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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SF短編集

五十センチ立方

作者: 青樹加奈

「なあ、女! 女を作ってくれよ!」


 親友Aが駄々っ子のように言う。彼女いない歴ン十年、Aが女を欲しがるのも無理はない。


「生物か。難しいな」


「だって、おまえ、その機械で何でも作れるって言ったじゃないか!」


「物ならな」


 私はあごを撫でて思案した。髭を剃り残したのか、かすかに指先がざらつく。


「よし、おまえの為に研究してみるか」


「やったー! 出来たら連絡してくれ、待ってるぞ!」


 Aはもう女が手に入ったかのように、上機嫌で帰って行った。



 私は発明家だ。新しい機械が出来る度に親友Aに見せるのが習慣になっている。今度の装置は空気中の原子を集めて物を作り上げる機械だ。

 このナンデモツクッチャウゾー初号機は五十センチ立方の物ならなんでも作った、生物以外は。

 私はAに触発されて研究に研究を重ねた結果、女を作る実験に成功した。

 早速出来上がった女を連れて親友Aのアパートに行った。Aの喜ぶ顔が早く見たい。きっと喜んでくれるだろう。

 Aは相変わらず自堕落な生活をしている。物干用ロープにかけられたパンツやズボン、椅子の上には汚れたTシャツ、流しには使い終わった皿が山積み、床にはビールの空き瓶が数本転がる。滲みだらけのシーツの上にはグラビアアイドルが載った雑誌が散乱していた。


「おい、出来たぞ。女」


 親友Aは飛び上がって喜んだ。無精髭に埋もれた顔に満面の笑みが広がる。


「やっぱり持つべき物は友だよなあ。で、いつ会える?」


「まあ、ちょっと待て」


 私はテーブルの上の雑多なガラクタを床に落とし、箱をおいた。


「それは、なんだ?」


 私は箱の蓋をあけて親友Aに見せた。


「なんだこれは!?」


 思った通りの反応だ。


「俺は女がほしいと言ったんだ。これは人形じゃないか!」


「いや、女だ。小さいが、ちゃんと生きている」


「嘘だろう」


 親友Aが身をかがめて、箱の中を覗き込んだ。


「本当だ。胸が上下している。眠ってるのか?」


「ああ、薬で眠らせている。そうだな、今夜あたり目覚める筈だ」


 身長三十センチ、女そっくりな生物が人形用ベッドに横たわっている。

 私が掛けておいたハンカチがずれて、白い人形用ビキニに覆われた胸が露だ。私は手を伸ばしてハンカチを掛け直そうとした。


「ちょっと待て」


 親友Aが私の手を掴んだ。親友Aはもう片方の手でハンカチを持ち上げた。

 女のモデルはバービー人形だ。金髪青い目、身長のわりにに大きな胸、くびれた腰、長い足。

 Aが人形用の下着をつけた小さい女をしみじみ見ている。


「おい、これって」


「ああ、人間の女の縮小版だ」


「つまりなにか。俺に人形遊びをしろと言いたいのか?」


 親友Aがまなじりを吊り上げ私を睨む。


「いや違う。そういう意味で作ったんじゃない。私の機械、ナンデモツクッチャウゾー初号機は五十センチ立方の物しか作れないんだ」


「なんだ、そういう事か」


 親友Aは相好をくずし、私の背中をばんばんと叩いた。


「だったら、二メーター立方の物が作れるようになったら連絡してくれ。じゃあな」


 バタンとドアがしまり、私は親友Aのアパートから追い出されていた。腕の中には縮小版の女が入った箱がある。私はため息をついて自分の研究室に戻った。




 それからしばらくして、私はまた親友Aを訪ねた。


「どうした? 女は出来たのか?」


「それが、どうしても二メートル立方の物を作れなかったんだ。まあ、見てくれ」


 私は三つの箱をテーブルの上に並べた。一つめの箱の蓋を取る。

 箱を覗き込んだ親友Aが悲鳴を上げて後ずさった。


「こ、これはなんだ!」


 私は驚いている親友Aを尻目に次々に箱を開けて行った。


「おい、やめろ、開けるな!」


 親友Aが悲痛な声で叫ぶ。真っ青な顔をして汚いソファに突っ伏した。


「いいから、見ろよ。君の為に苦心したんだぞ」


「いいや、見たくない」


 私は親友Aを引っ張って立たせた。


「見てくれよ。苦労したんだから」


 親友Aが恐る恐る箱を覗いた。三つめの箱を覗いた親友Aがしわがれ声で言う。


「このパンツもおまえの機械で作ったのか?」


「いや、ネットで注文した」


「そうか、そうだろうなあ。イチゴ柄のパンツをおまえが店に買いに行くわけないと思ったよ」


 私は折り曲げられた足を伸ばして見せた。


「な、関節も自由に動くんだぜ。さわってみろよ」


 真っ青な顔をした親友Aが恐る恐る足に触る。


「つ、冷たい!」


「もちろんだ。生きてないからな」


「おまえ、狂ったのか? ただの肉の塊じゃないか。俺は女が欲しいんだ! いくら五十センチ立方しか作れないからって、あんまりじゃないか。俺はあったかくて俺を受け入れてくれるちゃんとした女がほしいんだ」


 私は頭を掻いた。出来ないと認めるのが悔しかった。


「無理なんだ。大きな物は作れない。それで、女を頭、胴体、足と三つのパーツにわけて作ってみたんだ。この三つのパーツを腕のいい外科医に繋ぎ合わせてもらえばいい筈なんだ。きっと、生き始めるぞ」


「おまえは一体何を考えているんだ! 帰れ! 二度と来るな!」


 親友Aがアパートの玄関を大きく開き、私を追い出した。

 Aが何故怒ったのか、私にはわからなかった。パーツで見せたのがよくなかったのだろうか? そういえば、彼はホラー映画が嫌いだった。やはり外科医に繋いでもらってからAに見せれば良かった。そしたら、きっと喜んでくれただろう。

 いや、わかっている、本当は私はAに女を与えたくないのだ。自分の気持ちにはとっくに気が付いていたさ。だからといって、どうなるものでもない。気持ちを告白したら、Aは二度と私に会おうとしないだろう。Aに会えないなんて、二度と会えないなんて、そんなこと耐えられない。

 私はため息をついて研究室に戻った。

 それからしばらくして結局私はAのアパートに女を連れて行った。Aの好きそうな、童顔だが胸の大きな女だ。


「これもあの装置で作ったのか?」


 Aが言う。私は、ほんの少し言い淀んだ。


「まあ、そうだな。作ったみたいな物かな」


「やれば出来るじゃないか。ありがとうよ」


 Aは人の気も知らず、私を抱き締めた。そして、女だけを部屋に招き入れた。私の前でドアが閉まる。私はしばらく閉じられたドアを見ていたが、失恋の重い心を抱いて研究室に戻った。

 ナンデモツクッチャウゾー初号機がキラキラと光っている。女を手に入れる為に作った物がわずかに残ったのだろう。もっと早くにこうすれば良かったのだ。

 私が作った物。それは、原子番号79。元素記号AU。地球上最も価値のある金属。金。

 女なんてこれさえあれば、いくらでも手に入るんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど!と思わず納得してしまうオチだった。 とっても面白かったです!
[良い点] おもしろかったです!笑 本当に星新一みたいでした笑。 毒があってブラックなのに笑っちゃうんですよね。 作った金で女を釣るって感じですかね。 愛はなさそうだ。作った彼のが愛がありますね……。…
[良い点] 楽しく拝読しました。 オチの切り返しが最高です。 成る程とうなってしまいました。 [気になる点] 札束が無限に作れそうですね。これって偽札?なんですかね。
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