獣人の国アマリナ
友人が仕事頑張りすぎて、胃に穴が開いたらしい…
ほんっと、体には気をつけて欲しいデスワー
皆さんも無理しないで、きつかったら休んでくださいネ
と言う事で記念すべき30話です
シノが日鋼王を連れて旅に出て2日、旅をしている一団に出くわし馬車に乗せてもらい、アマリナまで乗せていってもらっていた。
2人は互いに隠蔽を使っており、人の姿になっている。
シノの装備は”魔道の革服”、効果は特攻力と特防力を大幅に上げる。
緑色のツヤツヤして胸元の開いた服に、ミニスカートを穿いて、その上からマントを羽織っている。
「みんな見えて来たよ、アマリナだ」
馬車の綱を握ったおじさんが、後の仲間達に聞こえるように大声を出す。
馬車は全部で11台、シノが乗っているのは11番目の馬車だ。
荷台から顔をだすと、目の前にほぼ90度の絶壁が見え、道先に一筋の亀裂が見えた。
アマリナは、三千メートル級の壁で囲まれている国だった。
「すごい場所に在るんだね~、入れる場所はあの亀裂か、三千メートル飛ぶしかないよね」
「師匠と俺だけなら、昨日にはこの場所に来れたはずだってのに…」
「サル~そんな事言わない、彼らも困っていたんだから助け合わないと、おかげで体力温存に、食料も分けてもらったでしょ」
「は~、優しすぎるよ師匠は…」
この一団は山で崖崩れに遭い、瀕死のところをシノの回復魔法で救っていた。
無事に全員生きていたのは運が良かった。
馬車は最初は倍くらいあったのだが壊れてしまい、救った人達で今はどの馬車もパンパンだ。
そして彼らの団長が、恩返しの為に目的地まで乗せてってくれる事になったのだ。
絶壁の中を進んでいく、亀裂の幅は100メートルほど、高さは暗くて良く分からなかった。
「さあ、ここがアマリナだ」
「うわぁ、これは予想外な景色だよ」
壁を通り過ぎると、そこには巨大な壁に囲まれ、下には澄んだ泉の中に細い木が幾つも生え、中央に見たことの無い超巨大な木に国が乗っかっていた。
シノはその美しい空間に感動して、息を呑む。
絶壁の内側には、全体が光る木が壁びっしりに生えて、外より日の光が入らない時間が長いこの国を照らしている。
国と言うか、巨大な木に向うには船を使うしかない。
馬車も乗れる幅広い船を使う。
「綺麗な水、透き通って泉の底まで見える、あっ魚」
「ほいっ!ガブゥ」
「あ…」
「もぐもぐ、ゴクン、ふつーに美味いな」
シノが少女のように目を輝かせ、泉の魚に手を伸ばしたところを日鋼王が素早く捕まえかぶりつく。
彼女はムスッと口を尖らせ睨む。
「貴方ってほんっとーに乱暴ね、ホントサルだよ」
「それはこの2日間で分かってるだろ、師匠」
「は~、召喚するの間違えたかな…」
「♪~♪♪~」
シノは肩を落としため息を付き、日鋼王は鼻歌交じりに寝転がる。
アマリナまでは数分で付き、後は木の幹に設けられた螺旋の道を上る。
緩やかな道なので、馬車でも上がっていける。
それでも国まで行き着くのに、それなりに時間が掛かる。
「準備しとかないとね」
シノは欲界の倉庫から1通の手紙を取り出す。
ベアトリクスから貰った手紙で入国に必要になるとか、シノは字が読めないから何が書いてあるかは分からなかった。
約2時間後、ゲートが見えてきた。
そこに立っていたのは、ライオンの獣人で縦縞の軍服を着ている。
「入国審査にご協力をお願いします」
「はい、これ」
「これは…っ!、少々お待ちを」
「あ、あれ?」
ライオンは控えていた狼の獣人に代わり、奥に走っていった。
状況が分からず、キョトンと立ち尽くす。
日鋼王は頬を掻きながら、大きなあくびを1つ。
一緒にここまで来た一団は、先に入国していった。
彼等はシノたちが入国できるまで待つと言ってくれたが、そこまでする必要も無いからと先に行かせた。
一団が入国して数分後、ライオンがシマリスの獣人の女性を連れ戻ってきた。
「大変お待たせ致しました、私はビースターズの副団長でマロンです」
「ビースターズ?」
「ビースターズは、ここアマリナの治安維持の団体です」
「それで、その副団長さんが来てくれたのかな?」
副団長のレベルは28で周りの獣人は20前後だった。
規律に厳しそうな眼鏡女子、手には書類の束、服は他の奴らと同じ縦縞の軍服のロングスカートで、隙間から丸まった尻尾が出ている。
彼女は書類の中から手紙を取り出す。
「これベアトリクス様の手紙ですね」
「はい、そうです」
「これはこの世界であらゆる国を無条件で入国でき、第一級禁止区域にも、王の住まう城にも許可無しで入れる代物です、しかも特殊な魔力が籠められ偽造は不可能」
「へ、へぇ~」
(あの手紙にそんな効果が…、もう貴重なアイテムだね…)
手紙をシノに返し、眼鏡をクイッと上げ話を進める。
「ようこそお出でくださりました、サン様とお連れ様ですね、ベアトリクス様から連絡が来ておりましたので」
「え、そうなんですか」
「…」
「はい、ガトラン団長に会いに来られる者が2人訪ねに来ると」
「ガトランさんって団長だったの」
「勇者の元仲間で英雄、猛獣重騎士・ガトランはビースターズの団長であり、この国の王です」
「え、ええええぇぇ、聞いてないよーーー」
その後、ガトランは多忙で明日城に案内するとの事で、この国で1番高価な宿に案内され、無料で使っていいと言われた。
国の中央で白いレンガ造りの建物、中は美術的な装飾にインテリア。
地球で住むなら、一泊数万しそうな宿だった。
シノは、キョロキョロと落ち着かない感じだ。
日鋼王は、相変わらずつまらなさそうな顔をしている。
案内人に部屋まで案内され、さらに驚く。
案内されたのは7階の最上階。
「こ、こんな所にタダで…」
「うわぁ」
大理石の床にに金の花瓶、キングサイズのベットがあり、1人で使うとも思えない広い浴場に、国を見渡せるテラス付きの部屋で、一般市民の彼女は落ち着かない。
日鋼王は隣の部屋で、作りも同じだ。
「うわうわうわ、豪華すぎるよ」
「それでは御用の際は、こちらのアイテムをお使いください」
渡されたのは1枚のカード、通信用のアイテムらしい。
食事はいつでも、2階のレストランで食べられるそうだ。
とりあえず2人は別行動をする事にした。
互いに国を回り、どんな場所なのかを把握する為に2人は外に出た。
時間はまだ午前で、あと1時間もすれば昼になる。
この国の地図は、さっきマロンから貰っているので開いてみる。
「字は…読めないけど、何となく東に開けた場所があって、北にお城があるね」
街中を歩くと太い木の枝が生え、その枝を利用して建物などを建てている。
すれ違うのは獣人ばっかり、犬、猫、牛、兎、馬、羊、山羊、猿、鳥、熊、様々な獣人とすれ違う。
東には、田畑が段々畑の様に広がっていた。
穀物、野菜、果物を栽培している。
西にはビースターズの本部があり、治安が良いので周りには店が沢山ある。
南はゲートと、普通の宿屋に居住区が建ち並んでいる。
「やっぱり、私たちが泊めて貰う所って桁が違うみたいね…、国民のレベルは平均して7~10ほど、一般人より少し高いかな」
ガヤガヤ、ワーワー
「ん?何だろ?」
と、治安の良い筈の西地区で、数人での喧嘩が始まっていた。
その騒ぎに気付き、シノはテレポートを使い向う。
喧嘩は獣人同士のもので、殴り合いにより2,3人が倒れている。
「てめぇ!」
「ふざけんなよ!」
「痛っ、クソがぁ!」
「やんのか、あぁ!」
荒れ放題、店にも被害が出ている。
「あ~あ~、何が原因なのかな、知ってる人います?」
「それがな1人が肩にぶつかってね、その相手が血の気の多い奴でさ、ぶつかった事に腹を立てて殴ったのが始まり、そこから周りの奴らを巻き込んでいって今に至るってな」
隣に居た気さくな狐男に聞くと、ヘラヘラと話してくれた。
シノは話を聞くと喧嘩の真っ只中に入っていく。
「お、おい姉ちゃん危ねえぞ」
「大丈夫だよ」
スタスタと歩き出したシノを、ヘラヘラしていた狐がギョッとした顔で声を掛けたが、彼女は笑顔で返しただけで歩みを止めない。
殴り合いは2人から始まり、今では30人くらいに増えている。
「はいは~い、みなさん落ち着いてね」
その声は頭に直接響くような声で、殴り合っていた奴らもだが、騒ぎを聞きつけ集まった者達も静かになった。
”テレパス”、不特定多数の人物に自分の声を届けるスキル。
「喧嘩の原因は聞きました、ですがここは1番人の集まるエリアです、何の関係もない人達まで怪我をしてしまいますよ」
「姉ちゃんには関係ないだろ、…それよりも色っぽい体してるな~」
喧嘩していた熊の獣人がシノに手を伸ばす。
が、その手が彼女に触れる前に、体を地面にめり込ませる。
「グ、ガアアァ」
「下品な人は嫌いです」
”グラビティ”、レベル20の闇魔法、敵単体に重力を掛け押し潰す。
熊は力いっぱい起き上がろうとするが、立つどころか指1本動かす事ができない。
周りもこの状況に、開いた口が閉じれないでいる。
「ちなみにこれ手加減ね、今すぐ喧嘩をやめないと全員潰しちゃうから」
ニコっと笑う顔に、野生の感が警告音を鳴らす。
恐怖を感じ取り、喧嘩をしていた奴らは蜘蛛の子を散らすか様にバラバラに逃げていった。
熊の獣人も、グラビティが解け這いずる様に逃げた。
「はい、めでたしめでたし」
「「うおーーーーー」」
「きゃっ、ビックリした」
集まっていた野次馬が一気に叫ぶ。
「すげーよ、あんな魔法見たこと無い」
「普通人間にしてはやるな~」
「しかも女の子で、見惚れる美しさ」
「ヒューヒュー」
「いやぁ、店の前で騒がれてたから助かったよ、これ持って行きな」
鹿のおばちゃんが、果物の詰まった袋を手渡す。
遠慮していたら、他の店の店主達も自分の商品を差し出してきた。
そんなこんなしていると、ビースターズがやって来た。
どうやらマロンは居ないようだ。
「騒ぎがあったとの報告があって来た、何があった」
「遅いよ、たくもうこの娘が治めてくれたさ」
「この女がか」
「え、えっと…どうも」
先頭に立っていた虎の獣人が顔を近づける。
鋭い肉食獣の眼光と牙が少し怖い。
「ひとまず本部までご同行願おうか」
「え、ええぇ、何で」
「普通の人間が、獣人達を追い払えるとは思えないんでね」
「あ、あの私サンって言うんだけど」
「そうか、それではサン付いて来てもらおうか」
「え、あ~はぃ~」
(私の名前ってビースターズに広まってないのかな、しかも隠蔽でレベル的にこっちが低くしてるし、騒ぎを治めたなんて怪しまれて当然だよね)
あれよあれよとビースターズ4人に囲まれ、連れて行かれようとする。
その時、果物をくれた鹿のおばちゃんや、他の店の人達が私達に前に出る。
「ちょっと、その娘は悪いことは何もしちゃいないよ!」
「そうだそうだ、彼女が居なければもっと被害が出てたはずだ」
「お礼を言うならまだしも、捕らえるなんて間違ってるよ」
「おばさん分かってくれ、これもこの国を守る俺たちの仕事なんだ、少しでも怪しければ連れて行かないと」
「あんたらねぇ」
「えっと、大丈夫ですよ、誤解はすぐ解けると思いますから」
「お嬢ちゃん…」
シノが微笑むと、店の主達は渋々道を開けてくれた。
その後ビースターズの本部に連れられ、中の待合室で待たされる。
枝の中だからか、窓も無いのにやけに涼しい部屋だった。
見張りに2人の獣人が待機していた(どちらも犬)。
なんとも落ち着かない部屋の中で、ソワソワと時間が過ぎる。
欲界の倉庫を手元に開き、さっき貰った果実を取り出す。
その動作に敏感に反応する獣人。
「貴様!何をした!」
「ひゃああ、急に怒鳴らないでよ」
「どこからナホを出したんだ」
「ナホって言うんだこれ、あ、質問については秘密で」
「…」
緑の皮に楕円系の果実、中のみは白く甘味と酸味がある。
その実を3人分出し、見張り役の2人に投げ渡す。
「「…要らん」」
「食べないの美味しいよ」シャクシャク
ナイフで器用に皮を剥き、食べ始めるシノ。
どこから出したとも分からない物なので、2人は机にそっと置いた。
ガチャっと待合室の扉が開く、ちょうどナホを1つ食べ終えた時だった。
「サン様…大変申し訳ありません」
入ってきたのはシマリスの獣人マロン、彼女は部屋に入ってくるなり、深々と頭を下げた。
後にはテンションが低く、顔を青く染めた2人が控えていた。
見張り役2人も状況が把握できず、互いの顔を見合わせる。
マロンは、犬2人を睨み口を開く。
「貴方達何をぼさっと突っ立っているんです、彼女は団長のお客様で英雄・ベアトリクス様のご友人なのですよ、それを貴方達は!!」
「「あ、え、それは、も、申し訳ありません」」
「そ、そんなに謝らないで、マロンさんも叱らないでください、彼らも悪気があってこの場所に連れて来た訳じゃないんですから」
「しかし…」
シノのほくそ笑む姿にやれやれと頭を振り、4人には仕事に戻るように告げる。
だが、虎の獣人が残りシノに近付き、再度頭を下げる。
「え、えっとー」
「サン様、この度はこちらの落ち度で大変な迷惑を掛けてしまって、しかもその広い心の器で我々の過ちを許してくれた事、感謝いたします」
「いや、そんな事しなくていいから、ほら、他の人達も待ってるんじゃないのかな」
「はい…、それでは副団長失礼いたします」
虎は敬礼すると扉から出て行った。
残されたのはシノとマロン。
そしてマロンの勧めで、彼女の仕事部屋に行く事になった。
彼女の部屋は綺麗に片付けられ、本棚が並び、ゴミやホコリ無い綺麗な部屋で、執務机には山済みの書類があった。
仕事の途中だったのか、書類の文字が途中で切れている。
「お茶を準備しよう、少し待っていてくれ」
「そんな気を使わなくていいのに」
「いや、こちらも迷惑を掛けてしまったんだ、これくらいはさせてくれ」
お茶はフルーツを使ったお茶で、甘い香りが部屋を包む。
「良い香り」
「団長は机の上の仕事が苦手な方で、全て私がやっているのです、だから疲れを取るために甘い物は常時準備してるんです」
お茶菓子に甘いクッキーも出してくれた。
部屋には待合室にもあったようなテーブルとソファがあり、対面に座りカップを手に取る。
茶色い液体には柑橘系の香り、飲むとレモンティーに似ていた。
「美味しい」
「お口に合って何よりです」
「マロンさん1つ良いですか?」
「私に答えられる事なら、2つでも3つでもどうぞ」
カップをテーブルに置き、眼鏡を指で上げ背筋を伸ばす。
シノはこの場所に来れたからこその質問をする。
「ここがビースターズの本部なら、その団長であるガトランさんもここに居るんですか?」
「いえ、今日の用事としては団長としてではなく、王としての用事ですので城に、明日は宿に私が迎えに行きますので」
「なるほど、それじゃあガトランさんってどんな人?」
「逞しくも優しいかたです」
「そ、そうなんだ」
彼女との話を済ませると、昼ご飯もご一緒して高級宿へと戻った。
日鋼王はすでに戻ってきており、眠りこけていた。
そして夜を過ぎ朝、約束どおりマロンが迎えに来てくれた。
目指すは英雄・ガトランの城、馬車に乗り込み城の中に、この城もまた木の枝から出来ていた。
城と言うよりは塔って感じだった。
来客を迎える部屋に案内されると、そこには1人の大男が座っていた。
「良く来た、俺様がガトランじゃ」
今回は引き続きシノのお話でした、元勇者の仲間で英雄のガトランはどんな人物でしょうか
と言う事で次回もシノたちのお話になります
本当は今回で終わって、次回はまた王顕の話に戻る予定だったのに、予定って狂いますよね…




