そしてもう1人
夏バテで筋肉痛
食欲も無い
このままじゃマズイ気が
地球、日本の〇〇県△△市に在る葬儀場。
家族に親戚、仲の良かった友達や会社同僚が彼の死を悲しんでいた。
閉じた箱に入れられているのは、先日亡くなった【我独 王顕】だった。
参列者の中には、王顕が最も仲が良く親友だった、弁天 真也の姿もある。
その中に、セーラー服を着た女子高生が1人。
【咲々原 シノ】
顔立ちは、化粧をしていないのに、女優にも劣らないほど綺麗に整っている。
髪は薄い茶色い長髪で、前髪に桜の髪飾りをし、後髪はポニーテールにしている。
手足も細く、バランスが良い。体はスレンダーで胸はそれほど大きくない(手の平サイズ)。
「…」
王顕だったものの前で深々と頭を下げる。
彼女は、彼が最後に歩道橋で救った女の子だった。
彼女の両親も来ている。
数10分後、葬儀場の裏手で、彼女とその両親は王顕の家族に頭を下げていた。
「申し訳ありません!、うちの娘が原因で取り返しのつかない事を!、本当に…ほんとぉォうに申し訳ありません!!」
「申し訳ありません!」
シノの両親は、何度も頭を下げる。
彼女は、そんな両親を始めて見た。
彼の両親は、息子は自分で決断してこの結果になった、そして若い命が救われた、それで良いじゃないかと言っていた。
彼等は子供を無くし、悲しいはずなのに他人を想っている。
(そうかこの両親だから、あの人は私を助けて死んだ、そして私は死ねなかった…)
彼女は彼の死に際を見て、怖くなり死ぬ事が出来なかった。
そう、あれは人の死に方ではない。
車に轢かれた後、タイヤに服が引っ掛かり何度もアスファルトに打ち付けられ、腕がひしゃげ、脚が潰れ、頭が割れる。
葬儀も終わり、彼か火葬された。
火葬後、シノに1人の男性が話し掛けて来た。
「シノさんですね」
「…貴方は」
「自分は真也、王やんの友達だ」
「あ…」
彼と一緒にベンチに座り、コーヒーを貰った。
プルタブを開け、すぐに飲み干す真也。
「あの…私が憎いですか…」
「…どうだろな、あいつは他人に気を使いすぎる面があったし、いつかはそれで痛い目に遭うって思ってたし、…まさかそれが彼女を紹介した日で、死んじまうとは思わなかったな」
「…」
彼は、死んだ親友の話を、どこか遠くを見ながら話してくれる。
彼の目は、充血し少し腫れている。
本気で涙を流したのだろう。
「それで、私に何の用でしょうか…」
「君は何で自殺し様としたんだ?」
「っ…それは…」
「話せないかい?」
「いえ、…私は息苦しかったんです、両親の期待に応え様と一生懸命努力して…、でも学校では虐めを受けていて、所持品は捨てられ、お金も取られて、毎日の様に殴る蹴るの暴力、私は両親にも打ち明けられず、そして……私、王顕さんに何て謝ればっっ…、う、ううう、ああああああああああああああああ…」
「なるほどね…」
開けていない缶コーヒーを、強く握る。
自分の弱さと、他人を巻き込んでしまった後悔に、今まで抑えていた涙が溢れ出す
彼女は、その容姿から他の女子に妬まれ、高校生活3年間の間ずっと虐められてきたらしい。
彼女が泣き止んでから、真也が話しかける。
「王顕の事で…、お願いがあるんだが」
「…グスッ、何でしょうか」
「あいつさ…、ネットゲームでかなり有名な奴でな、それであいつのIDとパスワードを教えるから、あいつの代わりに続けて欲しいんだ」
「わ、私がですか…、ご家族の方や真也さんは…」
「あいつの家族はゲームに興味ないし、俺は既に自分のを持ってる」
「でも…」
「別に、彼のキャラクターの儘じゃなくてもいいんだ」
「は、はぁ」
彼は王顕がネットゲーム【ワールド・インフィニティ】で、”悪神”と言うあだ名で有名なプレイヤーだった事、給料の大部分をそのゲームに次ぎ込み、生活していた事を教えてくれた。
そして、彼が残したものを無にしたくないとも…。
彼女はネットゲームどころか、漫画やゲーム機すら持っていなかった。
だが、幸いパソコンとネット環境は家にあった。
彼女は、自分を救ってくれた人の事を何も知らない、だから知っていこうと思った。
「わかりました、王顕さんの代わりにやってみます」
「…ありがとう」
その後、真也が王顕のIDとパスワードをシノに教え、その場を後にする。
シノは家に帰り、深夜0時を過ぎた頃に【ワールド・インフィニティ】にログインする。
「これがネットゲーム…」
王顕は、イヴィルと言う名前を付け、広大なダンジョンと陣地を所有し、武器に防具などの装備は、亡くなる以前の物は全て揃い、課金による伝説級のアイテムと装備は複数所持していた。
彼のいかにも魔王なキャラ設定を、無くしてしまうのは忍びないが、彼のキャラを使うのはもっと無理だった。
「確かキャラ変更があるって、あ、これか」
種族は人間、獣人、悪魔、天使、様々なキャラ設定に戸惑いながら、彼女は天使を選択し、役職は聖天使を選択した。
見た目は金髪碧眼の女性で、頭には2重になり数ヶ所に突起の付いた輪が浮いて、背中には8枚の白い翼を広げ、服は純白で、胸と背中の開けたドレスを着飾っている。
【ワールド・インフィニティ】内では、イヴィルの噂で賑わっていた。
今まで欠かすことなく、ログインして他プレイヤーを圧倒し、楽しませてくれた悪神が忽然と消えたのだ噂にもなる。
シノは、ギルドと呼ばれる場所に足を運び、王顕について話を聞く。
「あ〜悪神かい、ありゃチートだったな、今なにやってんだか…」
「イヴィルね〜1種のバグかな、最近ログインしてないみたいだけど…」
「このゲームのプレイヤーの目標ね、彼が存在する限り、挑戦者は尽きなかったけど…、何でログインしなくなっちゃったのかしら」
「僕は彼に勝つまで、何度でもあのダンジョンに向かうとも、彼の作ったダンジョンも酷い物さ、クリアするのに1ヶ月掛かるからね、まったく…、でも、やりがいがあるからね、早く戻ってきてほしいよ」
結論から言うと、嫌っていると言うか嫉妬して、尊敬されている印象だった。
こねゲームは世界各国にプレイヤーが居て、その誰しもがイヴィルを知らない人は居なかった。
「ここが王顕さんの居場所だったんですね…」
彼女はゲームのチュートリアルを進め、魔法と武法の2つが基本的な攻撃と防御手段らしい。
シノは魔法を重点的に使って行くことにした。
「もぅ、こんな時間」
ここまでの作業で、外が明るくなってきていた。
学校に行く為に準備し、少し眠る。
(明日は、頑張らないと)
学校に登校したシノは、相変わらず虐めの対象だった。
校舎裏に連れられ殴られる。
「ツッ」
「何でさぁ、あんたまだ生きてんの?」
「早く死ねよっ」
「キャッ…あぁ…」
傷が目立たない様に、服の上から蹴られる。
容赦の無い蹴りが脇に入って、呼吸しにくくなる。
彼女等が、満足して教室に向かうまで暴行は続いた。
「…ィツゥ、くぅ」
シノは立ち上がり、教室に行かず、放送室に向かった。
ポケットから、真也が渡しておいたボイスレコーダーを取り出すと、放送のスイッチをONにする。
ザザ…ザーー
急な出来事に学校中がざわつく。
[シノ、早く消えてよ]
[アァ!、アアアアァァ]
[あっははは、◯◯ちゃんさ、やりすぎだってぇ、あはははは]
[う、うぅ]
シノは、暴行されていた瞬間を録音し流したのだ、彼女等は互いの名前を言い合っているので、誰が暴力をふるって、誰が被害者かすぐにわかった。
教師達により、シノと虐めていた女子達が集められ、親も学校に呼ばれた。
虐めをしていた娘達の親は一生懸命頭を下げ、自分の娘を怒鳴っていた。
彼女達は停学処分になるらしい。
そしてこの1件で、虐めが無くなった。
数ヵ月後、高校を卒業したシノは、王顕が勤めていた会社に入社し、彼の住んでいた場所を借り暮らし始めた。
会社では美人で仕事ができるとすぐに人気者になり、【ワールド・インフィニティ】では、イヴィルのプレイヤーが亡くなった事を告げ、代わりに彼のダンジョンと、陣地を管理する存在として、【サン】と言う名前で君臨していた。
最初はイヴィルの悲報に、全世界のプレイヤーが悲しみ、そしてポッと出の素人プレイヤーが彼の居場所に現れた事に、批判が集まり問題になったが、運営がシノと王顕との関係を調べ、特例として認めた事により何とか騒動は鎮静化した。
それでも認められないプレイヤー達は、王顕のダンジョンを進み陣地に来て攻めてきたが、彼女は素人ながらイヴィルのレベルと装備、アイテム、スキルを所持していた為、ある程度の相手なら蹴散らせた。
「王顕さん…///」
この数ヵ月で、彼がゲームの世界では、誰もが嫌っている様な物言いをしながらも、慕われ尊敬されている事と、仕事面でも真面目で、自分の事を後回しにする程の他人思いの方だと知る。
「私…王顕さんの事…///」
彼女はそんな彼に恋をしていた。
だが彼本人はもう居ない、自分のせいで死んでしまった。
「…私は、彼の居場所を守る、私と彼の居場所を…」
彼女も最強のプレイヤーになる為、王顕と同じ様に課金し、寝る間も惜しんでログインした。
器用で物覚えが良かった彼女は、すぐに【ワールド・インフィニティ】に慣れて、王顕の後をうまく継いでいた。
次第に他のプレイヤー達は、彼女の事を美神と呼ぶようになった。
「王顕さんに会いたい…、あの顔をもう1度見たい…」
叶わぬ願いを、毎晩の様に呟いた。
「あっ、明日は真也さんと未来さんに食事に呼ばれてた」
明日の用事を思い出したので、区切りの良い箇所でログアウトしてベットに横になる。
スマホでアラームをセットする。
待受には、真也から受け取った王顕の学生時代の写真を使っていた。
「おやすみなさい、王顕さん」
翌朝、待ち合わせた駅に向かうと、2人はすでに待っていた。
「すいません、お待たせしました」
「俺達も今来たところだから、気にしなくて良いよ」
「シノちゃん、お久しぶりね、元気にしてた?」
「はい、未来さんも変わり無いようで」
真也と未来は2週間前に結婚式を挙げ、愛でたく夫婦になっている。
彼は結婚式の最中、王顕の話を涙を流しながら、スピーチしていた。
1番の親友に来て、祝ってほしかったのだろう。
「とりあえず、予約してるレストランに行こうか」
「今日はね、イタリア料理の店なの楽しみにしててねシノちゃん」
「いつもご馳走になって、申し訳ないです」
「良いのよ、これくらい」
2人は王顕の葬儀後も、優しく接してくれて、本当に助かっている。
2人が居なければシノは精神を病んでいたかも知れない。
今日1日は、3人で過ごした。
食事の後は買い物をして、カフェで寛いだ。
日も沈み、彼等と別れ、暗くなった夜道を1人で歩く、手には小さな花束を握って、とぼとぼ歩く。
「新しいお花です」
王顕の死んだ歩道橋だ。
階段の下には、花瓶と先程シノが握っていた花束が飾られる。
「今日はですね、真也さんと未来さんとで遊んでました、すっごく楽しかったですよ、服とか久しぶりに買っちゃいました」
1人で花に向かい、今日の出来事をしゃがみながら話していく。
一通り話終わり、立ち上がる。
ガッ
「ツッ!、…あ、ああぁあああぁぁぁああぁ」
後頭部に強い衝撃を受け、その場に倒れうめき声をあげる。
手で押さえた頭からは、血がにじんできている。
そんな彼女を数人の男が担ぎ上げ、ワゴン車に投げ込む。
車は急発進し、町外れの山の中に入っていく。
廃工場に着くと、担がれ錆びだらけの工場に入っていく。
そこには、見知った顔の女が1人。
「ひっさしぶりねぇ、シノ〜、会いたかったわよぉ」
「…」
高校時代に、シノを虐めていた女子達の主犯だ。
派手な服と化粧にピアス、いかにも悪い女になっていた。
「やぁーーっとぉ、復讐が叶うわ」
「…自業自得でしょ」
ガツン
「がぁっ、はっ、ああぁ」
「相変わらず、ムカつく女ね…」
ヒールで顎を蹴られた。
垂れる頭を、男が髪を引っ張り、持ち上げる。
「…あんたは今から、こいつらに犯されて、その光景をネットに流すのよ」
「!?」
周りには6人の男達、全員が覆面をしている。
「…ゲスね、狂ってる」
「好きに言ってなさい、フフッ貴女まだ処女なんでしょ、ど〜んな気分かしら、顔も分からない男達に処女を奪われ、何度も何度も犯されるのって、フフッフ、アッハハハハハハハ」
「…」
逃げる事は叶わず、このままでは彼女の言葉通り、犯されて、最後は殺されるかも知れない。
シノは生涯誰とも付き合う積りも、体を許す積りも無かった。
彼女の愛する人は1人で、その彼は、この世にはもう居ないからだ。
(こんな奴等に身を捧げるくらいなら、死んだ方がましだ)
だがその時、予期せぬ展開は急に訪れる。
男達が、カメラやネットの準備をし始め、シノを見張るのが1人になった。
シノは捕まっていたものの、縛られる事なく連れてこられた。
「スーハー」
「ん?、オゴォパァ、ツッ〜〜〜〜ッ」
息を整え、渾身の拳を男の股間にめり込ませた。
周りの奴等は事態を呑み込めず、無言になる。
倒れた男を踏みつけ、工場の出入口に駆け出した。
「ハッ!…、何をやってんの追いなさい!」
「「!」」
男達は、シノを連れ戻そうと外に出る。
彼女の後を追い、森の中へ進んでいく。
「はぁ、はぁ、はぁ、んく、はぁ、ん」
何とかシノは逃げれたが、知らない場所に、殴られ、蹴られたダメージが残っている。
森を抜けたと思ったら、目の前は崖だった。
「見つけたぞぉー、こっちだぁー」
「見付かっちゃったか」
1人の男に見つかり、すぐに他の奴等も集まってきた。
「はぁ〜、あんたさぁ、苦労かけないでよね」
あの女も合流する。
シノは振り返り、優しく微笑む。
「さようなら」
後ろ向きのまま、崖を飛び降りた。
追い掛けてきた彼等は1歩も動けなかった。
(ごめんねお父さんお母さん、すいません真也さん未来さん、そして、やっと会えますね王顕さん)
『丁度いい、もう1人増やそうと思っていた』
「え?」
ゴシャァ
崖下には血の花が咲いた。
脳が飛び散り、眼球が飛び出て、体はひしゃげてしまった。
……………
…………
………
シノは、見慣れない部屋で目を覚ます。
木の柱が剥き出しの天井、壁からは木の枝が突き出している。
「ここは、どこ…」
「起きたのね、安心したわ〜」
シノの寝ていたベット、その横の椅子に座っていた女性が話し掛ける。
見た目はおとぎ話に出てきそうな魔女の格好だ。
彼女はウインクして、名前を教えてくれた。
「私はベアトリクス、ベアって呼んでね、ここは私の家で、貴女はこの村の近くにある川で倒れてたの」
「そうだったんですね、あっ私はシノって言います」
「シノかぁよろしくねぇ~、でも珍しいわね、8枚の翼を持つ天使なんて」
「え…」
こうして、シノもまた異世界へと転生した。
このたび新しく転生者を増やしました
どうです、ビックリしました、
次回はシノの話にするか王顕の話にするか、迷ってます
お楽しみにお待ちください




