4体目
仕事がなかなか慣れないですわ…
数学がスゲー苦手だと思いましたわ
キョウトでの2日目の朝。
王顕はある館の庭に腕を縛られ、上半身裸で座らさせられていた。
「あ〜、俺いつまでこのままなの?」
「「…」」
隣に立つ2人の男に話し掛けるが、何も答えない。
この館はキョウトの治安維持組織”真戦組”の本部だ。
日が上りきる前に、王顕が借りていた宿に押し掛けて来て、彼をとらえて連れてきたのだ。
ちなみにミクトルンと唄音は、昨夜の内に王顕の指示で、万が一誰かが宿に!強襲してきた際、彼を置いて部屋の窓から逃げる様に伝えておいたので、ミクトルンが唄音を抱き上げ逃げ隠れている。
待たされること一時間、周りも明るくなった頃、1人の男が館から出てくる。
堅物そうな顔に、切れ長の目と顎髭を生やし、明治くらいの警官服を着て、腰には軍刀を1本さしている。
「その男だけか?」
「はっ、捜索は続けておりますが、この者以外は未だ捕えるにいたっておりません」
(他の奴らも、うまく逃げ回ってるみたいだな)
王顕は、男のステータスを見ようとした時、空から2つの影が降って来た。
どちらも翼のある姿を持つ2人、イジェメドとエリザノーラだ。
「友は返してもらうぞ」
「お、おいおい」
イジェメドは高火力で館全体を燃やさんばかりに火を噴き、エリザノーラが王顕の背中を脚で絡めて飛び立ち、すぐにイジェメドも飛び上がる。
警官服を着ていた男は刀を抜き、炎を切り刻み攻撃をかわしていた。
「やるなあいつ…」
「まっ手加減したしな」
「王顕様は怪我してないの」
「ああ、無傷だ、他の奴らは?」
「キョウトの外に集まってる」
空を飛びキョウトの外に連れ出され、数10キロ先の荒野に仲間達は集まっていた。
皆どこか機嫌の悪い顔をしている。
「何であんな連中に追い掛けられなきゃいけないのっ、お陰でキョウトを出なきゃいけなかったし」
「穏便に事を済ませた積もりでしたが、私たちの噂があったようです」
「まぁヒノモトの連中は何かと感が良さそうだしな、しょうがないエドに向かうか」
「王顕様、それよりそれの紹介はしてもらえないのですか?」
「―妹」
エリザノーラが唄音を指差し話し掛けたので、ミクトルンが胸を張り答えた。
言葉足らずにも程がある答えだったので、事情を知らない仲間たちの頭の上には?マークが浮かんで見えるようだ。
王顕は唄音の事を話すと、皆はまた女を増やすと言った風な顔をするが、年端もいかない少女に癒されもしている。
王顕は欲界の倉庫に仲間たちを入れ、姿を戦闘機に変えエドへと飛び立つ。
コックピットには、欲界の倉庫に入れない唄音を乗せている為、前の様なスピードは出していないが、それでも今日中には目的地に着く計算だ。
(さっさと姫巫女に話を通しとかないと、毎回追いかけっこしないといけなくなるな…)
夕方すぎの日が傾く頃にエドへ到着した王顕は、仲間達の安全の為に姫巫女に会って話が終わるまで外に出さない事にした。
エドは、大きな白塗りの城を中心に、城下町が広がる賑やかな場所だった。
姫巫女会談が行われるのはその城の天守閣、警備は厳重で各国の腕利き達が見張っている。
各国の姫巫女が集まるこの時は、大きな祭りをやってるようで出店と人々が踊り回っていた。
王顕は唄音を連れ、城下町を散策する。
「お前の声もどうにかしてやりたいからな、姫巫女達に聞いてみような」
「あうあうあう」
「あと数時間もすれば真っ暗だ、早く宿を探そうか」
「あうっ」
宿を探すも、既にどの宿も満室で泊まる所は見付からない。
「しかたねぇ、野宿するしかないな」
「うー」
「すまないな」
「う、あう」
王顕が唄音に謝るが、彼女は頭を横に振る。
大丈夫だと伝えている事に、彼はさらに心苦しくなる。
しかし、どうあがいても宿は見付からないので、町の外にテントを張りそこで寝る事にした。
翌朝、姫巫女会談当日。
天守閣に各国の姫巫女と護衛役の武士たちが集まる。
「それでは只今より姫巫女会談をはじ…」
ドオオォン
姫巫女の1人が仕切ろうとした瞬間、城全体が大爆発した。
城の中、そしてその周辺に居た者の殆どが死んだ。
テントの外からその光景を見ていた王顕は、まだ寝ている唄音をテントに置いて城に向かう。
索敵には、生存している者の反応がある。
「どうなってんだこりゃあ」
城の在った場所は、瓦礫の山になっていた。
周りには、負傷した武士たちがうめき声を出しながら倒れている。
すると王顕が来た反対側から、かなりのスピードで近づく反応があった。
王顕は身構え、反応のある方に目を凝らす。
すると、空を飛ぶ1つの影が近づいているのが分かった。
「あれは…、天使か?」
王顕がシルエットから正体を予想していた時、瓦礫の山が弾ける。
「カアァカカカカカァ、久しぶりの好敵手じゃのう」
空に飛び上がるは、干からびた肌にボロボロの黒い法衣を着て、金の頭巾を被ったミイラだ。
ステータスの確認をすると、嫌な記憶を思い出す。
【陸亡】
種族 妖怪
役職 三大狂妖怪
レベル 設定外
HP 設定外
MP 設定外
攻撃力 設定外
防御力 設定外
特攻力 設定外
特防力 設定外
海亡と同種の奴を目の前に頭を抱える王顕、すると遠くにいた天使も到着する。
王顕は彼女のステータスも確認する。
「俺とほとんど同じステータス?、何者だ?」
やって来たのはシノ、王顕と同じこの世界に招かれた人間の1人。
「酷い…、誰がこんなことを…」
向こうはまだ王顕の事に気付いてないようだ。
ドオン、バシャシャシャシャアアアアアアアアアァ
「やっぱ生きてたか…」
城の周りに在った堀から水柱が噴き上がる。
その中から出て来たのはずぶ濡れになった海亡。
「みつけたわ、いとしのひと…」
王顕は臨戦態勢に入る。
隠蔽も解き、欲界の倉庫から出したのは黒騎士の鎧。
今度こそ確実に仕留める為、回避をさせない。
その姿と、膨大な魔力を浴びてシノも気付く。
「王顕さん?、それにあの女の人とミイラは…」
シノはこの状況に付いていけなくなっていたが、王顕側に立つ。
すぐ横に立つ彼女に王顕は、1つだけ尋ねる。
「あんたは敵か?」
「私は味方、あとでお互いに話したいことはあるだろうけど…」
「ああ、まず目の前の奴らを何とかしないとな、…あんたはこれを使ってみんなを助けてやってくれ、俺があいつらを相手する」
「……任せて、私の分も使えばだいぶ助けられると思う」
王顕は自分が持っているありったけのポーションと、生命薬をシノに渡し、次元闘技場を使い陸亡と海亡を隔離する。
「何じゃ何じゃ、目が醒めれば目の前に生き物がウジャウジャ増えてると思ったら、消えおったぞ」
「りくぼう、あなた、まだ、いきていたのね」
「ほっほう、海亡か何年ぶりか、元気にしとったか?」
「あばたほどではないけど、それなりに」
王顕の目の前には、この大陸最強クラスの妖怪。
だが更に脅威の存在が現れる。
次元闘技場の空に浮かぶ太陽、その隣に空間が歪みもう1つ太陽が増えている。
「あははははは、あそぼうあそぼう」
「ウフフフフフ、ナニシテアソブ」
「これは面白くなってきたのう」
「あのふたごは、きらいなのだけど」
太陽が割れ、中から双子の子供が空から降って来た。
子供と言ってもその大きさは、20メートルを超えている。
最後の三大狂妖怪、空亡の出現である。
(あの声!、夢の時の…)
4体の設定外。
王顕も油断すれば大きなダメージを受ける相手。
彼は最も強い仲間達を呼ぶ。
艶魅と鬼瓦。
「これはこれはぁ、面白そうな場面に出してくれはるなぁ」
「艶魅、今回は本気で行くぞ、…鬼瓦を試すのは何だかんだこれが初めてだったな」
王顕は鬼瓦に向けて攻撃する。
鬼瓦は攻撃を無力化、蓄積し、蓄積した分の力を持った艶魅の様に生きたアイテムとなる。
ちなみにこの装備は、3日に一回しか使用できない。
そして王顕が出した攻撃は、【ワールド・インフィニティ】のボス【魔王ソロモン】を倒した時に得た武法。
「ソロモンの力」
ソロモンの72の悪魔、両手の平から悪魔達を召喚しぶつける技。
効果は闇属性の付与のだが、攻撃の威力は5本の指に入る。
その攻撃が直撃する鬼瓦、悪魔達に何度も体当たりされるも、その表面に傷1つできない。
悪魔の嵐がすぎると、鬼瓦は灰色から燃えるような赤色に変わっていた。
「起きろっ」
ブシュウウウウウゥゥ
鬼瓦の口から勢い良く煙が噴出して全身を覆うと、煙に映る影が盾の形から人型に変わって行く。
煙が霧散すると、そこに現れたのは首の無い鎧武者。
真っ赤な甲冑の背中には厳つい鬼の形相、武器は持っておらず素手で戦う。
「…」
「この世界でも喋らないんだな…」
「それでぇ、うちはどれの壊せばいいんかぁ?」
「艶魅は海亡、鬼瓦は陸亡、俺が空亡を殺る、行け」
2体は王顕の指示を受けると、同時に動き言われた相手を全力で消しにかかる。
王顕は、欲界の倉庫から特殊な武器を取り出す。
三又の金色の槍。
【シヴァ】と言う武器で使用は1回のみ、使えば消え、新しく作らない限り2度と使えない。
「この武器はたぶんこの世界では作れないから、使いたくは無かったけど、仲間たちとお前らが戦うよりはましだ」
「あそんでくれるの」
「コンドハ、ナニシテアソブ」
「幼さほど恐ろしいものは無いな、今回は遊びじゃないんだ、シヴァ」
目の前に、シヴァを使用するか否かの質問のディスプレイが現れる。
YESを選択。
「消えろ」
槍から何本もの青白いスパークがはじける。
シヴァの効果は、モンスター単体に防御無視の超特大ダメージを与える。
その威力は、レベルに比例する。
槍の先端からビーム発射、光に呑まれるものは生物、無機物、問わず全てを粒子に変える、いや破壊する。
空亡は回避しようと高速で逃げ回っていたが、黒騎士の鎧の効果でシヴァから放たれた光は必ず当たる。
「すごいすごい」
「オイカケッコダ」
「速いな、なら”影縫い”」
「うわぁ」
「ナニナニ!」
武法影縫いは、相手を10秒動けなくする武法。
2体の動きが止まった瞬間、追いかけてきた光が直撃、消滅する。
索敵には引っ掛からない、スキルに新しく”空を亡ぼす者”を獲得。
少しして”陸を亡ぼす者”と”海を亡ぼす者”も手に入れた。
「あいつらも終わらせてくれたみたいだな」
『うむ、合格だ』
「つっ」
急に声を掛けられ振り向く、しかしそこのは誰も居ない。
艶魅も鬼瓦もまだ戻ってきていない。
『これで3人目の合格者だ』
『やっとそろったねっ』
『他の者達は、未だ私達の声にすら気付いていないみたいね』
『あの女の子は見所あったけどね、ほら前世で僕ら声に反応してた子』
『どうでしょうね、彼女は強くなろうとしなかった、成長しようとしなかったわ』
「今に至ってはどうでもいい、3人目が決まったのだから」
聞こえる声は3人、男と女、そして子供の声だ。
聞こえると言っても、耳からと言うより頭に直接送られてくる感覚。
テレパシーの様なものだろう。
「お前らは誰なんだ、俺に何か用でもあるのか?」
『うむ、誰と問われてもな』
『僕らには名前が無いしね』
『そうね、あなたたちの言葉で表現するなら…、神や天主、創造主かしら』
(ミクやアリスみたいなものか?)
『彼らとは違うよ』
『あれは、私たちが創った駒でしかないのです』
「…思った事まで筒抜けか、それであんた達は俺に何の用なの?」
心の中で思った事が神?にばれて少しビックリするが、冷静を装い強がって見せる。
その強がりも見抜けれているのだろうが…。
そして声だけが響く。
『これは新しい神を決める為の祭りだ』
『僕らは、世界を数え切れないほど創ってきた』
『そしてその膨大な管理の為に、私たちは同じ存在を創ってきたの』
『今回は4体目の選定、候補として君たちで言うゲームに似た世界を創り、その世界に順応するだろう者達を転生させ、その中で我々の創った規格外の敵を倒した者を、4体目の神の有力候補として3つの枠を設定した』
『そして今まさに有力候補の3人が、僕らの設定を乗り越えた』
『3人には全力で戦ってもらい、最後に残った者を4体目として私たちが歓迎するのよ』
『敗れた者も、今までの貢献として、新しく作る世界でそれなりの力を得た状態で転生させよう』
「…自分勝手だな、本当に俺たちがあんたらの言うとおり戦うと思うのか?」
『君は戦わないと?』
「さぁな、他の2人の考え次第か」
『2人ならやる気満々だよ、何しろ君がこの世界に来る数100年前と、数1000年前にクリアしているんだから』
「…」
王顕は頭痛がする感覚に見舞われる。
自分と似た境遇の者が数多く居て、さらに神とやらが敷いたレールを歩かされていた。
しかもレールの終着駅に着いたのは数1000年かけて3人、そして殺し合い。
これで頭が痛くならないほうがおかしい。
『戦う場はこちらで用意する』
『戦いは相手を消滅させれば勝ち、何を使っても構わないよ』
『いろいろ準備も必要でしょうから、3日の猶予を与えるわ、そう心の準備もね』
「ちょっと待…」
強制的に、次元闘技場が解かれエドに戻された。
そこには怪我の手当てを受ける武士達と、このヒノモトでは見慣れない奴ら、そして生命薬を預けたシノが居た。
さて最後にだいぶ近付いてきました
急展開ばかりですいません
それでは次回は与えられた3日間の話




