キフォーカはダンジョンだらけ?
だらけきった生活をしていたせいで、筋肉が無さ過ぎる
懸垂を一回もできなかった事にショックが…
王顕は、もう1人の転生者の事など露知らず、仲間を連れ次の町に向かっていた。
「この大陸は、陸地が本当に狭いな」
「地図を見る限り、町が港町合わせて、2つしかありません」
「え?、じゃあさっきの港町とスティユラしか無いの?」
ルカの言う通り、地図上はキフォーカ大陸には町が2つだけで他には村1つも無かった。
叉夜は頭を捻り、猫耳をパタパタさせ、不思議そうにしていた。
イジェメドは宙を浮きながら、尻尾をくねらせ空を眺めている。
「当分は、この空を見れんな」
「どう言う事だイジェ」
イジェメドが、意味深な事を呟いたので尋ねた時、そいつが草むらから現れた。
「アリス様の命でやって来ましたー、白うさぎちゃんだぴょん」
白い毛並みのウサ耳の女性。
レオタードに、小さなシルクハットのバニーガール。手にはマジシャンが持ってそうなステッキ、首には懐中時計を提げている。
彼女はステッキをクルクル回しながら、王顕たちを観察する。
【白うさぎちゃん】
種族 人兎
役職 神の使徒
レベル 650
HP 43000/43000
MP 49500/49500
攻撃力 2030
防御力 1900
特攻力 2200
特防力 2730
神の使徒、上級神に選ばれた中級神よりも上の存在だ。
なぜそんな奴がこんな場所で彼等を待っていたのか…。
「何か用ですか、美人さん」
「「!」」
王顕が軽くふざけて聞くと、ルカと叉夜が美人と言う単語に、思いっきり反応する。
「私に向かって、美人さんって言ったのは貴方が初めてだぴょん」
「実際に美人だろ」
「…ご主人様は猫より兎が好きなのかな」
「…嫌な女ですね」
片方は落ち込み、片方は嫉妬し睨み付けている。
王顕は2人の肩を抱き、頭を撫でながらなだめる。
「お前らも、十分可愛いし美人だからそんな顔するな」
「う、うん!」
「主様がそうおっしゃるなら」
2人を下がらせ、王顕が前に出る。
するとイジェメドも横に並ぶ。
「久しぶりだな白兎、噛み殺されに来たか」
「もう、怖い恐いぴょん、四大竜王の中でも、最も気性の荒い貴女の封印が解かれるなんてぴょん、そして邪神のミクトルン・テクノウトリも復活してるぴょん」
「お前ら有名だな」
「当たり前だ、吾は四大竜王の1角だからな」
「―ミクは、ジッとしてただけだよ」
「神がそれでいいのか…」
イジェメドは少し誇らしげで、ミクトルンは興味無しの反応。
白うさぎちゃんは、杖の先端を王顕に向ける。
「そして、貴方が一番危険視されてるぴょん」
「俺がか、いやー目立つって恥ずかしいな」
「そういうとこは、嫌いじゃないぴょん」
「で、理由を聞こうか」
「貴方は分かって言ってるぴょん」
(まぁ、最強の竜と最悪の邪神と仲良くしてたらな、そりゃ危険視もされるわな)
頭を掻きながら、自分で結論を出す。
さて、結論は出たがそれでは本題、白うさぎちゃんが王顕の前に現れた理由だ。
白うさぎちゃんは、懐中時計を左手で握り、ニコッと笑う。
「それでは、主の命令を実行するぴょん」
カチッ
懐中時計のスイッチを押す音が聞こえた瞬間、王顕たちそれぞれの足下に穴が開く。
まさかの展開に、身動きできなかった。
「は?」
「にゃ」
「これは」
「やっぱり」
「―お兄ちゃん」
宙に浮いていた2人も、穴に吸い込まれる様に落ちていく。
全員が、白うさぎちゃんの前から消えた。
「良い旅をぴょん」
王顕は、長い時間スベリ台の様に落とされ、急に視界が広がった。
ブァア
「ぬはぁ、地下じゃねーーー」
青空に投げ出されている。
両手両足を広げて、バランスを取る。
「みんなは」
周りには誰も居ない、他の奴等は違う場所に落とされた様だ。
下には広大な平原、そして城が見える。
王顕はテレポートを使おうとしたが、発動しない。
「おいおい、まさかここら一帯がダンジョンかよ!」
ルカと叉夜は薄暗い霧がかかった森に居た。
ルカは、服に付いた砂ボコりを払い、辺りを確認する。
叉夜は、また王顕と離れて意気消沈していた。
「どうやら、主様たちと離されてしまった様ですね、それにこの森はダンジョンですね」
「あ〜ん、またご主人様と離ればなれ〜、ボクまだ甘えてないよ〜」
「私だって、構ってもらってません、今はこの状況を打破し、皆さんと合流しないと」
「う〜、ご主人様にしっかり抱きついてればよかったよ〜」
彼女たちは、防具を身に付け、霧の森を進んで行く事にした。
最強最悪ペア、竜と神が落ちた場所は砂漠が広がる場所だった。
ダンジョンで飛ぶことが出来ないので、歩いて進むしかない。
ズンッズンッ
ミクトルンが、歩く度に砂地に足が沈む。
そんな事を気にした様子も無く、砂を蹴って進んでいく。
「―お兄ちゃんを探さなきゃ」
「よりによって、邪神と一緒に行動とはな…」
ミクトルンの後を力なく歩くイジェメドだった。
中級神程度なら、簡単にくびり殺せる2人は、砂漠のダンジョンの出口を探す。
王顕は、地中にメリ込んでいた。
空に投げ出された時に見えた城から、相当離れた場所に落ちていた。
HPが減った感覚があったが、自動回復ですぐにダメージを負う前に戻る。
「ぬっがあぁ、いってーーー、てか何処だよここ」
周りには何にもない平原、短い草が生え、遠くの方に森が見える。
「今までに、体験したことないダンジョンだな…」
ダンジョンを楽しみたいが、仲間たちと別れてしまっている為、そうもいかない。
王顕は、欲界の倉庫から異界喰を取り出す。
「ふぅーー、うらぁ」
両手で槍を投げる。
異界喰の効果で、ダンジョン強制攻略を行う。
平原は霞の様に消えて、岩山の中に変わった。
周りは、切り立った岩肌の壁に1本の道。
「…これで攻略か?」
ギガポーションを飲みながら辺りをキョロキョロ。
確かに平原は脱したが、状況は変わっていない気がする。
試しにテレテポートを使うが、転移できない。
「また、別のダンジョンなのか…」
「そうだにゃん」
「うぉわぁ、ビックリした」
背後から声を掛けられ、肩をビクつかせる。
振り返るが、そこには誰も居ない。
索敵を使うと、目の前に1つの反応があった。
聞いた事の無い、声だったので攻撃する。
「斬首手刀」
ズガァン
反応のした方に、飛ぶ斬撃を打ち込む。
岩壁に、斜めの亀裂が入る。
「…」
「危ないにゃあぁ」
「おららららららぁ」
ビュビュビュビュビュッ
今度は、左から声が聞こえたので斬首手刀を連続で放つ。
岩肌が何度も砕ける。
「…殺ったか?」
「殺さないでほしいにゃ」
「誰なんだ、お前は」
誰も見当たらない、岩山に向けて質問すると、目の前にうっすらと女が姿を表した。
ボサボサで肩まである紫の髪に、猫耳が生え、白と紫の縞模様のレオタードを着ている。
両手両足は、獣化していて、紫の毛と大きな爪が見える。
「私はチャシャにゃ、これでも神様にゃあ」
(チャシャ猫…、アリスに白うさぎ、地球での童話が、こんな形でこの世界にあるなんてな…)
「んで、神様が俺に何の様かな?」
「ルール説明にゃ」
彼女はウインクしながら、右手の人差し指を立て王はを指差す。
王顕は、頭を傾げる。
「どお言うことだ」
「貴方たちは、今や世界を揺るがす程の力を持っているにゃ、世界中の神々の間でも問題視されてるにゃ」
「無駄に目立っちまってるのな」
「まぁアリス様は、そんな事は気にしてないにゃ」
「えーー」
両手を肩の位置まで上げて、やれやれといった風にチャシャは話す。
王顕も、気にされて無いことについ反応してしまった。
チャシャは体を消したと思ったら、王顕のすぐ隣に姿を表す。
「でも、貴方はアリス様に個人的に気に入られたみたいで、遊び相手に選ばれたの」
「いい迷惑だな」
「にゃにゃにゃ」
王顕の素直な反応に、チャシャが笑う。
また彼女は姿を消し、今度は背後に移動した。
「ルールは簡単にゃ、アリス様の創られたダンジョンを全て攻略し、アリス様の城にたどり着くにゃ」
「ダンジョン全てって、いくつあんだよ」
「秘密にゃあ、それと他のお仲間も城を目指してもらうにゃ」
「仲間とは、城まで合流できないって事か…」
「安心するにゃ、お仲間さんたちには、彼女たちの実力に合ったダンジョンに行ってもらってるにゃ、クリアする数も少ないにゃ」
「それを信じろと?」
「信じる、信じないは貴方の自由にゃ」
「…そう、まずは自分の事からか、えっとお前を倒せば良いのかな?」
「違うにゃ!、私を倒してもダンジョンは攻略できないにゃ!」
両手を前に出し、頭を振って必死に否定してくる。
王顕は、神にもいろいろな奴が居るのは分かっている。
マガイの様なクズ野郎に、ヴァーミリオンの様に律儀そうな奴、ミクトルンの様に考え方や行動が幼い奴。
この大陸の神は、掴み所のない奴らの様だった。
「ダンジョン攻略ね~、暇潰しには良いか」
「それじゃ私は消えるとするにゃ」
「アリスに待ってろって、伝えといてくれ」
「にゃはは」
ダンッ
王顕は、トップスピードで走り出す。
ダンジョンに居るモンスターは、彼に触れただけでバラけてしまう。
ものの数秒で出口を見つけ、岩山のダンジョンをクリアする。
「思ってたより簡単だな、後は何回クリアすれば良いのやら…」
異界喰は、連続で使うとギガポーションの消費が激しいので、今は自分の足で数々のダンジョンを攻略しなければならない。
そんな王顕の様子を、暗い部屋で観察している者が1人。
鏡のアイテムで映し出された王顕を見て、興味深そうに笑っている。
金髪に大きなリボンのカチューシャを着け、服はたくさんのリボンで飾られた、白と青を基調としたドレス、脚にはこれまた白と青の縞模様のソックスに、青い靴。
見た目は20代後半で可愛らしい女性。
迷宮都市スティユラの主、不思議神アリスだ。
「すっごーーい、私のダンジョンが一気に2つもクリアされちゃった、アハハハ」
ベットの上で、楽しそうに笑い転げる彼女。
腹筋が痙攣しているのか、お腹を両手で押さえている。
「アハ、アハハ、す~はぁ~、よし次はどのダンジョンに行ってもらおうかな~」
アリスは、ベットの脇にある水晶の玉に手を触れる。
青い光を発して、暗かった部屋を照らす。
彼女が造ったダンジョンは、全部で100を越える。
そして、次に王顕が挑戦するダンジョンが決まった。
「それじゃぁね、次はこれね、いってらっしゃい、アハハハハハハハ」
城に響くは、ゲームを楽しむ子供の笑い声。
叉夜とルカのペアは森で迷っていた。
出てくるモンスターは、レベルが低く10から18程度で問題は無いが、森の出口が分からないでいた為、2人は索敵を使い、常に周囲の状況を把握してまっすぐ進む他なかった。
「あのうさぎ、絶対に許さないんだから、今度会ったらボクの魔法を浴びせてやるぅ」
叉夜はゆらゆらと歩きながら、王顕と離れた事が頭の中で渦巻き、結果白うさぎちゃんをこの手で倒す結論にいたっていた。
奴隷として、売られていた頃とは別人の様だ。
「…」
対照的に、ルカは無言で歩き続けていた。
彼女は、叉夜と同じ気持ちではあるが、溜め込むタイプなので、もし白うさぎちゃん本人が目の前に現れたなら、溜めていたものが爆発し、叉夜より早く攻撃を仕掛けるだろう。
叉夜は尻尾をなびかせながら、さっき出会った下級神の話を持ち出した。
「それにしてもまさか、人猫から神になってる人がいるなんてビックリしたよ」
「元々は自然から生まれる者と、上級神から選ばれた者が神になるらしいですし、先程のチャシャは後者でしょう」
「神様にもいろいろあるんだね…、まぁボクの神様はご主人様なんだけど」
「当たり前です、神とは主様の様な方こそがなられるべきでなのです」
人猫の神の話から、主人の話へと自然と変えていった。
彼女らの前にも、チャシャは現れてルールの説明をしにきていた。
2人のクリアするダンジョンはこの森【狂宴の森】のみで、クリア後は城に転移できると言うものだった。
ただし、このダンジョンには主がいて、そいつを倒さないとクリアできなかった。
「あそこは…」
「ルカ?どうかしたの?」
目の前に光が見えた。
索敵には、1つの反応があった。
「お出ましの様ですね」
「みたいだね」
彼女らは光の先へ。
そこには拓けた空間と、中央にふざけた形の家が一軒だけ建っていた。
下の方がしぼみ、やたら屋根の方が大きなアンバランスで、いろんな木材を大小適当に切り合わせたような家。
「うわぁ」
「…」
2人は、どちらも嫌な物を見る目をしている。
家の前には大きな表札が立てられ、そこには”狂った家”と書かれている。
「ボクさぁ、この中に入りたくないんだけど…」
「ですがこの中に目標が居るはずです、相手は神、主様の装備があるからといって油断をしていたら、前回の二の舞ですよ」
「う、うん、そうだね、気合いを入れ直さなきゃ」
2人は万全の態勢で、家の扉を開ける。
扉を開けたのだが、そこにはまた小さくなった扉があった。
「「…」」
無言で、2枚目の扉を見つめる。
2枚目を開けると3枚目…。
3枚目を開けると4枚目…。
「壊しましょう」
「そうだね」
しびれを切らした2人は、同時に魔法を使い、家を破壊する事にした。
手を前につきだし。
「サンダーボルト・ドラゴン」
「ウォーター・ドラゴン」
水と雷の竜が合わさり、おかしな家を直撃する。
家は、水浸しの黒焦げになり、崩れてしまった。
だが、敵からの反応はない。
叉夜は、どう言うこと、とルカに視線を送る。
ルカは、警戒をしたまま崩れた家に近付き調べてみる。
「何も居ない?」
「その様ですね、確かに索敵には反応があったのですが…」
「まさか、一緒に潰れて、やっつけちゃった?」
「貴女は馬鹿ですか…、索敵にまだ反応がありますよ」
次の瞬間、瓦礫の中から何かが飛び出した。
飛び退いて、構える2人。
空高く飛び出したそれは、変な体勢で落下した。
ドズゥン
巨体がひっくり返っている。
「おーーいててて、おーーいててて、おーー痛いぃなぁ、ぷーぷぷぷぷぷぅ」
「…きもちわるい」
「不快ですね」
鼠の顔に、兎の耳、何種類かの帽子をあわせて作ったシルクハットを被り、首から腰は人、下半身は兎の様に曲がった脚で、尻尾は鼠。緑色の紳士服を着ているが、ひょうたんの様な体型で今にも破れそうだ。
良い印象を与えない体格に、2人は、眉を顰め嫌悪感を顔に出している。
【三月眠りの帽子屋】
種族 神
役職 下級神
レベル 213
HP 10100/11300
MP 10120/10120
攻撃力 570
防御力 520
特攻力 610
特防力 600
見た目と行動はふざけているが、神の登場だ。
さっきの攻撃で、少しHPが減っている。
「俺の家を壊したの君達~~?、ぷぷぷぷ、見て見てペッシャンコ、ぷ、ぷぷ」
「ルカ、ボク無理かも」
「貴女は猫でしょう、相手は鼠です、弱気にならないでください」
「うへぇ」
「主様に早く合流するのでしょう、それに相手は神です全力で当たらないと、主様と2度と会えなくなることもあるかもしれませんよ」
「それは嫌だ」
大きな口を、手で押さえて笑い自分の家を指さす神。
決意した顔をしながら、四つん這いの構えをとり、威嚇する様に逆立っている叉夜。
いつもの冷静な表情で、ライフイーターを握り締め、敵を見据えるルカ。
不気味な笑いをこぼす神と、かつて神に痛い目にあった2人。
彼女らの、2度目の神への挑戦が始まった。
今回は、また王顕の方の話に戻りました
ダンジョンをいくつも創り出せる相手、かなり面倒な敵を作ったな~
次回はこの続きからと言う事でお願いします




