表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/227

■第3話 窓からの景色

 

 

階段を上がって廊下のすぐ右手にあるのが弟リクの部屋、左がリコの部屋。

 

 

ドアを開け、薄暗くなった部屋に電気をつけた。

少しだけ開けておいた窓から入る薄暮れの風が、淡色の花柄カーテンを

小さく揺らしている。


子供部屋にしては大きめの出窓が、リコの一番のお気に入りだ。

窓を大きく開け放して、少ししっとりした部屋の空気の入れ替えをした。

そっと目を閉じてみる。頬を髪の毛を、柔らかい風が優しく撫でてゆく。

 

 

坂の下の街並みが一望出来るこの出窓からの景色を眺めるのが、一日の

中でリコの一番安らぐ時間だった。

小学5年の時に引っ越してきてから高校2年の今まで、毎日欠かした事

はない。友達とケンカして落ち込んだ時も、親に叱られて泣いた夜も、

リコはいつもこの出窓からの景色を見ていた。

 

 

その時、『リーーコーー! ご飯よーー!』 階下から母の声がした。

 

 

 

 『着替えて、すぐ、いくーぅ!!』 

 

 

 

ドアを開け階下へとそう一言返して、脱いだ制服ブレザーをハンガーに

掛けた。ベッドの上に置いていたカバンを机の上に上げようと手を伸ばし

絵本が入った茶色い紙袋が目に入る。

 

 

 

 (あの人・・・ そんなにこの本、探してたのかな・・・。)

 

 

 

また本屋での出来事を思い出していた。

紙袋にじっと目を落としていると、再び母の声が。

 

 

 『リーコー!! 先に食べちゃうわよーー!!』

 

 

 

 

 

 

リコの家族は、専業主婦の母ハルコと6歳下の弟リク。

父親は単身赴任中で離れた街で暮らしていて、一緒にいられるのは年に

数日程度だった。


母ハルコはワイドショーネタにご執心で、毎日毎日夕飯時には芸能人の

ゴシップネタをリポーター顔負けに報告してくる。

リクはそんな母を鬱陶しがる年頃のようで、最近二人は言い合いばかり

しているが、リコはそんな二人をなだめたり仲裁したりしながらも、

家族との平和なひとときを心地良く思っていた。

 

 

 

 

 

 『姉ちゃんてさぁ~、ダイエットとかしたりしないわけ?』

 

 

リコが口いっぱいにコロッケを頬張っている姿に、リクが呆れた様に

半笑いで頬を歪めた。

 

 

『ァ、アンタに関係ないでしょっ!!』 思わずムっとして言い返す。

しかし関係ないと言った割には、なんだかバツが悪くて口からコロッケを

離し食べかけのそれを皿の上にさり気なく戻した。

 

 

そんな様子を横目に、リクは握った箸で指揮をするようにユラユラ揺らす。

 

 

 

 『普通、姉ちゃんぐらいになるとぉ


  カレシとかぁ~、ダイエットとかぁ~・・・?


  イロイロ、モロモロ。気にするモンだと思うんだけどねぇ~。

 

 

  ・・・弟として心配だねぇ~・・・。』

 

 

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・・。』 

 

 

 

言い返す言葉もない。ぐうの音も出ないとはこの事を言うのか。


すると、すかさずハルコが口を挟んだ。

 

 

 

 『リコは丁度いいじゃない!


  ・・・お母さん、ガリガリな女の子嫌いよ。』

 

 

 

そう言うと、食べかけコロッケを戻した皿をツツツと指先でリコへと

滑らせ ”食べなさい ”と目で合図する。

 

 

 

 ( ”丁度いい ”、かぁ・・・。)

 

 

 

ハルコの必死のフォローが余計ツラい。


そう言えば周りの友達は、大体みんなダイエットしたり食べ過ぎない様

気を付けている事をふと思い出す。

 

 

彼氏がいるとかいないとか、付き合ったとか別れたとか、告白したとか

フラれたとか・・・ 学校では連日そんな話題が飛び交っていた。

 

 

母のコロッケをモリモリ完食している場合じゃないのかも、と内心落ち

込むリコだった。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ