王都シャハラとのお別れだな
蒸し暑くなり、ツバメが頭の上をビュンビュンと飛んでる
あれくらい速く飛んでみたいね
それにアニメはもう半分くらい終わってきたな~
何物にも染まらない黒い髪に、いつもは尖った耳が恥ずかしいからか折り曲がっている。
顔は眉を八の字にし、褐色の頬を朱に染めている。
身体は程よく括れた腰に、適度に筋肉の付いた腹筋、そしてわがままな果実。
脚も長く引き締まり、モデル並みにスラッとしていた。
(童貞には本当に難易度高いッス、だが叉夜も勇気を出してこの場に来ているのだ、ここは男として主人として、デンッと構えないとな)
「そそ、それじゃ、おおおお、お願いします」
(ハイ、駄目でした、これが童貞の限界なんだよ!、文句あんのか、コラ)
「ひゃ、ひゃい」
浴槽から出て座り込む、今は本来の王顕の姿(4本角)になっている。
叉夜はタオルを持ち、王顕の背中を洗う。
「「…」」
お互い無言になり、タオルの擦れる音だけが聞こえる。
ちなみに心の中は、
(裸のネコ耳褐色美少女に背中流されるなんて、人生ってどうなるか分かんねえな…)
(ご主人様の背中大きい、男の人てこんなに逞しい身体してるんだ、……何だろうボクの胸の奥がチクチクして、下腹部が熱い)
美少女の裸が見えなくなり、落ち着き始めた王顕。
女として初めて、異性の体に興味を持った叉夜。
背中を洗い終え、お湯で流してくれたので、浴槽に戻る。
叉夜は自分の身体を洗うと。
「い、一緒に入っても、よろしいでしょうか」
呆気に取られながらもオーケーする。
王顕と向き合うように入って、顔を伏せる。
浴槽は2人入っても余裕はあるが、沈黙した時間が続く、先に喋ったのは叉夜だった。
「ご主人様は、どうしてボクを選んでくださったんですか?、地下にはボクより美しく、優秀な人達が居たのに…」
「俺はあの中でお前が1番綺麗で、才能もずば抜けて優れていると感じた、だからお前を選んだんだ」
「//////」
自分から聞いておいて、答えを聞くと耳まで真っ赤になり、頭から湯気が出てるみたいにも見える。
真面目な問いに真面目に返したら、照れられると、答えた側もちょっと照れる。
「お先に上がります…」
「あ、ああ」
汗を少し流した程度で、ゆっくりと叉夜は立ち上がる。
(猫は水が苦手だっけか)
前屈みになった瞬間に長い髪をかき上げる仕草にはドキッとする。
扉の前で立ち止まり、ドアノブに手を掛ける。
腰まで有る髪が、所々肌に張り付いてたり、肉付きの良いお尻に黒い尻尾がフリフリしてたり、後姿もグッと来るものがある。
「//…ゅ人様、お部屋でお待ちして、ます//」
「…」
そんな言葉を残して出て行った。
……………。
(ぬおおおおおお、待ってるって、待ってるってええ、そう言う事だよね、勘違いじゃないよねええええ、俺はついに卒業しちゃうのか、真剣かあああああああああああああああああああああああ)
妄想が頭の中を渦巻く、いろいろ考えてる内に1時間程経過していた。
叉夜が待っている部屋の前に立つ。
「いざ行かん、戦場へ」
ガチャ
部屋の扉を開く、薄暗い部屋の中に微かに聞こえる吐息。
扉を閉め、鍵を掛ける。
そっとベットに近づき、気付く。
「スースー」zzz…
(寝ている、だと)
ベットに横になり、静かに寝息をたてている。
寝顔も可愛いかった。
王顕が考え込み、ここに来るまでに時間を掛けすぎたのもあるが、今日は彼女にとっても、いろんな事がありすぎて疲れる1日だった事だろう。
確かに檻の外に出てみたら、城に呼ばれて王達と英雄に会い、王顕の魔王の姿を見て、傭兵達の宿に行って隊長の娘の治療をしたりと、波乱万丈な1日だった。
「……お疲れ様、休ませないとな、はぁ~卒業はまだ少し先か~…」
「にゃむ…にゃむ…、ボク…ご主人…しゅき…にゃむ…」
「はは、俺も寝るか」
王顕は一緒のベットに寝るか悩んだが、叉夜の頭を撫で、ソファで寝る事にした。
ベットよりは硬いが、転生する前は【ワールド・インフィニティ】に課金しまくっていた為、ベットも買わず、毛布に包まり床で寝ていた、その頃に比べれば充分すぎる。
翌朝、外がほんのり明るくなり始めたくらいに、王顕が目を覚ます。
まだ誰も起きていないだろう早朝、慣れない椅子で寝たせいか、首に違和感があった。
「朝…今日は出るんだった、うお」
「…」
ソファの前で正座した、バスローブ姿の褐色美女が青ざめた顔をしていた。
俺は飛び起き、叉夜の顔を覗き込む。
「ご主人様、ボク、ボクは昨日寝ちゃって、それで…」
「ああ~、気にするな、俺も来るの遅かったしな、それに昨日は大変だったろ、疲れも溜まるさ」
「ですが、ご主人様のご期待に副えなくて」
「これからも一緒に居るんだ、機会なんて沢山あるさ」
「ご主人様、怒ってないんですか?」
「怒る訳ないだろ、ま、ちょっと残念だったけどな」
「にゃ」
頭を撫でてやると落ち着いてくれた。
旅に出る準備をさせ、俺も欲界の倉庫に荷物を詰め込む。
商人はまだ起きていない、王顕は字が書けないので、叉夜に代わりに手紙を書いてもらう。
シャーラとは旅立つ前に、また会いに来ると言ったが、引き止められるのが分かりきっていたので、黙って出て行くことにした。
傭兵達の宿には受付が居たので、王顕が試合でグリゴラを傷つけた分と、予備の分としてギガポーションを5つ渡してくれる様に頼んでおく。
王都の門を出て、地図に沿って次の国へと向う。
「ご主人様、この装備は…」
「念の為さ、前の装備だと不安だしな」
「ですが、こんな貴重な装備を奴隷になんて」
叉夜が装備しているのは、武器として手甲に4つのかぎ爪が付いた、”神獣の爪”で効果は相手に毒と麻痺に火傷、そして呪いを与える。
そして、破魔の衣で魔法無効化と、軍神の金輪で物理攻撃のカットだ。
装備品は装備する相手で、見た目が変わる物があり、軍神の金輪は変わらず金色のネックレスだが、破魔の衣は叉夜が装備する事で、アラブの女性が着る様な、顔や体を黒い布で覆った服になっていた。
ちなみに、王顕の装備は、武器が刃紋の無い日本刀、”骸切”で効果はこの武器でHPを0にしたらアンデットとして使役できる。
もう1つ直刀の日本刀、”正宗”効果は敵のHPを必ず1残す。
そして、赤い日本の鎧で名は”無量大数”、効果は攻撃を受けたときHP回復、HP回復(ポーション、回復魔法など)したとき回復分の倍ダメージ。
メガポーションの様にHP全回復の場合、HPが500残る。
「あ、そうか首輪がある限り、奴隷として見られるか、今取るからな」
王顕は叉夜の首輪を素手で捻り切った。
これで奴隷では無くなったわけだ。
「ご主人様、首輪を…」
「邪魔だろ、これ」
「ボク、ご主人様の奴隷じゃ無くなっちゃったんですか?」
「ん、ああ、そうなるかな、だって仲間だし、もうご主人様って呼ばなくていいぜ」
「ご主人様あぁーーーー」
勢い良く抱きつかれた、ご主人様と言う呼び方は変わらなかった。
彼女曰く、
「ご主人様はボクの神様だから…」
との事らしい、魔王としか呼ばれなかったので、これはこれで良いと思った。
王都を少し離れると、待ち伏せていたかのように、ゾロゾロとモヒカンの男達が2人を囲んだ。
数は20、その中の1人に見覚えがある、決闘大会の初戦で王顕にあっさり敗れた奴だった。
「賞金の金貨を全部置いて行ってもらおうか」
「居るよな~こういう奴」
「ご主人様、この方達はいったい」
「ちょうどいい、叉夜はあの真ん中の男と戦ってみな」
「ボ、ボクですか」
「周りの奴は俺が何とかするから、やってみ」
「が、頑張ります」
「無視しやがって、そちのメスは後で楽しんでやるよ」
やっぱ俺が仕留めるかと思ったが、我慢した、この世界ではどの様にレベルが上がるのか知りたかったからだ、王顕のステータスは、変動しないから自分では試しようが無かった。
だから王顕は未だに、叉夜に眷属への分配を行っていなかったのだ。
「やっちまえ!!」
「「おおおおおおおおお」」
「陰陽真戴」
「え…」
王顕は自分から攻撃を受けるように前へ駆け出した。
防御の武法、自分に当たった攻撃を無効にし、相手の影から刀が現れ、自分が受けるはずだったダメージを与える。
剣に槍、弓の矢が王顕を襲う、剣が腕を斬りつけ、槍が腹を穿ち、矢が肩を射る。
その全てが幻だったかのように消え、攻撃した彼らの影から刀が現れ同じ箇所に同じ傷を付けた。
倒れこむモヒカン達、大きなダメージでは無かったため、死んではいない。
無事なのは指示したリーダーだけだ。
「な、なな、何なんだてめーはああああ」
うろたえる姿が滑稽だった。
叉夜が俺に駆け寄って来て、俺の体をペタペタ触ってくる、どうやら無事を確認しているようだ。
「ご主人様!!、無事ですか!!」
「大丈夫だよ、無傷だから」
「あ、あ~~~~、よかったですうぅぅ」
「…怖かったな、すまん」
「グスッ、いいんです、ご主人様が無事なら」
何の説明もなしに自分から突っ込んで、串刺しとか笑えんわな。
「で、ちょっと待とうか」
「ひいいぃぃぃ」
逃げようとするモヒカンリーダーの肩を掴み引き止める。
顔が超引きつっている。
「お前には叉夜と戦ってもらう、勝ったら望み道理、金貨をくれてやる、断れば潰す」
「そ、そんな」
「叉夜」
「ご主人様を傷つける人は許さない」
「くそー、たかが人猫がああ」
ステータスはモヒカンが上だが、装備のおかげで負けることは絶対に無いだろう。
「エアショットォ」
レベル3の魔法で空気の弾丸だ。
ポシュ
魔法無効化で消えた。
「そんな…」
「ハッ」
「ぶあぁ」
王顕の視線から叉夜が消えたと思ったら、かぎ爪で相手の足を斬りつけ機動力を奪っていた、一緒に毒と呪いが付いた様だ。
(あの動きはスキルだよな速いのか、気付かせないのか、時間を止めているのか…)
後は時間の問題だった、毒と呪いでHPが徐々に減り、気付けない攻撃を何度も受け、動かなくなった。
殺してはいない様だったので、モヒカン全員縛り上げ、もったいないがギガポーションを飲ませてやり。
その後、俺達はテレポートして、モヒカン達に見えない王都近くの森まで離れていた。
「うむうむ」
「な、何でしょうご主人様//」
見つめられて照れている叉夜。
だが王顕が見ているのは、叉夜自信では無く、叉夜のステータスだった。
【叉夜】
種族 人猫
役職 冒険者
レベル5
HP 95/95
MP 110/110
攻撃力 28
防御力 25
特攻力 28
特防力 28
(あれくらいの相手で、レベルが4上がるのか、上がり具合は【ワールド・インフィニティ】と同じくらいなのに、この世界の住人や魔物などがレベルが低いのは、HPが無くなった後ゲームの様に蘇生が出来ないから、積極的にレベル上げをしてないのだろう、だが俺は蘇生アイテムの”生命薬”を持ってる、この世界ではまだ使った事がないが、商人が集めてくれた荷物に、生命薬を調合出来るアイテムも在るし、使えると思うが…)
叉夜はジッと見つめ続けたまま、動かない俺に何かを察したのか目を瞑り、顎を上げる。
ガサッ
背後の茂みが動き、とっさに反応した俺は叉夜に背を向け、叉夜は俺の背中に鼻をぶつけた。
「ふにゃ」
「…何やってんだ叉夜?」
「う~うう~~~~//」
なぜか頬を膨らませていた、ちなみに茂みから出てきたのはウサギだった。
「叉夜お前は特殊なスキルがあるよな?」
「あ、はい、”先止め”ですよね」
「効果は?」
「えっと、行動の先回りです、誰にも気付かれずに相手の行動より速く動けるんです、でも感情が高ぶってないと使えなくて…」
それは場合によっては、王顕よりも一瞬でも速く動けると言う事。
感情が高ぶってないと使えないってあたりは、ゲームではないからこそ起こる事だろう。
その後、森を2時間ほど歩き草原に出て、少し進むと大きな川が流れていた。
「地図だと川に沿って行けば橋があるな」
「ご主人様、これはどこに向ってるんですか?」
「ああ、この山岳地帯に竜人達の村が在るらしいから、そこに行こうと」
「りゅ、竜人、あの竜人ですか!?」
竜人は高い攻撃力と特攻力を持つ種族で、見た目が竜と人が混ざった感じで、【ワールド・インフィニティ】では男性に人気だった。
叉夜がビックリしているのは、竜人はこの世界では神の使徒に選ばれるくらいの存在らしく、周りとの接触を拒む奴ららしい。
「だから、おもしれーんだろ」
(【ワールド・インフィニティ】のボスには、魔王や有名どころのドラゴンなどは出てたけど、神は出てなかった、つまり俺の知らない存在…はは、はははははははははは)
「はは、はははははははははは」
「ご主人様の笑顔怖いです…」
そうこうしている内に、向こう岸に渡る石橋に着いた。
幅が広く馬車も余裕で渡れる橋だったが、手前の方で人だかりが出来ていた。
橋の前にバリケードが造られ、その横に騎士が橋を通行止めしていた。
近くの馬車を引いていた兄ちゃん声を掛ける。
「な、この先何かあったのか?」
「それが向こうに森が見えるだろ、あそこに危険な魔物が住み付いて、森に入った人間が行方不明になってるらしい、おかげで遠回りさ」
「ふ~ん、魔物ね」
「ご主人様、どうしますか?」
「突っ切るよ、そっちの方が面白そうだ」
「そう、おっしゃると思っていました」
「叉夜も俺のこと分かってきたな」
俺は叉夜の腰を抱き、川の向こう側にテレポートして、魔物が出る森へ入っていった。
読んでくれてありがとうでござるよ
王都を出て、叉夜のスキル公開、次の目的地などを明確にした話しです
次回は森の魔物のお話、魔物って何だと思います?