続々続々!
たまにふとした瞬間に旅行に行って、そのまま行方をくらましたくなる。
でもきっと流架が「二人きりでりょこうだね」とか言って着いて来そうだから無理だなと思ってる私は現実が見えてると思う。
ちょっとした買い物とかでも流架が着いてくる私の私生活について話します?
……やめよう。私が辛くなるだけだから。
元男爵令嬢が元王子に突っ掛かりはじめてから、被害は私にまで回ってきた。
来るんだよ。毎日毎日地味〜な嫌がらせが。気がつくと私のプリントだけ足りなかったり、消しゴムを落とされたり、なんだか地味な嫌がらせが。
元男爵令嬢が中心になってクラスの女子の一部が嫌がらせしてるらしい。
地味な嫌がらせだから、周りに気がつかれないし、私自身にもそんなに被害はないという。
嫌がらせの意味あるのかな?
最近では使いやすくて気に入ってた黒のボールペンを隠されて、困ってるところをニヤニヤされた。他人の不幸は蜜の味っていうやつかな。特に使いやすい以外は思い入れもなかったボールペンなので、三色ボールペンで代用した。
一番泣きたかった嫌がらせは消しゴムを隠されたことかな。おかげで消すに消せなくて、半泣きになりながらシャーペンの上に付いてる消しゴムで代用した。辛かった。
そんな地味〜な嫌がらせが続いてるおかげで教室に居づらくて、最近は学園の離れにある花壇に通ってる。
マリアーナのときに引きこもってた塔の近くにあった庭みたいで落ち着くんだよね。薔薇好き。マリアーナのときの一番は薔薇だけど、私はヒマワリのほうが好き。明るくていいよね!
季節だと夏が一番好き。暑いけど、なんか明るいし、かき氷とか夏限定の食べ物ってすごいいいよね。夏祭りも好きだ! 夏祭りの焼きそばとかお好み焼きは幸せになれると思う。
ちなみに二番目は秋が好き。さんま美味しい。柿栗美味しい。あと紅葉。
「ふわぁぁぁあ……」
落ち着く。ベンチに座って、ぐいーっと背伸びをする。
ひとりの時間なんて学校にいるときぐらいしか作れないもんね。家にいるときも休日も流架と一緒ですがなにか?
そういえば流架って放課後友達と遊んだりとか全くないんだけど大丈夫なのかな。友達とかいる? 虐められてたり……しないな。それどころか私の知ってる流架ならやり返す。百倍返しだ。
……流架、いじめとかしてないかな。大丈夫かな、周り。今度流架に確認しないと。
ゆっくりと目を閉じて風を感じる。
今度流架と一緒に空中散歩とかいいな。誰にも見られない場所で、っていうのが前提だけど。
魔力の発散って結構難しいんだよ。
月1で来るから、普段は花とかに魔力で成長を促して発散してたりする。
いま思ったけど、本家に私専用の花壇があるってなんかちょっと問題じゃない? 将来婚約破棄したときに私ってばなんにも求められないよね?
そよそよと風が心地いい。昼休みだから、早めに戻らないといけないんだけど、なんかめんどくさくて。
地味な嫌がらせもめんどくさいんだよ。それでなくても人の視線に慣れてないのに。
ここなら元王子も元男爵令嬢もいないし楽々です。楽々すぎて眠い。
「……マリアーナ様」
……なんか聞こえた。なんか聞こえた。
目を開けたいけど、これ開けたらダメな気がします。
低い声で私の前世の名前を呼ぶ声は聞いたことがある。あれだ。元騎士。
なんでいる。なんでいるんだ!
動こうにも動けず寝たふりを続ける私。そんな私の頬に触れる指先。
なにをする。なにをするんだ!
くすぐったさに笑いそうになるけど、必死で我慢する。寝たふりって結構疲れるよね。
さっさとどっか行け。
「変わらない……マリアーナ様は変わらないな……」
「(変わってますよ?)」
うわ言のように私の頬を撫でながら呟く元騎士はただの変態である。
これ、私が起きてても起きてなくてもセクハラだよ? 訴えたら勝訴できるよ? たぶん。
そしてマリアーナと私はだいぶ違うよ。大変身だよ。心の中で考えてることは大抵同じだけど、マリアーナのほうがお淑やかだった気がする……? 違う。マリアーナ時代の私はお淑やかっていうよりも世間知らずだったんだ!
マリアーナ時代の監禁生活に思いを馳せてると、ポタリと雫が頬に落ちてきた。
……雨?
「ふっ、ぐすっ、マリアーナ様……ッ、俺は、」
雨かと思ったら元騎士の涙だった。ひぇっ、こわい。
私が寝てることをいいことに懺悔してる。なに、みんなしてなけなしの良心でマリアーナに懺悔するのが今の流行なの?
私は全然気にしてないんだけどなぁ。
「俺が、俺が貴女を、ふっ、ぐすっ、あぁ……」
何を隠そうマリアーナの首を落とした処刑人は元騎士である。
いまでも思い出すあの無感動の瞳。幼馴染ってこんなものなんだなぁ、と思ったよね。もう少し表情でも見えてればしょうがないなぁ、とも思えたけど全くの無表情。こわかった。
元騎士は普段から無表情系男子だったんだけど、あの目はない。トラウマだよね。
大泣きしてるらしい元騎士のおかげで私は起きれない。
誰か元騎士を回収してください。
そんな願いも届かず、元騎士は私の首が繋がっていることを確かめるように首筋を撫でる。
「……ふっ、」
「あぁ、ついてる……繋がってる……」
少しだけ笑いが溢れちゃったけど、それは問題なかったらしい。
よかったね! でもセクハラ!
こんなことしてたら昼休みも終わっちゃう。
「う、うーん……」
「!!!」
ちょっとわざとらしかったけど、しょうがない。ちょっと魘された感じを出してみると、私の首に触れられてた手がバッと離れた。
泣き止んだ気配がしたので、そのまま手でごしごしと目をこすって起き上がる。寝てないけど。
「んん、あれ? 飾西くん」
「っ、」
「え、うわぁっ! 泣かないで! なんで!」
ぼやけながら元騎士の苗字を呼んだら泣かれた。滝のような涙が元騎士の頬を流れてく。
……えぇ? 泣き止んだんじゃなかったの?
「あっ、あっ、マリアーナざまぁぁあふっ、ひっぐぅ」
「えぇ……」
これは予想外の展開すぎてついていけない。
ねぇ、前世ではもっとクール系だったよね? 表情筋とか全然動かなかったよね? 生まれ変わって中等部のときもそんな無表情系だったじゃん!
……ん? あれ、でもそういえばちっちゃい頃はよく泣いてたような……? いや、この際どっちでもいい。
泣かれるとは思ってもみなくて、どうしようとオロオロと辺りを見渡す。もちろん誰もいない。だってそういう場所だもの。まりを。
……うわーん。流架ー。助けてー!
とりあえずハンカチを元騎士に差し出す。
すると、元騎士は私の行動に固まったあと、またドバッと涙を流しはじめた。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ、マリアーナさまぁ……うぅ……」
「えっと、その、マリアーナって、誰、かな?」
「……!」
また元騎士から涙がドバッと流れた。
もうこの際元王子でも元男爵令嬢でもいいから助けて。ヘルプ。
声もなくボロボロと涙を流すガタイのいい高校生男子。ちなみに元騎士は元騎士らしく剣道部所属だ。
そんな男が目の前でぼろ泣きする恐怖。
……あ。昼休み終了のチャイムが鳴った。
新作アップし始めました
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聖女の中身が幸せになりたい話です
読んでいただけると嬉しいです〜