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ひとりよがり少女の作中劇

男爵令嬢視点

 世界の中心は私。それが正解で、今も昔もこれからも、それは変わらないの。


 私が生まれ変わったことに気付いたのは物心ついたとき。

 自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わって、しかもヒロインであることを思い出した。

 とある男爵家の愛人の子どもだった私はその頃にはもう男爵家に引き取られてた。これから始まる私の薔薇色の世界。

 私を産んだ母親? 男爵家に引き取られるときになにか言ってたみたいだけど、残るわけないじゃない。平民から貴族になるのよ? 母親と平民のままでいるなんて選択肢はないわ。


 攻略キャラは四人。

 一人目はこの国王太子であるグレン。

 二人目はグレンの幼馴染でもある侯爵家のヨルダン。

 三人目は公爵家の長男で年下のマリオン。

 四人目は悪役令嬢の手先であるルカ。

 そして隠しキャラで隣国の王子様。

 実はルカが隣国の王子様の命を受けたスパイだったりするのよねー。ルカの好感度をある程度あげると出てくるのが隣国の王子様。


 ただ隠しキャラだけあって名前もなにもほとんどわからない謎キャラ。

 私のお気に入りはグレンだったからいいんだけどね!


 で、もちろんこの乙女ゲームにも悪役令嬢っていうのがいる。


 グレンの婚約者であり、ヨルダンの幼馴染であり、マリオンの姉であり、ルカの主人であるマリアーナ。

 もう本当この女嫌い! いっつもヴェールで顔覆って顔隠してて、ことあるごとに嫌味言ってくるような女。

 実際私は関わったことはないけど、ゲームの中でそうだったんだから、現実でもそうに決まってる!


 ただマリアーナが出てくるのは物語も中盤にさしかかった頃。それまで必死に上げてきた好感度とか、マリアーナの行動次第ではパァになるんだから!


 その大嫌いだったマリアーナが学園に来たのは高等部の二年生に上がったときだった。

 物語のときと同じようにヴェールをまとって、ルカをまるで従者のように連れて歩ってた。

 それまで私といい雰囲気だったグレンたちもマリアーナの方に行っちゃうし、すっごく面白くない!


「あら、ユリア様なにかお悩みごとですの?」

「あ、フィオーラ!」


 フィオーラは侯爵家の令嬢で、サポートキャラだ。

 いつも私に助言をくれる私の友達(・・)


「……ああ、マリアーナ様ね」


 フィオーラはすぐにグレンと話してるマリアーナを見て合点がいったかのように頷く。

 今まで頑張ってグレンを攻略してきたのに、いきなり出てきたマリアーナに横から取られた。やっぱりゲームみたいに抑制力が働いてるんだ。

 もっと頑張らなくちゃ、グレンは手に入らないんだ。


「そうなの! 私に嫌がらせするキャラなのに、ちやほやされちゃって本当ムカつく!」

「まあ。マリアーナ様はユリア様に嫌がらせしてらっしゃるのですか?」

「え……?」

「違いますの?」


 ふと、頭に浮かんだのはゲームの中のマリアーナと私。

 ええ、ええ。そうよ。遅いか早いかってだけじゃない。マリアーナが私に嫌がらせをするのは遅いか早いかただそれだけ。


 きょとんと首を傾げたフィオーラに私はこくんと頷く。


「実は、そうなの。マリアーナ様がいらっしゃってから、私の机から教科書が消えるし、この前は嫌味も言われたのよ!」

「まあ! 淑女としてあるまじき行為ですわ! そんな方がこの国の次期王妃だなんて……許せませんわね」


 そう言ってフィオーラは困ったように眉を寄せて、口元を扇で隠す。


 そうよ。なんで最初からこうしなかったのかしら。いずれ私のハッピーエンドなんだし、今はやってなくてもいつかやるんだから、別にいいじゃない。

 だって、私はヒロインよ? この世界は私だけのために存在してるんだから!

 俯いて笑う私にフィオーラはポンと手を打つ。


「そうだわ、ユリア様。いい考えがあります」

「なに?」


 そう言ってフィオーラが取り出したのはアメジストのような紫色の石が嵌ったネックレスとイヤリング。

 わ! 超綺麗! 私にすごく似合いそう!


「これは魔法のネックレスとイヤリングですの。これを身につけていればなにかありましたときに、すべて(・・・)マリアーナ様がやったという証拠が残りますわ。いかがかしら?」

「わっ、それすっごいいい! フィオーラはさすがサポキャラ!」

「さ、ぽきゃら……とは?」

「あはは、気にしないで。でも、ありがとう! フィオーラ!」


 私がお礼を言うと、フィオーラはにっこりと笑って「親友のためならなんてことないですわ」と言ってくれた。

 ほんと、持つべきものはサポキャラのお嬢様!


 それからはすぐだった。本当にマリアーナが嫌がらせしてきて、最初はグレンたちも半信半疑だったんだけど、最終的には私を信じてくれた。

 証拠もばっちりあったしね。もしもマリアーナが文句つけてきたら、私がつけてたネックレスとイヤリングの映像魔法を突きつけてやろうと思ってたんだけど、マリアーナは抵抗することなくパーティー会場から出て行った。


 あはは! いい気味!

 マリアーナがギロチンで首を落とされて死ぬときは見に行かなかった。だって興味ないし、というかそんなグロいもの見たくないよね。

 グレンには「怖いから……」って言うだけで私を抱き締めて愛を囁いてくれた。

 幸せだった。

 もうグレンは私のもの。しかもね、ヨルダンまで私を愛してるって! マリオンはフィオーラのものになっちゃったし、ルカはマリアーナがいなくなってから行方不明だけど、本命も第二候補も手に入れられたから満足よね!


 あの証拠になるネックレスとイヤリングはフィオーラに返した。くれればいいのにケチだよねー。

 なんかすごい貴重なものなんだって。ないと困るらしい。

 ま、私は優しいから返してあげたけど。


 王太子妃になった私にはもうそんな安物なんかじゃなくて、もっといいもの買えるし。

 結婚してからは幸せだった。グレンも愛してくれてるし、ヨルダンもグレンがいないときに私を愛してくれてる。

 二人の男に抱かれるって、結構体力使うけど、二人に愛されてるっていうのがいいわよね。


 だけど、結婚してから数年経って、突然グレンがおかしくなった。

 だって、いきなり「マリアーナはどこだ!?」とか叫ぶんだよ? 大臣たちが「数年前に反逆罪で処刑されたではないですか」って答えたらなんかひとしきり叫んだあと部屋に籠るし。

 その日から私を抱いてくれないし、それどころか顔も見てくれなくなった。

 つまんなくてヨルダンのところに行ったら「隊長は僻地に異動になりました」とか言われるし。


 わけわかんない!


 そんなところに私の記憶より大きくなったルカが来た。もう超絶イケメン! やばかった。ショタな頃でも妙な色気みたいなものがあったんだけど、成長したルカはそれ以上だった。


 それから何度もルカと話して、私の心はだんだんルカに惹かれていった。

 顔も合わせてくれないグレンなんかより、私の目を見て微笑むルカのほうが断然いい。


 ある日、ルカに告白した。一緒に逃げて、と。そしたら逃げてくれたの!

 ああもうルカは私のこと愛してくれてるんだと思った。



 そして、それから。


 気がついたらまた赤ん坊だった。

 え、あれ? 夢!? せっかくルカといいところだったのにーー!!

 ギャァァアンとまた泣くと、今度の母親が私を抱き上げてくる。


 ああもう最悪! そんなことを思いながら、私はまた三度目の生を歩き始めた。

 そこであったのはマリオンだ。

 マリオン……今の名前は桃真。桃真も前世の記憶を持ってた! しかも桃真の家はすごいお金持ち。普通の家に生まれた私だけど、幼馴染がマリオンでお金持ちってすごい運命だよね。

 前世ではマリオンはフィオーラに取られたから、今度は私が欲しいなぁ。


 そんな感じで高校に入った。高校は親に頼んで入った金持ち高校。二つ年上の桃真はすでに通ってる。

 そこで驚いたのはヨルダンもグレンもいたこと。

 ルカがいないのは残念だけど、前世でもルカは年が離れてたし、一つ下の学年とかなのかも。


 ヨルダンは私がいたことに驚きながらも前世の記憶があるか聞くと頷いてくれた。


 これでわかったわ。

 この世界は私のために用意された世界だって。


 なのにグレンは前世の記憶がないって! なんなのよ! しかも知らない女を連れてるし。ムカつく。

 グレン、って名前を呼んだら呼ぶな、だなんて。

 ……あ、今の名前で呼んで欲しいってことかしら。そうよね。前世の記憶がない蓮にとって、グレンって名前は他の男の名前だもの。


 そうよね。蓮って呼べばいいんじゃない。


「ごめんね、蓮。これからはそう呼ぶわ。混乱させちゃった。でもね、蓮覚えてて。今も昔もこれからも私はあなたを愛してる!」


 だから、今も昔もこれからもあなたたちは私を愛さなくちゃいけないの。

 愛に愛で返すのは当たり前でしょう?

たくさんの人に読んでもらえて嬉しいです。

ブクマ、評価、感想ありがとうございます。

今日は金曜日!明日お休み!

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