顔合わせ2
一階に戻って薄暗い廊下を奥へ進んでいくと、ある部屋の前で立ち止まった。
「ここが第一会議室です。私達、特務部隊の拠点となります」
「ここが?」
寮の中に拠点があるチームなんて聞いたことがない。第三守護兵団の本部は別の建物のはずだが、何故そこではないのだろうか。
「詳しくは明日のミーティングで話しがあるはずです。まずはここが私達の拠点だ、ということだけ覚えておいてください」
「……はい」
これ以上聞いても無駄そうだ、そう判断して私は素直に頷いた。
レイリーズは軽くノックをして第一会議室の扉を開けた。
ごくごく普通の会議室で、長い机の周りに座り心地の悪そうな椅子が並んでいる。そこに不釣り合いな豪華な食事が並んでいて、その香りがぐぐっと迫ってきた。
椅子には既に二人の男性が座っていた。
一人は……子供?ここにいるからには軍人なんだろうが、顔立ちが幼い。少なくとも明らかに私よりも年下の生意気そうな瞳がこちらを向いていた。
私と目が合っても会釈すらせずに、すぐに目を逸らして前をじっと見つめている。
もう一人は赤髪で椅子が小さく見える程の大柄な男性だ。きっと背が高いのだろうが、背中を丸めて頼りなさ気に座っている。私を見ると少し安堵したような表情を浮かべて軽く会釈をした。
「ここに座って待っていてください。全員揃ったら自己紹介を始めましょう」
レイリーズはそう告げると、さっさと椅子に座ってしまった。私も躊躇いながらその隣に座る。
重苦しい空気だ。誰も、何も喋らない。自分の疲れた身体に更なる疲れが積み重なっていくのがわかって、私は小さく溜息をついた。
「失礼しまーす」
しばらくして間延びした声が聞こえてイオルが会議室に入ってきた。私達の顔を見回すと、
「遅れてしまってすみませーん」
と、大柄の男を見ながら謝って、その隣に座った。
「それでは全員揃いましたので自己紹介を始めましょう」
レイリーズ告げると、少年がぴっと手を真っ直ぐ挙げて、
「まだ隊長と副隊長がいらっしゃっていないようですが」
と、異議を申し立てた。
「お二人は遅れていらっしゃいます。先に自己紹介を始めておくように、とのことです」
「わかりました」
少年は少し不満そうな顔をしながらも挙げた手を下ろした。
今いる5人に隊長と副隊長でこの特務部隊は全員、ということなんだろうか。そして、レイリーズは隊長と副隊長が誰か、知っている?
「では、まず私から」
私の思考はレイリーズの声で停止する。
「私はレイリーズ・リッチモンド。ここに来る前は第二守護兵団、戦時対策本部に所属していました」
私の背中にヒヤッとしたものが走った。
ユーロラン帝国の第一から第五まである守護兵団は、数字が少なくなる毎に優秀な人材が選ばれる。その中でも第二以上は別格で、強力な魔力や特別な能力がないと配属されない部隊だ。
第二守護兵団の人までここにいるの?
「水魔法と剣を組み合わせた戦闘を行う前衛です。よろしくお願いします」
レイリーズが事務的に自己紹介を終えると、
「では、次はルシェ」
と、少年に発言を促した。少年は頷いて、青い瞳で私達の顔を見回した。
「ルシェ・シャロクです。見習い期間を経て特務部隊に配属されました」
見習い、ということはやはり若いのだろう。
「能力は硬直、弓を扱います。後衛です」
ルシェは発言を終えると、何もない方向を凝視してじっと背筋を伸ばしていた。
守護兵団には大抵、魔力か能力のどちらかを有するものが選ばれる。魔力を有する者が7割程を占めていて、能力者はそれだけ貴重で重宝される。
能力にも優劣があるがルシェの硬直能力というのは、見た訳ではないのでわからないが、きっと素晴らしく使える能力だろう。
レイリーズに視線で促されて、ルシェの隣の大柄な男が口を開いた。
「初めまして、ベルロイ・ニコリエッタです。第四守護兵団、国境警備隊ベルサロム班から来ました」
第四守護兵団という言葉を聞いただけで少し親近感を覚える。しかしそれを聞いて、今までにっこりと完璧な笑みを浮かべていたイオルが落胆した表情を浮かべたのを、私は見逃さなかった。
「能力は火魔法ですが、主に斧だけで戦います。よろしくお願いします」
ベルロイは全てのメンバーを見回して笑顔を見せたが、それに返してやる人は誰一人としていなかった。
「はい、私、ですね」
明らかにテンションの下がったイオルが口を開いた。
「私はイオル・グロール。イオルって呼んでください」
染み付いているのだろう、にっこりと、愛嬌はあるが裏もありそうな笑顔を浮かべた。
「イオルは元々、第三守護兵団、一班の所属なので、特に異動はしてないです。能力はナビゲーター。通信を担当するので、戦闘はできません。だから、みなさんイオルのこと、ちゃんと守ってくださいねっ」
イオルを横目で見てベルロイが僅かに頬を赤らめた。男って、なんでこんなあからさまな女に騙されるんだろう。
「それでは、最後に」
レイリーズに促されて、私は重い口を開いた。この後のこの人達の反応がわかるから、億劫でならない。
「リコル・イヤルダです。……第五守護兵団ミョルン班から来ました」
「ダメ五?」
思わず、といったようにイオルが声を出して、気まずくなったのだろう、慌てて目を逸した。ルシェも今までとは違う蔑んだ目を隠さずに私に向けていた。ベルロイも少し驚いた顔をしている。
当たり前だろう。私が逆の立場でもそう思う。
第五守護兵団。通称ダメ五。それは、このユーロラン帝国の守護兵団の中で、行き場のないどうしようもない人が配属される、墓場のような部隊なのだから。
「能力は触れた相手を気絶させる能力です。直接肌に触れないと発動しないので、一応前衛になります。よろしく」
不自然な沈黙が落ちた。何でこんな女が特務部隊に?そう全員が思っているのだろうということが手に取るようにわかった。
「お待たせ~!」
そんな沈黙を破ったのはドアの向こうからやってきた軽い口調の男の声だった。いよいよ隊長と副隊長のおでましか……
そう思って入ってきた人物を見て、私は唖然とした。銀髪をオールバックにしたスカした男と、その後ろの目つきの悪い男。
「あ、リコルちゃん!久しぶり!俺達のこと、覚えてる?」
こんな特徴的な二人のこと、忘れるわけがない。私は何も答えずにその二人をただ呆然と見ていた。
●登場人物の見た目紹介
レイリーズ・リッチモンド(20)
性別:女
身長162、青い瞳。
胸まである美しい水色の髪の毛はサラサラストレート。
服の上からでもわかるくらい胸が大きい。
しかも、着痩せしているようで、脱ぐとさらにすごいという噂。