他の二人
へいへい二月~
もうすぐ二月~
チョコを自分で買う悲しい二月
王顕が神を自称するものから解放され、エドの中心に戻ってきた頃、2つの大陸にも動きがあった。
最大の大陸であり、大陸そのものが1つの国でもある【ヌー大陸】。
ヌー帝国を造った初代皇帝、【シカン皇帝】は4体目の神を決める儀式である規格外を最初に倒した者だ。
しかし、その肉体は朽ち果て、大陸の中心に作られた巨大な地下神殿の墓所に埋葬された。
神になれる試練をクリアして8000年、ようやくこの時が来た。
大陸を揺るがす地震、震源はシカン皇帝の墓。
「待ったぞ、長かった、やっとだ…」
ミイラ化しているものの、歳は80過ぎで髪も無く、服は古代中国の王が着ていそうな豪華なものだ。
皇帝は頭を切り取られ、体を逆に埋められ、その前に切り取った頭を置かれていた。
ミイラ化した体を動かし、頭を掴み地上に這い出る。
「ここまで、待たされたんだ、俺が神になる」
シカン皇帝は月明かりに照らされながら、復活した事を民に伝えるかのように雄たけびを上げた。
彼がこの世界に来たのは14の時、自殺だった。
小学生の頃からいじめの対象になり、中学に入学後はさらに酷くなった。
最初は靴箱や机の引き出しにゴミを入れられたり、小物が無くなったりしたが、次第にいじめはエスカレートしていく。
給食のスープに虫が入れられ、教科書を細かく切られ、お小遣いを取られ、殴り蹴られ続けた。
生きる事が地獄に思えた彼だが、唯一の癒しになっていたのはゲームだった。
そして、そのゲームさえも親や同級生に奪われた。
彼の人生は、地獄のみが残った。
「…ここが地獄なら、死んでも変わらない」
彼は若くして、一番嫌いだった場所である学校で自殺した。
屋上に上がり、同級生が見ている目の前で喉に鋏を突き立て、飛び下りた。
彼が死ぬ間際に思ったことは…。
(愛されたかった)
普通の事だが、彼には遠い遠い夢の話だった。
しかし、彼は神に目をつけられ、前世の記憶をそのままに、約束された地位と将来、権力を持って、生まれ変わった。
彼は隣国を片っ端から征服し、世界最大の帝国を造り上げた。
ヌーと名づけたこの国は、貴族などの階級はあるものの、国民は平等と言う考えで奴隷と言う制度も無く、皆なにかしらの職を与えられている。
それにより人の身で転生しながらも、人々から神と称えられていった。
前世の願い通り多くの愛を受け、最後は老衰でこの世を去る。
だが、彼は死ねなかった。
「な、何だこれは…」
確かに老衰で死に、墓に埋められた。
それなのに意識がある。
体はだんだんと水分を失い、干からびていった。
スキル”アンデット化”を有して転生したおかげで、彼は死んでこの世界で3度目の人生が始まる。
「俺は、いつまで生かされているのか…」
彼が亡くなってからも国は大きくなり、大陸全土を治めるまでになり、大陸の名前もヌー大陸と名を変えた。
国を治め動かしているのは、シカン皇帝の子孫たちだが、彼らは自らを皇帝とは名乗らなかった。
皇帝は1人、唯一無二のシカン皇帝のみで後はただの人と言う考えを持っていた。
シカン皇帝は、生前に神の定めた条件をクリアしたのではない。
彼の死後、民達が力を合わせ規格外の敵を2000年かけ倒したのだ。
彼自身が倒したわけではないので、これだけを聞くと彼が条件に達しているとは思えないが、スキル”納税”により国民の手にした経験、スキル、魔法、アイテムは全て彼へと送られる。
つまり国民の倒した規格外【無貌】、【無躯】、【無心】で得たもの全ては、彼の物にもなっている。
生前はレベル60で亡くなったが、アンデットの体になってからは自動的に経験値を上げ、長い年月を掛け彼を王顕と同等の化け物に変えた。
「3日の猶予…、ああ待ってやるよ3日くらい、俺の待った時間に比べれば、些細なものさ」
シカン皇帝は自分の玉座のある王都へと向う。
リッドテム大陸は、勇者が最後に訪れた場所で有名な大陸だ。
その上空に浮かぶ浮遊都市【エディパラ】。
天使の住まう町で、最も穢れなく美しい都だと言われている。
この場所にある神殿の奥、巨大なクリスタルの中に彼女は眠っていた。
勇者【ティカ】、数多くの魔王や悪を倒し更正させてきた張本人だ。
彼女の旅の終着点はこの場所で、元は規格外の敵である、【セフィロト】が存在した場所でティカが倒し、3人の中で唯一倒した規格外を仲間にしていた。
他の規格外【クリフォト】と【アカシック・レコード】も仲間に加わっている。
神に4体目の話を受けた日に、彼女は3人目が現れるその日まで自らを封印した。
そして今、封印が解かれる日が来たのだ。
クリスタルは粒子に変わり崩れ落ち、ティカは閉じた目を開き静かに着地した。
「さっき神から話を聞いたのに、時間的にはどれくらい経ってるのかな」
白い髪を腰まで伸ばした美女で、瞳は青く。
年齢は17、体格も良く身長は170後半で出るとこは出て、腰も括れほどよく筋肉もある。
銀色で細かな細工のある鎧を、四肢と胸に着込んでいる。
鎧の下は、白色の服に金の刺繍の入った服だ。
「あ、でも体の調子が微妙かも?、ん、ん~~~~」
腕を上げ背伸びをする。
彼女は神殿の外に出ると、そこには跪く者たちが居た。
エディパラの住人である天使達、その先頭に立って頭を下げるのは、白い木でできた翼を持つ女性で、体にもその木が巻きついている。
金髪で青い瞳を持ち、巨乳を通り越して爆乳を木で支えている感じだ。
「セフィロト、貴女もう来ちゃったの?、私起きたばっかりよ」
「ティカの魔力を感じましたので、封印が解けたということは…」
「ええ、3人目が決まったわ、さっき神から伝えられた、3日後に3人を集めて決めるようよ」
セフィロトは顔を上げ、ティカの話を聞く。
「4体目には興味は無いけど、私がその4体目になれば平和な世界も創れるはず」
「それで、相手はお前と同格の化物なんだろ」
話し掛けて来たのは、黒い木を身に纏う悪魔の様な人相の悪い男。
体の全身が黒く、この世の悪いものを集めた姿をしている。
「クリフォト…、貴方も来ていたの」
「俺はついさっき来たとこだ、そこの女の様にお前が眠って数百年もジッとこの場所に居るわけ無いだろ」
「ええ!、私そんなに寝てたの、じゃあ皆は…もう…」
「仲間達なら全員生きてるぞ、お前と一緒に旅をして英雄と呼ばれながら、今でも世界のいたるところで目だってやがる」
「え、えぇ…まぁ嬉しいけど」
「それでティカ、そこの黒いのが言っていましたけど、相手は貴方と同等でしょう、私達に挑んだ時とは違います、ここは仲間達を頼ってはいかがですか?」
勇者の仲間達は彼女と旅をして、共に魔王とその手下と戦ってきたが、本当に危険な敵とは彼女が単体で撃破してきた。
勇者はセフィロトの提案に即答はできなかった。
仲間達を、自分の都合で危険に晒す事は気が引ける。
しかし、今回の敵は今までの比ではないのは確かで、彼女だけでは勝てるかは分からない。
「…皆とはとりあえず連絡は取ってみる、でも強制はしない3日間もあるもの彼らの答えを待ちましょう」
「そうですか、相変わらず優しいのですね」
「ま、俺らは付いてくぜ」
「ありがとう、そう言えばアカシックは?」
「あれなら貴女の復活を世界中に報せていますよ」
アカシック・レコードと呼ばれるものは世界を駆けていた。
これには実体が無く、そこに居てどこにも居ない。
規格外の中でも、また異質の存在。
彼は伝える友の復活を、その喜びを全世界の生物に教える。
言葉を発する事はできないが、彼の思いは生きているもの全てに伝わる。
「恥ずかしい事を…」
顔を伏せるが、どこと無く嬉しそうに笑う勇者だった。
転生する前のティカは、体が弱く病院生活をしていた。
そんな彼女が憧れたのは、ゲームの勇者だった。
病室から出れなかったので、RPGのゲームをずっとやっていたからだ。
「これで23個目…」
両親は彼女が生きている内に好きな事をさせることにしていた。
ゲームはクリアするたびに新しい物がもらえた。
「38個目…」
彼女は病気で体が思うように動かなくなってきていた。
しかしゲームをやる手を止める日は無かった。
そして彼女は、病気で20歳を迎える事無く亡くなる。
「丈夫な体があれば、私は勇者に…」
転生した彼女は健康な体、産まれ持った才能を持っていた。
彼女は憧れだった勇者になれたのだ。
今回は王顕と似通った境遇で、王顕と同じ選ばれた者達のお話しイィ
魔王と皇帝と勇者が神の座を巡って争う…
次回は王顕側のお話、フッフー!




