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■第4話 あの人の姿

 

 

 

翌日、リコは学校のお昼休みになんとなく周りを見渡してみた。

 

 

女の園であるリコが通う女子高のクラスメイトは、殆どがリコより小さい

お弁当箱だったり、サラダだけの子、ダイエットドリンクだけの子、

8等分にカットしたリンゴをもぐもぐとかじっている子もいた。


悔しいけれど弟リクに言われた一言をリコは思いきり気にしていた。

一緒にお弁当を食べている友達のナチに、ボソボソと口ごもりながら昨夜

の話をしてみる。

 

 

 

 『ん~・・・ まぁ、言えてるんじゃない?


  ・・・だって、リコ。 好きな人とかいないでしょ?』

 

 

 

ナチは片手に掴んだフォークでお弁当のウインナーをツンツンと刺しながら

他方の手で頬杖を付き半身に傾げてリコを眇める。

 

 

 

 (そ・・・そんなに私って、


  好きな人の一人もいない空気が出てるわけ・・・?)

 

 

 

 

 『きっと、私が思うに・・・


  リコは好きな人が出来たら、一発で変わるタイプだねっ!

 

 

  こぉ~・・・ なんてゆーの?


  ”まっしぐら ”ってゆうかぁ~・・・ ”盲目 ”的な?』

 

 

 

ナチがなんだか自信満々に言い放つ。


そんな事いうナチだって、中学からの付き合いだけれど恋愛経験が豊富

なんて話は聞いたことがないというのに。

 

 

正直、”一発で変わる”の意味がリコにはサッパリ分からない。


それっていいのか悪いのか。

カレシが出来た途端に女友達と疎遠になる、なんて話も聞いたことある

けれど、そういう類の事を言っているのか。もしそうなら自分はそんな

タイプではないのにと内心かなり心外の至りだ。

 

 

今までだってそりゃ人並みにいいなって思う人ぐらいいなかった訳では

ない。しかしドラマやマンガであるような ”その人を想って眠れない ”

とか ”心臓が苦しい ”とか、そういうのは経験したことがなかった。

失恋ぽい感じに泣いた事もあったけれど、今思えばそんな自分に酔って

いたと言えなくもない。

 

 

リコは頬杖を付きパック牛乳をストローでズズズと飲み干して、大きな

溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

放課後。お昼のナチとの遣り取りをぼんやり考えながら、リコは真っ直ぐ

家に帰る為、学校校門前のバス停からバスに乗車した。


商店街に寄ったら、おやつか何か買ってしまいそうな気がしていた。

仮にそんな現場を弟に見られでもして、連日クドクド嫌味を言われるなんて

たまったものではない。

 

 

定刻より3分遅れてバスがゆっくりとバス停に滑り込む。


午後4時前のバスは学生ばかりだったが、座席には座ることが出来た。

二人掛けのイスの窓側に座り、窓の外をなんとなく眺めていた。

いつもの見慣れた街並みの中、友達同士で乗車した女の子たちの笑い声

が楽しげに響くバスは小さく揺れながらも安全運転で進む。

 

 

このバスもいつもの商店街を通り過ぎる。


まだ夕飯の買い物には少し早いのか、買い物客はまばらな様子だ。

道路脇に上がった ”お得デー ”の黄色い幟に、今日は商店街の安売日

だった事を思い出し、夕方頃には混雑するだろう事をぼんやり考えつつ

本屋の前をバスが過ぎようとした、その時。

 

 

 

 

 

  あの時のあの人が、見えた・・・


  ・・・見えたような、気が、した・・・

 

 

 

 

 

咄嗟にもっとよく見ようと窓から頭を出そうとしかけ、当然開いていない

窓ガラスに思いっきり額を強打して、車内にゴォオンという音が響いた。


一瞬の事だったので本当にあの時のあの人かどうかなんて分からない。

でも、あの本屋で、あの絵本コーナーで、あの人らしき背中で。

 

 

 

 (もしかしたら、まだ絵本を探しているのかもしれない・・・。)

 

 

 

窓ガラスに強打した頭で、何度も何度もさっきの映像を思い返す。

とっくに通り過ぎた本屋の方向を、バスの窓に張り付いて見つめた。


見えるはずもない本屋の、確かにいたかどうかも分からない姿を探して。

 

 

また、心のモヤモヤが再発した・・・

 

 

 


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