何かをやり遂げたい
自分の力を試してみたいという野心より、何かをやり遂げてみたかった。
「お疲れ様、蓮山くん」
飯山康雪はコンビニの店長だ。かつてはグラフィッカーとして働いていたが、自分にはその適正が不足していた。
好きな世界だと思っていたのに苛烈な仕事の連続で、今まで真摯にやってきたことをできずに辞めた。自分のやってきたことなのに自分が感じていた世界とは違っていた。
もうあそこには戻れないと決めての辞退だった。描けなくなった自分を誰も止める者はいなかった。
望まれる仕事や期待に応えることはどうやら、自分の感情ではできなかったようだ。
「漫画の方は進んでいるのかい?」
「ええ!それはもう!超描いてますよ!昨日は2ページ!」
仕事をなくせば探すのが当たり前だ。なにせ働かなければ生きられない。
低い月給でも採ってくれた会社に勤めて、一日の生活をなんとか作っていた。だが、仕事がない日はただボーっとすることが多かった。自分の大切な物がどこにいったのか、忘れてしまった時であった。忙しさで気持ちを誤魔化すのは長くは持たなかった。
何をすれば良いのかと、新たなことに目を向けても続けることはできない。まだ、未練があることを知る。同時にやっていけるのかと不安もあった。
再起しよう。今度は、自分の好きなことをやろう。
再び、絵を描き始めたのはグラフィッカーを辞めてから2年後。さすがに腕は全盛期にも満たない。
だが、その下手さにはまだまだ進歩できるという可能性を出していた。
キャラクターを描いただけで憧れに向かって走ろうとも思い、一つの目標を立てる。今度は漫画家にでもなろうかと。
中途半端な気持ちかもしれない。だが、分かっていることは自分は本気で職業として、自分の腕を活かせられない。もしかしたら足りていないとも言われるかもしれないが、見栄を張って自分の腕が活かせないと記そう。
だから、こう……少しだけ臍曲がっている。
「飯山店長はどうですか!?」
「更新は週1ペースだから、君のようには更新できないよ。少し羨ましいな」
「いやー!俺はのんちゃんが大好きですから!今はのんちゃん一筋でいけます!……小さな場でしか、活動できてませんけどね」
「ははは。でも、私だって新刊は間に合いそうだよ。また一緒に出そう。共同創作、個人創作でね」
今まで努力し続けたことをどう使うかはその人による。私は私のため、たとえ報われなくても、描くことが大好きであり、自分がもっとも生きているという気持ちになれる。
上手いのならそれなりの道に行くべきだ。行けない奴は下手なんだ。合っているようで合っていないと伝えたい。
店長になってから出会ったアルバイトに、自分と似た境遇を持っている蓮山銅也くんとまた出会えた。彼とは4年半ぶりほどの再会で、お互い怪我をした時病室で絵の描き方を教えたことがあった。彼も私のように作った夢を叶えようとするも、一度は挫折してこのコンビニにやってきた。
それでも、夢をもう一回作り直して漫画を描いている。自分が好きだから貫こうとする意志は社会や評価を乗り越えようとしていた。
ただ、私の場合は仮にできなくても良いと思っている。蓮山くんはその先まで行けると思っている違いはあった。
私は趣味という生き甲斐レベルの、漫画家。彼はもう一回諦めないというレベルの、漫画家。
お互い、まだ成功はしていない。ただ、漫画を今でも描き続けている。おそらく、絵が描けなくなるその日までこの魂は消えないと思う。
「それじゃあ先に上がります!俺ののんちゃんが待っているんで!」
「うん。また明日、よろしくねー」
コンビニから出る蓮山くんはいつも上機嫌だ。入社当時はおどおどした人がここまで変わってくれるなんてね。仕事もよく覚えてきた。
彼のようにもっと楽しむには愛情と似た思い入れが必要なんだろう。今でも、私は漫画家になりたいから描いているという気持ちかもしれない。同じ作品、同じキャラクターを何度も描けない。話は毎回、短編。普通の描き方、時には四コマ。ジャンルはコメディやファンタジー、アクション、学園物など。いろいろと作ってきたけど、ピンッとくるものはなかった。
好きなことなのにどうしてもブレてるというか、決められないこの性格が職業として向いてないんだよな。
蓮山くんは逆に強すぎて向いていない。
彼のような熱い魂は時が経つほど、溢れてくるチャンスを失うのかな?好きでいるだけじゃ……。あれ?そもそも、私は漫画を描くことが好きだったのかな?
「ふふふ、新刊が気になるな」
あれほど好きな人がいるから、見劣りするだけさ。
なーに。いつも通り、ペンを握れば走っていく。その時だけがとても静かで自分を現せるときだ。どれだけ好きのレベルが低くても、私は好きだから。
大きな夢もないけど、ただ描き続けることだけは……。
「私も少し、連載を勝ち取るまで頑張ろうか。蓮山くんも手伝ってくれるんだし」
諦めない。どーせ、私にそれが無くなったら何もないから。諦めもしないけどね。
「いらっしゃいませ。レジにどうぞー」
この飯山康雪が、週刊誌の連載を勝ち取るのはこれからおよそ2年後のことだった。
自分が昔に書いた作品のキャラです。IFストーリーっぽくなりましたが、
こーゆう話はこの2人にして欲しかったので。
懐かしいなぁ。




