣に座ったレイリーズが小さく声をあげた。


「ポリー商会を突き止めた君たちには相応の報酬を与えるとのことだった」


 話が見えてこない。まだ、薬物の一端を暴いただけにすぎないのに、何故報酬がもらえるのだろうか。


「その上で特務部隊解散を命じられた」


「……は?」


 思わず声が漏れる。解散? 私達が?


「君たちの解散に関してはゼノ隊長を始めとする第一王子キューレ様の部隊が撤回を求めているので、まだ決定ではない。今画策しているところではあるが、第二王子のアイレーン様の部隊も態度を示していないのでどう転ぶかはわからない」


「あまりにも……早すぎませんか? 私達はまだ一つのルートと商会の名前を突き止めただけです!」


 レイリーズが必死の声をあげた。


「あぁ、わかっている。しかし、皇帝陛下の部隊は手がかりを掴んだだけで十分だ、と。今後はポリー商会を監視してさえいればいいので、特務部隊を置く必要はないだろうとのことで……」


「そんな! これで薬物が完全にユーロラン帝国から排除されるとは思えません!」


 レイリーズの言うことは最もだ。それなのに私達を解散させようとしているのは、まるで……


「何か知られたくないことがあるみたいですね」


 私が呟いた言葉に全員の視線が集中する。フレイも頷いた。


「誰が特務部隊を解散させたがっているかわからないが、俺達を邪魔したい人間がいることは確からしい。こんな疑いをかけたくはないが、下手をすると皇帝陛下の部隊にスパイ、もしくはそれを手引している人間がいる可能性すらある」


 背筋がひんやりとする。皇帝陛下の部隊は守護兵団の中心なのに、そこが侵されているとなると大問題だ。そして、私達はそれを相手にすることになる。


「君たちには、これから特務部隊存続のために働いてもらいたい」


「具体的には……?」


 レイリーズが乾いた声を発した。


「上が黙るような、特務部隊が必要な理由を提示しなければならないだろう。いくつか方法はある。ポリー商会が薬物を保管している倉庫を探し出す、新たな薬物のルートを探す、などだ。何にしても、まだこの問題は終わっていないということが明確に言えれば上も認めるしかないだろう」


 手がかりは極めて少ない。やれるだろうか。


「しばらくはゼノ隊長を中心に引き止めてもらうが、いつまで持つかわからない。君たちにはできるだけ迅速に動いてもらいたい。こちらも、兵士達の尋問権を戻せるように動き、ポリー商会についても調べる。何かあったらすぐに伝えよう」


 フレイは私達全員を見回した。


「このようなことになってしまってすまない。君たちも何か上を黙らせられるような証拠を掴むように動いてくれ」


 話が終わるとフレイは慌ただしく会議室を出ていった。私達はしばらく何も言えずに、会議室には沈黙が落ちた。


 任務の成功に報酬が出るのはありがたいことだが、そのお金はどうにも気持ちが悪いものだ。できたばかりの特務部隊を解散させられることも納得がいかない。


 このまま終わりなんて嫌だ。絶対に特務部隊を解散なんてさせたくない。


 前に立ったブルームが口を開いた。


「さて、作戦会議と行こうか」


「どう動くのがいいでしょうか。フレイ様がおっしゃったように、ポリー商会を探るか」


 こんなことなら昨日、無理やりにでも尋問させてもらえばよかった。今の状況では尋問権は第三守護兵団にない。昨日だったら心の声を聞いて何か手がかりが得られたかもしれないのに。


「それとも、新たな薬物ルートを探るか。もしくは……」


「第二王子アイレーン様の部隊にも特務部隊存続を後押ししてもらう、か」


 キースがぽつりと呟いた。


「お父上にかけあってみるつもりかい?」


「……使えるものは使わないと」


 キースのお父さんと言えばアイレーン王子の部隊の隊長だ。確かに態度を決め兼ねているアイレーン様の部隊を説得できれば心強い後ろ盾となるだろう。


 しかし、私からはキースの表情は見えなかったが、キースは心からそれをしたいような声には聞こえなかった。


「うん、じゃあお願いしようか。でも、どっちにしても証拠は掴みたいところだ」


 証拠、と言っても手がかりがなさすぎる。尋問もできない今、どこから情報を引き出せばいいのだろうか。


「ベルサロムとミョルンの残った関所を調査するのはどうでしょうか? 前回調査できていない2ヶ所が残っています」


「今、そこを調査しても話は行っているだろうからボロを出すとは考えにくい。成果が得られる確率は低いんじゃないかな」


「そう、ですよね」


 ブルームの反論にレイリーズは肩を落とした。王都に出回っている薬物の全てにポリー商会が関わっているとすると、無駄足になってしまう。時間もない中、遠くのベルサロムとミョルンに出向くにはリスクが高すぎる。


 皇帝陛下の部隊が隠したいもの。そこにスパイは絡んでいるのだろうか。特務部隊を解散させるという目立つ行為までして隠したいものはなんだろう。


 ポリー商会の商人はスパイについてまったく知らないようだった。スパイについてこちらはまったく掴めていないのに、それに続く手がかりが近くに落ちているのだろうか。


「リコルちゃんはどう思う?」


「え?」


 考えを巡らせていると突然ブルームから話を振られて、私は驚いてブルームを見た。


「リコルちゃんの勘、参考までに聞いてみたいんだけど」


 全員の視線が私に集中する。勘、ねぇ。

 特務部隊を存続させるために提示する確固たる証拠。それを手に入れるためには……


「私達の持っている情報じゃ少なすぎて何もできない。情報がほしい」


「どうやって情報を収集する?」


 これしかない。私は真っ直ぐにブルームを見て宣言する。


「情報屋」


「え?」


 全員驚きの表情を浮かべた。


「王都なら人も多いんだし、いるでしょ? 情報屋。王都の情報屋ならポリー商会や薬物ルートについて確実に知ってるはず」


「守護兵団の人間が裏社会の情報屋を使うと言うのですか!?」


 信じられない、というようにレイリーズが声をあげた。


「それ以外に方法ある? 薬物は裏社会のものなんだから、その人達に聞くのが一番でしょ」


「随分大胆な方法だね」


 ブルームがニヤリと笑った。


「危険すぎる」


 キースは眉を潜めて否定的だ。


「誰か王都の信頼できる情報屋、知ってる人はいない?」


 周りを見渡すが、頷くものはいない。普通はそうか。それでは情報屋を探すところからのスタートだ。


「どこに行けば会えるかな……」


「本気ですか!?」


 レイリーズが非難の声をあげる。


「じゃあ他に案のある人はいる? 短時間で信憑性のある手がかりを掴める方法。私達には時間がないんだよ?」


 全員、所在なさげに視線を彷徨わせる。キースが、


「リコルがやる気か?」


 と、聞いてきた。


「うん。交渉は私がやる。問題は信頼できて比較的安全な情報屋が見つかるか、だけど……」


「それなら心当たりがある」


 そう言ったのはブルームだった。


「俺とキースの養成所時代の同期に第三守護兵団の三班の人間がいる。そいつは信頼できる人間だし、三班は王都の治安維持が主な仕事だから、裏の人間も何人か知っているはずだ」


「ブルーム!」


 キースが非難の色を込めてブルームの名前を呼んだ。


「リコルの案に乗る気か!? 危険すぎる」


「キースらしくないね。怖いの?」


「それは……」


「現実的に考えてリコルちゃんの案は短時間で結果を出せる確実な方法だと思った。闇雲に探す時間はない。情報が必要だ。最終的に決めるのは隊長のキースだけど、大丈夫、全員でやればなんとかなる」


 迷っているのだろう、キースはうなだれた。初任務で心配させてしまったので、慎重になっているのかもしれない。私はキースに向けて、


「キース、大丈夫。今回は自分の安全を一番に考える。一人で行動したりもしない。だから、やってみよう」


 と、声をかけた。キースはいつもより弱々しい目を私に向けて、観念したように頷いた。


「わかった、そうしよう。でも、情報屋に接触するのは俺が父上に会ってからだ。父上を説得して後ろ盾になってもらえればこんな危険なことはしなくて済む」


「協力していただけるかな?」


「俺が隊長を務める部隊だ。家のために動いてくれる可能性はある」


「なるほど」


 ブルームは頷いた。


「それじゃあキースはお父上に接触、俺は同期に情報屋について聞いてみよう。他は、捕らえた商人達の尋問を行った兵士達に聞き取り調査だ」


「はい」


 私達は頷いた。すると、キースが立ち上がって私達を見回した。


「まだ何もできていない。絶対にここで特務部隊を解散させたりしない」


 強い瞳だった。私達も同じ気持ちだ。


「はい!」


 今までで一番息のあった返事をすると、それぞれ立ち上がった。解散を阻止する任務のスタートだ。

●守護兵団について


第一守護兵団

皇帝陛下の部隊、第一王子部隊、第二王子部隊の3隊に分かれている。

それぞれの王族を警護する任務と、守護兵団のトップとして兵団をまとめる職務を担う。

特に皇帝陛下の部隊は兵士の任命権や、兵士でありながら政治にも介入するほどの影響力を持っている。

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