クシ島
最近遠出をしていなくて、どっか温泉とか回ってゆっくり旅をしたいですね
ちなみに一人旅です
友人と出かけたいとも思いますが、自分の時間配分で動きたい気分かな
ヒノモトの端、クシ島から数キロ先の海の上。
そこに小さな船に乗った2人が居た。
片方は、黒のセーラー服に日本刀を持った少女。
もう1人は、どこにでも居そうな青年。
そして彼らの少し前には、海から現れた黒い壁。
レベル26のモンスター【海坊主】。
【ワールド・インフィニティ】には居なかった種族で、妖怪だった。
そいつが数10体横に並んで通れないでいた。
「ここまで来るのに10日以上かかったんだぞ、無駄な疲れが溜まってるのにモンスターと戦うとか…」
「こいつは……、私が殺る、お前はそこにじっとしてればいい」
「いやいや、女の子に1人戦わせて見物とかって…おいおい!、待てってそいつだけじゃ」
王顕が立ち上がろうと腰を上げる間に、朝日は抜けない日本刀を振り上げ跳躍する。
海坊主の高さを越えた瞬間、彼女は息を呑む。
海坊主の巨体に隠れていたが、後には他にも複数の海坊主、【船幽霊】、【磯女】、【海座頭】、【栄螺鬼】などなど、その数は100近く居る。
「フッ、はっ、はあぁああぁ!」
朝日は、目の前の奴から順に斬りつけていく。
だが妖怪たちは、朝日を無視して何かから逃げるように突っ込んでくる。
朝日は異常に気後れし、後退して船に着地。
そして王顕は船の上から一突きした。
「拳神・無常正拳ッ」
スガギャギャギャギャガガガガガガガガガガガガ
眼前まで迫っていた妖怪を消し飛ばした。
「本当に無茶苦茶…」
「海に出てから、俺の力を何度も見てるんだ慣れただろ?」
「ええ、その度に私の中でお前の危険度は上がり続けている」
「もうそろそろ、俺を狙うの諦めないか?」
「絶対にその首はもらう」
ここまでしつこく、命を狙われる日が来るとは思わなかっただろう。
王顕は大きなため息をついた。
朝日は消し飛んだ妖怪が居た方を眺めている。
「どうした?」
「今の妖怪たちは、元々こんなにヒノモトから離れた場所には現れない」
「そうなのか、確かにさっきの奴ら様子がおかしかったな、何かから逃げているって感じだった」
「…考えるのは後にする、後20分でクシ島に着く」
「おお~やっとか、ここまでホント待ったわ~」
朝日は頭を振り一呼吸すると、船の針路を操作する。
王顕も、さっきまでの違和感は忘れて力を抜く。
ここまでの長い間、小さな船で海を旅してきたのだ、些細な事は気にしていられない。
20分後、島の岸に着くと船を海岸の岩場に縄で固定する。
海岸には島民がチラホラ見える。
ステータスは皆10前後くらい、他の大陸とはあきらかにスペックが違う。
そこに1人の若者が近付いてきた。
着物だが下はふんどし。
江戸時代に居そうな漁師の服装だ。
「あんた達誰だ、どっから来た?」
「俺はイヴィル、世界を旅している」
「イヴィル、イヴィルゥーーーーーーー!!」
「ぬおわぁ」
漁師の若者は、大声で名前を叫ぶ。
何をしたのと朝日が横目を送る。
何もした覚えが無いと、王顕は手を横にブンブン振る。
若者はその場にしゃがみ込み、頭を垂れる。
「お、お待ちしておりました!、叉夜様とイジェメド様にエリザ様が村でお待ちです…」
「な、本当か!!」
「?」
エリザと言う知らない名前が出て来たが、仲間達の無事を知り気付いていない。
若者は他の漁師仲間に事情を話し、村へと案内してくれる。
後ろを歩いていた朝日が話し掛ける。
「お前はなぜ2つの名を持つの」
「使い分けてるの、気にすんな」
「ならイジェメドとの関係は?」
「友達」
「…」
目付きの悪い彼女が、更に険しい顔になる。
四大竜王の名は、彼女の王顕を殺すという目的を曇らせるには十分なようだ。
海岸からすぐの山を登りきると、幻想的な光景が広がる。
日本の青ヶ島そっくり、山の中に小さな山がある。
その下に村が見えた。
「一度は来たかったんだよね」
日本に居た頃は、地元からほとんど出たことが無かったので、行きたい場所は多かった。
村まで下りていき、入り口では叉夜が待っていてくれた。
「叉夜!」
「ツッ、ご、ご主人様ぁ~」
王顕の呼び掛けに、走って来る叉夜。
抱きつかれ、王顕は優しく頭を撫でてやる。
「すまなかった、俺のせいで…」
「ううん、ご主人様が無事ならボクはそれで、ううううぅ」
泣き出した叉夜、村の中から竜化したイジェメドと蝙蝠の少女が飛んできた。
「無事だったか王顕、吾の古い馴染みが迷惑をかけた」
「どう言うことだ?」
「お前が泥酔しているときに襲ってきたのは、四大竜王である雷電竜王・カタライボでな」
「まじか…」
あの時の話を詳しく聞き、そしてこの島に着いたのが2日前らしかった。
「俺が油断しすぎだな…」
「いや、吾の力不足でもあった、友だけのせいではない」
「それで、そっちの娘は?」
王顕は蝙蝠少女を見て尋ねる。
彼女は村の入り口まで来るなり、ジッと王顕を観察している。
叉夜が目を拭くと、エリザを王顕の前まで引っ張ってくる。
「そうだよ!?、紹介するね、彼女はボクたちの仲間になってくれる娘で」
「エリザノーラ・レトロコレクション・ブラットウェポン…、エリザと呼んで」
「長い名前だな、はっはは、俺は王顕またはイヴィルな、よろしくエリザちゃん」
「ちゃん…、まあ良いですけど…、本当にこの人が貴女たちより強いの?、普通の人間にしか見えないけど」
「ちょっとエリザ!、ご主人様に失礼だよ」
「はっはっは、お、そうだこっちも紹介したい奴がな」
王顕が、後ろに控えていた朝日を前に出るよう促す。
「あ~何だ、俺をこの島まで送ってくれた朝日だ」
「…」
「あ、朝日?」
「よろしくする理由が無い、私は何があろうとお前の首をもらう側だ」
ザワアァ
朝日の言葉で殺気立つ叉夜。
王顕が彼女の肩を掴まなかったら、朝日の首を掻き切っていただろう。
朝日は彼女らとの、実力の差を理解した上で挑発している。
「殺り難くなったな」
「ご主人様、何でこんな奴と一緒に」
「成り行きだよ、この島まで送ってもらったんだ、後は彼女の自由さ」
使われていない小屋を2つ借りて泊まる。
朝日だけが別れる形だ。
「ルカとミクトルンがそろえば完璧なんだがな、無事に着く事を祈ろう」
「あの2人なら大丈夫たよ、それにしてもヒノモトに来たけど、聞いてたほど危険な大陸って感じじゃないね、ここがまだ大陸の端の方だからかな」
「いや、ヒノモトは前に来たことがあるが、こんなに妖怪が出ないのはおかしい…、それにこの島のに近付く瞬間から嫌な感じがしていた」
「嫌な感じ?」
「それボクもだよ、何か本能的にこの場所に居たくない、逃げないとって」
「う~ん」
この島に何か秘密があるのか、島民達は何も気付いていなかったし、朝日や王顕も何も感じてはいなかった。
「誰か近付いてくる」
コンコン
エリザが呟くと、引き戸をノックされる。
「朝日か?」
「たぶん足音からして村長」
「足音?」
「私の耳は特別製だから」
もう1度ノックされ、叉夜が引き戸を開けに行く。
エリザの言ったとおり、そこにはこの村の村長が居た。
彼は手に酒と魚貝類を持っている。
「一杯どうですか」
「…もらおうか」
男2人で晩酌をしたいと言われて、他の奴らには朝日の小屋に行ってもらった。
お猪口に透き通った酒を注ぐ。
「村長さん、この辺りはあまり妖怪が出ないようだけど、この島だけのことかな?」
「そうですね…、かれこれ20年前の事ですが、この島にある女性が流れ着きまして、それからと言うもの妖怪が一切現れなくなったのです」
お猪口を口に持っていき話してくれる。
「ふぅ、彼女はこの島に流れ着いたときには、既に記憶を失い自分が誰なのか、どこから来たのかすらも分かっていなかった」
「あんた達は怪しいとは思わなかったのか?」
王顕の問いに村長は顔を渋らせる。
酒瓶から、空になったお猪口に酒を注ぎさらに飲む。
ついで庵で温めた、つまみをほお張る。
王顕も魚を箸でほぐし食べる。
(鯛の塩焼きみたいな味だな、日本食にありつけるのは嬉しいな)
「最初は磯女や濡れ女かもしれんと警戒したものだ、しかし弱りきっていた彼女を放っておく訳には行かず、村人で看病する事に決めたのだ」
「なるほどね、それでその人は今どこに?」
「目の前の山の頂、そこにある神社に住んでもらっている」
「何でそんな場所に」
「我々からしてみれば、海から来た魔を遠ざける巫女のような存在だ」
「ふーーん、それでその話を俺にした理由は?」
村長は、両手を前に深々と頭を下げる。
おいおい、と王顕が手に持っていた箸とお猪口を床に置き、村長の頭を上げさせる。
「どうか、どうか、あの山には入らんでくださりたい」
「それはその女に会うなと?」
「はい、彼女にもしもの事があれば、またこの島は妖怪に怯えて暮らさないといけなくなります」
「う、う〜ん、分かったよ」
「お願いします」
「ちょっと聞いて良いか、その女の名前は?」
「さっきも言いましたが、彼女は記憶がなく我らで呼ばせてもらってる名なら」
「うん、それでいいよ」
王顕の問い掛けで、意外な名前が出てくる。
村長が口にした名は…。
「八百比丘尼です」
「は?、な、何でその名を付けたんだ?」
「元元が伝説の尼でして、彼女はその島に漂流してから見た目が変わらんので…」
「へ~そっか、そっか」
話を終え約束を交わすと、手土産に他にも魚貝類を置いて帰っていった。
だが王顕は、女の存在がかなり気になっていた。
「人魚の肉を食って、不老長寿になった女か…」
顎に手を当て、さすりながら呟く。
朝日が居た小屋。
朝日が準備していた夕食を、他の奴らまで食べていた。
「なぜここに来るの…」
「だって他に行く場所無かったし、それにしても味付け薄いね」
「文句があるなら出て行って」
「そうだぞ叉夜、自分じゃ何も作れないんだしな」
「ルカがいつも作ってくれてたし」
「私も料理はそれなりに作れるよ、盗賊時代は私が家族の分も作ってたし」
「エリザの料理って何か怖いよ」
「どういう意味」
「黙ってられないなら出て行く!!」
最後に朝日が大声を出して、みんなは静かに夕食を済ませる。
それほど広くない室内に、4人がそれぞれ部屋の隅に自分の場所を設ける。
朝日は道具の手入れ後、湯浴みに行き。
叉夜は、安心しきった顔で眠ってしまった。
イジェメドは退屈そうに、庵の火を見詰めている。
エリザは耳を澄ませ、王顕の小屋の会話を聞いていた。
「エリザ、盗み聞きは感心しないな」
「私はまだあの男が、どれ程の男か見定めていない」
「吾らの在り方が、その証明じゃないのか」
「それでも自分で確認しないと」
「そうか、まぁ吾も話の内容は気になっているし、聞かせてもらおうか」
イジェメドが立ち上がり、エリザの横に座る。
エリザはとりあえず、2人の会話の内容を伝える。
「何だ、吾らが来たときと同じ話しか…」
「私たちより上の存在である彼に約束させれば、下の者たちが従うからでしょう」
「上の存在って認めてる?」
「仮よ、か・り」
「がっはは」
「ふんっ、彼女が帰って来たわよ」
ガラガラガラ
引き戸を開けて入ってきたのは、白い肌を少し火照らせた朝日だ。
いつものセーラー服じゃなく、寝間着に使っている軽く透けた着物を着ている。
肩に担いだ風呂敷にはセーラー服が入っているのだろう。
「そう言えば、この中で人なのはお前だけだな」
「火焔竜王…、人だから何か?、かの勇者も人だったでしょ」
「奴か、確かに人でわあったが、人を超越はしていたな」
イジェメドは、勇者と対峙した時のことを思い出した。
「貴女は彼を敵視しているけど、何かあったの」
「彼が危険な存在だから、それだけ」
エリザの質問に素っ気なく答える。
朝日は庵の近くに腰を下ろした。
ちょうどその時、村長が王顕の小屋を出ていくのをエリザが音で確認した。
「村長出ていったみたいだよ」
「そうか、なら戻るとするか、邪魔したな」
「…」
朝日は何も答えなかった。
イジェメドは叉夜を背負うと小屋を出ていった。
その後を、エリザが付いていく。
(八百比丘尼が人魚を食べた?、不老長寿?、何の話)
エリザは王顕の一人言に違和感を感じていた。
王顕の居る小屋に戻ってきた3人。
「お、帰ったか、ちょうど村長も出てったとこだ」
「知ってる、エリザが聞いてたからな」
「ちょ、それは」
「そっか聴覚が優れてるんだっけ、便利だな」
盗み聞きの事を普通にイジェメドがバラして、エリザがうろたえるが、王顕は全く気にしていない。
王顕は、イジェメドの背中で寝息を立てている叉夜に気づく。
「叉夜は寝ちまったのか」
「王顕の無事が知れて安心したのだろう、このところまともに寝ていなかったからな」
「本当に悪いことしちまったな」
王顕は欲界の倉庫を開き、中からタオルケットを取り出すと叉夜にかけてやる。
エリザが、異常な状況にに反応した。
「い、今どこから物を出したの?」
「ん、あぁ、俺のスキルの1つなんだよ、エリザちゃんは目が悪いのに良く分かるな〜」
「空間を操るスキル…」
「さて、エリザちゃんは俺たちの仲間になったんなら、改めて俺の事を知っておく必要があるだろ」
次元闘技場を発動。
王顕とエリザだけが、場所を変える。
耳から得られる情報で、周りの変化を敏感に捉える。
「こんな事って」
「ここなら周りを気にしなくて良いからね」
ブワァアアァ
王顕が隠蔽を解き、魔王の姿へと戻る。
今までに聞いたことの無い音。
敵わない、そう本能的に体が訴える。
「う、あ、うぅ」
とうとう脚に力が入らず、立っていられなくなる。
王顕はすぐに自分の力を抑え込む。
「すまん!、久しぶりに元の姿に戻ったんで加減が分からなかった」
王顕はエリザに駆け寄り、震える体をそっと抱き寄せた。
最初の内は息も乱れ、意識を失いかけたが、落ち着きを取り戻す。
「はぁはぁ、も、もう大丈夫…」
「辛かったら言えよ」
王顕はエリザから離れると、力の制御が甘かっただけでは無いことに気付く。
「まさか…、強くなってるのか?」
王顕は今までの旅で、レベルを上げていたのだ。
だがステータスは変わらず、測定不能を示すだけだった。
エリザは王顕の姿こそぼやけてしか見えないが、他の器官が敏感に王顕の驚異を感じ取る。
自分でも気付かぬうちに、いつの間にか体中から汗を滝のように流していた。
「貴方はいったい何者」
「王顕と言う生物だな」
「…そう」
「さて、俺がどういった存在なのか分かってもらえたかな」
「余計分からなくなったかも、だから貴方の事をもっと知りたいし、貴方に付いていけば知らない事をもっと知れそう」
「ははは、いいよいいよ、付いてきな」
「改めてよろしくお願いします、王顕様とお呼びしても」
「あ、ああ、いいよ」
(様付け…、これはこれで良いな…)
こうしてエリザは、正式に王顕たちの仲間に入ることになった。
次元闘技場の効果を解き、元の場所に戻ってくる。
イジェメドは、帰ってきた王顕にさっそく小言を漏らす。
「急に居なくなるのはやめろ、また叉夜が泣き出しかねん」
「お前にも泣いてほしいけどな」
「ふん」
王顕の返しに、そっぽを向いてしまった。
「王顕様、私は水を浴びて来ます」
「そうだな、行ってきな」
「失礼します」
エリザは汗で貼り付いた服を足で摘み、1人外に出ていった。
イジェメドが笑みを浮かべ、話し掛けてくる。
「素直になってるな、かなり怖い思いをさせたんじゃないか」
「結果そうなったんだよ、そういや俺が村長と話してる間、どこに居たんだ」
「朝日とか言う人間の小屋に全員で押し掛けて、夕食をもらっていたな」
「お前らなぁ…」
王顕は、イジェメドのあっけらかんとした態度と答えに、頭を抱える。
1人立つと、出入口に向かう。
「朝日の所に行ってくる」
「ん、そうか」
「ムニャムニャ…、ご主人様…えへへ」
イジェメドは村長が置いていった物にさっそく手をだし、叉夜は寝言をこぼしながら、にんまり笑っている。
王顕は朝日の小屋へと足を運ぶと、仲間が迷惑かけたことを謝ろうと、引き戸を開ける。
「へ…」
「あ…」
王顕と出会ってから、セーラー服以外を見せたことの無かった朝日、今の姿は透けて地肌が見える着物だ。
痩せ型の体で、手の平サイズより少し小さめの胸が、着物越しに先端までしっかり見えていた。
気まずい空気が流れるなか、先に動いたのは王顕だ。
「ごめん、そしてごちそうさまです」
それだけ言うと、ソッと戸を閉めた。
「~~~~~~~~~~~~////」
声にならない声が聞こえた。
王顕はその声を背に走り出し、セーラー服に着替えた朝日に追いかけられた。
今回はヒノモトでの最初のお話で、妖怪を出したり、仲間との合流などがメインでした
次回は島のお話の続きですね
島に流れ着いた女性がメインでやりたいですね




