友達と一緒!
自分に悪役令嬢疑惑が出た久留廻真凛です。
昨日の夜は流架特製の唐揚げでした。揚げ物おいしっ! 流架の作る唐揚げは中はジューシーで衣はカリカリで、ああもうなんで私にはこんな語彙力がないんだろう! って悩むくらい美味しい。
最近の私はいい感じ。
城崎さんと佐東と変態のことは忘れました。もうすっかり忘れたの!
「そうだ、真凛」
「どうしたの、流架?」
「今日から一緒にお風呂入らないから」
「……えっ!?」
「あ、ほら、学校着いたよ。いってらっしゃい」
「………………いってきます?」
「いってらっしゃい」
衝撃の言葉は車で登校中に伝わりました。
ホームルームは普通に受けた。1時間目はあれ? と思いながらも普通に受けた。2時間目は体育でペア運動は先生とした。3時間目は眠かったので寝て、4時間目は折り紙を折った。
昼休みになって、私はピッシャーンと雷に打たれたような衝撃を受けた。
「えっ、うそ!?」
思わず叫んでしまったけど、それぐらいの衝撃だった。
私の様子に驚いた様子の元騎士と元王子からデザートとお弁当を受け取ってから、私は二年の教室に急ぐ。
目指すは唯一の友達のところ。
キョロキョロと辺りを見渡したけど、私の唯一の友達の姿は見えない。
仕方がないので見知らぬ人に聞くしかない。聞くしかないんだけど、うぐぐ。
人とのコミュニケーションが流架ぐらいしかなかった人間が見知らぬ人に声をかけるなんて難易度高いよ!
「ん? 君、どうしたの? 一年だよね?」
「あ、あの、すいません。あい……赤部哀ちゃ」
おどおどと辺りを見渡して、声をかけやすい人を探してたら、逆に声をかけられた。
ホッとして哀ちゃんの場所を聞こうとすると、後ろからぐいっと引っ張られる。
誰だ! 私を引っ張るやつは!
そう思って振り向いた。
「あっ、真凛ちゃんじゃん! こんなところまでどうしたの?」
「哀ちゃん!」
おまえか! ちょっと安心した。だけどびっくりした。いやいや、そんなことよりも!
がしっと哀ちゃんの胸ぐらを掴んで引き寄せて抱き着く。
「聞いて、哀ちゃん! もうお風呂入ってくれないのっ!」
「え、は、えぇ?」
うわぁぁあんっ! と叫んだ私に哀ちゃんは戸惑いつつも頭を撫でてくれた。
哀ちゃんと一緒に裏庭の花壇のベンチでしょぼんと落ち込む。すっきりして落ち着いたら、まずいことしたなぁって思った。
「……ごめんね、哀ちゃん」
「ちょっとびっくりしたけどいいよ。気にしないで〜」
ああ、友情って素晴らしい。
哀ちゃんは私の心の友だよ。友達ひとりしかいないけど。男女間の友情はあり得ると思います。というか私の中で纏くんラブの哀ちゃんは男枠に入ってない。
「で、なにがあったの? 風呂に入ってくれないって?」
哀ちゃんの言葉に今朝の言葉が蘇って、思わず哀ちゃんの肩をばしばしと叩く。
「そう! そうなの! 今朝、流架がいきなりもう私とはお風呂に入らないって!」
「あーそりゃあ流架さ……流架クンもお年頃だしィ? 纏様なんてもう数年前から俺と一緒に風呂なんて入ってくれないよ? 男同士なのに!」
うぅ、流架がお年頃なのはわかってる、わかってるんだけど。
あと、纏くんが哀ちゃんとお風呂に入りたがらないのは身の危険を感じるからだと思うよ。
「纏様の裸体を拝むのにも一苦労!」
うん、そんなこと言う人と一緒にお風呂なんて恐ろしくて入れないと思うよ。纏くんのためにそれは言わないでおくけど。
「わかってるけど、なんか寂しい。子離れの時期……」
「真凛ちゃんは流架クンのことなんだと思ってるのさ」
「かわいい大切な弟、かなぁ?」
「こっちに聞かれても」
だってわかんないんだもん。
流架は私にとってこの世で一番大切な人。それは私もマリアーナも変わらない。
だけど、こう、私はマリアーナとは違って流架に対して、ああいう気持ち悪い感情を持ちたくないんだよねー。
流架に対しては誠実でありたいし、誠実だと思われたい。だから、私が消えても流架の幸せを祈れる私でいたい。死んでなお流架の心を縛り付けるなんて考えが出ないように。
というか私はそんなに早く死にたくない。せめて50歳までは生きたい。
「というか遅かったほうでしょ」
「そう?」
「そうそう。男なんてひとりで風呂に入りたがるもんだよ。よく今まで入れてたと……思う、よ?」
そうだよねぇ。哀ちゃんの言ってることはわかるんだけど、こう、寂しいんだよ。
「なんか小さい頃から私が流架のことお風呂に入れてたから、流架と一緒にお風呂に入らなくなるようになるの寂しいなぁって」
「……よく無事だったね」
「子ども二人で入るっていっても、最初慣れるまで流架の家のお手伝いさんがついててくれたからね〜。そりゃ無事だよ」
「いや、そういう意味じゃ……」
「ん? ごめん、聞こえなかった」
私もはじめてで流架のお風呂入れはできない。絶対流架ごと転ぶ。
流架が赤ちゃんの頃はお手伝いさん監修のもと、私がお風呂に入れてた。
そんなちっちゃい頃から一緒にお風呂に入ってたんだよ。さみしい。
むぅ、と口を尖らせるように哀ちゃんにそう言うと、もごもごと哀ちゃんはなにか言ってるけど、声が小さくて聞こえない。
聞き返すと、なんでもないと返された。それならいいけど。
「ま、流架クンも男だし、ね」
「わかってるんだよ。私もこのまま流架とずーっと一緒にいるわけには行かないし、流架もずっと子どものままっていうわけには行かないし」
頭の中では、がつくけど。理解はしてるんだよ。だけど納得できるか、っていうと、うーん、ってなる。
だって私の中の流架はまだ小さい子どもなんだもん。私より背の低い、かわいい子。
流架への執着はあるけど、私は理性ある女。つまり我慢可能。たぶん。我慢可能というよりも我慢しなくちゃいけないんだよね、私は。
というか小学生に対してこんなに執着してる高校生ってダメだと思う。頑張るぞ、私は。マリアーナに負けない。
「ね、当分哀ちゃんの家に泊まっちゃダメ?」
「うん、ダメ」
「即答なの!?」
「即答だよ! 俺に流架さ、クンに恨まれろっていうの!? つーか、俺と纏様のラブラブ同棲生活に入ってくる気!?」
「……ごめん」
纏くんと一緒に暮らしてたのか。それは邪魔できない。
あと哀ちゃんちょっと必死すぎて引く。
絶対纏くんと私だったら纏くん取るんだろうな、この人。私も哀ちゃんと流架だったら流架のこと取るけど。
……あれ? 似た者同士?
「いいよ、いいよ。わかってくれたなら。それよりさ、もうすぐ昼休み終わるけど、落ち着いた?」
「……うん、だいぶ落ち着いた。ありがと、哀ちゃん」
「どういたしまして」
哀ちゃんってイケメンだけど、どこか残念なんだよねぇ。
ぽんぽんと私の頭を撫でる哀ちゃんに私はそう思った。




