ダンジョンの主達は変なのばっか
梅雨も明けて夏本番
熱中症にはくれぐれも気をつけて下さいね
実際に倒れると、いろいろと辛いですから…あーあーあー
ミクトルンとイジェメドは、最初の砂漠ダンジョンをクリアし、19ヶ所目のダンジョンに来ていた。
塀に囲まれたダンジョンで、塀を何度も壊し、襲ってきたモンスターを何度も殺し、ダンジョン”卵壁”の中央までたどり着いた。
そこには今までと違い、材質が強固な物になっている。
魔力で強化して、造られているみたいだ。
例えるなら、石から鋼鉄に変わった様なものだ。
そして、その塀の上にそいつは居た。
「来たよ、来たよ」
「来たな、来たな」
塀に座っている2体は、卵形の胴体に顔があり、その体から手足の生えた姿。
肌は、それぞれ白と赤茶色をしている。
服は、小さな帽子にズボンを顎の下まで履いた格好。
【ハンプティ】
種族 神
役職 下級神
レベル 220
HP 13000/13000
MP 9100/9100
攻撃力 480
防御力 660
特攻力 680
特防力 550
【ダンプティ】
種族 神
役職 下級神
レベル 220
HP 9000/9000
MP 13000/13000
攻撃力 660
防御力 480
特攻力 550
特防力 680
双子の神で、このダンジョンの主。
「はぁ~、何で自分たちが四大竜王の相手を…」
「ふぅ~、何で自分たちが上級神の相手を…」
神2人は、実に嫌そうな顔で、来訪者を塀の上から見下ろしていた。
イジェメドは、相手の事を知っている。
以前に、キフォーカ大陸を訪れた際にも出会っていたからだ、その時は彼らのスキルに苦しめられた。
「厄介な…」
「「”塀から落ちた卵”」」
「てっ!、さっそく使いやがった!!」
ハンプティ&ダンプティは、お互いの手を合わせてスキルを発動させる。
能力は塀の上から落ちて、自分の体を爆発し飛散させ、相手にダメージを与え、さらにバラバラになった体を元に戻す事こそが、このダンジョンのクリア条件だった。
落ちてくる卵形の生き物。
「―”窓の無い部屋”」
だが、ハンプティとダンプティのスキルは発動しなかった。
代わりに、あたり一面が闇に包まれた。
見えず、聞こえず、匂いも分からず、感じられない。
ミクトルンのスキルで、王顕が彼女に最初に感じた、恐怖の理由。
自分の領域を創り、自分の周囲15メートルで発動、この時ミクトルンは魔法を使えなくなる。
この中では、ミクトルンと彼女が認めた者以外の生物は、全ての感覚を失い、スキルを封じられる。
ハンプティ&ダンプティの2人は、自分達のスキルが発動しないばかりか、何も感じられなくなった事にうろたえる。
「―お兄ちゃんはどこ?」
「「ッ…ツッ……」」
「―ねぇ、聞いてるの?、ねぇ」
双子に対してのミクトルンの問いかけは、彼女自身のスキルにより聞こえていない。
互いに相手の体に触れているのに、その事すら気付けてもいない。
「上級神のスキルは狂ってるな…」
ミクトルンの中では、イジェメドは王顕の仲間だと認識していた為、このスキルの影響を受けてはいない。
そして窓の無い部屋の最も恐ろしいところは、この領域の中に9日間居続けると強制的にHPが0になる。
「―ねぇ、お兄ちゃんは?ねぇてば」
ズンッズンズンッ
ミクトルンは肩を揺すっている積もりだが、ハンプティにとっては大ダメージの攻撃でしかない、5,6回体を揺すっただけでHPが0になった。
「かぁ…」
「―――」
神の復活で何とか死なずにすんだが、…次は無い。
ハンプティが動かなくなったので、今度はダンプティに手を伸ばすミクトルン。
「―ねぇ、教えてよお兄ちゃんの居場所」
「が、へぇ…」
グシャアァ
両手で圧殺した。
ダンプティも神の復活により蘇るが、そのまま気絶した。
その瞬間、ダンジョン卵壁に出口が出現した。
どうやら、ダンジョンをクリアしたようだ。
「そこまでだミクトルン、王顕が心配なら先に進んで自分で見つけるしかない」
「―分かった」
「ふぅ」
アリスは遊びたいだけで、殺そうと思ってはいない。
だが、もしこちらがアリス側の者を殺せば相手も本気になるだろう。
そうなったら、またややこしい事になる。
2人は、次のダンジョンに進む。
チャシャによると、彼女らがクリアすべきダンジョンは20ヶ所で、次で終わりのはずだ。
光る出口を抜けた先は、あらゆるものが大きくなった森だった。
「いや、吾らが縮んでいるのか…、出口を探すのも一苦労だな」
「―質量操作」
「おっと」
以前使った時とは、違う形で巨大化するミクトルン。
少女の姿のまま巨大化、その大きさは森の木々を超え、あっという間に90メートル近くに達した。
とっさにイジェメドは、ミクトランの肩に掴まり乗っかった。
「おお~、こんな事が出来るのか、良い眺めになったもんだな」
「―あそこ」
「おっ」
ミクトルンが指さす方向には、不思議な植物の森の奥に青い屋根と白い壁、童話に出てくる様な綺麗な城が見える。
アリスの住まう城にして、彼女の所有するアイテム”不思議なお城”。
距離は見た目より、だいぶ離れている様に感じる。
「あそこが最終目的地だな、それにしても前に来たときよりも嫌な場所になってるな」
「―あそこにお兄ちゃん居る?」
「さぁな、だが今までより居る可能性は高いだろう」
「―行く」
森の木々を踏み付けながら、城を目指し歩き出す。
狂った家の瓦礫の前。
「ぷぷぷぅ~、”狂ったお茶会”」
地面からテーブルと、ティーセットにお菓子が積まれている。
三月眠りの帽子屋のスキル。
能力は、お茶会への強制参加。
出されたお茶、お菓子をランダムに食べさせられ、食べた、飲んだものにより効果が変わる。
「え、体が勝手に、そんなの飲みたくないよっ」
「このスキルはやっかいですね」
叉夜は、コップに注がれた液体。
ルカは、皿に盛られたケーキを、2人は自分の手でそれらを口に運ぶ。
「う、ゴホッゴホッ、うえええぇぇ、飲んじゃった…」
「んぐんぐ、ゴクン、酷く甘いな…」
「あ、ああ、うあああああああ」
「くっ、ぬうううううう」
二人の体に異変が起こる。
叉夜は、体がどんどん小さくなって手の平サイズになった。
ルカは、逆に体がみるみる大きくなって5メートル程になった。
装備は体の大きさに適応して、変化してくれるので、そのままでいられた。
「ぷーーーぷぷぷ、美味しいかい?、美味しいだろう!、自慢のお茶にあま~いお菓子、みんながハッピーさ」
「な、何なのこれーーー」
「叉夜、体の大きさが変わっただけで、他には変化はありません、落ち着いてください」
「にゃ、う、うるさい~~…」
頭を振りアタフタする叉夜を落ち着かせようと、声を張り上げるルカ。
確かに、体の大きさが変わっただけかもしれないが、それでも感覚が狂う、声も大きさが変わっている。
「ま〜だまだぁ、お茶にお菓子はあるんだな〜」
「ツッ、フレア・ウイング・ドラゴン!」
「ほいっさぁ」
叉夜がスキル先止めを使い、相手より先に行動に出る。
レベル300の風と火が合わさった魔法で、風で切り刻み、炎で肉を焼く。
三月眠りの帽子屋は、それをいともたやすく避けた。
「そんな…」
「これは…」
2人は、避けられた事に驚いたのでは無い、叉夜の出した魔法の大きさに驚いたのだ。
ドラゴンと言うより、蛇だった。
「ぶっぷー、あったらなーーい」
「くっ、ムカつくな〜」
「魔法も、体に見合った大きさになるようですね…」
「そっのっ通りぃ、小さくなれば〜、避けるのも簡単さぁ」
(だったら私の魔法は、今かなりの広範囲に及ぶと言うことですか、迂闊に使えば叉夜も巻き込む可能性がありそうですね…)
魔法の大きさは変わっても、威力に関しては変わらないようで、小さなフレア・ウイング・ドラゴンは森の木に触れたとたん竜巻が発生し、辺りの木々と一緒に舞い上がり激しく燃えて炭になる。
三月眠りの帽子屋は、被っていた帽子を右手で取ると唱える。
「|お茶会ぃのぉぉ仲間達ぃぃ《ふしぎせいぶつ》」
帽子の中から、トンボの羽が6枚生え、人の体が集まって出来た顔を持つ巨大なイモムシと、首が長くて、嘴の割れた、漆黒の羽を持つ巨大な鳥が出てきた。
魔法で、帽子から仲間を召喚したのだ。
イモムシは必死に羽を動かすが、その体が宙を浮くことは無い。
鳥は、そんなイモムシの頭を爪で鷲掴みにすると、勢いよく空へ上昇した。
叉夜とルカは、共にその異様な様子に絶句していた。
「キモチワルイの増えたよルカ」
「そうですね、ですが帽子から出てきたのは、神では無いようですね、雰囲気はモンスターと同じです」
叉夜はフライトを使い、ルカの頭の横で浮かびながら顔をしかめる。
ルカは相手の様子を伺う。
「紹介ぃいったしましょう~」
三月眠りの帽子屋は、両手を広げ空に浮かぶ不思議生物を指差す。
すると鳥が、掴んでいたイモムシ落として、三月眠りの帽子屋が潰れる。
「クケケケケケケケケケ」
「ブゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」
鳥とイモムシわ笑う。
三月眠りの帽子屋はイモムシを持ち上げ、底の抜けたティーカップを口に運び、飲めないと分かると投げ捨ててニヤリと笑うと、そのままイモムシを投げつけて来た。
「この虫がぁ、ヘッド~~でぇすぅ」
「フレア・シールド!」
ルカは炎の盾を作り出し飛んできたヘッドを防ぐ。
防御魔法も体に見合った大きさになり、防ぐには十分な大きさだった。
ヘッドはフレア・シールドの効果で、全身に火傷を負った。
「フゲフゲェェェェェェェ」
体を大きくくねらせながら、地面を転がるヘッド。
「そして~こちらは~、ドドでぇ~す」
「クケックケックケケケケエェ」
ヘッドの事は気にしないで、飛び続ける鳥の紹介に移る。
ドドは、割れた嘴を交互に開け閉めして鳴く。
「現れたモンスターは、どちらもレベルは120…、一撃では倒せそうに無いですね」
「ご主人様なら、数秒もあれば倒してるよね」
「叉夜…、私達だけでこの程度の敵を倒せなくては、これからの旅は足手まといにしかなりませんよ」
「…それはとっても嫌だね」
2人は王顕に付いて行く為、神を倒すと意気込む。
ヘッドの顔が崩れる。
ボトッボトボトボト
「うああぁ」
「お、おう、おお」
「あああ、ああぁぁあ」
顔から落ちた人?が、呻きを上げながら立ち上がる。
その数は20体ほどだ。
「何あれ…、人?」
「いいえ、あれは人形ですね」
ヘッドの顔は人形を無くし、素顔がさらけ出されていた。
その顔は、皺だらけの老婆の顔だった。
「フッハアァ」
ルカは、ライフイーターを振るい人形をなぎ倒していく。
効果でHPの回復も行われる。
「フゲ~~」
ヘッドが、その巨体を揺らしながら迫ってくる。
「やあああぁ」
叉夜は先止めを使い、ヘッドがルカに体当たりする前に文字通り目の前に飛んでいく。
神獣の爪を装備した両手で、目に拳を叩き込む。
「ゲゲゲゲゲゲゲエエエエエエェェェェェェ」
神獣の爪の効果で毒、麻痺、火傷、呪いがヘッドに付与された。
麻痺で動けずに毒と火傷でHPは削られ、呪いでスキルも使えなくなった。
「たたみ掛けます」
「分かってるよ」
「コールド・アウト」
「サンダー・ブレイク」
「ゲベエェ」
ルカの手の平から冷気が広がり、ヘッドの体が中まで全てが凍る。
その上で、叉夜の手の平からは電気がほとばしる。
凍ったイモムシの体が、電気で半分が砕ける。
その時、ドドが回転を加えながら高速で落下してきた。
ルカはそれを避けそこね、腕を1本もぎ取られた。
「ツッ――、シャアァ」
「ルカッ!」
「クケコーー」
ルカは、腕を失いながらも尻尾でドドを狙う。
ガシィ
「!!!こいつ!!!」
「ゲ、ゲゲ」
ルカの尻尾をヘッドが掴んで止めた。
ドドは今度急上昇して、ルカの尻尾を切断した。
「ぬうぅ」
「こいつらっ」
「叉夜!」
叉夜は仲間を傷つけられた事に逆上して、ドドを追いかける。
が、それが命取りになる。
「…あ」
「はい、はぁぁい、つっかまえったああああああああ、こーーーしきぃふうういいいんんん」
ノーマークになっていた三月眠りの帽子屋が、叉夜の前に現れると封印魔法を使われた。
「叉夜おおおおおおお」
「ぷーーーーぷぷぷうううぅぅぅ」
ルカはギガポーションを取り出すと、瓶を割り傷を癒すとヘッドにフレア・ウイング・ドラゴンをぶつけ蒸発させた。
「…叉夜を返してもらう」
「クケクケケケ」
「むぅりぃ~、ぷぷぷ」
「なら、力ずく取り返します」
ルカは4つの手を重ね、合掌するとスキルを発動させる。
「超越変化」
ルカの体中が変化し始める。
筋肉から骨格に至るまで、蠢き形を変えていく。
ミシボコッボコボコゴキン
耳を閉じたくなる様な音が聞こえて来る。
「おおおオオオオアアアアアあああああああぁぁぁぁ」
ドウゥゥ
森の木が、ルカを中心に外側に倒れていく。
「ふううぅぅ」
超越変化は、一部の種族が持つスキルで体を変化させ、肉体や魔法に他のスキルを強化する。
佇むのは、肌が赤く硬質化し、髪は背中の辺りまで伸び、肩甲骨から生えていた鋏は巨大な盾のようになり、下半身は完全に蠍の胴体に変わっている。
森がざわめき、モンスターが怯える。
「これはああぁ、驚きぃ~ですぅねええぇ」
「クケ、クケケ…」
「…」ビュン
「オヒョーーーー」
「グベヘエ…」
ルカの尻尾が、敵2人に目掛け神速で伸ばされた。
三月眠りの帽子屋は腕を掠めて、ドドは胸に毒針が突き刺さる。
ドドは毒で肉が溶け、骨までボロボロに崩れてしまった。
「この姿は醜くて見られたくないのですが、貴方が悪いんですから」
「ドドがああああぁぁ、ぷぷ、一撃ですかあぁ」
「死になさい」
「い~やでええええすうぅ」
「ふんっ!」
尻尾を縦横無尽に動かし、相手を仕留めに行く。
だが、三月眠りの帽子屋はフラフラとふざけた動きでかわし続ける。
「テーーーーンンンペストオオオオオオ」
「はあっ」
ガッキイイン
テンペストはレベル60の魔法で、細い竜巻を複数発生させ、槍のように放つ魔法。
三月眠りの帽子屋の風魔法を、ルカが鋏を体の前に持ってきて、左右の鋏を合わせ盾に使い防ぐ。
神経を逆撫でする笑みを見せながら、次の魔法を使おうとした瞬間、ガクッっと力が抜けたように脚から崩れ動かなくなった。
「なぬぬぬうううぅぅ、体ががが~」
「やっと効いて来たようですね…、私の毒が」
「あの時ぃかかかか~」
「私の毒は複数の効果をもたらします、ドドには細胞を分解する毒を、貴方には神経毒で、意識はそのままに体のみが動かなくなります」
「神があぁぁ、こおおおんなあああああことががが」
「さようなら」
「ままっオバアァ!」
ルカは、ライフイーターを三月眠りの帽子屋の体に、HPが0になるまで切り刻んだ。
その後、元の姿に戻り叉夜を助けた。
叉夜は封印された際に意識を失っていたので、ルカのあの姿は見ていない。
「叉夜すみません、戦いで消耗して動けなくなりました」
「いいよ、ボクも敵に捕まっちゃったしね」
ルカの超越変化は、使用すると当分は動けなくなってしまう。
「神を倒したんだし、ご主人様はルカの事を褒めてくれるよ」
「貴女も貴女なりに、頑張ってたって報告してあげますよ」
彼女達は神を倒し、不思議なお城に向う。
興味を持ってくれる方が、少しずつ増えてくれるのは励みになりますね~
今回は、仲間内でのパワーバランスを考えながら、このようなお話になりました
神としての圧倒的な勝利と、どこか危なっかしくも、最後は勝利する話です
次回はアリスですね




