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それはひそかな  作者: 鮃
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8/8

ずっと待ってる。

引越しの前日、綾ちゃんから電話が掛かってきた。

「もしもし、綾ちゃん?」

『よ、ユカ。・・・久し振り』

「・・・うん」

毎日教室で顔を合わせてはいたけれど、話すのは本当に久し振りだった。

『その・・・言わなきゃいけないことが、あって』

何の話かは分かっていた。

「付き合い始めたんだよね・・・京一くんと」

『・・・うん』

あのあと綾ちゃんが告白したんだって話は聞いていた。

多分京一くんからは言えなかっただろうから、本当によかったってほっとして。

・・・でも、ちょっとだけ胸が痛んで。

「おめでとう、綾ちゃん」

そう言ったら綾ちゃんは黙り込んだ。

「・・・綾ちゃん?」

『その・・・ユカ、』

「ごめんとか言ったらぶん殴る」

『え?』

「って、綾ちゃんだったら言うかなって」

謝らないで。悪いのは綾ちゃんじゃないし、誰も悪くなんてないから。

私は綾ちゃんのために身を引いたんじゃない。二人にはお互いが必要だって、それ以外ありえないって思っただけ。

『・・・そうだな。ごめ・・・・・・いや、ありがとうユカ』

「うん」

今はまだ少しだけ・・・胸が痛むけれど。でもそれも少しずつ、小さくなっていくはず。

『見送りには行けないけど、また電話するからさ』

「うん、またね」

『ああ・・・またな』

綾ちゃんはそう言って、名残惜しそうに電話を切った。

「―由佳」

扉をノックする音がして、お母さんが顔を出す。

「すっきりしたわね・・・この部屋も」

「そうだね」

段ボールの他には何もない、がらんとした広い部屋。

「ねえ、いいこと教えてあげようか」

「え?」

パパには内緒よ、と耳打ちしてお母さんが言う。

「―私ね、学生の頃京一くんのお父さんと付き合ってたの」

「え・・・・・・えええ!?」

「こら、しー。響くんだから叫ばないの」

「ご、ごめん・・・でも」

だって、それはつまり、お母さんと京一くんのお母さんは・・・。

お母さんは私の頭に手を置いた。

「ま、それはあんまり重要じゃないわ。とにかく、いろいろあったけど、私たちは今でも友達。あなたたちもきっと、そういう友達になれるわ。努力しだいではね」

「・・・そっか」

ええ、と微笑んで、お母さんは部屋を出て行った。


「うう、緊張する・・・」

試験当日。使い捨てカイロを握り締めてみるけど、震える手はきっと寒さのせいだけじゃない。

単願だから面接と作文だけで終わるけど、だからといって気が抜けるわけじゃないし。

ええとシミュレーション、シミュレーション。

『本校を志望した動機は何ですか』

「ええ、貴校の教育方針である・・・」

「―それじゃ固くねーか?」

突然かかった声にパッと振り返ると、そこにあったのは懐かしい顔。

「綾ちゃん!?」

「よ、ユカ」

にっ、と白い歯を見せて笑うのは変わらないけれど・・・ちょっと髪が伸びたかな?

しばらく見ない間にまた綺麗になったみたい。京一くんは、幸せ者だね。

「何でここに・・・」

「何でもなにも、受験するからに決まってんだろ」

「受験ってどこを?」

あのなぁ、と綾ちゃんは苦笑する。

「聖陽以外に何があるってんだよ?」

「あ・・・そっか、そうだよね・・・でもどうして?」

「ん?ああ・・・『サッカーを本気でやりたかったのもありますが、大切な友人を失いたくなかったからというのが大きな理由です』」

「え?」

「志望動機だよ、あたしのさ」

そう言って笑う。前と変わらない、自信に満ちた笑み。

「あたしはユカと一緒に居たい。色々考えたけど、結局そうだなって思ったんだ。だから・・・さ」

一緒に頑張ろうぜ、と右手を差し出す。

―“あなたたちもきっと、そういう友達になれるわ。努力しだいではね”

大切な友達。大好きな友達。

一緒に居たいって思う気持ちは、今も変わらない。

「・・・うん、頑張ろう」

差し出された手をとる。

2人で合格して、春からはまた・・・一緒に。

いつのまにか、手の震えは収まっていた。

▲▲▲

「今日・・・だな」

聖陽学園の発表は今日。公立のオレはまだ試験すら受けてねえけど、ユカちゃんやモリはもうこれで決まるんだな。

「ああ、勉強したくねー・・・」

「しなきゃ落ちるぞ」

「こーらキョーイチ!“落ちる”とか“滑る”とか禁止!」

「そんなもの関係ないだろ」

「“コトダマ”ってのがあるだろー!?」

「そうだな。じゃあそれを漢字で書いて意味を言ってみようか」

「・・・・・・」

う、うるせえなぁもう。誰かが言ってたのパクっただけですよ、どうせ。

「そこ間違ってる」

「え、まじで」

またお前は同じ所で・・・とかなんとかブツブツと呟きながらも、京一はその箇所を解説してくれる。

オレたちは京一の家で男二人、むさくるしく勉強会を開いていた。

京一は、オレとは偏差値が30もかけ離れた進学校を受ける。倍率を考えたらおそらくオレよりもっと勉強しなくちゃいけないんだろうけど、もう習慣なのか相変わらずオレに付き合ってくれていた。

全くお優しいこった。

「なあ、携帯光ってるぞ」

「え?」

鞄からはみ出た携帯が震えていた。表示された名前は・・・ユカちゃん。

『聖陽、受かりました!(^v^)v』

机の下でガッツポーズした。

『よっしゃ!やったなユカちゃん!』

素早くそう打って返す。

「・・・誰からだ?」

気のない振りを装って京一が訊いてくる。ペン止まってんぞ。

時間帯的にユカちゃんかモリじゃないかってことは分かってるみたいだな・・・やっぱり鈍くはないんだ、こいつは。

「別に。マックの広告だよ」

「・・・そうか」

奴の携帯が鳴る気配はない。

京一より先に知らせてくれたって、そのことがすっげえ嬉しいから、こいつには教えてやんねー。

どうせモリから連絡行くだろうしな・・・ってそういや、モリは受かったのかな?

「おわっ・・・メールか」

ジーンズのポケットから京一が携帯を取り出す。

「なんだキョーイチもかよ?オレたちやっぱ共鳴してんなー」

オレの言葉は無視してそそくさと携帯を開く。

画面を眺めてしばらく固まって、やがてほっとしたように笑った。

・・・分かりやすい奴。

「モリからか?」

ちゃかしてやろうかと訊いたら、京一はさっと携帯を閉じて仕舞いなおした。

「・・・別に。ミスドの広告だ」

お前ミスドなんか行かねえだろ、メルマガ登録して何の意味があんだよ。

・・・と思ったが口には出さず。

「ふーん。クーポンとかあったら奢ってくれよ~、キョーイチ?」

「・・・気が向いたらな」

ま、期待せずに待っとくわ。

再び携帯が震えた。

「マクドは随分商売熱心なんだな」

「そうだなー」

絶対気付いてやがるなこいつ。ま、いいけど。

『今更だけど、梅原くんのおかげですごくリラックスして今日を迎えられました。たくさん励ましてくれてありがとう』

・・・分かって、くれてた。

「敦史?」

さすがに受験前は勉強の邪魔になるから控えてたけど、メールはことある毎に送っていた。

明確な励ましの言葉を投げたわけじゃないんだ。ただ、いつもみたいにギャグを飛ばしてみたり、てんで関係のない世間話をしてみたりしただけで。

少しでも受験の緊張を忘れられたらなって、そう思っただけで。

でもユカちゃんはちゃんと分かってくれてたんだ、オレの気持ちを。

「おい、敦史。具合でも悪いのか?」

突然机に突っ伏したオレに京一が尋ねてくるけれど。

・・・やべ、ニヤける・・・・・すっげえ嬉しい。

―“姉貴には京兄より、敦兄の方がいいと思うっすよ。姉貴の小さな努力を、ちゃんと分かってやれる敦兄の方が”

違うんだよ、ユーキ。分かってくれるのが嬉しいのは、オレの方なんだ。

今まで上手くやろうって色々立ち回ってたけど、それを知ってるのが自分だけだっていうのがどこか虚しくもあった。いやまあ、俊輔は別としてな。

でもユカちゃんはオレの意図をちゃんと分かって、“ありがとう”って言ってくれる。それがこんなにも心地いいって、生まれて初めて知ったんだ。ユカちゃんがそれをくれた。

・・・やっぱオレ、ユカちゃんが大好きだ。

捨てなくてよかった。持ち続けててよかった。

隠していた想いは、知らないうちにこんなに大きくなっていて。

『やーん照れるぅ~。ユカちゃんてばカワイイなあ、もう』

京一から見えないようにしながらそう返信した。

もう隠さなくてもいいのに、いつのまにかチャラ男が癖になっている自分。こりゃあしばらくは抜けねーかもな。でも。

『・・・もう、あんまり何度もそういうこと言わないで。すっごく恥ずかしいんだから//』

・・・オレだけが知っていた告白、だったのにさ。


―ひそかな愛の告白は、彼女がそれを知った瞬間本当の告白になって。


『それくらいユカちゃんが大好きってことだよ』

ずっと言いたかったその言葉を、やっと言えるようになったんだ。

少し間を置いてから返信が返ってきた。

『・・・ありがとう//』

今はまだ、それだけ。それでいいんだ。

いつか『私も好きだよ』って言ってくれる日を、オレはずっと待ってるからさ。


END


この話はキャラ設定をしっかりしていたので、それぞれの行動理由とかが割と明確に決まっていたんですね。本編では京一が見ている所しか書けませんでしたが、ユカちゃんの心情とかが私にはずっと見えていたので、毎回「ユカちゃああああああああ」って叫んでましたよ、心の中で(さすがに夜中に叫ぶと近所迷惑なので)。


京一視点では分かりにくかった、というか性格上(ちと鈍い)あまり書くわけにはいかなかったのですが、アツシはこんな奴でした。彼は京一ではなく、シュンと対比させたキャラだったりします。


ユカちゃん視点で見ると、京一がなんかいいやつみたいに見えてきませんか?・・・きませんか。いやあ難しいですねなかなか。京一って結構自分を卑下して見ているので、本編では実際以上に悪い奴っぽく描かざるを得なかったんですよね・・・でも傍から見るとこんな感じ。


シュンの出番が少なくてごめんなさい。もうちょっと出す予定だったんですがキャラと合わなかったのでボツに。ちなみに本編にも彼のボツシーンがありました、どんなだったか覚えてませんけど。いまいち動かしにくいなあこの子。まあ彼視点の話は本編と全く絡まないので仕方ない。


大分余計な方向へ話が逸れてしまい、モリ視点で語る予定だったものをユカちゃんに語らせてしまったり、なんかユキくんの彼女が出て来たりしました。どうしてこうなった。とりあえずユキくんかわいいな畜生。


失恋を取り扱ったためどうしても甘いシーンは増やせなかったですが、個人的に最後の京一と敦史のやり取りは気に入っています。二人のこういう間合いをずっと描きたかったんですよ。


感想などいただければ幸いです。

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