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それはひそかな  作者:
3/8

失恋だなんて/嫌いな奴

嫌な予感って、当たるように出来ているのかもしれないね。

ベッドに倒れこんで、枕に顔を埋める。

綾ちゃんが榊くんに告白されて、どうしたらいいか京一くんに相談したらしい。綾ちゃんって、何だかんだ言って京一くんを頼りにしてるところがあるから。

話を聞いていて、分かってしまったの。京一くんはもう、綾ちゃんのことが好きなんだって。

どうして私はもっと鈍く生まれてこなかったのかな?気付かなければ、想い続けることだって出来たはずなのに。

シーツをきゅっと握り締める。

ううん、まだ諦めるのには早いよね。綾ちゃんが恋愛に興味ないのは変わらないし、ちゃんと両思いになるまでは私にだってチャンスがある。

ずっと、京一くんだけ見てきた。京一くん以外考えられないくらい。そんなに簡単には諦められない。

大好き・・・なんだもん。

「・・・京一くん・・・・・・!」

小さな頃に繋いだ、温かな小さい手だったり。

悪ノリする梅原くんにツッコむときの滅多に見られないテンションだったり。

困ったように眉を下げて微笑む、大好きな優しい笑顔だったり。

今まで京一くんと過ごしてきた日々、全てが大事な宝物で。

これからの思い出もずっと、そうであって欲しいのに。

ずっと彼の隣に居たいっていうのはワガママですか?溢れる涙を拭って、私は拳に力をこめる。

「まだ・・・だよね」

失恋だなんて認めない。ううん、認めたくないだけ。

だからもう少しだけ、想わせて。夢を見させて。


瞼を閉じて、そうして私はひと時の、幸せな彼の夢を見る。

花の指環を握り締めて笑う幼い日の彼の姿が、まだそこにはあった。

▲▲▲

このままじゃまずい、オレの頭はそう告げていた。

京一がモリに傾きはじめてる。そして、察しのいいユカちゃんはそれに気付いてる。

どうすりゃいい?どうしたら丸く収まる?

「・・・そんなもん、変わんねーよ」

京一の気持ちをユカちゃんへ戻すこと。それだけだ。

モリは京一のことを頼りになる奴くらいにしか思ってねえし、このままモリを好きになっても、その想いは報われない。丸くは収まらない。

「くっそ、どうしたもんかな・・・」

頭を巡らせながらサッカー部室のドアを開けると、そこにはいつもと同じようにゲーム機をいじっている俊輔がいた。

「よー、シュンちゃん。今日もゲーム?」

俊輔はオレを一瞥して、すぐに視線を戻した。もちろん返事はなし。

ま、これでもまだマシな方か。いつもならガン無視だし。

京一相手だと多少は会話もあるらしいけど、どうもオレは嫌われているみたいだった。

「挨拶くらいしてくれよーシュンちゃん、相変わらず冷たいなぁもう」

嫌われてる?別に気にしねーよ。だってオレもこいつが嫌いだからな。

感情が全く読めない、接していてすげえ息苦しいタイプの奴。こいつが普段一体何を考えているのか、オレにはさっぱりわからない。それがなんだか無性に・・・ムカつく。

「・・・お前は」

いきなりお前呼ばわりかよ、と思ったが、寛大なオレは黙ってその言葉の続きを待った。

「また余計なことに首を突っ込んでるみたいだな」

「・・・何言ってんの、シュンちゃん?どういう意味かわかんねーよ」

本当は、分かってる。分かりすぎるくらい。

俊輔はオレと同じ類の人間だ。察しが良くて、常に空気を読んで行動できるタイプの奴。

認めるのはムカつくけど、こいつは多分オレよりもっと察しのいい・・・全部が見えている、という立ち位置にいるんだろう。オレがどんなに欲しても手に入らない、神様みたいな力を持ってるんだ。

きっと感情を捨てなくちゃそんな力は手に入らない。自分の感情に動かされないだけの冷静さ、人間離れした冷血さを持たなくちゃいけないってことだ。

それはオレには無理だった・・・ユカちゃんが居たから。

それだけのものを持ってるのに、こいつなら今の状況を変えることが出来るかもしれないのに、なにもしようとしない。

奴は傍観者だ。何にも干渉しない、指をくわえもせずに黙ってオレらを眺めてるだけの傍観者。

なんで何もしない?なんでそんな顔して放っておける?

オレはそれがムカついて仕方ないのに、奴の目にはあれこれ首を突っ込むオレの方がおかしく映るらしい。余計なことをするな、と、さっきの言葉はそういう意味に違いなかった。

「・・・おーい、シュンちゃんてば」

今度こそ俊輔は口を閉じた。多分もう、何も喋らない。

オレが言葉の意味を充分理解してるって、それすらも奴には見えているみたいだった。

「シュンちゃんってば、相変わらずつれねーなぁ・・・」

表面上オレはそんな言葉を吐きながら、心の奥で呟く。だから、オレは。

―お前が大嫌いなんだ。


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