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あなたは僕の至高で唯一で神様で

 マリアーナ様はルカにとって至高で唯一で神様だった。

 生まれた瞬間から、ぼくには前世の記憶があった。血に濡れた残酷な記憶。その中のとても幸せなひと時がぼくを作ったといってもいい。


 齢8歳で暗殺者になったルカはそれ相応の精神が育ってなかった。

 孤児だったルカは暗殺者の養父に引き取られて、物心ついたときには暗殺者としての修行をつけられていた。養父に手加減なんてものはなく、ルカは死ぬ思いで毎日毎日を生きてきた。

 養父はルカの強大は魔力に目をつけていた。大人顔負けの魔力量は珍しく、養父はルカに魔法についての修行もした。


 人を殺したのは5歳のとき。殺した相手は養父だった。ルカを殺す気できたから、ルカは必死に抵抗した。その結果が養父の死だった。

 養父が養父だったのか今でもわからない。他人と呼ぶにはあまりにもルカに似ていた人だった。

 養父の死と引き換えに手に入れたのは最年少の暗殺者という称号。

 魔力の量もあったせいか、暗殺者としてルカに敵う者はもうその国にはいなかった。

 そんなルカにその暗殺の依頼が来たのは9歳のときだった。


 その頃からその少女の名前は知っていた。

 隣国の公爵家令嬢マリアーナ。世界で一番魔力が多いと言われている少女。そして隣国の王太子の婚約者。

 マリアーナは危険だった。それこそ一人で大国を落としてしまうほどの魔力量だった。マリアーナは爆弾。それが牙を剥いたら誰も生きてはいない。


 その令嬢の暗殺依頼。ルカはそれを受けることにした。

 できると思った。簡単だと思った。貴族で恵まれた生活をしてる世間知らずなんてすぐに殺せると思った。


 それが間違いだと知った。


 マリアーナは国に監禁されていた。国の監視下のもと、ルカがマリアーナの元まで行けたのはその才能のおかげに他ならない。

 マリアーナがいたのは高い石造りの塔の上だった。そこに16歳のマリアーナはいた。


「ん? だあれ?」


 穏やかな陽の光にもにた橙色の瞳、流れるような深緑の髪。包み込むような柔らかな声。

 持っていた毒を塗った短剣が手から滑り落ちる。

 ルカの一目惚れだった。殺せないと思った。哀しいと思った。自然と涙がルカの頬を流れた。


 マリアーナはルカを拾ったという。でも、ルカは拾われたとは思ってない。運命だったと思ってる。必然で、運命だったと。


 ルカはその日からずっとずっとマリアーナ様の側にいた。

 マリアーナ様が見聞を広めるために王都の学園に通い始めたときも、マリアーナ様の側を離れなかった。

 マリアーナ様といて、楽しいという感情を知った。マリアーナ様といて、悔しいという感情を知った。マリアーナ様のいるこの世界が色付いて見えるようになった。マリアーナ様と過ごすようになって、幸せを、恋を、愛を知ったから。

 マリアーナ様はルカにとって至高で唯一で神様だった。


 マリアーナ様があんなクソ女を虐めてないことも知っている。マリアーナ様がクソ王太子を見ていたことも知っている。マリアーナ様の全てを自分は知っているという自信もあった。


 だから、手を差し伸べた。

 一緒に逃げようと。


 マリアーナ様が逆恨みでも国を滅ぼすことはないと知っていたから。恋に身を滅ぼすことのない純潔な方だと知っていたから。


 その手をマリアーナ様は取らなかった。


 マリアーナ様は死を選んだ。

 ルカはマリアーナ様に「絶対死んでも赦さない」と呪詛のような言葉を投げ、マリアーナ様のもとから離れた。

 悲しかった。辛かった。だけどなにより憎かった。ルカを一人にするマリアーナ様が、憎くてたまらなかった。


 群衆に石を投げつけられても、魔力を暴走させない穏やかな人だった。

 首を落とされる瞬間、マリアーナ様は群衆に紛れて自分を見つめるルカに気付いた。戸惑って、だけどしょうがないなぁとでも言うようにマリアーナ様はルカに微笑んだ。


 それがマリアーナ様の最後だった。


 首は国民に晒されることになっていた。その前にルカはその首を盗み、よくマリアーナと来ていた花畑にきた。

 涙が止まらなかった。

 ルカの小さな手を握り返してくれた手はもうない。ルカの身体を抱き締めていた身体は焼き払われた。ルカの名前を唯一呼んでいた声はもう聞こえない。ルカの額に口付けをくれた唇はとてもとても冷たくて。


 最後にマリアーナ様の唇に口付けた。

 はじめてのキスは血の味だった。


 一日目、世界からマリアーナ様の魔力が感じられなくなって泣いた。

 二日目、マリアーナ様の体温が感じられなくなって泣いた。

 三日目、泣いた。

 四日目、純潔で高潔で美しいマリアーナ様の血の匂いで獣が近付いて来たから殺した。

 五日目、名前を呼んでくれる声が聞こえなくて泣いた。

 六日目、泣いた。

 七日目、マリアーナ様の首から腐臭がし始めて、泣きながら埋めた。

 八日目、九日目、十日目、泣いた。泣いた。泣いた。泣いた。泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた泣いた………


 15歳、マリアーナ様を殺したヤツらを殺すことにした。


 ここからはマリアーナ様は知らない。知らなくていい。

 ルカ(ぼく)の子供染みた復讐劇なんて、純粋だった彼女は知らなくていいんだ。


 殺すべきは国だった。

 マリアーナ様の暗殺をルカに頼んだルカの自国の宰相はすでにルカが殺した。

 マリアーナ様が愛し、慈しんだ緑豊かなその国をルカは赤で染めることにした。


 マリアーナ様を無実の罪で陥れた王太子、マリアーナ様に嫉妬し罪を擦りつけそのあげくマリアーナ様のいた婚約者という座に収まった男爵令嬢、その男爵令嬢に加担した侯爵令嬢、マリアーナ様を愛していたくせにその愛を忠誠心に変え処刑を実行した幼馴染の騎士、マリアーナ様の魔力量に恐怖し散々マリアーナ様を政略的に使った挙句捨てた公爵家、マリアーナ様の血を分けた姉弟のくせにマリアーナ様を信じず見捨てた公爵令息、マリアーナ様の処刑を決行した王、マリアーナ様に石を投げつけた民衆、マリアーナ様の死をただの見世物だと笑った民衆。

 マリアーナ様を無理矢理にでも攫わなかった自分。


 王都の人間だけなら命と引き換えの大魔法を使えば簡単に殺すことができた。

 けれど、そんなの苦しむ顔が見えないじゃないか。

 ルカがまずしたのは自国の国の王に戦争を持ちかけること。隣国の奥深くまで侵入することのできたルカにとって、隣国の秘密などあってないようなものだ。

 戦争の理由? 戦争の理由なんてどうだっていい。ただ彼女を殺した地を血で濡らすことができるなら、なんだっていいんだ。


 最期のときはあっけなかった。

 もともとマリアーナ様の国はマリアーナ様の魔力で持っていたようなものだから。


 王太子でその国最後の王だった男の最期の言葉を憶えてる。幼馴染だった騎士の男の最期の言葉も憶えてる。片方だけとはいえ血の繋がった男の最期の言葉を憶えてる。


 ねえ、マリアーナ様。ぼくになった今でも思うんだ。


 マリアーナ様はあいつらの最期のときに迎えに行ったの?


 生まれ変わったとき、ぼくが感じたのは絶望だった。

 せっかく貴女のいない世界から逃げ出したのに、また貴女のいない世界だったから。

 そう考えると涸れたはずの涙がまた溢れ出した。


 死を選んだぼくの元にマリアーナ様は来てはくれなかった。幻でも、マリアーナ様は来てくれなかった。

 貴女の首を埋めた花畑で死のうとも、貴女はぼくを迎えに来てはくれなかった。

 悲しみ、憎しみ、苦しみ。

 ぼくはただまた貴女に逢いたかった。次の生を望んだわけじゃない。貴女に逢いたかった。貴女と一緒にいられればそれで幸せだった。貴女がこの国の正妃となっても、それをそばで見ていられるならそれでもよかった。


 貴女が手に入らなくても、貴女の幸せをそばで見ることができたならぼくは幸せだったんだ。


 生まれ変わったぼくは生きていないようなものだった。生まれ変わった瞬間に感じた絶望のままぼくはされるがままな日々を過ごしてた。

 生まれ変わって、一年が経った。

 ぼくはまた、泣いた。だけどそれ以上に笑った。


 髪の色が変わっても、貴女のその瞳の色は変わってなかった。暖かい陽だまりのようなその瞳。少しだけぼくの知ってるマリアーナ様より幼い顔。小さく纏う魔力の気配。

 母と呼ばれる女の腕の中で暴れて、必死に彼女に手を伸ばした。貴女のその体温を感じたかった。抱き締めて欲しかった。


 また、名前を呼んで欲しかった。


「ルカ……くん」


 だから、だから、泣き出しそうなほどに嬉しかった。きっと貴女はぼくの気持ちを知らない。

 また貴女と年が離れてしまったけど、今度はもう迷わない。


 真凛はもうぼくのもの。


 真凛とぼくの家は分家と本家だった。

 真凛と逢ったその日から、ぼくは真凛を離せないと思ったからぼくは周囲が真凛を引き剥がそうとも離れなかった。

 そうすればぼくに甘い母と父が真凛をそばに置いてくれるとわかっていたから。


 ぼくはマリアーナ様を愛してた。

 けれど真凛がマリアーナ様のようなのかはわからない。ルカがぼくの前世であるように、マリアーナ様が真凛の前世であることはわかる。

 だけど、記憶は? たとえ、持っていたとしてもその人と同じかはわからない。ぼくの想いがマリアーナ様を引きずるルカの気持ちなのかわからない。

 だから、ぼくが気持ちを確かめるまで三年の時を要した。

 ぼく自身が真凛を好きだと思ったから、ぼくは今生で真凛をぼくのものにすることを決めた。


 まず、マリアーナ様の記憶がある真凛に罪悪感を埋め込んだ。

 ルカを置いていったことを責めた。

 そしたら優しい真凛はぼくからもう離れられない。それをいいことに今生では真凛がぼくのモノになると約束させる。

 他の男なんて見せない。他の男のそばになんて行かせない。もう真凛はぼくのものなんだから。

 年の離れたぼくが真凛に愛されるためにはなりふりなんて構ってられなかった。


 罪悪感、親愛、それをぐちゃぐちゃに混ぜたら愛になる。親愛は愛の優しさを、罪悪感は愛の苦しみを錯覚させてくれる。


 父と母にも真凛をぼくの婚約者にするように頼み込んだ。ぼくたちの仲を認めてくれないなら心中したってよかった。

 幸い両親はぼくが1歳の頃からいる真凛を実の娘のようにも思っていて、真凛がぼくの婚約者になることを許してくれた。


 あとは真凛だけ。

 そう思っていたときだった。


 あの男が真凛と同じ高校に入学してきた。マリアーナ様を無実の罪で罰した王太子。

 幼馴染の騎士の男が真凛と同じ高校に通っていたのは知っていた。だけど、真凛自身に関わる気はないから放っておいた。

 だけどあの男はダメだ。マリアーナ様の元婚約者。それだけでも許せないのに、あいつの最期の言葉は「マリアーナ、愛していた」だった。

 赦せない。

 せっかくぼくの真凛になってくれるのに。絶対絶対赦さない。


 だから、無理矢理だったけどキスをした。

 キスはりんごの味。甘酸っぱい、優しい味だった。


「〜〜〜〜〜っ、」


 ぼくがキスをしたとたん、顔が真っ赤になる真凛。

 すっごくかわいい。またちゅっと啄むようなキスを重ねる。

 ぼくより大きいのに、ぼくを傷つけまいとしながら抵抗する優しい真凛。ぼくの身体を離そうとする真凛の手にぼくの手を重ねて、ググッとまた距離を縮めてキスを落とす。


「も、むりっ!!!!!!!!!」

「わっ」


 瞳に涙をためて、顔を真っ赤にした真凛はぼくを押し退けると、部屋から逃げ出した。

 くすくすと堪えきれずに笑う。

 ああ、かわいい。

 真凛と口付けを交わした自分の唇を指でなぞって舐めとる。


「もう真凛はぼくのものだよ」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがった真凛に、案外ぼくも男として見られてるのかもなんて思いながらその日一日ぼくはご機嫌だった。

これで完結

流架くん、ヤンデレ……?タグつけたほうがいい……?

ちなみにこの後、真凛と流架はいちゃらぶしながら元王太子や元騎士や元男爵令嬢、元弟などなどに巻き込まれます。

真凛の実の妹も障害になります。

ついでにいえばこの世界を乙女ゲーと勘違いしたアイタタな少女も出てきます。

わたしの好き要素たっぷり詰め込ませてもらいました。


お腹いっぱい!

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