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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
1.特務部隊、発足!
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顔合わせ1

 お前の持つ能力のことは誰にも言ってはいけないよ。

 言えば、お前は周りに利用され、自分の意志で生きていくことができなくなるのだから……


***


 前後左右、どこを見ても人、人、人。その人達はそれぞれ別の目的を持って、別の場所へ行くためにせかせかと歩いている。

 大きい荷物を背負った私は、さっきからすれ違う人達にバシバシぶつかられては舌打ちをされている。


 長袖に黒い手袋をして身を縮めて目的地に向けて歩みを進める。もし、今ここで素肌を晒して歩いたならば、どれだけの人間の気持ちが私に伝わってくるだろうか。


 人の本心なんて聞いて嬉しいものはほとんどない。素肌を隠していて聞こえるはずもないのに、人にぶつかられるだけで恐ろしくてたまらない。


 ここは王都。私が王都にやってきたのは守護兵団の入団式以来のことだ。


 こんなにたくさんの人がいるのに、ここには誰も私のことを知る人はいない。不思議といつもよりも独りであることを実感させられる。


 私は「よいしょっ」と、小さく気合を入れる声を発して荷物を背負い直した。一つにまとめた髪の毛が揺れて首筋をくすぐる。


 あ、そういえばこんな私でも王都に知り合いがいるんだった。


 私は唐突に二人の男の顔を思い出していた。その内の一人、銀髪オールバックの男の記憶は体よく消して、もう一人の人相の悪い男の顔を思い浮かべる。口が悪くて素直じゃない男。


 王都は広い。会うことはないだろうとは思うが、唯一あいつだけには会ってもいいかもな。


「ここ、か」


 私は『第三守護兵団 隊員寮』と書かれた看板が立てかけてある簡易的な門の前に立った。門の先にある建物を見上げると、


「思ってたよりボロい……」


 と、つい一人でぼやいてしまう。


 その寮は二棟並んで立っているが、何十年も前に建てられたのだろう、どちらも同じくらい薄汚れている。これでは今までいたところとさほど変わらない。


「ま、いいか。住めれば」


 どう足掻いても今日からここが私の家だ。


 冬が終わりを告げようとする頃、私に突然の異動命令が下った。春は異動の時期だから、その通知が来てもおかしくはないのだが、私のいた部隊に異動があることはほとんどないので目を疑った。


 そして、その異動先を聞いて更に驚愕してしまった。


 ユーロラン帝国、第三守護兵団。


 何度聞き直してもそれが私の異動先だった。


 寮の扉を押し開けると、ぎーっと金具が軋む音がした。入るとすぐにカウンターがあり、年配の女性が軍服を着て座っている。


 私を見ると明らかに面倒そうな表情を浮かべた。


 感じ悪っ。これだから王都の人間は……


 心の中で悪態をつきながら、始めが肝心なのだからと、しばらくは大人しく過ごそうと決めたことを思い出して、自分の中で最大限の笑顔を浮かべてカウンターに近づいた。


「あの……」


「リコル・イヤルダさん?」


 私が受付の女性に声をかけようとした時に、カウンターの横にある、薄暗い階段の方角から私の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。


 その方を見ると、淡い水色の髪の毛が目に飛び込んできた。カツカツとヒールの音を立てながら、自信ありげに近づいてきたその女性も軍服を着ている。


「はい、今日からお世話になります、リコル・イヤルダです」


 荷物を置いて敬礼をすると、相手も返してくれた。鋭い瞳が私を品定めするように見ている。


「私はレイリーズ・リッチモンドです。貴女と同じ、特務部隊に配属されます」


 この人も……


 私の目の前に立つこの女性は白い肌にはっきりとした目鼻立ちをした美しい人だ。すらっとした細身の体型だが、きっと筋肉がすごいのだろう、二の腕の部分は軍服にぴったりとくっついている。腰に携えられた剣は彼女の容姿にそぐわない長剣だ。


 その華奢な身体つきを感じさせないように、背筋は真っ直ぐにピンと伸びて彼女の存在を大きく見せている。私とさほど変わらないくらいの歳に見えるのに、漂う軍人としての自信がまるで違う。


 ここに来るまでの疑問や不安が膨れ上がる。こんな人が同僚の職場。何故、私が────


 いやいや、ぼーっとしている場合ではない。第一印象が肝心なのだ。

 改めて挨拶をしようと、私は姿勢を正した。


「リッチモンドさん……」


「レイリーズで構いません、リコル」


 芯のある青い瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。こういう瞳の人は心が強い人だ。


「それでは、レイリーズ。宜しくお願い致します」


 レイリーズは頷くと、


「部屋に案内します」


 と、言って踵を返して階段を登り始める。私は慌てて荷物を担ぎ、彼女の後を追った。


 薄暗い階段を登っていき、一つ上の二階の廊下を歩き始めた。


「この階が女子の部屋です。三階と四階は男性のエリアとなっています」


 外観同様、中も古さが滲み出ているが、手入れはきちんとされているようで清潔だった。


「食堂とお風呂は一階です。トイレは部屋の中についています」


 レイリーズは淡々と説明していく。


「貴女の部屋はここです」


 廊下を半分ほど進んだ一つの部屋の前で止まり、レイリーズが鍵を開けた。促されて中に入ると、日当たりの関係だろう、室内は明るかった。


 少し黄ばんだ白いカーテンとベッド、小さな机と椅子が置いてあった。前の寮より広い。悪くない。


「鍵を」


「ありがとうございます」


 金色の鍵が私の黒い手袋の上に乗った。これでようやく落ち着けそうだ。


「それで、長旅の後、急で申し訳ないのですが、これからチームメンバーで顔合わせを兼ねた食事会があります。ご同行願えますか?」


「急ですね」


 私は思わず顔をしかめてしまった。レイリーズにばっちり見られていたが、すぐに無表情に戻して取り繕った。


「ミーティングは明日という話では?」


「はい、ですが、その前に顔合わせを」


 疲れているから休みたいのに……


 しかし、レイリーズの声には有無を言わさぬものがあった。何を言っても無駄なのだろう。


「わかりました」


 目立たず、大人しくすると決めたんだ。私は物分り良くそう返事をして一緒に部屋を出た。


「女子寮にもう一人いますので、一緒に連れていきます」


 レイリーズはそう言うと私の二つ隣の部屋をノックした。


「はーい」


 間延びした返事が聞こえて、しばらくするとドアが開いた。中からは肩まである金色の髪をふわふわとカールさせた可愛らしい女子が顔を出した。


 しかし、私達の顔を見ると愛嬌のある顔を一変させ、


「何でしょうか?」


 と、不機嫌そうな声を出した。間違いない、この女、性格悪い。私の第六感がそう囁いた。


「イオル、おやすみのところすみません。これから特務部隊のチームメンバーで顔合わせを兼ねた食事会がありますので、第一会議室までお願いします」


「……そんなの聞いてないんですけど」


 イオルと呼ばれた女が唇を尖らせて明らかに迷惑そうな顔をした。けれどレイリーズの表情は変わらずに、


「他のメンバーも全員出席します」


 と、私の時と同じく有無を言わさぬ口調で告げた。金髪の女はレイリーズの顔をしばらくじろじろと見てから、


「わかりました」


 と、了承した。


「じゃあ支度するので後から行きます」


 そう言うと返事も待たずにバンっとドアを勢い良く閉めた。

 この女子もチームメンバーか。面倒くさそう。私は内心溜息をついた。


「……行きましょう」


 私はレイリーズに促されて再び廊下を歩き始めた。


●登場人物の見た目紹介


リコル・イヤルダ(20)

性別:女

身長158、緑色の瞳。

鎖骨まである茶色の髪の毛を後ろで一つにまとめている。

髪の毛を乾かさずに寝るためいつも朝起きると癖がついていて、それを直すのが面倒なので一つにまとめて誤魔化しているらしい。


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