表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/48

そしてもう1人

夏バテで筋肉痛

食欲も無い

このままじゃマズイ気が

地球、日本の〇〇県△△市に在る葬儀場(そうぎじょう)

家族に親戚、仲の良かった友達や会社同僚が彼の死を悲しんでいた。

閉じた箱に入れられているのは、先日亡くなった【我独(がどく) 王顕(おうけん)】だった。

参列者の中には、王顕が最も仲が良く親友だった、弁天(べんてん) 真也(しんや)の姿もある。

その中に、セーラー服を着た女子高生が1人。

咲々原(ささはら) シノ】

顔立ちは、化粧をしていないのに、女優にも劣らないほど綺麗に整っている。

髪は薄い茶色い長髪で、前髪に桜の髪飾(かみかざ)りをし、後髪はポニーテールにしている。

手足も細く、バランスが良い。体はスレンダーで胸はそれほど大きくない(手の平サイズ)。


「…」


王顕だったものの前で深々と頭を下げる。

彼女は、彼が最後に歩道橋で救った女の子だった。

彼女の両親も来ている。

数10分後、葬儀場の裏手で、彼女とその両親は王顕の家族に頭を下げていた。


「申し訳ありません!、うちの娘が原因で取り返しのつかない事を!、本当に…ほんとぉォうに申し訳ありません!!」

「申し訳ありません!」


シノの両親は、何度も頭を下げる。

彼女は、そんな両親を始めて見た。

彼の両親は、息子は自分で決断してこの結果になった、そして若い命が救われた、それで良いじゃないかと言っていた。

彼等は子供を無くし、悲しいはずなのに他人を想っている。


(そうかこの両親だから、あの人は私を助けて死んだ、そして私は死ねなかった…)


彼女は彼の死に際を見て、怖くなり死ぬ事が出来なかった。

そう、あれは人の死に方ではない。

車に轢かれた後、タイヤに服が引っ掛かり何度もアスファルトに打ち付けられ、腕がひしゃげ、脚が潰れ、頭が割れる。

葬儀も終わり、彼か火葬された。

火葬後、シノに1人の男性が話し掛けて来た。


「シノさんですね」

「…貴方は」

「自分は真也、王やんの友達だ」

「あ…」


彼と一緒にベンチに座り、コーヒーを貰った。

プルタブを開け、すぐに飲み干す真也。


「あの…私が憎いですか…」

「…どうだろな、あいつは他人に気を使いすぎる面があったし、いつかはそれで痛い目に()うって思ってたし、…まさかそれが彼女を紹介した日で、死んじまうとは思わなかったな」

「…」


彼は、死んだ親友の話を、どこか遠くを見ながら話してくれる。

彼の目は、充血し少し腫れている。

本気で涙を流したのだろう。


「それで、私に何の用でしょうか…」

「君は何で自殺し様としたんだ?」

「っ…それは…」

「話せないかい?」

「いえ、…私は息苦しかったんです、両親の期待に応え様と一生懸命努力して…、でも学校では(いじ)めを受けていて、所持品は捨てられ、お金も取られて、毎日の様に殴る蹴るの暴力、私は両親にも打ち明けられず、そして……私、王顕さんに何て謝ればっっ…、う、ううう、ああああああああああああああああ…」

「なるほどね…」


開けていない缶コーヒーを、強く握る。

自分の弱さと、他人を巻き込んでしまった後悔に、今まで抑えていた涙が溢れ出す

彼女は、その容姿から他の女子に(ねた)まれ、高校生活3年間の間ずっと虐められてきたらしい。

彼女が泣き止んでから、真也が話しかける。


「王顕の事で…、お願いがあるんだが」

「…グスッ、何でしょうか」

「あいつさ…、ネットゲームでかなり有名な奴でな、それであいつのIDとパスワードを教えるから、あいつの代わりに続けて欲しいんだ」

「わ、私がですか…、ご家族の方や真也さんは…」

「あいつの家族はゲームに興味ないし、俺は既に自分のを持ってる」

「でも…」

「別に、彼のキャラクターの(まま)じゃなくてもいいんだ」

「は、はぁ」


彼は王顕がネットゲーム【ワールド・インフィニティ】で、”悪神”と言うあだ名で有名なプレイヤーだった事、給料の大部分をそのゲームに次ぎ込み、生活していた事を教えてくれた。

そして、彼が残したものを無にしたくないとも…。

彼女はネットゲームどころか、漫画やゲーム機すら持っていなかった。

だが、幸いパソコンとネット環境は家にあった。

彼女は、自分を救ってくれた人の事を何も知らない、だから知っていこうと思った。


「わかりました、王顕さんの代わりにやってみます」

「…ありがとう」


その後、真也が王顕のIDとパスワードをシノに教え、その場を後にする。

シノは家に帰り、深夜0時を過ぎた頃に【ワールド・インフィニティ】にログインする。


「これがネットゲーム…」


王顕は、イヴィルと言う名前を付け、広大なダンジョンと陣地を所有し、武器に防具などの装備は、亡くなる以前の物は全て(そろ)い、課金による伝説級のアイテムと装備は複数所持していた。

彼のいかにも魔王なキャラ設定を、無くしてしまうのは忍びないが、彼のキャラを使うのはもっと無理だった。


「確かキャラ変更があるって、あ、これか」


種族は人間、獣人、悪魔、天使、様々なキャラ設定に戸惑いながら、彼女は天使を選択し、役職は聖天使(せいてんし)を選択した。

見た目は金髪碧眼(きんぱつへきがん)の女性で、頭には2重になり数ヶ所に突起の付いた輪が浮いて、背中には8枚の白い翼を広げ、服は純白で、胸と背中の開けたドレスを着飾っている。

【ワールド・インフィニティ】内では、イヴィルの噂で賑わっていた。

今まで欠かすことなく、ログインして他プレイヤーを圧倒し、楽しませてくれた悪神が忽然(こつぜん)と消えたのだ噂にもなる。

シノは、ギルドと呼ばれる場所に足を運び、王顕(イヴィル)について話を聞く。


「あ〜悪神かい、ありゃチートだったな、今なにやってんだか…」

「イヴィルね〜1種のバグかな、最近ログインしてないみたいだけど…」

「このゲームのプレイヤーの目標ね、彼が存在する限り、挑戦者は尽きなかったけど…、何でログインしなくなっちゃったのかしら」

「僕は彼に勝つまで、何度でもあのダンジョンに向かうとも、彼の作ったダンジョンも酷い物さ、クリアするのに1ヶ月掛かるからね、まったく…、でも、やりがいがあるからね、早く戻ってきてほしいよ」


結論から言うと、嫌っていると言うか嫉妬して、尊敬されている印象だった。

こねゲームは世界各国にプレイヤーが居て、その誰しもがイヴィルを知らない人は居なかった。


「ここが王顕さんの居場所だったんですね…」


彼女はゲームのチュートリアルを進め、魔法と武法の2つが基本的な攻撃と防御手段らしい。

シノは魔法を重点的に使って行くことにした。


「もぅ、こんな時間」


ここまでの作業で、外が明るくなってきていた。

学校に行く為に準備し、少し眠る。


(明日は、頑張らないと)



学校に登校したシノは、相変わらず(いじ)めの対象だった。

校舎裏に連れられ殴られる。


「ツッ」

「何でさぁ、あんたまだ生きてんの?」

「早く死ねよっ」

「キャッ…あぁ…」


傷が目立たない様に、服の上から蹴られる。

容赦の無い蹴りが脇に入って、呼吸しにくくなる。

彼女等が、満足して教室に向かうまで暴行は続いた。


「…ィツゥ、くぅ」


シノは立ち上がり、教室に行かず、放送室に向かった。

ポケットから、真也が渡しておいたボイスレコーダーを取り出すと、放送のスイッチをONにする。

ザザ…ザーー

急な出来事に学校中がざわつく。



[シノ、早く消えてよ]

[アァ!、アアアアァァ]

[あっははは、◯◯ちゃんさ、やりすぎだってぇ、あはははは]

[う、うぅ]


シノは、暴行されていた瞬間を録音し流したのだ、彼女等は互いの名前を言い合っているので、誰が暴力をふるって、誰が被害者かすぐにわかった。

教師達により、シノと虐めていた女子達が集められ、親も学校に呼ばれた。

虐めをしていた娘達の親は一生懸命頭を下げ、自分の娘を怒鳴っていた。

彼女達は停学処分になるらしい。

そしてこの1件で、虐めが無くなった。



数ヵ月後、高校を卒業したシノは、王顕が勤めていた会社に入社し、彼の住んでいた場所を借り暮らし始めた。

会社では美人で仕事ができるとすぐに人気者になり、【ワールド・インフィニティ】では、イヴィルのプレイヤーが亡くなった事を告げ、代わりに彼のダンジョンと、陣地を管理する存在として、【サン】と言う名前で君臨していた。

最初はイヴィルの悲報に、全世界のプレイヤーが悲しみ、そしてポッと出の素人プレイヤーが彼の居場所に現れた事に、批判が集まり問題になったが、運営がシノと王顕との関係を調べ、特例として認めた事により何とか騒動は鎮静化(ちんせいか)した。

それでも認められないプレイヤー達は、王顕のダンジョンを進み陣地に来て攻めてきたが、彼女は素人ながらイヴィルのレベルと装備、アイテム、スキルを所持していた為、ある程度の相手なら蹴散らせた。


「王顕さん…///」


この数ヵ月で、彼がゲームの世界では、誰もが嫌っている様な物言いをしながらも、慕われ尊敬されている事と、仕事面でも真面目で、自分の事を後回しにする程の他人思いの方だと知る。


「私…王顕さんの事…///」


彼女はそんな彼に恋をしていた。

だが彼本人はもう居ない、自分のせいで死んでしまった。


「…私は、彼の居場所を守る、私と彼の居場所を…」


彼女も最強のプレイヤーになる為、王顕と同じ様に課金し、寝る間も惜しんでログインした。

器用で物覚えが良かった彼女は、すぐに【ワールド・インフィニティ】に慣れて、王顕の後をうまく継いでいた。

次第に他のプレイヤー達は、彼女の事を美神と呼ぶようになった。


「王顕さんに会いたい…、あの顔をもう1度見たい…」


叶わぬ願いを、毎晩の様に呟いた。


「あっ、明日は真也さんと未来(みく)さんに食事に呼ばれてた」


明日の用事を思い出したので、区切りの良い箇所でログアウトしてベットに横になる。

スマホでアラームをセットする。

待受には、真也から受け取った王顕の学生時代の写真を使っていた。


「おやすみなさい、王顕さん」


翌朝、待ち合わせた駅に向かうと、2人はすでに待っていた。


「すいません、お待たせしました」

「俺達も今来たところだから、気にしなくて良いよ」

「シノちゃん、お久しぶりね、元気にしてた?」

「はい、未来さんも変わり無いようで」


真也と未来は2週間前に結婚式を挙げ、愛でたく夫婦になっている。

彼は結婚式の最中、王顕の話を涙を流しながら、スピーチしていた。

1番の親友に来て、祝ってほしかったのだろう。


「とりあえず、予約してるレストランに行こうか」

「今日はね、イタリア料理の店なの楽しみにしててねシノちゃん」

「いつもご馳走になって、申し訳ないです」

「良いのよ、これくらい」


2人は王顕の葬儀後も、優しく接してくれて、本当に助かっている。

2人が居なければシノは精神を病んでいたかも知れない。

今日1日は、3人で過ごした。

食事の後は買い物をして、カフェで(くつろ)いだ。

日も沈み、彼等と別れ、暗くなった夜道を1人で歩く、手には小さな花束を握って、とぼとぼ歩く。


「新しいお花です」


王顕の死んだ歩道橋だ。

階段の下には、花瓶と先程シノが握っていた花束が飾られる。


「今日はですね、真也さんと未来さんとで遊んでました、すっごく楽しかったですよ、服とか久しぶりに買っちゃいました」


1人で花に向かい、今日の出来事をしゃがみながら話していく。

一通り話終わり、立ち上がる。

ガッ


「ツッ!、…あ、ああぁあああぁぁぁああぁ」


後頭部に強い衝撃を受け、その場に倒れうめき声をあげる。

手で押さえた頭からは、血がにじんできている。

そんな彼女を数人の男が担ぎ上げ、ワゴン車に投げ込む。

車は急発進し、町外れの山の中に入っていく。

廃工場に着くと、担がれ錆びだらけの工場に入っていく。

そこには、見知った顔の女が1人。


「ひっさしぶりねぇ、シノ〜、会いたかったわよぉ」

「…」


高校時代に、シノを虐めていた女子達の主犯だ。

派手な服と化粧にピアス、いかにも悪い女になっていた。


「やぁーーっとぉ、復讐が叶うわ」

「…自業自得でしょ」


ガツン


「がぁっ、はっ、ああぁ」

「相変わらず、ムカつく女ね…」


ヒールで顎を蹴られた。

垂れる頭を、男が髪を引っ張り、持ち上げる。


「…あんたは今から、こいつらに犯されて、その光景をネットに流すのよ」

「!?」


周りには6人の男達、全員が覆面をしている。


「…ゲスね、狂ってる」

「好きに言ってなさい、フフッ貴女まだ処女なんでしょ、ど〜んな気分かしら、顔も分からない男達に処女を奪われ、何度も何度も犯されるのって、フフッフ、アッハハハハハハハ」

「…」


逃げる事は叶わず、このままでは彼女の言葉通り、犯されて、最後は殺されるかも知れない。

シノは生涯誰とも付き合う積りも、体を許す積りも無かった。

彼女の愛する人は1人で、その彼は、この世にはもう居ないからだ。


(こんな奴等に身を捧げるくらいなら、死んだ方がましだ)


だがその時、予期せぬ展開は急に訪れる。

男達が、カメラやネットの準備をし始め、シノを見張るのが1人になった。

シノは捕まっていたものの、縛られる事なく連れてこられた。


「スーハー」

「ん?、オゴォパァ、ツッ〜〜〜〜ッ」


息を整え、渾身の拳を男の股間にめり込ませた。

周りの奴等は事態を呑み込めず、無言になる。

倒れた男を踏みつけ、工場の出入口に駆け出した。


「ハッ!…、何をやってんの追いなさい!」

「「!」」


男達は、シノを連れ戻そうと外に出る。

彼女の後を追い、森の中へ進んでいく。


「はぁ、はぁ、はぁ、んく、はぁ、ん」


何とかシノは逃げれたが、知らない場所に、殴られ、蹴られたダメージが残っている。

森を抜けたと思ったら、目の前は崖だった。


「見つけたぞぉー、こっちだぁー」

「見付かっちゃったか」


1人の男に見つかり、すぐに他の奴等も集まってきた。


「はぁ〜、あんたさぁ、苦労かけないでよね」


あの女も合流する。

シノは振り返り、優しく微笑む。


「さようなら」


後ろ向きのまま、崖を飛び降りた。

追い掛けてきた彼等は1歩も動けなかった。


(ごめんねお父さんお母さん、すいません真也さん未来さん、そして、やっと会えますね王顕さん)

『丁度いい、もう1人増やそうと思っていた』

「え?」


ゴシャァ

崖下には血の花が咲いた。

脳が飛び散り、眼球が飛び出て、体はひしゃげてしまった。



……………

…………

………

シノは、見慣れない部屋で目を覚ます。

木の柱が()き出しの天井、壁からは木の枝が突き出している。


「ここは、どこ…」

「起きたのね、安心したわ〜」


シノの寝ていたベット、その横の椅子に座っていた女性が話し掛ける。

見た目はおとぎ話に出てきそうな魔女の格好だ。

彼女はウインクして、名前を教えてくれた。


「私はベアトリクス、ベアって呼んでね、ここは私の家で、貴女はこの村の近くにある川で倒れてたの」

「そうだったんですね、あっ私はシノって言います」

「シノかぁよろしくねぇ~、でも珍しいわね、8枚の翼を持つ天使なんて」

「え…」


こうして、シノもまた異世界へと転生した。

このたび新しく転生者を増やしました

どうです、ビックリしました、

次回はシノの話にするか王顕の話にするか、迷ってます

お楽しみにお待ちください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ