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二人の距離(5)

「これって、ストーカーかなあ?」

 チラッとそういう思いが頭をかすめる。

 でもこれは、彼女のためなんだ。と思いなおして、前方を歩く優奈を見つめる。

 山岸は、夜の街で優奈の後を密かについて歩いていた。


 優奈が自分の家の近くの予備校に行っていることは、こないだわかった。

 山岸は一昨日優奈に会ったのより少し早い時間から、予備校の玄関が見える位置、けれど道を挟んだ反対側の気づかれない位置で見張っていた。

 優奈の帰りをつけようと言うのだ。

 当然、悪いことをしようと思っているわけではない。

 その逆。

 優奈が巻き込まれているかもしれない危険から、自分が守ろうと思ったのだ。それも、知られないように密かに。

 だって、彼女自身が隠したがっているようだったから。直接言っても無理だろう。逆に避けられてしまいかねない。それなら……というわけだ。

 予備校の日にちは、それとなく直接優奈に確かめた。そして今日、予備校からでてきた彼女をこうして離れて守っているのだ。

 なにも起こらなければ、それでもいい。いや、むしろ、その方がいいと思った。のだが……。


 ふいに先を行く優奈が立ち止まる。それは前回山岸が彼女に出会った公園の前だった。

 ん? と思ったときには、優奈は公園にすっと入った。

 公園、横切るのかな?

 そう思いながら、山岸は早足でさっき優奈が立ち止まった場所に移動する。そこから公園を覗いた。

「え?」

 思わず声が出た。

 公園の真ん中に立つ優奈の姿。その輪郭が淡く銀色に光っている。

「なに?」

 なにが起こっているのか、全然わからない。けれど、普通のことではないのは山岸にもわかった。

「あっ」

 優奈の光の向こうに黒い大きな影が見えた。

 男が立っている。

 その男が、今まさに、優奈に向かって手を挙げようとしていた。

 山岸の脳裏が真っ白になる。

 優奈が、あぶない!

 夢中で駆け出していた。



 公園の手前の道で優奈は空を見上げた。綺麗な満月が輝いている。

「今日だよね、みつき?」

「はい」

 優奈の口から二人分の声が漏れる。一方は優奈の、もう一方は月の姫、みつきのものだった。

 満月の今日は、月からの使者が二人に会いに来る日だった。

 あの、月の雫事件の後、みつきの母かぐやとは、年に一度会う約束をした。

 けれど、かぐやは千年の時を越えて蘇った娘のことをいろいろと知りたがったのだ。

 だから、最近満月の日には使者がやってきて、彼女たちの暮らしぶりを尋ねていくようになった。

 そして逆に、月でのことを教えてくれていた。

 今日はその日。塾で遅くなりそうだったので途中で会うことになっていた。

「向こう?」

 優奈が聞く。

「ええ」

 みつきが答えた。

 そのまま公園の中に入っていく。

 優奈は自分のからだが銀色に輝き出すのを見た。月からの使者がいるときはいつもこうなるのだ。

 その人は、いた。公園の木立の影から現れる。

 よく見知った顔。初めて月の使者が現れたときやって来た汐伯せきはくだった。

「汐伯さん」

「汐伯どの」

 二人の声が同時に聞こえる。男は恭しく腕を上げて、お辞儀をするために振り下ろそうとした。その時。


「や、め、ろー!」

 突然大音声の叫び声が聞こえて、誰かが後ろから走ってくる足音がした。

 優奈は振り返る。それが、だれだか認識する前に、その男は汐伯目がけて飛びかかった。

「竹宮さんに、手を出すなー!」

「え?」

 自分の名前に驚く優奈が見ている前で、汐伯に迫った男は、しかし、その手前で急に勢いを止める。

 そのままガクッと膝を折った。

「なにものか?」

 汐伯の右手が掌底を形作っている。

 男がどさっと尻餅をつく形で倒れた。お腹を押さえて苦悶する。その表情を見て、

「え? あれ? 山岸くん?」

 優奈が驚いた声をあげた。


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