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ファーストフード店にて②

いわゆるボーイミーツガール物の作品でございます。

夢見がちなヘタレ高校生・早良さわら 汰郎たろうと、可愛いケド手が付けられない程ジャジャ馬な小学生・祇園ぎおんの 円袴まるこの心温まる物語……になる予定です(汗)

気ままに連載を続ける予定ですので、可能であれば最後までお付き合い頂ければと思います。

この作品を読んで人間が成長する事に、その快感にちょっとでも酔いしれて頂けたら幸いです。


登場人物


早良さわら 汰郎たろう:主人公。並外れて低い身体能力しかないのにボクサーを志す夢見がちで坊ちゃん気質な高校一年生。

祇園ぎおんの 円袴まるこ:小学生の女子。本来は元気で明るい女の子。だが様々な問題を抱えており苦悩が耐えない。美少女。

御木本みきもと まがね:小学校時代からの腐れ縁。中学は別々の学校に進み同じ晴櫻学園に入学して再開を果たす。よく部活の帰りに汰郎と一緒に帰る。

・西山:ボクシング部の同期。落ちこぼれの汰郎を迷惑視して退部させようと色々画策する。

・祇園 信近のぶちか有紗ありさ:円袴のパパ&ママ。昔は仲が良かったが今はすこぶる悪い。円袴の悩みの種の1つ。

颯波さっぱミナト:ボク部の先輩。高2。人当たりが良い。

六色むついろ 碧ル(へきる):ボク部のマネージャー。高2。エネルギッシュで人望も厚い美人。汰郎の憧れの人。

颯波先輩は話を始める前に“これは十何年も前の話だけど”と前置きした。

「とあるボクシングジムにどうにも手の付けられない男がいたんだケドね、」

そう言ってアゴをさすりながら、先輩は記憶を探るように話し続けた。

「ソイツはとにかく喧嘩が滅法強くて周りに薦められてジムに入門したっていう……まあボクシングの世界じゃどっかに一人はいそうな典型的なタイプさ。実際その才能は誰もが認める程のものだった。ところが真面目に練習もしなければ、誰の言うことも聞かない。その上超がつく程の遊びたがりで女グセも悪いっていうとんだフダツキだったんだ」

「サイアクー」

「ちな、ソイツ当時高1な」

「げえー」

六色先輩が分かりやすいくらい顔をしかめる。

「ソイツは案の定プロライセンスを取った後もすぐに破竹の勢いで勝ち星を重ねていった――ところがある試合で初めてKO負けを喫してさ、それがきっかけとなってあっさり現役を引退しちまったんだ。確かまだ二十歳の頃だ」

「早っ!勿体無いじゃないスか」

二十歳ってまだまだこれからだというのに。

「まあその負けた相手ってのが実は後の世界チャンプだったりもするんだけどさ。要するに上には上がいるってコトを思い知らされたってワケだ。でここからが肝心なとこなんだケド、引退しちまったその男はなんと飛咲小の出身だったんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。マジ情報」

へえー全然聞いたことなかったけどなあ。

まあ10年以上も前の話だったら仕方ないのかもしれない。

颯波先輩は話を続けた。

「引退してからしばらく経ったある日、ソイツの下に飛咲小から在校生徒達に講演会をしてくれないかって依頼が来たんだ」

「えーなんか人格的に不安よね。一体子供達相手にどんなコト話したのかしら?」

「ソイツはどんな言葉を投げかけたと思う汰郎ちゃん?」

「え?うーん」

ここまでの颯波先輩の言い方からして、どうせロクでもない事を言ったと思う……けど。

でも大勢の小学生を目の前にして、いざデリカシーのない事を言おうものなら、それはそれで慎重に言葉を選ぶと思うんだよなあ。結局、

「わかりません」

と答えた。

先輩は“仕方ないな”という風に一つ咳払いしてから答えを言った。

「『才能が無えヤツは何をやってもムダだ』だってよ」

「マジっすか!?」

「なにそれー!ヒッドーイ!」

声を荒げたのは六色先輩だ。

「だろー?その瞬間、体育館中ピッキーンって凍ったってよ」

「信じられない……とんでもない人っすね」

その現場をイメージすると、あまりにも非常識的すぎて開いた口が塞がらなくなる。

「人生の先輩からそんな絶望的なコト告げられた生徒達の気持ちを考えてみろよ。フツー言えないぜ、そんなコト」

おれも六色先輩も何度も首を縦に振った。

「当然周りの職員達もすげえ慌てふためいたらしいぜ。後でPTAからどんなバッシングを受けるか戦々恐々だったろうな」

「子供達、かわいそう……」

六色先輩がそう言った瞬間、颯波先輩がバンと机を叩いた。

「ところがだ!まだ話には続きがあってな。ソイツのヒデェ講演を聴いた後、一人だけ反論して立ち向かった男子生徒がいたんだ!!」

颯波先輩が机に乗り出す勢いで顔を近づけてきたので、思わず体を引いてしまった。

「その子はヤツの目の前まで来てこう言ったんだと。“才能が無えヤツよりいい歳して拗らせちまってるヤツの方が百倍救えねえよ”ってな」

「キャー!何そのコ可愛いすぎーーーっ!」

六色先輩は絶叫に近い声を張り上げながら、腕をブンブン振り回して萌え悶えた。

「男の方はとんだ赤っ恥かかされちゃいましたね」

「本当に赤っ恥かいたのはここからだ。子供に論破されたソイツは大人げも無くマジギレして大暴れしちまったんだ。慌てて周りの教員達が必死に取り押さえようとする中でなんとさっきの男子生徒も混じって力づくで男をねじ伏せちまったらしいんだよ」

「ええっ!?し、小学生がプロボクサーをねじ伏せたの?」

絶叫に近い声を上げたのは当然六色先輩だ。

「なんですかその都市伝説みたいな話」

「驚くのはまだ早いぜ。実はその後、ソイツはその男子生徒に頭下げて師事を仰ぎ、鮮烈な現役復帰を果たしたんだよ。しかもまだ現役続行中だぜ」

「いやいやいや、さすがに嘘っスよね先輩」

「マジだって。なんせソイツ自身が雑誌で証言してるんだからな」

「え、知ってるんですかソイツの事?」

「ああ。去年も世界王座決定戦で挑戦者としてリングにも上がった――『大橋おおはし 良成よしなり』だよ」

「大橋さん!?」

おれは思わず立ち上がった。

去年の中3の時。初めて見たボクシングの試合が彼の試合だったのだ。

TVで見てて強烈な衝撃を受けたことを今でもよく覚えている。

年が若く肉体も充実しているチャンピオンを相手にピーク時から10年以上も年を重ねていた大橋さんは終始劣勢に立たされながらも少しも怯まなかった。それどころか気迫溢れる闘志で真っ向から戦いを挑んだその姿におれは胸を打たれたんだ。

ボクシングを始めるきっかけになった人、それが大橋さんだったのだ。

そんな彼が……

「あの人がそんなフダツキの選手だったなんて……信じられない」

「まあね。真摯にボクシングと向き合ってる様なイメージが板についてる現在のあの人からは全然想像できないよなあ」

「大人の人がそこまで心を入れ替えられるって中々出来ない事よね」

「そうですね」

つまり裏を返せばそんなろくでなしだった大橋さんを現在のあの人に変える事が出来たその小学生男子の手腕が半端ないってことか。

半端ない小学生と言えばこっちのお転婆も負けてないよな。

円袴の方をみるとこっちの視線に気がついた彼女が、

「アタシ、ソイツと勝負してーな!」

と唐突に言い放った。

「勝負?ソイツってどっちの事だよ?」

「男子の方!」

円袴の鼻息は荒かった。

「でも十年以上も昔の話だぞ。もうオッサンだろうし腕っ節だって鈍ってるかも」

おれが言うと円袴は「違う」と手を振った。

「戦うのは汰郎だよ。で、汰郎の相手はその大橋サンってヒト」

「え?」

「アタシがソイツと勝負したいのは、どっちの方が相手を強く育てられるかってコトだよ」

「はああ?」

おれは呆れた顔をしたが、颯波先輩も六色先輩も大声で笑った。

「ふふ。まさかの育成対決ね!子供が大人を育てるって斬新!」

「いや、育成って言うよりは更生だね。大橋さんの場合、心根も入れ替わったんだから。マルコちゃんもお兄ちゃんを更生させるつもりで育てないとね」

「うん!汰郎ってヘタレ高校生だからさ。アタシが頑張って更生させてやるんだ!」

「じゃ、ちゃんと日記をつけないとね。汰郎くんの“更生日記”を!」

「そうするー♪」

「コラ、何調子乗ってんだお前は!」

円袴を捕まえようとしたが、ヤツはするりとおれの腕の間をすり抜けると後ろから羽交い絞めにされた。

「明日からみっちり鍛えてやるからな。明後日も明々後日もその次日もずーっと、ずーーっと!」

「うがが、く……くるしい」

「ずーっと一緒だよ!汰郎♪」

円袴のゴキゲンな声がおれには死神の囁きにしか聞こえなかった。

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