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 ルカは生粋の暗殺者だった。マリアーナ様に逢わなければルカは人間にはなれなかった。

 マリアーナ様が死んで、ルカは人間ではなくなった。

 人間ではなく人殺し(黒猫)として、復讐することでしか息をすることが許されなかった。


 だから、ルカは殺して殺して殺した。

 マリアーナ様の婚約者であった王子で当時の残虐王を暗殺した。残虐王を殺したら反乱が起こった。

 王妃を殺せという反乱。だから王妃を隠した。


「王妃って、私のこと、だよね……?」

「うん、そうだよ。お前以外いないでしょ。子も孕めなかった役立たずの王妃」


 王と王妃には子どもがいなかった。それをあえて指摘すると、女は顔が赤くなる。

 怒ってるの? それとも悲しいの?

 興味ないけど。


「ち、違うわ。ルカは私を助けにきてくれたのよ!」


 はぁ、とため息をつく。まだわからないなんて、相当頭が弱い女。

 というか自分がルカに殺されるはずがないなんていう自信がどこから来るのかわからない。

 ぼくが殺らなくても、そのうちあいつらのうち誰かが殺してたと思う。


 そろそろ思い出してもいいのに。

 でも、きっとなにかを盲目的に信じてる目の前の女は思い出してもなかったことにする。

 あぁ、早く真凛に会って抱き締めたい。抱き締めてもらいたい。


 ルカは王妃の元に現れた。そして攫った。でも、それが助けたいからなわけないでしょ。


「おまえ、最後は違う大陸の奴隷商人に売り渡されたんだよ」

「……え?」

「ルカに縋るお前をゴミみたいに棄てた。ただ殺すよりもそっちの方がおまえに合ってるもの。あ、でも売る前にそれ相応のことはしたよ」


 自分が陥れたマリアーナ様の最後を見なかったその瞳を抉り出した。悲鳴がうっとおしかったから喉を潰した。嘘しか吐かないその口を削った。マリアーナ様の美しさのかけらもないその顔を火で炙った。なにも掴めやしないその指を一本一本切り落とした。逃げ出そうとするその足を切断した。

 それでやっと満足できて、奴隷商人にタダで売り飛ばした。


 うーん、こう言うと真凛にはちょっと言えないな。真凛はゾンビ映画とか苦手だし、イヤだって怒りそう。


「………う、うそよ。ちがう、ちがう、こんな記憶、うそ、いやぁぁぁぁああああッッ!!」


 甲高い悲鳴に耳をふさぐ。

 うるさいなぁ。その喉もう一回潰してやりたい。

 ルカの頃は魔法で潰すしか方法がなくて、声を出せない状態にするしかできなかったんだけど、今は危険な刺激物とかあるし、塩酸とか垂れ流したら痛みも感じさせられて楽しそうだよね。まあ、死ぬかもしれないけど。あ、でも死ぬ前に死なない程度に治せばいっか。


 ……やらないよ?


「それにしてもうるさいなぁ」

「ひっ、あ、ぁあ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「うるさい、って言ってるのにどうして黙ることができないの?」


 ぼくの言葉にピタリと女の声が止まる。

 これだけぼくに恐怖を抱いてるってことは思い出してきたのかな。


 壊したい、そう思う。

 マリアーナ様との未来を殺したこの女を。でもそれはこの女以外にもいて。

 ぼく(ルカ)の憎悪はこいつらだけには留まらない。

 主犯の奴らだけじゃない。あの国全員がぼくの中では憎悪の対象だ。

 今でもふと考える。国が滅んで死んだあいつらのことを。奴隷とされたそいつらのこと。その不幸な顔を思い出して感じる暗い喜び。


 だけど、ぼくはちゃんと理解してる。

 真凛はそんなことを望んでないって。

 汚いぼくは真凛には合わないかもしれない。それでもぼくは絶対に真凛を手放さない、手放せない。

 汚いぼくを掬い上げてくれるのは、いつだって彼女だから。


「よかったね、未成年で」

「……え?」

「だって、犯罪を犯しても名前が出ないだろ?」


 にこりと笑うと、女は怯えたようにぼくを伺う。

 さっきまでの威勢はどこに行ったんだろう。その弱さがムカついて睨みつけると悲鳴をあげる。


 もっと、足りない。もっと狂えばいい。


「この世界は優しいね。頭のおかしい人間は病院にいれてもらえて、人を殺そうとしてもそれを反省する期間が設けられる。優し過ぎると思わない? この世界でおまえを殺すことが叶わないなんて、とても悔しいよ」

「わ、わたしは、」


 言い訳しようとする女を蔑むように睨みつける。


「気持ち悪い。息をしないで口を開かないで。この世界だって、前のようにゲームの世界だと勘違いしてるんでしょ。ああ、ぼくを階段の上から落とすときもぼくのことを『キャラクター』って言ってたっけ。吐き気がするよ、本当。ぼくはおまえのお人形じゃないし、おまえをこれから一生好きにもならない。そもそも前世でおまえのことをあいつらが好きになったのは魔法のせいだって言ったよね。そんなことも忘れて生まれ変わるなんて馬鹿でしょ。ぼくらを『キャラクター』としてしか見ない自分が好かれると思った? 愛されると思った? そんなはずないでしょ。グレンもヨルダンも見ていたのはお前じゃなくてマリアーナ様だ。魔法のせいでお前なんかをマリアーナ様と勘違いして愛してただけだよ。お前に与えられていた愛はマリアーナ様のものだった。お前のせいでマリアーナ様は死んだ。別にお前があいつらに愛されるのはよかったんだよ。お前の罪はマリアーナ様を結果的に殺したこと。ねぇ、首を斧で落とされる気分ってどんな気分なの? ああ、覚えてない? お前はね、最期は奴隷として散々犯罪者共の慰めものになって、慰めものとして機能しなくなったら犯罪者のサンドバッグとして。女として機能しないってどういうことされたんだろうね、あははっ! で、サンドバッグとして機能しなくなったら、かろうじて生きてる状態で首を落とされたんだよ。お前の死はちゃんとぼくが看取ってやったよ。嬉しいだろ? だあいすきな『キャラクター』に看取られて。あれ? なんでそんな顔から流れるもん全部出して泣いてんの? 気持ち悪いなぁ。あ、全部思い出した? 自分が人として生きていちゃダメな存在だって。ねぇ、教えてよ、首を落とされるのはどういう気分だったって聞いてるんだよ」


 顔から出せるものすべて出してうずくまって泣く女を見る。

 せっかくぼくが聞いてるのに答えもしない。このダメ女。


「答えろよ、このクソ女」

「流架様、流架様。無理ですって。失禁してんじゃないッスか。あと口悪いッスよ。それで真凛様に会うんスか」

「ほんとだ。気持ちわる」

「辛辣ッスね! あの、それよりすっげー言いにくいこと言っていいッスか?」

「言わせたくないなぁ」


 聞かれると嫌だって言いたくなるよね。それが楽ならなおさら。

 あ、真凛は別だよ。真凛に聞かれたら全部いいよって言いたくなるもの。

 きっとそのたびにキラキラとした笑顔をくれると思うんだ、真凛は。ぼくの可愛い真凛のことを思い出したら、イライラした気持ちが少し落ち着いた。


「ていうか、失禁って何歳? なんかどっか見てブツブツ呟いてるんだけど、こいつ大丈夫?」

「ダメじゃないッスか? そもそも精神病院に行くこと決定してましたし、うるさくなくてちょうどいいと思いますよ」

「あっそう。真凛に近寄らなければ平和に暮らせたのにね」


 バカ女。


 立ち上がって部屋を出る。懇々と丁寧に話してあげてたら、もう空は茜色だった。

 真凛ももう起きた頃かな。早く会いたい。

 そう思って保健室に行こうと思ったら、楽に止められた。眉を上げて楽を睨みつける。


「なに? ぼくと真凛の邪魔する気?」

「ち、違うんスよ。ほら、言いにくいことあるって言ったじゃないッスかぁ。それでちょっと先に言っておいたほうがいいかなって〜。あ、でも、ほら、オレのせいじゃないんスよ? それどころかオレは止めたんス! マジで!」

「……早く言って」

「今真凛様のところに纏様がいます! マジすいません!!!!!」


 その言葉に楽の頭に飛び蹴りを食らわして、ぼくはすぐに保健室へ駆け出した。


 保健室の前に着いて、扉を開けようとしたぼくに飛び込んできた言葉に固まる。


「ちがうよ! そんなのじゃないから! ただ流架のこと想像以上に好きだって気付いた………………ころしてください」


 真凛が今どういう状況なのかはわからない。だけど、だけどその言葉は。


 ねぇ、マリアーナ様。真凛。

 前世のぼくはきっと悲しくて辛くて赤い血に染まった。復讐に走った。死んだとき、あなたに逢えるのかと思ったけどあなたは来なかった。

 悲しくて、またあなたを呪った。

 ぼくがどす黒く淀んだ気持ちに塗れてるって言ったら、あなたはなんて言うんだろう。

 想像上のあなたはぼくを酷く罵った。

 だけど、ぼくが少しでも好きなら、あなたはぼくを嫌わないでくれる? 否定しないでくれる?


 あなたを失うことをとても恐ろしく思っているぼくを、あなたは受け入れてくれる?


「二人とも、なにしてるの?」


 だから今は表情を隠して、少しだけ怒ってるふり。


 今夜は夢物語のようにあなたに聞かせよう。復讐にかられたぼくのこと。

 きっとあなたはぼくを抱き締めてくれる、そう思うから。


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