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ミョルン地方 最大の関所3

 商人の拘束や荷馬車の移送は第四守護兵団に任せて私とルシェは関所に戻った。到着するとすぐにキースが走ってやってきた。


「キース、兵士の拘束は……」


「大丈夫か!?」


 私の問いを遮ってキースは必死の様子で私に声をかけてきた。何のことを言っているのか反応できずにいると、


「怪我は!?」


 と、補足の質問をされた。


「あ、うん。大丈夫。ルシェが拘束してくれたから」


 私はそう答えたが、


「だから言っただろ! 危ないって!」


 と、怒鳴られてしまった。


「無茶しやがって……まぁ、あの作戦にGOを出した俺も俺だが……。でも、怪我されたら困るだろ。俺は隊長なんだから責任を取るのは俺なんだ。ただでさえ少ない人数がさらに減るのも困るし、足引っ張るんじゃねえよ」


 キースは苦い表情を浮かべながら私を叱りつけた。


「ご、ごめん……」


「もうあんな無茶な作戦はやめろ。リコルの能力はリーチが短すぎて危ういんだから、これからはもうあんなことさせないからな」


「わかったよ」


 私がうなだれるとキースの手が私の頭に伸びてきて、ぐいっと下に押しつけられてわしゃわしゃと荒く撫でつけられた。


「ちょっ……」


 髪が乱れるから!と、抗議をしようとしたが、頭皮から伝わってきたキースの心の声に私は言葉を失った。


『無事で良かった……』


 その感情に苦しい程の安堵と切なさが秘められていて、私の心臓はどくりと大きく跳ねた。


「兵士は拘束した。ブルーム達もじきに着く。軽く尋問して明日には王都に移送だ」


 キースは私の頭から手を離すと事務的にそう告げて、廊下をすたすたと歩いていってしまった。私はその後姿を速い鼓動を胸に抱えながら見送った。


 心から心配してくれてた────


 キースから流れ込んできた感情を消すことができないまま、私はそのまましばらくその場で立ち尽くしていた。


***


 気を取り直した私は拘束された兵士達の元へ向かったが、拘束時に抵抗したらしく、キースによって気絶させられてしまっていた。兵士達が意識を取り戻した時には、ベルサロム班も関所に到着していて、尋問はブルームとキースが行ったので私は心の声を聞けず仕舞いだった。


 夜、集まった特務部隊は部屋を借りて顔を突き合わせた。まず、事の経緯を説明すると、


「リコルちゃん、思い切った作戦を立てたねぇ」


 と、ブルームににやりと笑われた。


 兵士からの尋問の成果はあまり得られていなかった。しかし、関所を通過した商人の帳簿から、薬物を運んでいた商人がポリー商会の所属だということは判明していた。


「ポリー商会、ですか……」


「聞かない名前だよね」


 レイリーズとブルームは頭を捻らせていた。


「王都の商会なんでしょ?」


「そうだけど、聞かない名前だから恐らく小さい商会だね。裏に何がいるのかわからないけど」


「裏に別の商会が絡んでるってこと?」


「わからないけど、可能性はあるね。商会じゃなくて、貴族っていう可能性も」


 なるほど、簡単には糸を引いている人物が判明しないように考えられてる、ということか。


「スパイについての情報もまったく聞き出せなかったね。兵士のくせに口が固い。副隊長も『俺は知らない。関係ない』の一点張りだし。王都でじっくり尋問させてもらうけど」


 ブルームがニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「あの兵士達はどうしてこんなことに関わりを持つようになったのでしょうか」


 レイリーズが疑問を投げかけた。


「それについてもまったく口を割らなかった。この関所に配属された兵士の中から選ばれんだろうけど、誰が選んだんだろうね」


「あの兵士達の配属を決めてるのは誰?」


「基本的に人事を握ってるのは第一守護兵団だよ。皇帝陛下なのか、それとも二人の王子の内のどちらかなのかは、調べないとわからないけど。まさか、そっちを疑ってる?」


「スパイが王城に入り込んでるんでしょ? この関所の副隊長が関与してたことからも、可能性はある」


「まぁ、ね」


 ブルームは腕を組んだ。


「とにかく、全ては王都に戻ってからだ。とりあえず、今は初任務が成功に終わったことを祝おうじゃないか」


 明るい声を出してブルームは両手を広げた。


「安心するのは王都へ戻ってからだろ」


 キースはブルームを軽く睨むと、


「夜の間は俺とルシェとベルロイで交代で兵士を見張る。他は休んで明日に備えろ」


 と、告げた。


「はい」


 私達は声を揃えて返事をして、今日の報告会議は終わった。


 私はキースの顔をまともに見ることができないまま会議室を出た。あの時の感覚がまだ身体に残っていて落ち着かない。


「ちょっとリコル」


 後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえて振り返ると眉間に皺を寄せたイオルが立っていた。


「あんた、今まで一人部屋だったんでしょ? 今日はあたしに譲りなさいよ」


「はぁ?」


 私は突然の提案をしてきたキャラが以前と変わっているイオルをしげしげと見つめる。


「部屋がないからってまたあたしとレイリーズが同部屋なの。今までだってずっと我慢してきたから、今日くらい譲ってよ」


 イオルは両眉を釣り上げて仁王立ちで私に言い放った。なるほど、これがイオルの本性ということなのだろう。

 後ろからやってきたルシェが目を丸くして唖然としている。少年よ、これが女というものなのだよ。


「私からもお願いします。今日は部屋を変わってあげてください」


 レイリーズが話に割って入ってきた。このイオルとずっと同じ部屋というのは確かに大変だったのかもしれない。


「はぁ、まぁいいけど。じゃあこれで貸し一つね」


「貸し? 何それ、イオルに譲るのなんて当然のことでしょ」


 イオルは腕を組んで憮然とした顔をしている。


「一人部屋の権利は今は私にあるの。譲るなら貸し作って当たり前でしょ」


「……何させるつもりよ?」


「さぁ? 然るべきタイミングで使わせていただくわ」


 チッとイオルが舌打ちをした。


「……わかったわよ」


「じゃあ交渉成立ね」


 私はニッコリ微笑んでイオルから背を向けた。


「性格の悪い女」


 イオル、その言葉はっきり聞こえてるし、あんただけには言われたくないわね。


 そのままの流れでキースとブルーム以外の特務部隊メンバーで固まって夕食を取ることになってしまった。イオルが「ここって近くに店ないわけ? 食堂なんて最悪」などと文句を言っているが無視をして食事を食べ始める。


 ベルロイは嬉しそうにルシェと話をしている。レイリーズは私の横に座ってきた。


「リコル。あなたが今日の作戦を考えたと聞きました。何故……」


「食事中に仕事の話はやめて。誰に聞かれてるかわからないし」


 レイリーズの問をぴしゃりと切ると、前に座ったイオルがくすりと笑った。


「イオルはいつの間に猫かぶるのやめたの?」


「猫かぶる、とか失礼なこと言わないでよ。ここでは可愛く振る舞う必要がないだけ。イオルが可愛くするのは素敵な男性の前だけよ」


 ルシェは信じられない顔をして瞬きをしている。


「ベルロイとルシェがいるけど?」


「ベルロイは論外。私が狙ってるのはいい家柄の方だけだもの」


「あはは」


 ベルロイはイオルの横で苦笑した。


「ルシェは年下すぎる。あと五年生まれるのが早ければね、残念」


「ぐっ……」


 ルシェのこめかみがひくひくと動いたが、イオルのあまりの変貌っぷりに何も口に出せない様子だ。


「家柄が、と言っている割にはより好みするんですね」


「当たり前でしょ? 結婚したら毎日毎日、顔を見ることになるのよ? まぁキース様の顔は厳しすぎるけど、家柄が良すぎるからセーフってことで」


 あっけらかんと言い放つイオルを見て私は思わず笑ってしまった。今まで表でいい顔をして、心の中では自分のことしか考えていない人はたくさん見てきたが、その本心を表に出してしまう人は初めて見た。


「何よ?」


「いや、面白いねイオル。私、猫かぶってない今のイオルの方が好きだよ」


 イオルは一瞬言葉を失ってから、


「ふんっ、ブルーム様とキース様には言わないでよね」


 と、言ってそっぽを向いてしまった。


●リコルの能力について


肌と肌を触れ合うと相手の脳内と繋がることができる。

それは自分の頭皮に触れられることでも可能だということは今回初めて知ったようだ。

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