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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さかさま

作者: けん

 薄闇の中、街灯がぽつりぽつりと灯っていく。その街灯に照らされた地面を見つつ妹と手を繋ぎ一歩ずつ歩いていく。前を歩く両親は何だか楽しそうに会話をしている。その気持ちも分からないでもない。私もこれからあの赤い電車に乗れるのだと思うとワクワクしてしまう。非日常が待っている気がして。

 赤い電車に乗る駅に着く頃には妹はお父さんにおんぶされ、眠ってしまった。妹はまだ小さいからワクワクしないんだろう。だから私みたいに興奮して、目が冴えるなんてことになってないんだろうな。なんて思いながら私は電車がやって来るのをホームで待つ。お母さんが近づいてきて私の手を取る。もう子供じゃないんだよ。と思いながらもお母さんの手を握ると温かくて安心する。

 電車がホームにやって来る時間が近づいてくると、だんだんと人が増えてくる。スーツ姿の人、私たちと同じ様な家族、パンパンになったリュックを背負った人、色んな人がいて、この人たちはどんな人でこれからどこに行くのかな、そんなことを考えてしまう。

 ほどなくして来た電車に乗り込み座席に腰掛ける。私の知っている電車はだいたい壁に沿って椅子が並んでいるけど、この電車は特急や新幹線みたいに椅子が並んでいて、なんだか豪華な感じがする。

 走り出すとびっくりするくらいに長い間、駅に止まらない。私の知っている電車だったらその五分の一くらいの時間で次の駅に止まるのに。だから私は次の駅に着くまでずっと外を見ていた。薄闇から夜の闇に変わっていくのを眺めていた。街の光がキラキラしていて、なんだか宝石の様だなとか思っていた。

 ターミナル駅に着くと、人がドッと降りて、降りた人の数より多い人が乗り込んでくる。その人たちが荷物を棚に置いたりするのを待たずに電車は走り出す。

 さっきまでと違く、こんどはあまり街の光を目に出来なくなってくる。その代わりにトンネルが出てくる。電車に乗る時よりさらに胸が高まっていくのが分かる。私の中でこの電車に乗り、トンネルをくぐることはとても特別なんだ。トンネルの中にある無愛想な光を放つ蛍光灯を追い越すたびに目で追いかける。なんだかそわそわしてしまうのだ。

 大き目の駅に止まる。今度は降りる人だけで乗ってくる人はいなかった。そしてまた電車が走り出す。アナウンスで流れてくる駅名を耳にすると、私は隣のお母さんの顔を見る。お母さんはにっこり笑ってから頷く。

 

 

 大学を選んだ理由は高校を選んだ理由と変わらなかった。家から近い。もちろんそれだけで決めたわけではないが、割合としては凄く大きい部分を占めている。

 通い始めて少し経った頃に、学内の掲示板に書店のアルバイト募集の張り紙が貼られていたので、なんとなく応募してみた。応募の翌日には電話が来て、履歴書をもって来て欲しいと言われた。個人経営の書店に面接に行くと、店長が履歴書を少し読んでから二、三の質問をしてそれで終わり、翌日には採用の電話が来て、私は書店で働くこととなった。

 初めて働く日に、私の先輩で指導をしてくれる人だと男の人を紹介された。その人は私の二つ年上で、私より少しランクの高い大学に通っていた。家は東北だから一人暮らしなんだけど、仕送り貰うのも悪いから出来るだけ自分の生活費は稼ぎたいんだ、と最初に会った日に言っていた。それから私が働く日は大体その人と二人きりだった。その人は本当に仕事の出来る人で、聞いたことは何でも知っていた。私はいつの間にかその人に惹かれるようになっていた。その人も私という存在を認めてくれていたのか、悪くは思っておらず、良く仕事の後にご飯に誘ってくれた。そのままの流れで付き合い始めたのは六月の中ごろだった。

 充実した時間というのはこういう日々のことを言うのだろうと実感できるくらいに、私は毎日を楽しく、面白く過ごしていた。たまに彼とは喧嘩をしたりしたけどそれさえも心のどこかで楽しんでいた。

 十一月になり、彼が別のバイトに移ると言い、また少し口論になった。最終的に私が折れて、彼は書店を辞めて、プログラムのバイトへと移って行った。この時、歯車が少し狂ったような感覚を受けた。それ以降は彼と会う時間が極端に減り、段々と顔や声や匂いを忘れていってしまった。

 十二月の中ごろに彼から連絡があった。久しぶりに飯でも行かないか、と。本当に久しぶりの連絡だったので私は二つ返事で了承した。

 近くの大きいターミナル駅で落ち合い、安い居酒屋に入る。席に着いて、ビールを頼むと彼はおしぼりで手を拭きながら、久しぶりだね、と微笑む。私は忘れかけていた物を取り戻し、やっぱり好きなんだなと再認識する。

 ビールが届いて、それに合わせておつまみを数点頼んでから乾杯をする。彼は喉が渇いていたのか、ビールを半分くらいまで一気に飲む。

 おつまみが揃い、二杯目のビールを頼む時に彼がそれまで話していた話題を終わらせて深刻そうな声で、ごめんな、と言うので、私はいままでほったらかしにしていてという意味だと思い、手を振って、大丈夫と言う。彼は笑ってから、そういう意味じゃないんだ、と言ったので私は嫌な予感がした。背筋が凍りつき、一気に酔いが覚めていくのが分かった。彼がバイトを辞めた時の違和感はこれだったのかもしれないなと思う。

 二杯目のビールが届く頃には私は別れ話を言われ、泣くことも怒ることもせずにただただそれを受け入れていた。じゃあこれ飲んだら私は帰るねと、いまさっき届いたビールを見せてそう言うと彼はまた、ごめんと言った。

 家に帰り、玄関で靴を脱いでいると、お母さんがパタパタとスリッパを響かせながら近づいて来た。

「お帰り。あのさ、さっきおじいちゃん家から電話があってね」

 なんだか楽しそうに話すお母さんが、少し鬱陶しかったから相槌も打たずに靴を脱いで、さっさと家に上がり、居間へ向かう。なのにお母さんは付いてきて話し続ける。

「あんた覚えてるかな、るりちゃん。そのね、るりちゃんがあんたに会いたいんだって」

 私は頭の中でるりちゃんを思い浮かべながら、居間のソファーに座る。お母さんは向かいの座布団に座る。

「だからまあ、時間があった時でもいいし、お正月にでもいいし会ってあげなさいよ。あんたここ数年全然行ってないんだしさ」

 私が決めていいような口ぶりだけど、言葉の外で行くことを強制しいる。それが凄いイライラしてしまい、私は何も言わずに居間を出て、自分の部屋に行き閉じこもる。

 るりちゃん。

 お父さんの妹の長女で私の妹より三つ下の女の子。最後に会ったのは小学校に上がるかどうかの頃だった気がする。私や妹の後をついて回り、私たちがやったことを同じようにやる。可愛いけど少しめんどくさかった。それから私があまりおじいちゃんの家に行きたいと思わなくなってしまって会うことは無くなった。

 私は電気も点けずにベッドの上に座って、るりちゃんのことを思っていた。本当だったらるりちゃんじゃなくて彼のことを思っていただろう。そして悲しくて悲しくて泣いていたかもしれない。それを回避できたのはお母さんがるりちゃんの事を話してくれたからなんだな、と思うと少し感謝する。

 好きだった人に振られたのに全然別の人の事を考えている私は少し滑稽な気がして自然と笑ってしまう。そのままの勢いでバッグから携帯電話を取り出して、彼のアドレスを消す。「消去しますか?」の文字が出て「はい」のボタンを押すとき少しドキッとした。これを押してしまうと二度と彼に会えないような気がした。私は唾をごくりと飲むと親指でボタンを強く押す。「消去されました」の表示の後にまた電話帳を開くと、彼のアドレスがあったところには別の人の名前があり、ああ本当に消えたんだなと思いながらも、心はすっきりしていた。泣くことも喚くことも誰かに彼の文句を言うことも呪いの手紙を書くこともせずに私は彼の事を胸の中にしまえた。二度と取り出すことない部分に。

 私は部屋を出て、お母さんのところに行くと、るりちゃんに会うことを伝える。

 

 

 その日は晴れていた。冬晴れなどという言葉が存在するのなら、今日の天気の事を言うのだなと思えるくらいに。

 お母さんやお父さん、妹とは別の日におじいちゃんの家に行くことになったのは、軽い罪滅ぼしと、私の都合の問題だった。私の都合というのもただ懐かしい場所に向かい、現実逃避したいだけという子供じみたものだけど。

 パンパンになったボストンバッグを手に持ち、電車に乗る。インターネットで検索してみたら、早くて安いルートがあったけれど、私は懐かしい赤い電車に乗りたくなっていたので、それらを無視してあえてお金と時間の掛かるルートを選んだ。

 電車の中は割合空いていた。年末と言えどまだ仕事納めしていない人の方が多い日にちの昼間なのだから、そうなるのも仕方ないだろう。私は適当に空いてる席を見つけると、ボストンバッグを棚に乗せて座る。男の人がホームから走ってきて、閉まりそうなドアに体を滑り込ませるように入ってきた。何もなかった風な顔をして、私の向かいに座る。駆け込み乗車は危険ですのでおやめください、といつもより強めの口調でアナウンスが流れると電車は動き出す。

 駅を出ると外から柔らかな日差しが入り込んできて車内を少し明るくする。タタンタタンとリズムを刻む音がなんだか心地いい。

 乗り換えの駅には昔の記憶よりも時間が掛かった気がする。話す相手も、暇をつぶすものも用意していなく、窓の外をずっと眺めていたからそう感じたのかもしれない。

 ボストンバッグを手に持ち、赤い電車のホームへと向かう。

 構内は電車の中と全く逆で、人で溢れかえっていた。様々なベクトルで歩いている人たちを避けながら、どうにかホームに辿り着く。ホームも人が多かったが、すぐにやってきた急行の電車にほとんどの人が乗って行った。

 次の次に私が乗りたい電車がやって来ることを電光掲示板で知ると、適当な場所に行き電車が来るのを待つ。次の電車を待つ列に家族連れが並ぶ。お父さんとお母さんに挟まれている男の子は二人の手をギュッと握っている。昔の私もこんな感じだったのかな。

 その家族が乗った電車が駅を出てから数分で私の乗る電車がやってくる。ドアがゆっくりと開き、乗り込む。真ん中あたりの窓側の座席に座る。

 ドアが閉まり電車が動き始めると頭の中に色々な光景がフラッシュバックされる。いい事も悪い事も昔の事も新しい事もない交ぜになって。映像の最後に彼の笑顔が流れて胸がキュッとした。嫌な物見たなと思いながら、窓の外を眺めていると、街が柔らかい陽の光でふんわりとしたコントラストを描いていた。

 電車がいくつかの駅を過ぎると、トンネルが出てきた。私は忘れていた感覚を思い出す。気持ちが高ぶり、この先には楽しい事しかないと信じて疑わない。そんな抑えようにも抑えられない剥き出しの感情が体の中を走る感覚。そこになってようやくおじいちゃんの家に行くんだ、と実感する。頭の中では分かっていたはずなのに、体の中では全く分かっていなかったのが急に現実味を帯びていく。

 トンネルもいくつか過ぎると、目的の駅に着く。私はボストンバッグを持ち、電車を降りる。ホームから階段を上がり、改札を出てから、どっちに行けばいいんだっけと思い、地図が無いかきょろきょろしていると、女の子が寄ってきた。

「あの……」

 女の子が私に向かって話しかけてくる。私は女の子の顔をまじまじと見つめる。

「えっと……もしかしてるりちゃん?」

 私が言うと女の子の顔が明るくなる。

「うん。良かった人違いだったらどうしようかなって思ったんだ」

 女の子の弾んだ声が、彼女が本当に喜んでいることを表していた。

「メガネ掛けてるから一瞬誰だか分からなかったよ」

 私は冗談交じりで言い、笑う。

「去年から目が悪くなっちゃってね」

 るりちゃんは一旦言葉を区切る。

「久しぶりおねえちゃん」

 言ってから屈託の無い笑顔をするので、私は怯んだ。無邪気な、全く他意の無い笑顔は久しぶりだった。

 るりちゃんに左手を握られ、引っ張られるように駅を出る。るりちゃんの手は子供独特の温かさだった。大通りの歩道を歩いているとぽつりぽつりと記憶が蘇ってくる。もう少し先の反対側の本屋だったり、中央分離帯のピカピカ光る棒だったり、おじいちゃんの家に行くときはいつも行ってた駄菓子屋だったり。だけどいまは本屋は無くなって空き店舗になって、ピカピカ光る棒は反射板だけになって、駄菓子屋はコンビニになっていた。

「あそこ……見えるかな?」

 るりちゃんが右側を指差す。視線を指差した方向の延長上に移すと灰色のビルの様な物が見えた。屋上に緑の柵があるから学校なのだろう。

「あそこの学校に通ってるんだ」

 るりちゃんはまた屈託ない笑顔を向けてくる。今度は怯まなかった。

 私は小学校に通うるりちゃんを想像する。学区で集まった子供たちと学校に行き、教室に入りクラスメイトに挨拶すると席に座る。それから授業が始まり、黒板に書かれた文字を一生懸命に、ある種の強迫観念を持って、ノートに書き写す。給食を食べ終えると、友達と話しをしてから持ってきた本を読む。だんだんとその想像は私の子供時代の記憶と重なり想像としての意味を成さなくなっていき考えるのを止める。

「学校は楽しい?」

 視線をるりちゃんの方に向けると、るりちゃんはうんと言って頷いた。

 大通りを曲がり、細い道に入る。道の両側には小高い丘になっているのに、道は上り坂になることはない。私の記憶ではこの道に入ればおじいちゃんの家まであと少しのはず。白い煙を吐き出しながら原付が通り過ぎる。気温が低いからか、煙はすぐに消えずに雲みたいにふわふわと浮かんでいく。煙を眺めていると、青い空が目に入ってくる。私の家の方よりも気持ちのいい青だった。視線を下に移すといつの間にか煙は消えていた。

 るりちゃんがふいに手を離して、先に行ってしまう。私は何かあったのかなと思い、走り出そうと右足を出すと、るりちゃんは五メートルくらい進んだところで立ち止まる。右足は所在無く地面に着き、私はひょこ、とした歩きをしてしまう。

 着いたよ、と言うるりちゃんの言葉でそういう事だったのかと思う。私は入口の前に立ち、家を見上げるけど私の記憶の中のおじいちゃんの家とは全然合致しなかった。全く知らない他人の家としか思えなかった。

 怯みながらもるりちゃんに促され、門をくぐり、玄関に入る。玄関の景色は昔の記憶と同じだったので不思議な感じになる。

「おねえちゃん着いたよ!」

 るりちゃんは靴を脱ぐと、大声で言って、居間の方に向かっていった。

 私は靴を脱ぎ、棚に入れると上がり込む。だれか来るのかなと思っていると、るりちゃんに連れられて、伯母さんとおじいちゃんがやってきた。伯母さんは顔こそはあまり変わってないけど、白髪が増えたように思う。おじいちゃんは昔と全く同じだ。

 伯母さんがよく来たねとか久しぶりねとか言い、私はそれに相槌を打つ。電車で疲れただろうから荷物はそこに置いて、こっちでお茶でも飲みなよ、と言うので言葉に甘えることにする。その間、おじいちゃんは一言も発さず私の顔をじっと見ていた。

 居間に行き、適当に座ると伯母さんとるりちゃんがお茶を淹れてくれた。私たちはお茶をすすり、一息つく。

「しかしまあ、美人さんになったな」

 湯呑をテーブルに置いて、おじいちゃんが呟く。るりちゃんがうんうんと頷いてる。私は恥ずかしくて顔を逸らし部屋の中を見渡す。

 おじいちゃんはお茶を飲み干すと何度か頷いて納得したような顔をして居間を出ていく。

「おじいちゃんねーまきちゃんの事ずっと心配してたから、元気そうな顔見れて満足したんだね」

 私の向かいに座ってる伯母さんが言う。申し訳ない気持ちになる。

「そうなんだ……これからは出来るだけ顔だせるようにするよ……。お茶ご馳走様」

 私は居間を出て玄関に置きっぱなしのボストンバッグを持つ。

「いつもの部屋使ってね」

 居間から伯母さんの声が聞こえる。私は分かったと返事をして、部屋へ行く。るりちゃんが居間から出てきて、私の後を付けてくる。

 使わせてもらう二階の客間に着き、襖をあけると畳の香りが漂っていた。ボストンバッグを適当な場所に置くと、るりちゃんがお散歩でも行こうよ、と言うので私は頷く。

 

 おじいちゃんの家に来て数日はるりちゃんと色んな所に出かけた。それこそ近くのスーパーから電車に乗って繁華街にまで。ある程度長い時間一緒に居ると、昔のようにただ何も考えずに後を付けまわすのではなくて、自分で考えて良いとか悪いとかは考えているようだった。繁華街のカフェで私がビールを、昼間から飲むのというるりちゃんの顔を押し切って、頼んだ時にるりちゃんに一口勧めたのだがるりちゃんは頑なにグラスに口を付けようとしなかった。その程度だけど、その程度だからこそ見えてくるものもある。昔のるりちゃんだったら何も考えずに口を付けていたと思う。それが嬉しかった。

 大晦日の夜は騒がしくも無く、ただ粛々と行事をこなすようだった。少しだけ奮発したような料理が出てきて、それをみんなで食べ、少しだけ奮発したようなお酒を私と伯父さんとで酌み交わす。テレビは紅白歌合戦が流れていてるりちゃんは好きなアーティストをじっと見つめていたけれど、私にはその歌が全く分からなかった。それよりも何かが好きな、何かに夢中になってるるりちゃんが可愛かった。

 除夜の鐘が鳴り、今年もあと少しだね。なんて話をしてる横でるりちゃんは寝息を立てていた。伯母さんが毛布をるりちゃんにかける。スース―と規則正しく呼吸するるりちゃんを誰も邪魔してはいけない雰囲気が漂い、自然と会話をする声も小さくなる。テレビでは静かにカウントダウンが始まる。あらやだ、あと五分なんだ。伯母さんはそう言うと、居間を出て台所に行く。私の家では年越しそばは年を超す前に食べるのだけど、この家では年を越すときに食べるらしく、伯母さんは作っておいたそばのおつゆを温める。私が立ち上がり手伝いしに行こうとすると、おじいちゃんが、お前はお客さんだし座っておけ、と言う。でも……、と私が言うと、いいからいいからと言う風に手を動かす。仕方ないので座り、またテレビのカウントダウンを眺める。時間はいつの間にか三分を切っていた。

 伯母さんの感覚は驚くほど正確で、一分前にはみんなの前にそばが並んでいた。みんなでカウントダウンを見ながらそばをすするとるりちゃんが瞼を擦りながら起き上る。煩かったかな、と伯母さんが言うと、るりちゃんは首を横に振って、私も食べる、と短く呟く。伯母さんが台所に行き、おつゆを温めているとカウントダウンは十秒を切る。結局伯母さんが居間に戻ってくるときには年を越していた。るりちゃんは伯母さんからそばの器を受け取り、伯母さんは自分の席に座る。そばをすすりながら、あけましておめでとうございますとか今年もよろしくお願いしますなんてやりあってる光景が面白くて笑いそうになる。そばを食べて終えてからまた宴会が再会されるのかと思ったら、おじいちゃんと伯父さんは立ち上がり部屋を出ていく。どうやらこの家ではそばを食べたら寝るらしい。私も立ち上がり部屋に行こうとすると、まだ食べているるりちゃんに服を掴まれる。るりちゃんの方を見ると、今日は一緒に寝よう、と言ってくる。少し、いや、だいぶ酔っぱらっているので一人で寝たかったけれど、新年早々にお願いを断るわけにもいかず、私はまた座りるりちゃんが食べ終わるのを待つ。

 あたしもこれ片づけたら寝るね。るりは自分で片づけてね。そう伯母さんは言い残してみんなの食器を持って部屋を出ていく。るりちゃんの器にはもうおつゆしか残ってない。ふうふうしながらゆっくりおつゆを飲むるりちゃんを見て、ふといたずらめいたことを思いつく。

 私はるりちゃんに近づいて横になる。るりちゃんの柔らかそうなわき腹を人差し指でつつく。るりちゃんは、やめてよー、と言うが私はつつくのをやめない。これは自分が想像してるよりもはるかに酔っているなと思う。るりちゃんが、もうお姉ちゃん酔っぱらいすぎだよ、何がしたいの、と言うので私はゆっくり座りなおしてるりちゃんを見つめる。

「私ね、るりちゃんに慰めて欲しいんだ」

 私が真顔で言うもんだから、るりちゃんが怯んだ顔をする。そして俯く。

「慰めるって……」

「昨日……一昨日だっけ? 話したよね。私この前、彼氏に振られちゃってさ」

 だからと付け足す。るりちゃんは私の顔を見ずに下を見て考えているようだ。

「あたし何すればいいの?」

 顔を上げて私を見つめる。

「キスして欲しいな」

 私はほとんど脊髄反射的に言葉を紡ぎだしていた。るりちゃんは私をじっと見つめる、紅白歌合戦で好きなアーティストを見るときのような、もしかしたらそれ以上の目で見つめる。私の本気度を測っているようなので、私も負けないように強い思いを込めて、るりちゃんを見つめる。

 るりちゃんはふぅとため息をつく。

「分かったよ。お姉ちゃんは昔から言い出したら譲らないもんね」

 るりちゃんは顔を私に近づけて、目を閉じる。るりちゃんのその顔が艶っぽくて、私の心臓の鼓動が早くなる。こうなることを望んだはずなのに準備不足だった。

「恥ずかしいんだから早く……」

 その言葉さえ色気を持っているように感じる。

 一回息をつくと、出来るだけ鼓動が早くなっているのがばれないように顔を近づける。

 十秒ほど唇を重ね、どちらともなく離す。目を開くと顔が真っ赤になっているるりちゃんが映る。るりちゃんの目にはどんな風に私が映っているのだろうか。

 るりちゃんとの初めてのキスはそばのおつゆの味がした。

 

 どうしようか、とるりちゃんが言って来たので、私は思い切って付き合おうかとその日の夜、布団の中で言う。元日のお昼には家族がやって来て、夜は親戚も揃い、宴会になった。私とるりちゃんはたまに目を合わせ、そして恥ずかしそうに笑う。

 親戚が帰っていき、がらんとなった家にいるのも気まずいのでと、私たち家族も三が日が終わる前に帰ることになった。私はるりちゃんに連絡先を渡し、小さく手を振って、別れた。赤い電車に乗り少し経ったところで、るりちゃんからメールが来た。今度一緒に遊ぼうね。短い文だけど、それを入力して送信するのにどのくらい時間が掛かったのか私は想像する。この文でいいか迷い、この文を送信していいか迷い、送信してから本当に良かったか迷っているるりちゃんが浮かんだ。

 るりちゃんの印象が私の中で変わっていくのを感じた。

 私はるりちゃんに、今度は私の家に来てよ、と短く打ち送る。今度はすぐに返事が来た。うん!! それだけで十分に喜んでるのが分かった。

 

 

 学校に行く時も、授業を受けている時も、給食を食べている時も、あたしの心はどこか宙に浮いていた。冬休みが終わり、休みボケをしているわけではなく、おねえちゃんからの連絡で今度の土曜日におねえちゃんの家に行くことになったのだ。

 学校から家への帰り道にあと二日と思う。あたしの家の前の細い道に入る時にどきりとする。大晦日の事をふいに思い出してしまった。おねえちゃんがあたしのお腹を小突いてきて、それからおねえちゃんとキスをした。その感触を匂いを味を思い出して顔が熱くなっていく。手で顔に風を送り、熱を冷ます。

 休みの間も学校が始まってからもあたしは友達に年上の女の人の恋人が出来たことは伝えてない。みんなから変な目で見られるかもしれないし、もしかしたらいじめられるかもしれない。そういう思いもあるけれどそれ以上に、あたしとおねえちゃんの関係は誰にも言ってはいけない気がした。

 家に着き、自分の部屋に入り、ランドセルを置いて、机に向かい合い引き出しから携帯電話を取り出す。学校に行く時は持っていかないという条件で買ってもらったピンクの折り畳みのちょっと時代遅れの携帯電話をあたしは気に入ってた。携帯電話を開いて、メールが来ているかチェックする。二件受信していて、一つはおねえちゃんでもう一つは携帯電話の会社からだった。会社からのを消して、おねえちゃんのメールを読む。

 今日からテストだよ。いっぱい勉強しないとだから大変。

 おねえちゃんのメールはいつも短い。どんなに長くても四行いくかどうかで、絵文字なんかは全く使われない。今どきの女子大学生がそれってどうなんだろうと思うけど、おねえちゃんらしくてあたしは好きだ。

 あたしも明日国語と社会のテストあるんだ。いまから復習するんだー。一緒に頑張ろうね!

 入力してから何度もチェックする。文章は間違ってないかとか、無愛想すぎないかなとか。そしてこれでいいと納得して送信する。送信してから迷惑じゃないかなと思う。

 携帯電話を折り畳み、ふうと息をつくと机の隅に置いて、ランドセルから教科書とノートを取り出して開く。勉強を始めると意識の全てがそっちに向かう。鉛筆の走る音と時計の針の音だけになる。あたしはこの雰囲気が好きだから、友達が勉強したくないと言うのが理解できなかった。

 国語の方が終わり、机の隅に置いた携帯電話を手に取る。おねえちゃんからの返信は無かった。

 おねえちゃんの家に行く日は曇っていた。薄く広がった白い雲と灰色の厚い雲とがごっちゃになっていた。お母さんから貰ったお小遣いで切符を買って改札をくぐりホームへ行く。ポッケからどの電車に乗るか書かれたメモを取り出す。時計を見るとメモに書かれた電車はあと五分で来るらしい。適当にベンチにすわるが、喉が渇いてきたなと思いホームの自動販売機でお茶を買うと電車がやってきた。急いでお茶を取ると、電車に乗り込む。お父さんやお母さんと一緒に乗ることはあっても、一人で乗るのは初めてなので緊張してしまう。電車がゴトンと動き出す。あたしはイスに座らずにドアの前に立って動く景色を見る。

 終点まで行けばそこでまきちゃんが迎えに来てくれるから。だから絶対に降りるなよ。

 お父さんの言葉を思い出す。絶対にを強調して言っていたお父さんは、子供を持つ親なんだなとその時ぼんやり思っていた。

 一つ、二つと駅を過ぎるとあたしの緊張は無くなっていく。そしてあと二十分もすればおねえちゃんに会えるんだという期待へと変わっていく。景色にだんだんとビルが増えてきて、緑色から灰色へと変化していく。おねえちゃんもこの景色を眺めていたんだろうか。

 アナウンスで次が終点の駅だと知る。またあたしは凄い緊張してくる。電車に乗った時の緊張とは違く、心地いい。

 おねえちゃんからメールが来る。ホームで待ってるから。あたしは短く、はいと入力して返信を送る。

 電車が速度を落とし始める。窓の外にホームが見えてくる。電車は凄いゆっくりになって止まる。ドアが開く。あたしは荷物を手に持つと、電車から降りる。改札に向かう人たちの脇で立ちつくし、辺りをきょろきょろと見回す。おねえちゃんはどこなんだろう。ホームってここで合ってるよね。と思っていると後ろから肩を叩かれる。あたしはビクッとなってすぐにその場を離れ、後ろを見る。するとそこにはおねえちゃんがいた。

「お疲れ様」

 おねえちゃんは短く言って軽く笑う。電車や知らない場所で心細かったのか、おねえちゃんに会えて安心して泣きそうになってしまう。あたしは少しこぼれてしまった涙を服の袖で拭うと頑張って笑顔を作る。おねえちゃんの手が伸びてきて、あたしの頭を撫でる。恥ずかしいけどそれ以上に凄い嬉しい。

「また電車に乗って家の方行くけど、ちょっと休憩する?」

 あたしは首を横に振る。

「大丈夫だよ。それより早くおねえちゃんの家行ってみたい!」

 おねえちゃんは微笑み、あたしの手を取る。

「なんか逆になったね」

 あたしはおねえちゃんが何を言いたいのか分からなかった。

 

 おねえちゃんの家に着いて、おばさんとさちちゃんに挨拶をしてから荷物をおねえちゃんの部屋に置く。おねえちゃんが持ってきてくれたお茶を飲むと心が解けるように柔らかくなっていく。

「今日はどうしよっか。まだお昼だし、行きたいとこあったら案内するよ」

 ベッドに座り、右手にコップを持ち、おねえちゃんは言う。あたしは少し考える。今回の目的はおねえちゃんに会うことで、どこかに行くことでは無かった。

「何も考えてこなかったから行きたいところは無いかな……」

「そっか。じゃあ今回は私に会うためだけに来てくれたの?」

 おねえちゃんが笑って言うので、あたしは頷く。

「うん。おねえちゃんに会えればいいんだ。どこにも行かなくても」

 あたしは笑っておねえちゃんを見る。おねえちゃんは少し戸惑った風な表情をしてからお茶を飲む。

「まあ、折角来てくれたんだし、家でゴロゴロというのももったいないから近場で楽しめそうなところ行こっか」

 そこであたしはふと思う。

「あたし、おねえちゃんの大学行ってみたい」

 おねえちゃんは苦笑してから、わかったよと呟く。

 外に出てからおねえちゃんが手を差し出してきたので握り、歩き出す。

 おねえちゃんの家の周りはあたしの家の方と違って、高いマンションがいっぱいある。あたしはほえーとか高いねーとか言葉を洩らしてしまう。おねえちゃんはそんなあたしを見て笑っている。大きい交差点にやって来て、おねえちゃんはちょっと考える仕草をした後に一つの方向を指差す。

「あっちに私が通ってた小学校があるよ」

 言い切って、少し間をおいてからたぶんと付け足す。あたしは後でそっちも見たいな、と言うとおねえちゃんは失敗したみたいな顔をした。

 大きい交差点を渡り、少し歩くと小道に入る。色んな料理屋があって、そのほとんどが安くて量が多いのを売りにしていた。その先の右側が急に開けた場所になる。赤茶色のあまり高くない建物がいくつもある。

「ここが私の大学」

 おねえちゃんが建物とも土地ともつかない感じで指差す。

「あたしの家の近くにも大学あるけど、やっぱり東京の大学って雰囲気あるね」

 あたしはいつかなるであろう大学生の自分を想像した。

「どうする。中に入る?」

「んー」

 あたしは少し考える。

「いいや。中に入ったらずっといちゃいそうだから」

 おねえちゃんはホッとした顔をする。

「次は小学校だったよね」

「うん!」

 あたしは頷く。

 

 夕食を食べてから、おねえちゃんの部屋であたしとおねえちゃんとさちちゃんで話をする。他愛のない日常の話をしながらも、恋愛の話になるとあたしとおねえちゃんで頑張って違う話題に持っていく。おばちゃんがいい加減寝なさい、と言うのでさちちゃんは自分の部屋に戻っていく。時計を見ると日にちをまたぐかどうかという時間だった。前もっておねえちゃんの部屋で寝ることを伝えていたので、部屋にはおねえちゃんのベッドの他にあたしが寝る布団がある。その布団を敷いて、中に入る。布団は暖房が入った部屋にあったのにもかかわらず冷たかった。

「ねえ、おねえちゃん……」

 あたしは甘えたかったのだと思う。

「布団冷たいから、そっち行ってもいい?」

 どんなに甘えてもおねえちゃんは受け入れてくれると良く分からない確信があった。

「いいよ。一緒に寝よう」

 おねえちゃんは少し横に動いて、あたしが入るスペースを作ってくれる。あたしは布団から抜け出す。

「あっ、立ち上がったついでに電気消してくれる?」

 あたしは頷いて、電気を消す。暗くなった部屋に月の灯りが差し込んでくる。あたしはその光を頼りにベッドの中に入る。ベッドの中は暖かかった。

「なんかこんな時間にるりちゃんと二人だとあの日を思い出しちゃうな」

 あたしは天井を見ながら相槌を打つ。

「私悩んだんだ。お正月におじいちゃんの家出たときにるりちゃんに手を振ってもらって、嬉しかったんだけどなんか怖かった」

 おねえちゃんがゆっくりとしゃべり始める。

「るりちゃんの迷惑になってないかなとかね。あんな形で付き合い始めてさ、しかも女の子同士で。だから凄い怖かったの。るりちゃんに拒否されるんじゃないかって……」

 言い終わるとおねえちゃんがあたしの手を握ってくる。

「あたしなら大丈夫だよ。あたし、おねえちゃんの事大好きだもん」

 あたしはおねえちゃんの手をギュッと強く握る。お正月の時も、今日の駅での時も、外を歩いた時も感じなかったのに、いまはおねえちゃんの手が子供の手のように感じられた。あたしはこの手を放したくないなと思った。

「ありがとうるりちゃん」

 おねえちゃんの声が湿っぽかったので、おねえちゃんの方を見ると、おねえちゃんは涙を流していて、それが月に照らされてきらきらしていた。あたしは繋いでない方の手でおねえちゃんの頭を撫でる。今日、駅であたしがしてもらったように。

 いつもの強くてかっこいいおねえちゃんからは想像もできないくらい、可愛くてか細くて弱々しい一人の女の子がそこにいた。

 

 

 春が近づいてるというのに、吐く息の白さはどんどん濃くなっていく。

 初めておねえちゃんの家に行ってから、ほとんど毎週のようにあたしたちはどちらかの家に泊まり、遊んで、夜は遅くまで話した。そうすることが義務であるかのように。

 週末には誰にも言えない関係を続けつつ、平日は学校に行って、友達と話し、笑う。そんな二面性をあたしが持っているんだというのは少し驚いた。どっちが本当のあたしなんだろう。答えは出ないままあたしは今日も家を出て、通学路を歩き、学校の中に吸い込まれていく。

 午前中の授業が終わり、給食を食べると昼休みになる。友達はみんな校庭に遊びに行ってしまったのであたしは何をしようかなと思う。本でも読もうかなと思っていたら、男子に呼ばれた。名前は知っているけど、言葉を交わしたことは多分ない男子だ。何だろう。何か嫌がらせとかだったらやだなあ。とか思って男子の後をついて歩く。男子は全然立ち止まる気配がない。そしてあたしたちの間に会話は無く、冬のしんとした空気だけが張りつめている。

 男子は、ここでいいかなとか、大丈夫だよな、とか言うと立ち止まる。あたしが連れてこられたのは普段誰もいない、理科準備室の前だった。男子は振り返る。あたしは男子の顔をまじまじと見る。知ってはいたけど、ちゃんと顔を見たのは初めてだった。整ってる顔でかっこ悪くはないけど、だからと言ってかっこいいわけでもない。でもあたしはそれ以上に男子の顔が赤いことに目を奪われていた。さすがにあたしでも気付いた。

「あのさ……」

 男子は顔を掻く。連れてきたはいいけど、何をどう話したらいいか分からず困っている顔だ。

「うん」

 あたしはこれから起こる事について気付いてないふりをする。

「俺さ、前からいいなと思ってたんだ。そんで最近凄い可愛いなとか思って……」

 男子は何を言ってるんだ俺はという顔をする。

「俺、青山さんのこと好きなんだ」

 男子は凄い真剣な顔で、声を張って言う。

 だからか可愛いな、と思ってしまう。

「ふふっ」

 可愛い彼を見てたら不思議と笑ってしまった。

「なんで笑うんだよ。俺はダメってことか?」

 あたしは首を横に振る。

「違うの。凄い嬉しい。でも何か君が凄い可愛くて……」

「可愛いのは青山さんだよ!」

 間髪入れずに彼が言う。

「あのさ、多分そのままだとクラスに帰ってあたしに告白したことばれるから、少し話さない? 顔真っ赤だもん」

 あたしは何でそんなことを言っているんだろうと思う。あたしにはおねえちゃんがいて、彼に期待させる素振りはしちゃいけないはずなのに。なのに、あたしは彼をほおっておけなかった。可愛いと思ってしまった。

 場所を移して、人があまり来ないだろう視聴覚室付近の階段に行く。階段にそのまま座るとひんやりと冷たかった。

 昼休みが終わるまで話して彼は中田徹という名前を持っていること、スポーツは得意ではないけど小さい頃からサッカーをやっていること、普通の男の子と同じでゲームがすきなこと、あたしの事を意識し始めた時のこと、中田君についての様々な事を知ることが出来た。

 時間をずらしてクラスに戻る提案をして、あたしたちは階段で別れる。はにかみながら手を振る中田君をやっぱりあたしは可愛いと思ってしまう。

 それからあたしたちは時間があるときはあの階段で話をした。昨日あったこと、今日の授業で難しかったところのこと、友達のこと、今日の放課後のこと、明日ある予定のこと。あたしたちの会話は淀みなく進む。あうんの呼吸という言葉をこの前習った。まさにそれだねと言うと、中田君は笑いながら、青山さんって年寄り臭いよ、と言う。中田君の笑顔は可愛くて、心の奥の方がちくちくする。あたしはまだ告白の返事をしていない。そして中田君も返事の催促をしてきたりしない。たぶんあたしたちはそういう関係にならなくてもいいからいまのこの階段の時間を大切にしたいと思っているかもしれない。そしてその日々を境にあたしは毎週のように会っていたおねえちゃんに会うのを億劫に感じるようになっていた。

 中田君と良く話すようになってから二週間が経った休日はとうとうおねえちゃんとの約束を断って、中田君と遊ぶようになっていた。おねえちゃんと一緒に居るのがつまらないわけじゃない。だけどあたしの心のどこか奥の方の天秤が傾いているのを感じていた。

 めったにしないおめかしをして、駅前で中田君を待つ。鏡で髪型チェックなんかをしながら。約束の時間のちょっと前に着いた中田君は学校の時とほとんど変わらない格好で拍子抜けする。あたしだけが気合入れているみたいで恥ずかしい。

 中田君は走ってきたからか顔が赤く、汗をかいている。あたしはそれを見て、やっぱり可愛いなあと思う。バッグの中からハンカチを取り出し、中田君の顔を拭いてあげると、中田君はやめてくれよと言い凄い困った顔をした。

 学校近くの駅前で遊ぶのも嫌だしという中田君の提案であたしたちは電車に乗って少し離れた水族館に行くことになった。

 一つ隣の駅で乗り換える。次に乗る電車には結構な人がいて、中田君が手を握ってくる。あたしのことを見ずに、人が多いから逸れるとアレじゃん、と言った。中田君の手から中田君が緊張しているのが分かる。それであたしはおねえちゃんの事を思い出していた。

 おねえちゃんが年末にやってきた時のこと、おねえちゃんと年が変わった時にキスをしたこと、初めておねえちゃんの家に行ったっときにターミナル駅であたしを見つけて手を握ってくれたこと。その時の風景、光景、あたしの思い、おねえちゃんの思い、それらを思い出し、胸に突き刺さる。わかってる。わかってるけど……。

「青山さん大丈夫?」

 中田君の声で我に返る。電車を待つホームであたしは泣いていたらしい。中田君に手を握られながら大勢の中で。

「あっ、うん。大丈夫……だから……」

 言いながら涙をハンカチで拭う。だけど涙は止まることなく流れる。

「青山さんが嫌なら帰ろうか?」

 中田君の声が優しくて、泣いているあたしの頭の中ではおねえちゃんの声で再現されてしまった。

「うっ……ううん……」

 大丈夫、あたし行きたいよ、と言いたかったのに言葉に出来なかった。

 結局、あたしたちは水族館に行かずに家の最寄駅に戻り、人通りが少ない道を歩いていた。

「なあ、本当に大丈夫なの?」

 中田君はまだ手を繋いでくれている。あたしはなんとか泣き止んで、それでも言葉少なげに俯きながら中田君の後を付けて歩く。折角可愛い恰好をしたのに、こんな状態ではかっこつかない。

「俺と一緒に居るのが嫌ならそう言ってくれよな」

「ううん。そうじゃないの」

 あたしは顔を上げると左手側に小高い丘が見えた。

「ねえ、中田君。あそこ行かない?」

 あたしは丘の方を指差す。中田君は嫌な顔せずに頷く。

 丘にはお寺と、キャッチボールが出来ないくらいの林というか森の方が近いような場所があった。それでもベンチがあったのであたしたちはそこに座る。

「なあ、本当に大丈夫なのか?」

 中田君は何度目かの言葉を投げかける。

 あたしは唐突におねえちゃんとの関係を中田君に話したくなった。中田君を欺きたくなかったのかもしれないし、中田君に失望して欲しかったのかもしれない。あたしは中田君が思ってるような人間じゃないから。

「あたしね。付き合ってる人がいるんだ」

 あたしは上を向き、おねえちゃんの事を思う。無愛想で、優しくて、いつも格好いいのに二人になると急に女の子になるおねえちゃんの事を。

「しかもね。その人、女の人なんだ」

 あたしは笑う。空は薄い水色が広がっていて、あたしは数年ぶりにおねえちゃんと会った日の事を思い出す。あの時もこんな空だった。

「でも、いまはたぶん中田君の方が好きだと思う。もちろんその人は大切だけど……でも好きかどうか言われたら、あんまり自信無いかもしれない」

 ずっと握ってくれてる中田君の手が少し強くあたしの手を握る。

「そっか。じゃあ青山はその人にちゃんとお別れしないとだな」

 あたしはとっさに中田君の方を見る。中田君は上を見上げていた。

「うん。そうだね」

 あたしは言ってから、空を見上げることをせずにギュッと握られた中田君の手を見る。

 それからほとんど言葉を交わすこと無く、最寄りの駅の方へと向かう。中田君と待ち合わせた場所に着くと、どちらともなく別れる雰囲気になる。

「じゃあな、また月曜な」

 中田君がそっと手を離す。

「うん。またね」

「俺はどっちになっても青山あきらめるつもりないから」

 にっと笑う中田君は可愛いんだけど、どことなく格好良くもあった。

 あたしは遠ざかっていく中田君に手を振り、心に決める。

 

 

 大学に行き、一時限目の授業の最中にお母さんから電話が来た。私は授業中だからという理由で無視をするが、何度もひっきりなしにかかってくるものだから、先生に許可を取って廊下に出て電話に出る。

 おじいちゃんが亡くなったんだって。お母さんの第一声はそれだった。血の気が引くのが聞こえ、それからのお母さんの言葉は隣のテーブルの人の会話を聞いてるようなぼんやりとしたものだった。

 教室に戻り、先生にその旨を伝えると私は筆記用具を片づけて、カバンを持ち、おぼつかない足取りで家を目指した。おじいちゃんが死んだ……。

 家に帰ると、みんな私を待っていて、用意は出来ているからすぐに行くよ、とお母さんが言った。家の近くの駅から電車に乗りその後、赤い電車に乗る。電車に揺られながらおじいちゃんの家に向かうけれど一向に楽しい気分にはなれなかった。いくつものトンネルを過ぎてもその気持ちは変わらなかった。

 おじいちゃんの家の最寄り駅に着くと、るりちゃんのお父さんが迎えに来てくれた。この度は……と声にならない感じで言うと、私たち家族はおじいちゃんの家に向かう。年末以来久しぶりにおじいちゃんの家に向かう道を通る。前はるりちゃんと手を繋いで通った道をいまは会話も無く、寂しく通る。私たちの周りには春の訪れを教えてくれる風は吹かず、いつまでも冬の冷たさを伝えてくる風だけが吹いているような気がする。

 おじいちゃんの家に着くと、路上に沢山の車が並んでいた。私たちは伯父さんに促されるままに家に上がり込み、おじいちゃんの遺体がある部屋へと通される。私の心臓は見たくないと言わんばかりに鼓動を早くするけれど、なぜか頭は凄く冷静だった。

 沢山ある客間の一つにおじいちゃんはいた。ドラマで見たことある感じにおじいちゃんはなっていた。真っ白の布団に寝かされて、真っ白の衣装を着させられて、真っ白の布を顔のにかけられていた。お父さんがそろそろと布に手を掛け、持ち上げる。おじいちゃんの顔が見える。私が思っていたよりもおじいちゃんの顔は安らかだった。本当にただただ眠っているようだと思った。

 伯父さんがお通夜と葬式の手順を話すと私たちはいつもの部屋に行く。部屋に荷物を置いたりするがみんな無言だ。何という言葉で口を開いたらわからない様な感じがした。荷物を置き終ると、お父さんに部屋から出て行って貰い、私とお母さんと妹が喪服に着替える。着替え終るとお父さんにそれを伝え、私たちが出ていきお父さんが着替える。部屋の外に出て私はそういえばと思った。るりちゃんに会いたい。るりちゃんに会ってあの時の話をしたい。私はまずるりちゃんの部屋に行く。けれどるりちゃんはそこにはいなかった。仕方ないので他の部屋を手当たり次第に探してみるけれど、るりちゃんはどこにもいなかった。伯父さんにるりちゃんはどこにいるのかと聞いてみたけれど、伯父さんも昼くらいに家を出て行ったきりだよ、と言っていた。

 一度思ってしまうと、会わずにはいられない状態になってしまう。会ってしっかり話をしたい。私はもう一度家の中を探す。けれど全くるりちゃんは見つからなかった。仕方ないかと思い、縁側に座りため息をついてから空を眺めていると、伯母さんが、お墓のところにでも行ったのかもねえ、と言う。あの子はおばあちゃん好きだったからね。と付け足す伯母さんに半ば強引にお墓を聞き出す。この家から駅を挟んで向こう側の小さな丘の墓場に眠っていとのことなので私は家を出て、早足で向かう。

 家を出た時は半透明の白い息だったのに、だんだんと歩く速度が速くなり、最後には走り走り始めていて、その頃には濃い白になっていた。

 はるりちゃんに聞きたいことがいっぱいあったのに、走っていて思考が鈍っていたのか、いつしかるりちゃんに会うことだけが目的になっていた。

 大通りを走ると途中で歩道が無くなる。私はいらいらしながら仕方なく駅の中を通って線路を超える。線路の反対側に来たのはとても久しぶりだった。私は丘が見える方に向かってまた走り出す。たぶん合っているだろう道を走りながら、妙な既視感を覚える。それは丘に近づいていけばいくほど、だんだんと多くなっていく。もしかしたらこれは似たような景色じゃなくて、昔見たことある景色なんじゃないかと思うようになる。丘への上り坂に差し掛かると前からやってくる女の子が見えた。近づいてくるその子がるりちゃんだと気付くまで少し時間が掛かってしまった。走って頭が全く働いてないのかもしれない。でもそれ以上にこの景色に意識が向いていたのだろう。

 私は呼吸を整えてからるりちゃんに近づく。るりちゃんはずっと俯いていて、私には全く気付いてないようだ。

「久しぶりだね」

 とぼとぼと歩いているるりちゃんに声を掛けると、るりちゃんはびっくりしたような顔で私を見上げる。

「おねえちゃん……!」

 びっくりした顔はゆっくりと曇り顔になっていく。いまにも泣き出してしまいそうなのを頑張って堪えているようだ。

「家の中に居なかったから伯母さんに聞いて来ちゃった。お墓のところに行ってたの?」

 るりちゃんは頷く。

「もうすぐおじいちゃんも入るからって言いに行ったんだ……」

「そうだったんだ……そういえば私、全然お墓行ってなかったよ。連れてってくれる?」

 るりちゃんはまた頷く。私たちはお墓に向かって歩き出す。けれど手を繋ぐことはどうしてもできなかった。前のように気軽にるりちゃんの手を取ることは躊躇われた。

 お墓は丘の上の林を抜けた先にあった。木々が急に無くなり、日の光が一気にやってくる。私は眩しくて目を細めてしまい、一瞬立ち止まる。るりちゃんはそんな私に気を使うこともせずにすたすたと先に行ってしまう。私は何も言わずにるりちゃんの後を歩く。

 私は昔ここに来たことがあると確信する。記憶は薄ぼんやりとしているけれど、断片的だけれど、来たことは間違いない。たぶんおばあちゃんのお葬式の後か、法事のときだろうと思う。妹の手を引いて歩いていたから、小学生中学年くらいだと思うけれど、その記憶を思い出そうとしても頭が上手く働いてくれないのか、途中で考えるのを放棄してしまう。

 るりちゃんが一つのお墓の前で立ち止まる。

「ここがお墓だよ。」

 昔ながらのという言葉がしっくりくるお墓に文字が刻まれているが、劣化しているのか読むことが出来ない。お墓には新しい綺麗な花が置いてあった。たぶんるりちゃんが置いたのだろう。

「久しぶり……」

 私は言ってから頭を下げる。手を合わせてお参りしようと目を閉じたら、急にさっき思い出そうとしても思い出せなかった記憶達が蘇ってくる。おばあちゃんの笑顔、おばあちゃんの遺影、お経を読むお坊さん、そしてお墓。それらの点が線で結びついて、一つの物語となった。やっぱり私はこの場所に来たことがあったんだ。そしておばあちゃんがいなくなったおじいちゃんの家に行きたくなくてそれから行くことを頑なに拒んでいた。そういう当時の気持ちまでもが蘇ってくる。

 目を開くとなんて書いてあるのか読めないお墓が目に飛び込んでくる。

「おねえちゃん。ごめんね」

 後ろの方からるりちゃんの声がする。なんだか遠くの方から聞こえる声に似ている。私は立ち上がり、後ろを振り向く。涙を溜めたるりちゃんが見える。

「お参りすんだから、帰ろっか。ありがとね」

 私がるりちゃんの頭を撫でると、るりちゃんの瞳に溜めていた涙が一気に溢れ出す。

「ご、ごめんね……ごめんなさい!」

 るりちゃんは涙を流しながら、叫ぶように言う。私は怯んでしまい、そこにいるのが私の知っているるりちゃんじゃないよう感じてしまう。

「あたし、おねえちゃんの事好きだったのに……なのに新しく好きな人が出来たからって……おねえちゃんとお別れなんて……」

 私はまたゆっくりと頭を撫でる。こんな子に私は無理をさせていたのかと実感する。なんて最低な人間なんだ。

「気にしないで。私も彼氏に振られたばっかりだったし、るりちゃんの事は好きだけど、たぶんどの道こういう結末になったんだと思うよ」

 るりちゃんはしゃっくりをしながら何回か頷く。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

「私もるりちゃんもただそういう雰囲気に呑まれてたんだと思うんだ。だから気にしないで。薄ぼんやりとした気持ちじゃなくて、はっきりした好きっていう気持ちがあるんならその人に集中した方がいいしさ」

 言ってから私はしゃがんでるりちゃんと同じ視線にして、にっこりとほほ笑みかける。

「ごめんね……ありがとう……おねえちゃん」

 るりちゃんは止まることない涙を流しながら懸命に言う。私はまた優しく頭を撫でる。

「うん。それじゃお別れだね。るりちゃん、私の事を振っていいよ」

 るりちゃんは頷いて、頑張って涙を止めようとする。けれど涙は全然止まらないので、私はポッケからハンカチを取り出して、るりちゃんの目元に当てようとするがるりちゃんがいいよ、いらないという風に手を振るので私はハンカチを元のポッケにしまう。

「ごめんね……でも、いま……おねえちゃんに助けて貰った……お別れできないと思うから……だから」

 だから、一人で頑張って涙を止めたいのだろう。るりちゃんの方が私よりもはるかに大人になってしまった。

 それから十分くらいしてるりちゃんはようやく涙を止めた。ほんの少しの時間なのに凄い長く感じられた。

「じゃあ……」

 るりちゃんは真っ赤な目で私を見据える。私はその目に、心に怯んでしまう。私はいまからたとえ仮初めだったとしても本当に好きだった人に振られるんだ。なんかちょっと前にもそんなことあったなと思う。

「おねえちゃん。ごめんなさい。あたし好きな人がいるからもう……おねえちゃんと付き合えない……」

 私を見据えていた目がだんだん下がっていったが、それでも最後までるりちゃんは言い切る。

「別れたくはないけど分かったよ。それじゃあ私は二度とるりちゃんと会わないし、ここにも来ない」

 少し強めの口調で言うとるりちゃんがハッとした顔になる。

「これがお別れなんだ」

「でも会うくらいは……」

「それをしちゃったら駄目なんだ」

「じゃあもう二度と会えないの?」

 るりちゃんがまた涙を瞳に蓄えて私を見る。私はるりちゃんの潤んだ瞳を見つめてゆっくりと頷く。

「私はもうるりちゃんと会わない。その方がるりちゃんにも私にもいいんだ」

 だから、さよならだね。私は言うとるりちゃんの涙が流れ出した。。まるで人間が死ぬことを忘れていたような、そんな想定していなかった事態に会ったような。けれどきっと歯を食いしばって涙を止め、流れていた涙を服の袖で拭って手を差し出してくる。

「手、握りたい。最後なら」

 るりちゃんはそう言うので私は手を差し出す。

「さよならるりちゃん」

「さよならおねえちゃん」

 しっかりとるりちゃんの温度、脈、息遣い、それらを感じてから手を離す。

 それから私たちはおじいちゃんの家に戻るまで一言も口をきかなかった。話す言葉が見つからないというよりは私たちの間に言葉は不要だったのかもしれない。たぶん私とるりちゃんが一緒に居て唯一気持ちが一つになれた時間なのかもしれない。

 おじいちゃんの家に着くと、慌ただしく通夜が始まり、終わっていった。お経を読み上げられながらおじいちゃんの遺影を見つめていて、私は他の事を考えていた。

 翌日のお葬式も同じだった。灰になったおじいちゃんの体を見ても私はなんの感慨もわかなかった。いままで私の事を気にかけていた人なのになんて薄情なんだ、と思いながらも私の心は違う方向に向かっていた。

 お葬式の後におじいちゃんの家に戻ると私はすぐに着替え、家に帰る準備をしていた。家族はもう一泊するつもりだったけれど私は帰りたいと言い、仕方ないからということで私一人で帰ることになった。

 おじいちゃんの家を出ると、夕方のオレンジ色の空に、灰色の雲がぽつんぽつんと少し浮かんでいた。なんとなくこれから雨が降りそうな気がした。私は雨じゃなくて雪ならいいのにと思いながら家を出て、駅へと歩き出す。だんだんと雲は集まり厚みを増していき、ついにはぽつりぽつりと雨が降り出した。この気温だと雪じゃないんだな、と思いながら傘もささずに駅へと歩く。私の周りには誰もいない。お母さんもお父さんも妹もおばあちゃんもおじいちゃんもるりちゃんも。行き交う人々が少しずつ傘を指すようになっても私は傘を指さない。そしてとうとう駅に着いてしまう。改札をくぐり、ホームへ行くと電車がやってきた。私は電車に乗り込む。ゆっくりと動き始める電車から遠ざかっていくホームが見える。その時急に寂しくなって、いますぐ降りたい、降りてるりちゃんに会いたいと思う。最後まで自分勝手だな。最低だよ私は。そう思うと遠ざかっていくホームが滲んでいって元の形と全然違くなっていく。私は最初何が起きたんだろうと思った。けれどそれはすぐに涙だと気付く。私は泣いていた。るりちゃんともう二度と会えないことに、もう二度とこの楽しいと思える場所にこれないことに。

 私は嗚咽を堪えて滲んだ世界の中でゆっくりと流れていく窓の水滴を眺めていた。

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