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一方その頃ベルサロム班は(レイリーズ視点)

「それじゃあまた明日! お疲れ様~」


 ブルームさんがそう声をかけて通信は終わった。


 私達もキースさん達のミョルン班も今日は移動日。無事に二箇所目の関所に辿り着いて、明日からまた関所の通行を監視する。


 私達ベルサロム班は、この関所がベルロイの前の職場で、曰く「ここには絶対にスパイはいない」と、いうことなので、一日監視すれば十分だろうという結論に達している。


 通信が終わるとベルロイがいそいそと立ち上がり、


「俺は今日はここで……。昔の仲間と飲みに行って来ます」


 と、嬉しそうに部屋から出ていった。私は、とブルームさんを見ると、また一歩出遅れてしまったようだ。


「ブルーム様~! よかったらイオルと夕食、どうですか?」


 毎日、毎日これだ。私はイオルの肩を掴んで振り向かせた。


「イオル! ブルームさんは夜は書類仕事でお忙しいんですから!」


「きゃっ! レイリーズさん、怖い顔しないでくださいよ~!」


 イオルは可愛らしい声とは裏腹に強い力で私の手を払いのけると、ブルームさんの腕を取った。


「ブルームさんも、毎日夜までお仕事じゃあ疲れちゃいますよ~! たまには休まないと!」


 猫なで声に上目遣いでブルームさんを見上げるイオルを私は睨みつける。


 ブルームさんが働きすぎているのは間違いない。私だって休んでいただきたいと思っている。だからと言って、イオルと一緒に食事を取るというのは別の問題だ。


「いや~イオルちゃん、ごめんね。今日も無理そうだ。本当、フレイ隊長は人使いが荒くて困るよ」


 ブルームさんは申し訳なさそうに眉尻を下げながらも、明るい調子でイオルの誘いを断った。断ってくれた安堵と、移動日で疲れているだろうにさらに仕事をするブルームさんを心配する気持ちが入り交じる。後で絶対夕食を持って行こう。


「え~そんなぁ」


「イオル」


 ブルームさんにベタベタと触るイオルの腕を掴んで無理やり引き離す。


「ごめんね、イオルちゃん。レイと二人で夕食食べておいでよ」


 こんなにしつこいイオルにも笑顔を見せて気遣いの言葉までかけるブルームさんはなんて素晴らしい人なんだろうか。


「レイ」


 ようやくブルームさんの顔が私に向いて、私の名前が呼ばれる。それだけで心が震えて、私は、


「はい」


 と、背筋を正して返事をした。


「イオルちゃんのこと、お願いね。あと、ベルロイに後で俺の食事持ってくるように言っておいて。夜に男性の部屋に女性が来るのはまずいからね」


 反論の余地がない強い口調だった。私がブルームさんの食事を持っていきたい、ブルームさんと二人で話がしたい。しかし、それは許されない様子だ。


「え~」


 まだ不満そうな声を上げるイオル。私もそのくらいわがままになれれば何か変わるのだろうか。私はブルームさんに頭を下げた。


「……わかりました。お身体にはお気をつけて、お早めにおやすみください」


「ありがとね」


 そのままイオルを引きずるようにして部屋を後にした。


「はあぁ」


 部屋を出ると、イオルは溜息をついて、私を睨みつけながら腕を払い除けた。


「あんた、力強すぎ。痕が残ったらどうすんのよ」


 私はそんなイオルを見て溜息をつく。


 ここ数日でわかったこと。それは、これがイオルの本性だということ。ブルームさんがいる前は猫なで声で甘えたことを言う癖に、いなくなった途端にこれだ。


「イオル。いい加減にして。ブルームさんの迷惑になるでしょ」


「いい加減にしてほしいのはあんたの方ね。あんたがいなければブルームさんと一緒にご飯だって食べれるかもしれないのに」


 イオルはブルームさんの前では見せない、鋭い睨みをきかせてくる。


「ふざけないで。これは遊びじゃない、仕事なんですよ」


「通信が終わって今日の仕事が終わればもう休みでしょ? それなのにあんたがいっつも邪魔するから」


「ブルームさんの邪魔をしているのはイオルの方でしょう?」


 昨日までならここでベルロイが「まぁまぁ」と言いながら止めに入ってくれたものなのだったが、そんなベルロイは今日はいない。私達はいつまでもいがみ合いながら廊下を歩いて行く。


「ブルーム様もブルーム様よ。毎日毎日、仕事って……あれ、絶対嘘でしょ。レイリーズのことがそんなに嫌なのかしら」


「嫌なのはイオルのことでしょう」


「はぁ? こんなに可愛いイオルのこと嫌がるわけないじゃないの!」


「あなた、どこまでもポジティブ思考なんですね。尊敬します」


「ふん、褒めたってブルーム様は渡さないから」


 皮肉だったのだけど、イオルには通じなかったようだ。


 私とイオルは毎日同じ部屋で寝泊まりしている。これがまだまだ続くかと思うと嫌気がさす。


「さ、レイリーズ。ご飯食べに行くわよ」


「は? どこに行くつもりですか?」


 関所に併設する宿舎を出ようとするイオルを慌てて呼び止める。


「どこに、って決まってるでしょ。外よ、外」


「またですか? ここにも食堂がありますから……」


「食堂なんてむさ苦しいところでご飯食べたくないわ」


「それなら一人で行ってくればいいじゃないですか」


「は? イオルみたいな可愛い子が外に一人で行くとかあり得ないでしょ。護衛としてついてきなさい」


「嫌です。私は食堂で食べます」


「あんた、忘れたの? ブルーム様に『か弱いイオルちゃんのこと、よろしくね』って頼まれてたでしょうが」


 か弱い、とは決して言っていなかったが、確かにそれと似たようなことは言っていた。


「それじゃあ食堂で……」


「ほら、行くわよ!」


 気がつくとイオルはさっさと宿舎から出て行ってしまっている。なんというわがままな女なのだろうか。私は苛立ちで震えながらも、このまま放っておくわけにもいかずに、仕方なくイオルのことを追いかけた。


***


「うーん、まぁまぁね」


 宿舎近くの雰囲気のいいお店に入り、私とイオルは向かい合って食事をしている。イオルに無理やり連れてこられたが、普段食堂で食べる食事よりは確かに美味しいものだった。


 いつもの愛想笑いはなく、無表情で食事を口に運ぶイオルを盗み見る。金色の髪の毛はふわふわとカールしていて、パッチリとした瞳。僅かに紅を塗った小さな口がもぐもぐと動いている。


 こういう女性らしさは私にはない。ブルームさんがイオルのことを気に入っているとは到底思えないが、私かイオルだったらどちらの方が好みなのだろうか────


「ちょっと、イオルが可愛いのはわかるけど、じろじろ見るのやめてくれる? 悪いけどあたし、そういう趣味ないし」


 いつの間にか私が見ていることに気がついたイオルは顔を歪めて私に言い放つ。どこまで自信過剰なのだろうか。


「違います。……何でもありませんから」


 私はイオルから目を離して目の前の肉にナイフを入れる。こんなにしっかりとした肉を食べたのは久しぶりのことだ。


「ねぇ、ブルーム様って彼女いないのよね?」


「……そう言った話は聞いたことありません」


「そうよね。なら何で全然なびいてくれないんだろ。こんなに可愛いイオルが誘ってんのにさ」


 イオルも肉をバクバクと口に入れて食べている。そこに可愛らしさは欠片もない。


「まぁ本命はキース様なんだけどね。あの人、顔怖いから嫌なんだけど……まぁ、家柄的にあんないい人なかなかいないし」


「あなた、ブルームさんをそんな理由で?」


 ぶつぶつと零すイオルの言葉を聞き逃さなかった。好きだからベタベタとくっついているものだとばかり思っていたのに。


「当たり前でしょ。歳が近くてそこそこの家の方、しかも出世しそうな人なんてなかなかいないんだから」


 イオルは片眉を上げて当然のようにそう言った。


「あなたという人は……そんな理由でブルームさんに近付かないでください!」


 私はきつく言い放った。


「は? あんたに指図される筋合いないし。それに、感情だけで近づく以外の理由は認めない、なんて子供みたいなこと言わないでよ」


 イオルの発言に私は言葉を失う。


「男は女の身体目当て、女は男の金目当て、なんて当たり前でしょ? 好き同士が付き合って結婚すればいい、なんて理想を押し付けるの、やめてよ」


 そう言うと、イオルは大きく切った肉を口に入れた。イオルは冷めている。確かにそういう考え方もあるのだろう。だとしても私は────


「あんたはブルーム様のこと好きなの?」


 その言葉を聞いただけで顔が熱くなるのを感じる。


「ち、違います」


「その顔で否定されてもね」


 イオルは私を馬鹿にしたような顔をして見る。


「ま、ブルーム様が選ぶのはイオルだけどね」


 ブルームさんが選ぶ女性。それはやはり私ではないのだろうか。


 ブルームさんは様々な女性に軽く声をかけている。私にも声をかけてきたことはある。しかし、それらはいつも真剣なものではなく、からかい半分のように感じる。


 ブルームさんが本気で好きになる女性というのがどんな人物なのか、私にはいまいち想像がつかない。


 ふとリコルの顔が思い浮かんだ。リコルに対するブルームさんはいつもどこか楽しそうだ。それは私に向けられない顔も含まれている。もしかして、ブルームさんはリコルのような女性が好きなのだろうか。


 ドロドロとした感情が胸に渦巻いて、それを消すように肉を口に放り込んだ。


 リコルの能力は未知数だ。聞いただけではとても強い能力に聞こえないのに、ブルームさんもキースさんも彼女をどこか買っているように感じる。


 ベルサロムに来て、イオルの能力の高さはわかった。こんなふざけた彼女だけれど、第二守護兵団にいたナビゲーターよりも、もしかすると高いかもしれない能力だと思う。


 ベルロイの実力はまだわからないが、日々の鍛錬は欠かさないようだし、身体つきを見ても戦える人間だということはわかる。


 そんな中に異質な彼女。私はリコルという存在が気になって仕方ない。


「ちょっと、早くしてよ。イオルを待たせるなんて信じられない」


 いつの間にか食べ終わっていたイオルが私を催促してきた。


「すみません」


 思考を一旦停止して食事に集中すると、イオルが店員を呼んでデザートを頼んだ。食事だけでも相当な量があったのに、この細い身体のどこに入っていくのだろうか。


「デザートは待たせたお詫びに奢ってよね」


「嫌です」


「はぁ!?」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐイオルを無視して私は肉を食べ進める。ひとまず今は任務に集中だ。リコルを見極める時間はいくらでもあるのだから。

●ユーロラン帝国、国土紹介


ミョルン地方

王都の南東、ベルサロムの南に位置し、ダイス帝国と国境を接している。

森が多い地域で農業や畜産業も盛ん。

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