悪夢
クリスマスは終わった
仕事と言う時間で…
リア充どもめ…はぁ~
年末年始は休むので次の投稿は1月9日になります
王顕が出会した行列が、林道に差し掛かった時のことだ。
列の先頭を歩いていた武士が倒れた人影を見付ける。
数時間前に王顕の襲撃を受けているので、警戒しながら5人で近付く。
しかし、ある程度近付いたところで、何らかの結界が張られていた。
辺りを調べると、結界を作る札のアイテム”五方結界”により守られている事が分かった。
「将軍に報告だ」
五方結界は、【ワールド・インフィニティ】で外からの攻撃を5分間無力化する使い捨てアイテムだ。
この世界でも使われはするが、国の防衛や伝説の武具などを守るために使われ、効果のジゾク時間は数10年と長かったので人1人に使う物ではなかった。
「陽禅将軍、どうやら人影は女性で歳は20前半、しかし女の周りには五方結界が張られており、我々ではこれ以上の接触は出来ません」
「五方結界か、なぜこんな場所に…オヤジはどう思う」
「さっきの襲撃と無関係じゃなかろうな、しかもあの結界は、外から解くには姫巫女の力が必要になるしのぉ」
「女を人質に、姫巫女を近くで狙っているか…」
2人が目の前の危機を避けて、別の道を使おうかと考え始めた時だ。
牛車から、女の子が話し掛けてきた。
「お父様、お祖父様、わたくしなら大丈夫です、その女性を保護しましょう」
声は幼かったが、しかし力強い決断力を感じた。
牛車の扉が開き、1人の女性が出てくる。
木曽 朝日にそっくりだが、小動物のような安心感を与える雰囲気を纏っている。
服は歩きにくそうな長い着物に、髪飾りに金のかんざしをつけ、三つ編みの紐で後ろの長い髪を丸く縛っている。
【木曽 夕陽】、朝日の妹だ。
「夕陽、お前はツクシの姫巫女だ、それがどう言うことか分かっているのか」
「ツクシの人たちを守ることです、そして目の前で人が倒れているのです、助ける以外の選択肢はないはずです」
「…」
「諦めろ陽禅、儂とお前ではこの子を止めることはできんぞ」
「しかし」
「儂ら全員が全力で守れば、夕陽1人は逃げられようよ」
「ごめんなさい、お祖父様わたくしのわがままなのに」
光照は、落ち込んだ顔の夕陽の頭を撫でてやる。
「お前は正しい、何も間違っちゃおらん、しかし陽禅の言っている事もまた正しい、もしもの時は自分の身だけを守りなさい」
「…はい」
「…」
結界に近付く3人、人影には布が被せてあり何とか体型で女性だと分かる。
武士たちは姫巫女を守るために、彼女を中心に円形に並ぶ。
夕陽は札の近くでしゃがみ膝をつくと、胸の前で手を重ねる。
ヒノモトのモンスターや人たちは魔法を使わない、代わりに妖術、独自の武器を使った攻撃法を持っている。
そんな中で姫巫女は魔法、妖術、物理攻撃、アイテム効果を無力化するスキル”浄化”を使える存在だ。
「ふぅ…いきます」
彼女が一声掛けると、札の効力は失われ結界が解ける。
結界が消えると同時に陽禅と光照は夕陽の前に出て、武士の数人な合図を送る。
合図を受けた武士たちが倒れている女に近付く。
「おい、大丈夫か、おい」
肩を揺すり声を掛けるが返事は返ってこない。
うつぶせに成っていた彼女を、仰向けにし顔を確認した武士たちは驚愕する。
その顔立ちと、体を動かした際に落ちた布の下のセーラー服に見覚えがある。
「あ、朝日様だ…」
「将軍っ、倒れられていたのは、木曽 朝日様です」
「なにっ、朝日だと」
「…うーむ」
「…お姉様?、ほ、本当にお姉様なのですか!!」
「はい、確認しましたところ本人に間違いはないかと」
「ツッ」
走り出す夕陽を止める者は居なかった。
夕陽自身が姉の顔を確認する。
見間違うはずのない、紛れもない実の姉。
数年前に修行の旅に出て、行方の分からなかった姉が、生きて目の前に居ることが嬉しくて、自然と涙を流していた。
「お姉様っ、お姉様っ、本当に生きていてくれた…う、うう」
後からやって来た陽禅と光照も、朝日の側に立つ。
「確かに朝日だ、しかし、この変わり様はいったい…」
「…」
「どうしたオヤジ、何か心当たりでもあるのか?」
陽禅は朝日のステータスを確認すると、レベルが200丁度で旅立つ前との桁の違う数字に眉をひそめ、光照は顎に手を置き難しい顔をする。
光照の様子の変化に気が付き、夕陽に聞こえない声で尋ねた。
「こりゃあ、奴の仕業やのぉ、儂らを襲ったあやつが朝日の名を口にし、今目の前にいる、偶然じゃなかろぅ」
「ならどうする、朝日が敵対するなら」
「いや、朝日の性格を考えても、あんなに怪しい奴の仲間になるとは思えん、ここは気が付くのを待つ他にないじゃろうよ」
「分かった」
朝日は夕陽の乗っていた牛車に乗せられ、列はエドに向かい進み始めた。
王顕たちは林道を抜け、山を2つ越えた先の村【ミヤナカ村】に居た。
みんなのレベルが上がり、ある程度なら王顕のスピードに合わせれるようになったので、軽く走りどこまでついてこれるか試した結界、音速を越えるくらいの速さなら、15分は維持できることが分かった。
そして村の近くになり、皆に隠蔽を掛けるように指示して、人間に成り済まし村に入ったのだ。
まずは腹ごなしに飯屋に入っていた。
「さて、この村から次のキョウトまでは、意外とまだ距離があるな、近いと思ったけど、ヒノモトは思っていたより広いって事か」
「友よ、あの女を置いていって良かったのか?」
「あ、ああ、朝日ね、良いんだよ、あの結界があれば妖怪にも襲われないだろ」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
「主様は不用心すぎます」
「そうだよご主人様、何で自分の命を狙う人間を、あのままにしてきちゃったの?、もっとこう何かあったんじゃないかな?」
王顕はイジェメドの質問に対し、自分の答えをを軽く返したが、彼女が聞きたかったこととは違った。
ルカは、湯のみを口に運びながらも抗議するような目を向ける。
そしてテーブルに肘をつき手の上に顎を乗せた叉夜が、イジェメドの聞きたかったことを伝えた。
「ん〜、何かって殺した方が良かったとか、そんな事?」
「そっ!、そんなんじゃなくて!!…う、う〜〜〜〜〜」
「はっはっは、意地悪なこと言ったな」
王顕の答えをすぐに否定するが、自分では答えが出てこないで唸ってしまう。
そんな叉夜を見てケラケラと笑い、頭をポンポンと軽く叩く。
「だってあいつには大きな借りがあったし、家族を見つけたからな、家族の元に返すのがいいだろ」
「家族は大事だな、私も家族は好きだし、そう言えば王顕様にも家族は要るのか?」
「―お兄ちゃんの家族はミク」「そうだよな〜、ミクは俺の大事な義妹だ」
エリザノーラは両手を組んで王顕の言葉にウンウンと頷き、そこから王顕の家族について聞いてきた。
すると、隣に座っていたミクトルンがソッと王顕の服を摘まみ、上目遣いに話し掛けてきた。
あまりの可愛さに抱き上げて膝の上に乗せ、頭を撫でてやると目を細め小さく笑う。
ミクトルンも、前より感情を表に出せるようになっていた。
「アアアァァー、何でミクを乗せちゃうの!!、ボクにはそんな事してくれないのにぃ」
「ミクは大きさ的にちょうどいいけど、他は…みんな大きいからな〜、できてイジェメドくらいか?」
「吾は遠慮するぞ、さすがに恥ずかしいわ」
「叉夜、ミク様は主様の妹なのですよ、これくらい普通の兄妹のスキンシップです」
「冷静なフリして、飲み終わったカップをまた口に運んでるルカに言われても、説得力なんてないよ」
「…っ」
飯屋の一角で騒ぎ出す面々、他の客もこちらをチラチラと気にしている。
見た目は人になっているが、騒いで目立てば意味がない。
王顕は落ち着かせようと声をかけようとする。
「まぁまぁ、その辺に…」
「みんなは王顕様を、雌として意識してるのか?」
「「…」」
王顕の言葉を遮る、エリザノーラの一言で仲間たちは静まり返った。
最初に動いたのは叉夜で、急に立ち上がり、アワアワと焦っている。
「え、あ、それは、ボクはご主人様に買われた身で、そんな事を思うのは…」
「どうやら叉夜は違うようですが、私は主様を心から愛して、いずれはそう言う関係になれればと」
「ちょっ、ルカっ!、ボ、ボクも好きだよ、も、もちりょん、お、おんにゃとして!」
「吾は別にそこまでの感情は無いな、たまに夜の相手してもらえれば」
「そんな関係は不純だよ!?」
「抜け駆けは許しませんよイジェ」
「―?」
収集がつけられない事態に陥ってしまった。
取り乱し叫ぶ叉夜に、冷静な顔してとんでも発言のルカ、イジェメドはビッチみたいな事を言っている。
ミクトルンだけが、話が見えず首を傾げていた。
「ふむ、そうか、私も王顕様の子種は欲しいと思うから、やはり生物として強い雄の遺伝子は欲しいものだろう、だからイジェメドと同じ考えだな」
「「―――」」
エリザノーラの二発目の爆弾投下で、とうとう騒ぎすぎだと店を追い出されてしまった。
とりあえず、欲界の倉庫に貯めておいた食料で、その場は済ませる事となった。
村には滞在せず、日が暮れるまで先に進む。
村を出た後も、なるべく旅の間は人間の姿を維持してもらっている。
ヒノモトには外からやって来る物好き以外は、人間と妖怪、動物系のモンスターしかいない、竜人に獣人なんかはいないのだ。
その昔は神も居たらしいのだが、とても強い妖怪に全員殺されたらしい。
山道に入り、まだ明るいうちに小さな川に着いたので、この場所でテントを張ることにした。
「ふぅ~~、今日はさすがに疲れたな…」
テントをルカとエリザノーラに任せ、丁度いい石の上に腰掛け木を背もたれにする。
他の奴らは、食料調達と周辺の安全確認に行っている。
王顕は久しぶりにウトウトと眠気が襲い、静かに眠りに落ちていった。
「主様?」
「どうしたルカ」
「いえ、主様が…」
「スー…スー…zzz」
2人が王顕が眠っている事に気付く。
ルカはすぐに王顕の側まで来ると、背にかつぎテントの方へと移動させ、寝やすいように魔法で温度と湿度を調整した。
「これで、少しでも疲れを癒していただければ良いのですが」
「今の王顕様をこうして見ると、私たちとそう変わらない感じがします」
「そうですね…、それでは私は叉夜たちと合流して手伝ってきます、エリザはここで主様を護衛していてください」
「私が残るのか?」
「私が行かなければ、あの人たちが何を取ってくるか不安ですので…」
「そうか」
「くれぐれも主様に何かしないように」
ルカはエリザノーラに釘を指し、叉夜たちが向かった方へと消えていった。
エリザノーラはやることもなく、索敵を使い周囲を警戒する。
すると、テントの方で唸り声が聞こえてきたので、テントを開けると王顕が眉をひそめうなされていた。
暗い知らない場所に王顕は立っていた。
周りには何も無い、世界に自分1人が取り残され、他は全て消えてしまった、そんな感覚になってしまう。
そして、自分の体にも異常が起こっている事に気付く。
「体が動かない?、武法もスキルも使えないだと…」
体は魔王の姿だが、自分の意思で動かせるのは頭のみ。
「あ~ぶくたった~、にえたった~」
「ニエタカドウダカ、タベテミヨウ」
「ん?何だ」
どこからか歌が聞こえて来る。
日本のわらべ歌の1つ”あぶくたった”で、内容が不気味な童謡だ。
「むしゃ、むしゃ、むしゃ」
ガガガ
「がっ、あぁ、jghjcvvhbkvghk~~~~~」
「マダ、ニエナイ」
王顕の右腕が、肉食獣に喰いちぎられたように消える。
出血もせず、痛みだけが異常に感じる。
形容しがたい痛みで、気を失いそうになるが、どこから聞こえて来るかも分からない歌が、強制的に意識を留めようとする。
「ア~ブクタッタ、ニエタッタ~」
「にえたかどうだか、たべてみよう」
「ムシャ、ムシャ、ムシャ」
ガガガ
「ジャfxsdrhfkjlhkんいdrぉmhいぃ~~~」
「もう、にえた」
今度は左脚を喰われた。
頭を左右に振り、これでもかと叫ぶ。
人であったなら、痛みでショック死しかねない激痛。
「「ま……ボ……さん」」
「ア、アアアアアアァ、あ?」
文字通り目が覚めた。
見知ったテントの中、慌てて腕と脚が自分の体に付いていることを確認する。
傷1つ無い体に、フ~っと安堵のため息を1つ。
「悪夢かよ…、夢…だよな…」
「王顕様?」
「ん?え?」
今まで気付かなかったが、エリザノーラが裸で王顕の隣で横になっていた。
急に起き上がった王顕を、キョトンとした顔で見詰めている。
そして王顕も、冷静に自分自身を見れば、全裸にされている。
「な、な、何やってんのお前」
「?、王顕様がうなされていたので」
「何で裸かって聞いてんの」
「うなされているときは、裸で抱き合うと落ち着くと教わったので」
「そんなわけあるか!!」
「そうか…」
「あ…」
王顕が大声を出したところで、エリザノーラはシュンッと肩を落とす。
彼は、大声を出したことを後悔した。
あ~っと口を開き、頭をガリガリと掻く。
(方法は無茶苦茶だけど、俺のためを思ってやったことだしな…)
「何だ、大声をだしてすまん、エリザの気持ちは嬉しいんだ」
「本当に?」
「あぁ」
「そうか…」
落ち込んだ時と同じ言葉だったが、今度はホッとした顔だった。
そんな中、タイミング悪くテントの入り口が開かれる。
「あっ」
「「…」」
食料として取ってきた山菜や魚、動物を持ったまま固まる仲間たち。
飯屋での会話を思い出す。
「私も王顕様の子種は欲しいと思うしな」
エリザノーラが言った爆弾発言。
そしてこの状況、2人が裸になってテントの中、悪夢を見て汗を流していた王顕と、横になり安堵した顔のエリザノーラ。
勘違いしない方が難しいだろう。
「ま、待て」
「にゃ、にゃにやってんのーー!」
「…」
「ギャアアアァ」
「ミクよ、吾らは少し離れておこう」
「―?」
叉夜は叫びながら、ルカは無表情で攻撃魔法を王顕に浴びせる。
エリザノーラは、危機一髪テントから飛び出して行った。
何の装備もしていないため、ダメージに加え、麻痺や火傷などをもろに受ける。
エリザノーラは何故に2人がキレたのか分かっていなかったが、彼女たちが落ち着くまでテントを離れることにした。
ルカが食事のしたくをしている間も、叉夜が王顕を全裸正座させ説教した。
エリザノーラが帰ってきてからは彼女も軽く怒られた後、食事の用意ができ、皆で食べる。
王顕の分け前だけが、調理前の食材だったのはかなりのショックだ。
「い、いただきます…」
しかたなく、自分で調理(焼くだけ)して食べた。
大きなため息を漏らしながら食事をとる。
彼女たちとのこの出来事で、悪夢の内容はほとんど忘れてしまった。
しかし、目が覚める直前に聞こえた言葉はまだ覚えている。
「また、あそぼうおにいさん」
「マタ、アソボウオニイサン」
2つの声色で聞こえたその言葉も、寝て明日の朝には忘れてしまう。
バトルの無い日常の話は落ち着く
次回は~…まだ考え中です
次回の投稿は1月9日です




