決勝戦、え、〇〇の元仲間?
家族と一緒にいてなぜか俺にばかり蚊が群がって来る
何故だすでに3ヶ所も刺されている
これも温暖化の影響か…
城門まで馬車でやって来て、前で降ろされる。
ここからは徒歩で行くのだろう。
バチィ
「いっつ、なんだぁ」
「どうなされた?イヴィル殿」
「なんか痺れたんだが」
「結界に反応したんでしょうか」
「結界…」
【ワールド・インフィニティ】でも結界と言うものはある。
魔法の1種で、自分のダンジョンや陣地に他プレイヤーを入れない為の魔法で使われる。
結界にも種類があるが、1番弱い結界でもレベル120じゃないと覚えれないはずなのだが。
「結界は誰が張ってるんだ?」
「それは城で仕える魔術師達が力を合わせて、この城の周りに張っているんです」
「ふーん」
(この世界では個人じゃなく、複数人で使える魔法があると言うことか)
今度は普通に城の中に入って行けた。
結界は人間以外を城に入れない魔法だったとか。
つまりは元々の種族が人間ではない王顕に結界が反応したわけだ。
そして今度は結界に反応が無かったのは、王顕の装備のおかげだ。
「おい、今結界が破壊されたらしいぞ!」
「警戒を強めろ!」
「侵入者がいないかの確認も怠るな!!」
「王達は大丈夫なのか!」
破魔の衣、魔法対してに絶対的な力を持つせいで城内がパニックになっていた。
悪気は無かったのだが、心の中で謝っておく。
パニックはすぐに収まり、結界もすぐに張りなおした。
騎士2人に連れられ、王のいる部屋に案内される。
「でっけーー扉だなーー」
扉が開き、中に進むと奥に玉座に座る王と、右隣には王妃、左にはお姫さん。
そして騎士が両脇に並び、その中に騎士団長さんも居る。
王の歳は60くらいか髪も髭も真っ白だった。
その割に王妃は若く見える。
お姫様は赤いドレスに、赤い髪、自信に満ちた顔をしている。
そして腰には儀礼剣を提げていた。
騎士団長は水色の髪に銀の鎧、背丈と同じくらいの長剣を背中に提げている。
(姫さんは強気な顔してんな~、可愛いから良いんだけど、それよりも、騎士団長さんのステータス覗いとくかな)
【アクセル・アガ】
種族 人
役職 騎士
レベル 45
HP 900/900
MP 850/850
攻撃力 62
防御力 62
特攻力 60
特防力 45
リリーよりレベルが低いが攻防共にバランスが良かった。
それよりもリリーのレベル上げすぎただろうかと悩み始めたが、この国の王の前だったことを思い出した。
「んで、王様が俺に何のようだよ」
「君の試合は見せて貰ったよ」
「答えになってねーよ」
「実は用があるのは私ではなく…」
「お前をここに呼んだのはシャーラだ」
「はい?」
「イヴィル、お前を気に入った、シャーラのものになれ」
「あらあら~大胆」
「ひ、姫様!」
突然のお姫様の発言に騎士団長もうろたえる。
王妃はニコニコ。
王も頭に手を当てて首を振る。
「帰るわ」
そして王顕はユーターンして帰ろうとする。
ドレスをつまみ追い駆けてきたお姫様が先回りする。
指を王顕に突きたて、もう片方の手を腰に置き。
「どこに行くのだ、返事を聞いていないぞ」
「却下だ、俺はまだ飯の途中だしな」
「うーーーうーーーーーー」
頬を膨らましながら駄々をこねる。
頭を撫でて落ち着かせたい衝動に駆られるが、我慢する。
「不自由な生活はさせないぞ」
「今のままで自由だけど」
「ここに居れば何でもそろうぞ」
「大会が終わればすぐに旅に出る」
シャーラの問いかけに答えるたびに、彼女の顔は強気な顔から涙目に変わる。
騎士達は今にも俺を斬りつけて来そうだ。
そんな中で王顕が思っていたことはと言うと。
(やっべ、姫さん超かわいいな)
シャーラの顔を見てホッコリしていた。
周りの反応は今はどうでも良いようだ。
だが、それもここまで、これ以上は時間の無駄だと気付き、本気で逃げることにした。
「明日も試合あるし、俺これで失礼す…」
「”美少女の秘密”」
「ぬあ」
完全な油断、王顕の知らない事が起こった。
逃げる動作がほんの少し遅かった。
シャーラが腰の剣を抜いたら、先端の折れた剣だった、そのことを認識した瞬間、王顕は姿を消した。
「シャーラ何をやってるんだ、それを使うなんて…」
「本当にあの方が気に入ったのねー」
「姫様それは…」
「ここで逃げられたくなかったのよ、ちゃんと話してないし」
「その空間から出れたのは、アクセル以外おらんぞ、と言うよりもアクセルですら出るのに1年掛かったではないか」
「少ししたら出してあげるの」
この時、王顕は別空間のダンジョンに閉じ込められていた。
そこは一面花畑の迷宮、王顕はゲームの経験で、ここがプレイヤーが創ったダンジョンだと気付くのに時間は掛からなかった。
地面に座り考えながら、ブツブツ呟く。
「なるほど、あの儀礼剣がこの場所への鍵って事か、ダンジョンって事はボスを倒すか、転移ゲートで出れると思うんだけど、このダンジョンを創ったのはあの姫さんか?、ステータスを見ておくべきだったかな、やはり俺の知らない武器もあるって事で間違いないし、警戒をしなきゃいけなかった、索敵を使ったけど、かなり魔物が多いな、楽しくなってきた、が時間も惜しい、早く帰らないとあの商人さん心配しそうだし」
手を前に出し、欲界の倉庫を発動、中から豪華な三本の鎖の付いた銀の投擲槍が姿を現す。
槍の名は”異界喰”効果はダンジョン強制攻略、この効果を使うと魔法と武法が24時間使えなくなるが、それは今の王顕に何のハンデにもならないことだ。
腰をかがめ両手で槍を持ち投げる。
「うおらああ」
ブンッ…
遠くまで飛ばし強い光と共に空間にでかい穴が開く。
その異変は空間の外でも起こった。
城の屋根の少し上で空に穴が開いたからだ。
「うそ、どうやったんだ、イヴィル出てきちゃった」
穴から王顕が勢い良く出てくると、そのまま町へと消えていく、その光景を見ていたシャーラは、頬を染め肩を上下させ、熱い吐息を吐いていた。
「ぜっっったい、シャーラのものにしてあげるから」
熱くなる体を強く抱きしめて、ベットで身悶えする姿はあの姫だとは思えないだろう。
「やだ、濡れちゃってる…」
王顕は異界喰を回収して、商人宅に着くと城での事を話し、この世界の楽しみをいくつか見つけ胸をたからせながら眠りについた。
翌日、大会2日目の朝、天気は雲1つない澄渡る晴れ。
昨日は試合にお姫様の相手にと、楽しくも疲れる1日だった。
この世界と今の身体に慣れてきた辺り、さすがの適応力だと自分を褒めたくなる王顕。
今日も朝食を準備してくれていた商人に、お礼を言って朝飯を食う。
今回は黒騎士の鎧を装備して戦いに挑む。
コロシアム来てみると、控え室は個人部屋になっていた。
最初の試合は、王顕と傭兵グリゴラの戦いで、後15分程度で始まるだろう。
コンコンッ
扉を控えめにたたかれる。
「だれだこんな時に…」
扉を開けると、そこに立っていたのは、ニコニコ笑顔のシャ-ラだった。
そのまま飛びついてきたので、受け止める。
「おっはようイヴィル、来てやったぞ」
「な、なにやってんだ」
「お前はシャーラのものだと言っただろ」
「いやいや、抱きつく理由にならないだろ」
「ふふふ」
鎧はまだ装備していなかったので、体温や柔らかさを感じれた。
童貞には大きな試練だ。
シャーラはちょっとの間抱きついて、満足した顔で部屋を出て行った。
「なんだったんだよ、くっそ、じらされただけで、何も無いのかよ」
(少し期待していた…、いや、ホント少しですよ)
モヤモヤしたまま、試合に向かう破目になった王顕。
「さあー決闘大会2日目、今日で優勝者が決定します、ではではー最初の試合を始めましょう、東、昨日は圧倒的な力を見せた、冒険者イヴィル選手、西、最強の傭兵でその怪力は本物、傭兵グリゴラ選手」
「今日は装備が違うんだな、面白いこれからが本気と言うわけだな」
「相変わらず、声のでかいおっさんだな」
「決勝に進むのはどっちだーーー、それじゃあ試合始めーー」
始まりの合図、両者共動かない。
傭兵の武器は武人の剣で両刃の騎士が持ってそうな剣だ。
効果は特攻力を下げ、攻撃力を上げる。
他の装備は付けていない。
「わしはおそらく、おぬしには勝てん」
「分かっているなら降参してくれ、あんたうるさいけど悪い人じゃなさそうだ」
「ガハハ、降参は出来ん、わしの部下達が見ている前でそんな無様な姿はみせれんわい、それに優勝せんといかん理由もある」
「……そうか」
(こう言う熱い男キャラは絡まれると嫌だけど、なんか憎めないって言うか内心好きなとこあんだよな)
「あんたの勇姿に敬意を表して、今回は真面目にやろう」
王顕が始めて構える、両腕の前にやり肘を軽く曲げる。
グリゴラも警戒はしながらも先に仕掛ける、剣を横に薙いだ。
王顕は左脇を狙った攻撃を白刃取りで受け止め、右脚で前蹴り、グリゴラは避けようとするが、黒騎士の鎧の効果で蹴りが吸い込まれる様に腹部に当たる。
「ぐむう」
「おお」
が、その足をつかまれたのには少しばかり驚かされた。
(手加減しすぎたか)
「ぬあああ」
そのまま自慢の怪力で持ち上げようとするが、びくともしない。
自分より小さい相手を、投げる事すら出来ない
(くおおおおおおお、まるで山を持つ上げるようだ)
「ふっ!」
「な、にぃ」
逆に右脚を上に上げ、グリゴラを持ち上げ、そのまま床に叩きつける。
ズンッ
地面に亀裂が入る、アバラをやられ、吐血し気絶したグレゴリは、決して王顕の足から手を離さなかった。
とてつもない執念と決意が込められている。
「試合そこまで!、勝者イヴィル選手、すぐにグレゴリ選手の治療をお願いします」
「すまねーな、おっさん事情があったみたいだが、これも運命さ…」
控え室に戻り気付いたのだが、右足首に痣が残っていた、グレゴリが掴みひねって出来た痣。
ダメージにならない程度、動きにも問題は無い、だがここまで必死になった理由が気になってきた。
大会が終わった後、本人に聞くことにした。
控え室のモニターには次の試合が映し出されている、いつもなら寝て待つところだが、この世界に知らないことがあると分かったので、試合観戦することにした。
「さあ本日の2試合目は、東、ここまでの試合を全て10秒以内に終わらせている、我等が騎士団長、騎士アクセル選手、西、魔法で攻撃を全て防ぎ、広範囲の攻撃で確実に勝ち進んできた、魔女ベアト選手」
「やはり決勝はあの男と当たるようだな」
「…」
アクセルは城で会った時と同じ装備、”聖剣デュランダル”、【ワールド・インフィニティ】でも存在する武器で効果は先制攻撃、互いに攻撃しあう際に先に攻撃を当てる。
鎧も”疾風の聖鎧”、効果は2連撃で、1回の攻撃で同一のダメージをもう1度与える。
対するベアトは”魔法の箒”、いかにも魔女が持ってそうな箒で、効果は魔法を使う時の効果持続。
身に纏うのは尖がり帽子とベール、黒い服、典型的な魔女スタイル。
(あの女、服に関して【ワールド・インフィニティ】で見たことが無いな、普通の服か、それとも俺の知らない装備か…)
モニター越しに2人の選手を分析する。
直接相手を見ないと他者の把握でステータスは確認できないので、ちゃんとした情報は仕入れられないでいた。
「それでは試合を開始します……始めーーー!」
ギイイイン
「ほお、これを防ぐか」
「ミラー・ウォール」
アクセルが人間では追えない速度で斬りつけたが、見えない何かで防がれた、2連撃共だ。
距離を取るアクセルは、レベル45のスキル”光速”で見えない動きを可能にしている。
「散れ、ライトニング」
ズガガガガガン
会場に鳴り響く雷、魔法の箒で効果持続したライトニングは、一時鳴り止まない。
アクセルは雷を避けながら、攻撃を繰り返すが全て防がれる。
防御魔法、レベル50のミラーウォールは、視認できない壁で相手はどこに壁があるのか分からない。
「こいつ…」
「なかなかだけど勇者ほどじゃないわね」
(勇者だと)
「でもあなたに用は無いの、楽しませてくれたお礼に良いもの見せてあげる」
ベアトは箒を天に掲げると、雷雲が集まり始めた。
ベールの下では、どんな顔をしているのか分からない。
稲光が黒い雲の中で何度も光る。
「レベル100を超えた魔法よ、また出直しなさい」
「レベル100?、あ、あなたは、まさか」
「サンダーボルト・ドラゴン」
雷雲から龍の形をした雷が見えた、回避不能の落雷。
光と轟音と衝撃に包まれる。
観客達は悲鳴を上げる。
せっかく騎士達が亀裂を直したのに、今度は真っ黒に焦げてしまっていた。
中央には剣で体重を支えたアクセルと、石の巨人に護られたベアトがそこに居た。
「あ、あなたは、勇者の、仲間の1人、召喚師…」
「正解、手加減したけど、一般人なら消し炭よ、もう休みなさい」
「はは、は、伝説と、出会い、矛を、交えれたこと、光栄だ」
言いたい事を言って騎士団長は意識を失った。
「なんと言うことでしょう、勝者はベアト選手だーーー、アクセル選手はすぐに治療をお願いします」
勝利宣言と同時にベアトがベールを取る。
赤い瞳に青い唇、右目と左目の下にはそれぞれ?と!のタトゥーをしている。
その顔を観客達は知っている。
勇者と共に世界を旅し、この世界に存在した魔王達と戦ったとされる、500年前の伝説の英雄達、その1人。
「こ、ここ、こ、この方はーーーー、伝説の召喚師ベアトリクス様ーーーー」
「はーーい」
落雷の時はあれほど恐怖していた観客達が、歓喜に震え雄たけびを上げる。
中には突然の伝説を目の前にして、気絶している奴もいる。
ベアトリクスは何事もない様に、控え室に戻っていった。
「え、何々、あの女の人が勇者の仲間?、話では500年も前の伝説の人って聞いてたけど、マジなのか?、見た目は人間、スキルで歳を取らなくなったのか?、しかもあの石の巨人は【ワールド・インフィニティ】でも見たことねぇ、そんなん面白すぎだろ!!」
別室で待機していた王顕は、軽い興奮状態になっていた。
試合を見た感じ、レベル120以上の魔法使いの様なので、魔法無効化の破魔の衣を装備する。
まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせる。
「俺に未知を教えてくれよ」
会場の修復が完了するまで、そのまま待機とのことでベアトリクスは控え室で装備の確認をしていた。
トントントン
「はーい、どうぞー」
扉を叩かれたので、入るよう返事する。
中に入ってきたのは、王とシャーラだ。
「シャーラ、久しぶり50年ぶりかしら」
「57年だぞ、今まで何してたの?」
「魔王探しの旅をね、してたんだよ」
「あの馬鹿が死んだのに、まだそんな事やってんの?あんたも馬鹿なの?」
「シャーラ様、ベアトリクス様には城の結界や魔術師の育成など、国としてご恩がありますゆえ、その様な物言いは…」
王がシャーラに対しこしの低い姿勢を見せる。
国民が見たら、なんと思うだろうか。
シャーラはため息をつきながら、笑顔を崩さないベアトリクスに本題を尋ねる。
「ベア、シャハラに何のよう?暇つぶしで来てこの大会に参加した訳じゃないでしょ」
「言ったじゃない、魔王探しよ」
「は?」
「どう言うことですかな、ベアトリクス様」
「王都のどこかに魔王が現れるって、私の占いに出たの、ちなみに大会は貴方を驚かせたかっただけなんだけど、今は違う」
「「…」」
「たぶん、イヴィルがその魔王だと私は思うの」
「それは無いぞ、シャーラが他者の把握でイヴィルのステータスを見たんだけど、魔王じゃなかった」
「そのステータスが偽者だったら?」
「ありえないな、そんな事ができるのは神くらいだろ」
2人は見詰め合う、王は部屋の端で待機している。
シャーラは、自分の見たイヴィルのステータスを教える。
【イヴィル】
種族 人
役職 冒険者
レベル 70
HP 2600/2600
MP 1800/1800
攻撃力 150
防御力 90
特攻力 110
特防力 80
普通の冒険者の3,4倍は強いことになる。
このステータスと戦闘を見て、シャーラはイヴィルを気に入ったのだ。
「シャーラ様、会場の準備が終わったようです」
「そう、ベアあんたが疑うなら自分で確認すればいいわ、あ、怪我はさせないでよ、彼はシャーラのものなんだから」
「気に入ってるのね、善処するわ」
シャーラと王は観客席に、ベアトリクスはイヴィルの正体探るため決勝の舞台へと向かう。
伝説の英雄と、転生した課金厨魔王の戦いが始まる。
会場ではベアトリクスへの声援のみが聞こえる。
「やってきました決勝戦、それではここまで上り詰めたお2人にご登場願いましょう、東、勇者の仲間であり伝説の召喚師、魔女ベアトリクス選手」
「はーーーい、皆さん私の戦いを見て行ってね」
「西、伝説に挑むことになった不運な男、冒険者イヴィル選手」
「おいおい、紹介がおかしくなってるぞ」
「クスッ、よろしくね、イヴィルさん、また装備が違うのね」
「ん?ああ、まあね、あんたと戦えるの楽しみにしてたよ」
「へー、私もよ」
「お、相思相愛」
「それでは決勝を始めます」
「…」
「フウーーーーー」
王顕は腕を組みただ立っているだけ、ベアトリクスは箒を前に突き出す。
その光景を観客達は息を呑み、ジッと見つめる。
シャーラはベアトリクスの勝利を確信しているので、自分のものが壊されないかを心配している。
王顕が彼女のステータスを除く。
【ベアトリクス】
種族 人
役職 魔法使い
レベル 154
HP 3600/3600
MP 6000/6000
攻撃力 270
防御力 210
特攻力 290
特防力 300
(なるほど、なるほど)
「それでは、始め!!」
「ライトニング!」
5本の雷が全て王顕に直撃する。
煙で王顕の姿を確認できない。
(避ける素振りを見せなかった、あのステータスなら死なないだろうけど)
煙が無くなっていく。
そこには無傷で腕も組んだままの王顕が静かに立っていた。
無傷なのは王顕だけではなく、服にも焦げた後すらない、極めつけは彼の立っている所だけが無傷で、少し離れた場所から黒く焦げている。
「どうやったのかしら?」
「今度は見えるように魔法を使えよ、俺はそうだな、後1分ここを動かないで居てやるよ」
(やはり、魔王か…、シャーラ約束は守れそうにないわ)
「ウォーター・ドラゴン」
水で出来たドラゴンが口を開け襲い来る。
が、王顕に当たった瞬間に掻き消えてしまう。
その後も幾つかの魔法を使うが、結果は全て不発に終わる。
「これは…」
「1分だな」
「ミラー・ウォール」
高速で後ろに回りこみ、ベアトリクスの首を掴もうと腕を伸ばす。
ミラー・ウォールに触れた瞬間、ひび割れ砕け散る。
「があ」
「こんなもんか、あの石の巨人が気になったんだけどな」
パアン
ベアトリクスの身体が消えた。
レベル140の魔法、影法師、自分の分身を作る魔法。
周りを見るといつの間にかベアトリクスに囲まれている。
「あたたは危険、全力排除するわ」
「やっと本気か」
「召喚・ストーン・タイタン」
ズズズズズズ
地面に魔方陣が浮き出すと、石の巨人がせり出して来た。
今回は1体だけでなく、複数体召喚されている。
形は個体差がある。
「行きなさい!」
「よっと」
王顕がストーン・タイタンの体当たりを避けながら、体に触れていく。
全てに触れるが消えないし、破壊も出来ていない。
(なるほど、魔法は召喚までで召喚された奴は、魔法で出来てないっと…)
(やはり速い、それなら)
「召喚・スカイ・フィッシュ」
「いててててててて」
先の尖った細い魚が王顕の体に何度も衝突する。
これも【ワールド・インフィニティ】に存在しなかった。
1体掴み取る。
他者の把握で見てみると、レベル43の魔物だと分かった、ちなみにストーン・タイタンはレベル67だった。
「見たこと無い魔物だな、やっぱ未知を知るのは、面白いな」
「やはり私1人では魔王を倒せないの…」
「魔王…」
「集まれ、ストーン・タイタンッ」
召喚された石の巨人が1つの塊になっていく。
大きさだけでなく、レベルも上がっている。
レベル90のストーン・キングが姿を現す。
無駄に攻撃力の高い魔物で、たぶん攻撃が当たれば騎士団長も死ぬ一撃を備えている。
振りかぶる拳。
ズウウン
避けなかった、重みと軽い痛みは感じるが、それだけだった。
「そのまま押さえ込んでなさい、召喚・死竜ニーズヘッド」
「おお、ニーズヘッドかよ」
「勇者と共に手なずけた竜よ、これでこの戦いの幕を閉じる」
【ワールド・インフィニティ】でレベル300のボスキャラだった奴だった。
ステータス確認すると、この世界ではレベル190だった。
今まで言葉を挿まなかったシャーラが立ち上がり、叫ぶ。
「ベア!!殺すな!」
「無理、後で何度でも謝ってあげる、やりなさいニーズヘッド」
「待てって、ベア!」
溶解液のブレスを吐き出す。
王顕を押さえ込んでいた、ストーン・キングを巻き込みながら会場ごと全てを溶かす。
王顕の居た場所は何もかも溶けて跡形も無い。
会場にシャーラが乱入する。
「ベア!、お前」
「聞きなさい、あれは人間じゃ無いわ、シャーラ貴方も見たでしょ、私の魔法が全て通用しなかった、人では、ううん、あらゆる種族にそんな存在はいない」
「……、確かに見た感じ、危険な存在だったかもしれない、でもあいつはきっと悪い奴ではなかった」
「そんなこと分からないじゃない」
「分かってたの!奴隷売買の商人に話しを聞いてたんだから」
「どういうこと?」
「2日前、城の使用人に奴隷の子達をとある商人から買い上げたの、その商人からたまたまイヴィルの話しを聞いてたの」
英雄のやりすぎなくらいの攻撃、姫の乱入、そしてこの2人のいがみ合い、観客達は黙って見ていることしか出来なかった。
ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、ズウウウン
そんな嫌な雰囲気の中、空から王顕が降ってきた。
自分達の目を疑う、2人は確実にニーズヘッドのブレスに飲まれた王顕を見ていたからだ。
それは観客達も同じことだろう。
テレポートでブレスを避けて上空に移動したので、降って来ただけなのだが、誰もそれを知らない。
「ど、どうやってあのブレスを…」
「それに遥か上空から降ってくるなんて、どんな魔法なのかしら」
「おろ、お姫さん何で降りて来てんの?」
「いや、お前が死んだと」
「俺が、はは、そんなわけない」
「シャーラ手伝いなさい、これで分かったでしょ、この男は危険なの」
「へーー意外だな2人は知り合いなわけだ」
「イヴィル答えなさい、お前は魔王なの?」
「…」
シャーラの突然の質問に即答しないで黙る。
静かな静寂、誰も喋らず、誰もが王顕を見ている。
そして王顕は手を前にかざす、空間が歪みポーションが出てくる。
ポーションには3種類存在する。
ポーション、緑色、HP、MPの少量回復。
メガポーション、青色、HP、MPの全回復。
ギガポーション、黄色、HP、MPの全回復と毒、麻痺などの解除。
ちなみに取り出したのは黄色のポーション、解除するものの中には、武器による効果も含まれる。
つまりは、異界食いの効果も消えて、武法が使える様になる。
「俺は何者でもないよ」
「?」
「戯言を」
「決勝戦、相手は勇者の仲間らしいし、シャーラお前にも興味が出てきた、2人には本当の姿を見せよう、”次元闘技場”」
次元闘技場、バトルしている者を別空間の闘技場に強制転移するアイテム。
形は手の平サイズの宝玉。
急に場所が変わって警戒する2人。
王顕はここに来るちょっと前に、やっとシャーラのステータスを見ていた。
【シャーラ】
種族 吸血鬼
役職 真祖
レベル165
HP 4750/4750
MP 4850/4850
攻撃力 317/317
防御力 287/287
特攻力 357/357
特防力 247/247
シャーラも只者じゃなかったと言うことになる。
しかも吸血鬼の真祖。
(いいね、ま、今日は十分楽しめたし、ここらで終わらせて賞金貰いますか)
隠蔽を解除、先程までの人の姿が見る見るうちに変わっていく。
2メートルの身長で4本の角が生える。
禍々しいその姿を見れば、たいていの人間は逃げ出すだろう。
だが目の前の2人は、驚いてはいたが、まっすぐと王顕を見据えていた。
王顕は2人から離れると、両腕を上げる。
「激震蹂躙、寒空大震」
「「ツッ」」
地面を爆ぜさせ、噴火させた後、レベル280の武法、寒空大震を使う。
拳の触れた場所から、噴火し噴出したマグマが凍て付く、それどころか大気含まれる水まで凍りつき、当たり一帯が冷気に包まれる。
2人はその光景をただ動けずに、見ていた。
「ステータス見えてるだろ、たぶんあんたら2人、召喚した奴合わせても俺には決して勝てないぜ、さあ、決断の時だ」
「私は…」
「王顕!!シャーラをお前色に染めてーーー!」
「ちょ、シャーラ」
(うおおおおおおおおおおおおお役得ーーーーー)
抱きつき、首にぶら下がる。
ボウン
シャーラの姿が美女から美少女に変わった、美人→可愛い。
赤らめた顔も少し幼くなって、シャーラは自分の変化にまだ気付いていない様子だ。
「シャーラ、離れなさい、危険よ」
「はーー、ベア、話の続きをしてなかったな」
ため息をつき、俺から離れ2日前の話しをする、王顕の救った商人と奴隷達の話しだ。
ベアトリクスはその話しを黙って聞いていた。
「……って事だ、だから王顕は悪い奴じゃないし、かっこいいから良いじゃない」
「………分かった今回は引いてあげる、シャーラに感謝することね」
何とか話はまとまり、ベアトリクスは負けを認めた。
シャーラは無い胸を張っている。
「えっと姫さん」
「何かしら王顕?」
「姿が…」
「え…い、いやーーーーーーー」
自分の姿を見て絶叫する。
ロリになっていることに今やっと気付いた。
王顕の知らない魔法で姿を変えていて、破魔の衣を装備した王顕に触れ、魔法が消えた事が後に分かった。
「そんじゃ、元の場所に戻ろうか」
「うむ」
「…」
隠蔽を再度使い、次元闘技場を使いコロシアムに戻る。
急に消えた3人を見ていた観客達は王に状況を問い詰めていた。
と、司会者のお姉さんが3人に気付く。
「皆さん、急に私達の目の前から消えた3人が、今会場に戻ってきました!!」
「聞きなさい、ベアトリクスは負けを認めた、ここにイヴィルの優勝を宣言する」
「「え、ええええええええええ」」
観客達は納得いかないところもあったようだが、ベアトリクスもちゃんと皆の前で負けを認めたため、何とか丸く収まった。
表彰式でシャーラから賞金の金貨1000枚を受け取り、受け取ったと瞬間、テレポートを使いコロシアムから姿を消す。
厄介な奴に絡まれない為に逃げたのだ。
「ま、お姫さんには俺がどこに居るのか分かってるだろうけど」
今回は少し長めでした
最初に考えていた時と大分変わった感じです
予想しづらい展開を書きたかった結果なんですが
楽しんでくれたのなら、良かったです