愛しくて壊したてたまらない最愛の人
流架視点 まともなんだよ 比較的 とりを
ふふ、と意図しない乾いた笑みがこぼれた。
目の前でヤバい、とでも言うように正座して縮こまっているのは愛しくて愛しくてたまらない人。
幸せにしたい、大事にしなきゃ、そう思うのに、壊したい、ぼくだけを見てほしい、誰にも見せたくない、そんな感情を彼女に向けるのは事実で。
真凛にまたゴミがついた。
こういうことなら、さっさと嫌がらせを止めてるんだった。後悔しても遅いけど。
幼稚な嫌がらせは真凛にもあまり害はないし、真凛に人が近付かなくなるから止めなかった。
「ねぇ、まりん。なんでアイツを許したの?」
「ゆ、許したとかじゃないんだよ。たた前世があるとか言うの嫌だったからこう、クラスメイトとしての対応をしただけなの!」
わかってるけど、ムカつくよね。
自分の感情をセーブできるくらいなら、ルカは国まで滅ぼそうとは思わなかっただろう。
真凛のことになると感情を抑えきれないのはぼくもルカも同じだ。
本当だったら、もう学園に通わせたくない。あんなヤツらがいるところに真凛を通わせたくない。
真凛と同じ年齢なら、何度考えたことだろう。
一時期、海外留学の話が来ていてスキップ制度とやらを使えば真凛のそばにいられる可能性が増える、と言われた。けれどそれを断ったのは自分だ。
一時でも真凛と離れることが嫌だった。だいたい外国なんて行ってる間に真凛に変な虫でも着いたらと思うと恐怖だし、一日でも真凛に触れられない日があることがどうしても我慢できなかった。
真凛に触れることが出来て、ぼくはやっと安心できる。
真凛を海外に連れて行けば? そう考えたけど、真凛が嫌そうだったし、なにより父親に止められた。
あくまで真凛は婚約者。年齢も離れているし、そこまで拘束することは許さない、と。
流架がいないと真凛は消えてしまう。きっとぼくがこの場からいなくなれば、真凛はぼくを置いてどこかに行ってしまう。
それはもう消えることのない恐怖だ。
「る、流架? ごめんね? 嫌だよね。どうせそのうちまた元王子も元騎士も男爵令嬢と仲直りするから大丈夫だから。今だけ今だけ」
そんなことありえないだろ! そう叫びたいのをなんとか我慢する。
真凛は知らないけれど、彼らはみんなマリアーナを愛していた。
あの男爵令嬢が強力な魅了の魔法で彼らを誘惑しなければ、あいつらがマリアーナ様を処刑するなんてことはありえなかった。
幸せになれたはずだった。
ルカだって愛されはしなくとも、愛する人のそばで生涯幸せになれたはずだった。
「まりんは、ぜんぜん、分かってない」
「えぇ……」
「ぼくとあいつら、どっちが大事なの!」
「そんなこと、流架に決まってるでしょ」
子どもみたいに嫉妬心丸出しにするぼくの身体を抱き締めるぬくもり。
胸に耳を当てると聞こえるトクトクという心臓の音。
真凛の膝の上で、その豊かな胸に寄りかかりながら、真凛の手に自分の手を重ねる。
ずるい、真凛はずるい。
あんなに怒ってたのに、そんな気持ちがどんどん落ち着いていく。
きっと、真凛は約束を守ってくれる。
ぼくがずっとこの家にいて、ってお願いしたら、なんだかんだ文句を言いつつもいてくれる。
でも、きっとそれをしたら第二のルカが出てくる。マリアーナ様に世界を教えたルカのように、真凛に世界を教える第二のルカが。
真凛の目がマリアーナ様があの王子たちを見るような目になったら、ぼくはきっと真凛にとても酷いことをする。
それが分かってるから、ぼくは真凛に無理強いできない。
だから、ぼくは真凛が自主的にずっと家にいてくれるように頑張るしかない。
「まりん、ずーっとぼくといてくれるんだよね」
「ん? そうだよ。ちゃんと流架のそばにいるよ」
「子どもは何人ほしい?」
「……えっ、はっ? なっ、なに言ってんの! 流架はそういうの考えなくていいんだからっ!」
ぼくの言葉に顔を真っ赤にする真凛に笑みを深める。
マリアーナ様でさえ見せてくれなかった表情にぼくはまるで真凛の特別な存在であるかのような錯覚をする。
それだけでぼくは幸せになれる。
だけど真凛にとってはぼくでさえも簡単に捨てられるんだな、と思うと赦せない。
もっともっと、深いところにいきたい。真凛が離れられないような深いところに。真凛がいつもぼくを思い出してくれるような深いところに。
「……もう、流架のおませさんめ!」
「だってぼくもうオトナだもん」
「はいはい。かわいいかわいい」
適当だ。本当なのに。前世では二十歳後半に死んだから、真凛よりもきっと精神的には年上だ。
……ま、それを知ったら一緒にお風呂も入ってもらえなくなるしいっか。
それに真凛にルカがしたことを知って欲しくない。
知っても、真凛はしょうがないなぁ、と笑うだけだろう。だから知られたくないのはぼくのわがまま。
ルカが、マリアーナ様の愛した場所を壊したことを知られたくない。ただそれだけ。
「あーあ、学校行くのめんどくさいなぁ」
真凛のその言葉にハッとする。
なんだって? それはもう心に従えばいいんじゃないかな!
「なら行かなければいいんじゃない?」
「ダメだよ。だって、ご当主様に学費出してもらってるんだから」
チッと内心舌打ちする。真凛がそういう人間だってわかってるけど、おもしろくはない。
ぼくも一応株とかで稼いだりしてるんだよ? ただ真凛に言ってないだけで。将来真凛に苦労はさせないために、今から頑張って貯金してるんだから。
「そういえば流架。学校でイジメとかしてない?」
「……なんでぼくがするほうなの」
いきなりなにを聞くかと思えば、なに。イジメとかすごい濡れ衣なんだけど。
ぷくっと頬を膨らませると、真凛はかわいいとぼくを撫でる。かわいいって言われるのは複雑だけど、もっとぼくを好きになればいいと思う。
ぼくを愛して、ね。男として。
「だって、流架ってやられたらやり返すでしょ? マリアーナにやり返されたときも、当分はすごく反発してたじゃない」
「……それは、もう、ごめんなさい……」
マリアーナ様に一目惚れしたルカは、どう接すればいいのかわからなかったた。結果、暗殺しまくった。全部跳ね返されたけど。
暗殺をやめたのはマリアーナ様がルカに根気強く付き合って、人と人の付き合いについて説いたからだ。
暗殺を止めたルカはそれからマリアーナ様の手となり足となった。
マリアーナ様を殺そうとしてたときのことはルカにとって黒歴史だ。
しょぼんと俯いたぼくの頭を真凛は優しく撫でる。
「ごめん、ごめん。で、イジメしてない? 友達とかちゃんといる?」
「してないし、ちゃんと友達もいるから」
ちゃんと、とは呼べないかもしれないけど、一応いる。本当に一応だ。
前世、ぼくがあの国を落とすのに協力してもらった隣国の王子が。あの愉快犯がいる。
真凛には絶対紹介しないけど。
「そっか。よかった。たまには放課後友達と遊んでいいんだからね、流架」
「いい。ぼくにとっては真凛といることのほうが大切だから」
「……(複雑だ)」
複雑そうな真凛の顔をチラリと見ながら、今後について考える。とりあえず真凛が受けてる嫌がらせはこっそりやめさせよう。
あとで真凛の高校にいるぼくの影に伝えなくちゃ。
それで元騎士と元王子が真凛から離れるとは思わないけど一応だ。
あとの問題は公咲桃真。マリアーナ様の異母弟だった男。
あいつだけは絶対に真凛に近付かせない。同級生しか見てなかったから、まさかあいつが二つ上の学年にいるとは思わなかった。
「まりん、なんか危険だと思ったら……ううん。もう他の男がまりんに触れたら魔法つかってね」
「そんなこと滅多にないと思うけど一応わかった」
しっかりと真剣な目で頷いた真凛を胡散臭い目で見返す。
たぶん使わないんだろうなぁ。これもちゃんと影に指示しておかないと。ただし影と真凛が接触するのはダメ許さない。
真凛に男として意識してもらうのはぼくだけでいいの。
ああ、元王子と元騎士? そもそもあいつらは真凛に人として認識されてないからいいの。今後真凛があいつらを男として認識することは絶対にないし。あんなやつら気にするだけ無駄だよ。
だけど、公咲桃真だけは別。
マリアーナ様を奪った直接の原因であるあの男をぼくは赦さない。




