妖精の森だった
暑くて溶けてしまいそうだ
車の中はサウナみたいになってるし
出かける気力も湧かない
「族長、これはどう言う事だ?」
「ヴァーミリオン様…」
突然、ガルガン村にやって来た竜人が、族長に問う。
族長は彼女の名前を喋っただけで、ヴァーミリオンの問いには答えない。
王顕たちは影で、その状況を観察する
「先日、ここの護りを任せていたマガイの消滅が確認された」
「…」
「誰が殺した?」
「それは…、分からんのぅ…」
「奴の性格はともかく、下級神ながら防御面は中級神にも匹敵していたはずだ、だが私自身が確認したが、山ごと消え去っていた、あれだけの事をしているんだ、ここからでも十分分かるだろう」
「急に天が割れたかと思っとたら、大きな爆発があったのじゃ、それ以上はわし等にも…」
「…」
族長は王顕たちの事を喋る積もりはなく、ヴァーミリオンは彼らの強い意志に何かを感じ取っている様だ。
ヴァーミリオンは地上に降り立ち、跪く族長の側までやって来る。
「…本当に知らないんだな?」
「…はい」
「…分かった、そう言う事にしておこう、そして今まで苦労を掛けたな」
「ヴァーミリオン様?」
「マガイがこの場所で、欲にまみれた行動を取っていたのは知っていたが、私の立場上、勝手が出来なかった、すまなかった」
「「…」」ザワザワ
問い詰めていたと思いきや、今度は謝罪してきた。
うろたえ始める村人達。
同じ竜人のはずだが、族長より偉い存在。
王顕は案内役に彼女が誰なのかを聞く。
「なあ、あれって誰だ?」
「あの方はこの村の出身であり、黒曜神・デスカドリポカの使徒になられた、ヴァーミリオン様だ」
「神の使徒ねぇ」
神と言われマガイの事を思い出す。
神に良いイメージが湧かない、ヴァーミリオン自信は悪い奴では無さそうだが、その上の神が引っ掛かっていた。
「これからは、この山岳地帯は私が護る事になった」
「本当ですか!」
「ああ、安心してくれ」
マガイの代わりにヴァーミリオンが、これからこの場所を護っていくと言う。
真面目でガルガン村出身、この村の苦悩は本当に終わった。
「それじゃあ、火焔竜王に会っておくか」
「「…」」
王顕達に緊張が走る。
今居る場所は、まだダンジョンの中でテレポートが使えない。
「俺が彼女と話す、その隙にここから離れろ、落ち合う場所は、そうだな……、神と戦った場所な」
「ご主人様、倒さないんですか?」
「悪い奴じゃ無いみたいだからな」
「その後は、どうなさるのですか?」
「次の目的地決めて向かうよ、後で話す、あんたも案内助かった、ここでお別れだ、族長達にはよろしき伝えてくれ」
「…ああ、また来てくれ、村人全員で歓迎する」
「イジェメドは、2人に付いていってくれ」
「そうだな、吾も封印から解かれて間もないからか、本調子では無い、頼むぞ友よ」
「任せとけ!」
王顕は暗殺者の面を付け、ステルス状態になると、ヴァーミリオンに向かい歩き出す。
何かの気配でも感じたように、辺りを見回し始めたヴァーミリオン。
族長もそうだが野生の感ってやつだろうか、ステルス状態の王顕に何かを感じているようだった、そして一点を見詰める。
(何だ、この感じ、あそこに何者かが居る感じがする…)
(見てる、見てる、こっち見てるよ~)
(この感じ、イヴィル殿か!)
「ハッ」
ズガァン
ヴァーミリオンが槍を投げた。
王顕はそれをかわし、仮面を取る。
「危ねええ」
「…あなたは何者ですか?」
「槍投げる前に聞いてほしいな」
槍が勝手にヴァーミリオンの元に戻る。
その槍を向け、再度問う。
「何者ですか?」
「あ~、冒険者だよ」
「ただの冒険者が、あれほど気配を消せるとは思えませんね」
「数々の冒険で見つけた、アイテムのお陰だな!!」
「普通の冒険者が私の攻撃を避けるのも、無理かと」
「奇跡が重なっただけさ!!」
「…なぜその神殿から、出て来るのですか?」
「探検してたからさ!!」
ヴァーミリオンの質問にいたって普通に答える。
周りの竜人達は、この状況に付いて来れず、固まっていた。
そして次の質問で、状況が変わる。
「この場所を護っていた神を知っていますか?」
「…知らないな、何の事かさっぱr…」
ブンッ
ズゴォーン
今度は王顕が喋ってる途中で、槍を投げた。
効果の分からない武器なので、当たりたくないから避ける。
一瞬の静寂。
「1度目は奇跡、では2度目は何でしょうか?」
「必然かな?」
「あなたの装備なら、この村の人に気付かれず、遺跡にも入れるでしょう、そして私の槍を2度も避ける実力…」
(話すだけで、穏便に済ませたいんだけどな…)
「マガイが消えた次の日に、火焔竜王を封じていた遺跡から出てくる者、無関係とは思えませんね」
「…考えてる通りだよ、俺があれを殺ったんだ」
王顕が誤魔化さず、正直に言う。
その時、ガルガン村の族長が2人の間に入る。
「申し訳ないヴァーミリオン様、彼にわしが頼んだのじゃ、神を倒してほしいとな、だから見逃してくれんでしょうか…」
「族長のおっさん」
「確かにこの者のお陰で、この村の苦悩は消えた、それに関しては私も感謝している」
「なら…」
「だが、神殺しはいかなる理由があれ、許されないことだ、よってここで消させてもらう」
「仕事熱心だな~っと!」
欲界の倉庫から閃光弾を取り出し、地面に叩きつける。
眩い光が村全体を包み込む。
その瞬間に、神殿入り口に隠れていた奴らは、外に出てルカのテレポートで合流ポイントに向う。
光が消える前に、王顕は飛翔のマントを装備し、空を飛ぶ。
光が消える。
「くっ、あの者どこに行った」
ヴァーミリオンは索敵を使えないのか、自分の目で周りを探し、そして影で気付き空を見上げる。
「…」
「…」
王顕は無言のままテレポートして、ガルガン村を離れた。
ヴァーミリオンは攻撃しようと思えば、王顕がテレポートする前に出来たはずだが、それをしなかった。
「ヴァーミリオン様…何故?」
族長もそのことは分かっているようで、問いかけた。
彼女は微笑み。
「これでも一応、本気であの者には感謝しているんだ、一度くらい見逃すくらいはな」
「…ありがとうございます」
(それに、いくら私が攻撃したところで、あの者に勝てる気がしなかったしな…黒曜神様に後ほど報告しないと)
槍を握っていた手が震え、背中には嫌な汗を流していた。
上級神の使徒になり、レベルも400を超えて忘れていた感情、恐怖を久しぶりに思い出す。
だが彼女はこうも思った。
拳を握り締め。
(私はまだ強くなれる…)
「族長、あの者の名前は?」
「イヴィル殿の事ですか?」
「イヴィルか」
(必ず私の手で…)
新たな目標、新たな敵を見つけ、ひそかに燃える使徒様。
そのころ王顕は、先に逃がした3人と合流した。
「とりあえず、この場所から離れるぞ、来た方と逆に向う」
3人を連れ連続テレポート、山岳地帯の端に着くと、その先からは広大に広がる森だった。
垂直に伸びた木の1本1本が太く大きい、いかにも異世界の森感がでている。
森の中に入り、地図を出す。
「ん~と、次は…森を抜けた先は海で港町か…」
「ご主人様、その港町からは船が出ていて、海を渡り、別の大陸に行くことが出来るはずですよ」
「別の大陸?」
「主様、大陸は全部で5つあり、今居るのは【アックウーノ大陸】です、その港町からは確か【キフォーカ大陸】に行けるかと、地図も港町で手に入ります」
「へ~そうなんだな、俺は田舎(日本)の出だから学が無くてな、お前達は頼りになるな!」
「ふふふ///」
「…私には、もったいない言葉です//」
「ふむ」
2人を撫でてから、次の目的地である港町に行くため、森を進む。
イジェメドは宙に浮き付いてくる。
森の中は意外と明るく、日の光が入ってきている。
様々な、見たことの無い動植物が、息ずいている。
「王顕よ、この森には縄張りにしていた奴等が、暮らしてたはずだぞ」
イジェメドが、王顕の肩に腕を回し、耳元で面白そうな事を言った。
肩に腕を回していても浮いているので、重みは感じないが、胸の感触は伝わっていた。
他2人から、冷たい視線を当てられる。
「美しい森で縄張りにしてるって言えば、やっぱエルフだよな」
「エルフ?、エルフはこの森どころか、この大陸には居らんぞ」
「うっわぁ、ガッカリだよ、じゃあ何が縄張りにしてんだ?」
「あれだよ」
そう言うと、右前の方を指差した。
そこに居たのは、木の影に隠れている。
15センチ程度の小人だった。
スキル、索敵と他者の把握を使った。
すると、レベル5から8の妖精が、数10匹で取り囲んでいる。
「この森は妖精の森、イタズラ好きな奴らが住む森だ」
「妖精か…」
(虫網で捕まえたいな…)
そんな事を考えていると、
ヒュン
近くを何かが通った。
「ん」
「ひ、ひにゃああああ」
「うるさいですよ、叉夜」
「ボ、ボクの下着があああ」
「ガハハ、やられたな」
叉夜がどうやら妖精の被害にあったようだ。
速い動きに、空中を自由自在に飛び回る。
掴めるのは難しそうだ。
飛び回るトンボを、素手で捕まえる感じだろうか、王顕が集中する。
「ふうううううう」
息を吐き。
ヒュン
パシッ
飛んで来たのを掴んだ。
「キュイーーキュキュ」
手の中で、ジタバタしている。
金髪で光る羽を持ち、緑のミニスカドレスを着ている。
カプ
「グアハ、噛んだな、ガハハ」
「痛くないから良いけどさ…」
「ボクの下着は!」
「そうだったな」
「主様に牙を剥くなんて…」
「落ち着けよルカ」
ヒュヒュヒュヒュン
他の妖精が捕まえた奴を救おうと、飛び出した。
全部で4匹。
「ガッ、シャ」
「ハッ、フッ」
イジェメドとルカが2匹ずつ捕まえる。
「小さいのに勇敢だな、2人とも潰したりするなよ」
「吾は無駄に生き物は殺さんぞ」
「…はい」
「よし、聞こえるか、今盗んだ物を返してくれないか?、そしたら、こいつ等は無傷で返すよ」
「「…」」
ヒラヒラ
木の上の方から、三角の布が落ちてきた。
「白か…」
「意外だな、黒だと思ってたが」
「花の刺繍もされていますね」
「にゃーにゃーにゃー、見ないで!!」
必死に飛び付いてキャッチする。
尻尾を丸め、耳を折り曲げ、体を丸めうずくまる。
和む光景だった。
「2人とも、手から放してやってくれ」
「うむ」
「かしこまりました、主様」
「待って待って、また物を取られるかもしれないですよ!」
「ん、それは困るな…」
「吾が力を貸そうか?」
イジェメドが腰に手を当て、デカイ胸を張り、提案する。
ついつい目線が胸に行くのは男として、しょうがない気がするが、眷族2人の視線が痛い。
彼女は4枚の羽を広げ、唱える。
「竜王の波動…」
ズアアア
風が吹いた気がした。
そう感じた瞬間。
「「キュイイイイイ!!」」
妖精が一斉に逃げ出した。
森からモンスターが遠ざかるのが、索敵で分かる。
「これで、ある程度は近付かんだろ」
「何したんだ?」
「吾のスキルでな、レベルが100以下の奴が吾に恐怖する」
「便利だな、どのくらい維持できるんだ?」
「10年程度じゃないか、吾もそこまで試した事は無いがな」
「うへぇ」
10年も維持できるスキルは面白いが、村や町で使われたら、たちまちゴーストタウンになってしまう…。
何者とも出会う事無く、森を進んでいくと開けた場所に出た。
ポツポツと地面にいくつもの穴が開き、そこから湧き水が滾々と湧き上がる。
不思議な場所だが、綺麗で見とれてしまう。
「今日はここに野宿だな」
「賛成です~」
「私は食料調達に、行って参ります」
叉夜はその場にトサッと力無く倒れこみ、ルカは指を鳴らし、息を潜め、森に入ってくる。
「吾は…そうじゃな…、水でも浴びるか」
おもむろに服に手を掛け、脱ぎ始める。
角や羽、尻尾が生えてながら、脱ぎにくそうな服を器用に脱ぎ、下着だけになった。
そこで振り向き王顕を見て、話しかける。
「王顕よ一緒に浴びよう、こっちに来い」
「えっ!!」
「にゃにっ!!!!」
尖った尻尾っを、クイクイと動かし呼んでいる。
さっきまで倒れ込んでいた叉夜は飛び起きて、尻尾を逆立てている。
「さっきの吾のスキル、役立っただろ、礼に背中でも流してくれても良いだろ?、友よ」
「そんなの駄目です」
「叉夜?」
「ご主人様に背中を流してもらうなんて…」
「何だ羨ましいのか」
「な、なななななな、なな何を」
「ガハハ、今回は吾に譲れ」
「う、ううぅ」
力の差がある為、強く言えないでいる。
俺は叉夜の前に立って、頭を撫でてやり、テントの中で休んでいるように言った。
最初は嫌がっていたが、根負けしてテントの中に入っていった。
タオルを持って、イジェメドの背中を洗う。
眷属2人とは違って肩幅が狭く小さい背中だった。
「王顕は脱がんのか、つまらんな」
「へいへい」
「しかし、良い力加減だ、羽も頼むぞ」
「触って良いのか?」
「触らずしてどう洗うのだ」
「そっか、んじゃ失礼して」
羽の外側は硬く、紅い鱗に覆われていって、内側は肌のようにスベスベしていた。
タオルで、丁寧に4枚の羽を洗ってあげる。
内側を洗う際、ちょっとくすぐったそうだった。
「王顕は…、女を悦ばせるっ…、技を持っているな…」
「…それ他の奴らの前で言わないでくれよ、冗談じゃなく、マジで」
「冗談はさておき」
背中を向けていたイジェメドが王顕を向く。
目のやり場に困って空を見上げる。
「ど、どうした?」
「王顕よ改めて礼を言うぞ、神の封印を解き、吾を解放してくれたこと、感謝する」
「いや、ま~、俺もドラゴンの仲間が欲しかったしさ」
「2人っきりになったのは、この気持ちを伝えたかったからだ」
「…気持ちは十分伝わってるよ」
身長の差、約50センチだが、年齢差は王顕の数千倍は生きているから堂々としている。
胸を強調させる様に、腕を前で組んでいる。
俺はイジェメドに背を向ける。
「お前は恥ずかしくないのか!」
「この完璧な肉体の、どこに恥ずかしがる部分がある、ガハハ」
「あっそうかい…」
洗い終え、イジェメドは体を乾いたタオルで拭き、服を着る。
それからしばらくして、猪に果実、山菜を集めたルカが戻って来たので、調理してもらい食事をする。
「グアハ、美味いなこれ」ガツガツ
「あんな毒々しい見た目で、何でこんな美味しく作れるのかな…」もぐもぐ
「主様はいつも私の体は綺麗だ言ってくれますよ」もくもく
「ボ、ボクだって、可愛いって言ってもらってるよ」
「…」ガツガツ、ガツガツ、ガツガツ
「…は、はは」
2人は相変わらずいがみ合い、1人は無言で手で掴んだ料理を、口いっぱいに詰め込んで水で流し込んでいる。
俺は苦笑いをしながら、酒を飲んでいた。
その後は2つテントを準備して、男と女で分かれて寝るようにした。
かなり講義してきたが、何とか説得に成功した結果だった。
悪戯好きの妖精はなんとなくで書きました
エルフを出したかったんですけど、まだここじゃないなと思いこうなりました。
次回は港町に着いての話をと…思っております
それではまた来週、楽しみにお持ちください




