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「私が聖女よ!」と突然言い出した姉は反感を買って自滅しました

作者: リーシャ
掲載日:2026/09/13

 聖女候補を降りようかなと思っていたら姉が突然、聖女の力に覚醒したわと言い出してきょとんとした。家族たちもぽかんぽかんとなる。


 聖女というのは幼い頃から魔力を持っていることは当然に、なにか特別なギフトを授けられ試験を受けたりしてちょっとずつじわじわランクをあげていき、Pランクを超えると候補になる。


 聖女ランクはかなり細かく分かれているのだがFから始まる。なので、小さな頃からせかせかとポイントを積み重ねていき聖女候補になってようやく聖女の仕事が安定して入ってくる。


 聖女という存在はポイントを累計で集めた人がその年の聖女。ゆえに聖女という存在はスキルやギフトが生えたからといって急になれるわけがない。

 これもそれも、昔にギフトだけで聖女を決めていた時代は混乱が多くあり偽証もあって、聖女絡みの事件が多発し国が無くなりかけたからだとか。


 なので、どんなに強い力を持っていても聖女に選ばれることはない。まあ、有利ではあるけど。

 スポンサーがつけば高ポイントの依頼を出したりしてくれるし、予約や指名依頼をすれば取られることなく一つの依頼で十件分、なんてことも可能。


「私が聖女よ!」


 姉がギフトに目覚めたと言った日に、同日に述べた言葉は聖女ライセンスへの認知不足な発言に凄く嫌な予感がした。

 昔から面倒なことが嫌いな人に今さらスポンサーを得られるような細やかな話術や、人を引き込める行動を起こせるとはとても思えない。


 そもそも、目立ちたがり屋なので当然聖女の試験を初回、大昔の小さな頃に受けたのだが普通に落ちた。その日からやる気を失せさせて怠惰に過ごしていたのだ。


 婚約者を探すことなく、妹のこちらの婚約者を誘惑する行動をしたりと頭の痛い真似をしたりする人。正直、縁を切りたい。

 彼の家に嫁入りするときに物理的に離れることだけが救い。きゃあきゃあと黄色い声をあげる姿は聖女というより……計算高い傲慢な女にしか見えない。


 実際、頭の中には聖なる女になったあとの桃色生活しか映ってなさそうだ。聖女というのはスタートからして躓き易いというのに。というか、試験を受けたのだから世知辛い体感をしたのに、懲りてないのかド忘れしているのか?


(もしかして、強い力を得たらテストを受けなくてもなれるとか思ってる?)


 いかに楽をできるのか、ということを常日頃思っている相手なので思っていても可笑しく無い。呆れ果てるような思考が手に取るようにわかる。

 メルルは姉の奇行に思い当たる節がある。最近、彼女は黒魔術に手を出している様子があるのだ。

 それは別に構わない。黒魔術も立派な魔法の一つ。禁忌でもなんでないし。


 しかし、問題がたった今浮き彫りになったことはよく理解した。なにか、それは。


「お姉様。黒魔術によって得たスキルは一時的なのですよ」


 普通に教科書に書いてあることなので規律ではない。頼ってもすぐ意味がなくなるということが書いてある。禁止されていないのは本当にちょっとしか続かないから。

 魔力量や色々理由があるけど、とにかく聖女として力を得たと嘘をついても立証するのに時間がかかるから、相性が悪い方法なのだ。


 かちんと固まる姉にため息を内心気付かないように吐いた。ああ、と額に手を当てる。バカだバカだと思っていたけど本当にバカを通り過ぎた楽観主義だ。


「え?え、え、え?でも、とっても強くて」


「強いからこそ期間限定なのですよ。賢いお姉様ならわかりますよね?」


「……どうにか長らえさせられない?」


「あるのなら、皆やってますでしょうね。私もお母様も」


 当然のことに行きつかない。そんなに便利に使えるんならば皆やってる。やってない、またはやれてない理由に行きつかないから手を出したのだろう。


「で、で、でも」


「いくら何を言っても、何度言おうと事実は変化しませんね。強さによりますけれど……精々、一時間も使えればいいのですが。聖女と認められるような力と感じるのなら一分くらいでしょうか」


「み、み、短〜い!?」


 父も母もアホを見る目に移るので、姉は気まずい目で顔を俯かせる。やがて自室にそそくさと戻りその日出てくることはなかった。

 後日、婚約者に告げると大笑いしていたので、彼も姉の破天荒さを知っている人。所謂幼馴染だ。姉が色仕掛けをしても無駄なことをしていた。

 幼馴染の自分たちは、妹か姉かを選ぶときに自分のことを選んだのは当然だ。姉を選ぶことはないだろう。


「ははは!はーっははは!」


「貴族子息としてあなたの母に怒られるわよ?やめておけばいいのにもう」


 メルルは苦笑して、姉のやらかしに頭が痛いと首を振る。ハウニーは笑い終えて息を吐く。


「いやいや、いやあ、面白いな相変わらずブリストは……前々から深く考えず突っ走るところがあるとは思っていたけど。聖女とはなぁ」


 笑えないとさすがに目を緩ませていく男に、メルルたちは互いに顔を見合わせる。聖女という立場はいいことばかりではなく、どちらかと言えば面倒臭いことが多い。


「聖女をやめようと思うの」


「そうなんだ?別にやり続けてもいいと思うがな」


「実入はいいんだけど、お姉様がこっち界隈でなにかやらかす前に辞めておいた方がいいのかなって」


「あー、そう、かもな」


 聖女界隈で身内が何か起こしたら即日、噂になるに違いない。そうしたら仕事がやりにくくなる。最近また聖女に興味を抱き出した姉を見ると、とんでもないことをやりそうで怖い。


 すでにやらかしているからしばらくは大丈夫だが、次の手をいつ打ってくるかわかったものじゃない。

 そして、今回得たスキルは治癒の能力らしいが、使用して三十秒で効果が切れたので精々包丁でちょっと切ったところを止血程度の治療しかできなかった。料理人は喜んでいた。ささくれが治ったと。


 やはり、皆微妙な顔をしていたから微妙なんて話ではなかった。姉は当然呆然としていてぐったりと倒れ込んだが。人一人を喜ばせたのなら、十分だと思うし。姉がやったことをバカにすることはない。


 聖女たちとて色々理由や目的はあるが、力に頼ったことをしているわけじゃない。入院している人に花を入れた栞を作ったり、詩を書いた本を病院に送ったりとやれることをしている。

 依頼ではないからポイントはつかないが、ボランティア精神でやる人も結構いる。姉のやったことはほぼボランティア。メルルが呆れているのは黒魔術で聖女筆頭になれると思い込んできたこと。


「困ったお姉さんだ。妹の仕事の領域に来るなんて」


「元々諦めてなかったんだと思う。ほら、聖女のイメージって、同じ界隈にいる人たちとは関係ない人たちにとってはキラキラしてるでしょ?姉様もキラキラしてると思い込んでるんでしょうね」


「ああ、それは厄介だな……」


 ハウニーも聖女の仕事を知っているから苦笑する。


「じゃあ、あいつに聖女をやらせてみればいい」


「え?」


「憧れを木っ端微塵にすれば二度となれるかもしれないなんて幻想は抱かないだろうしさ」


 相手の提案にパッと顔が明るくなる。幻想を無くすことからだろう。そうと決まれば、二人で語り明かすために椅子を近づけた。


 第一弾は姉に聖女の仕事を体験させること。試験に受からなければ本来何もさせてもらえないのだが、事情をギルドに接舞したら特別にメルルが監督するのならばと許可が出た。他の監視員として母が同行することに。


 妹だけだと舐め腐って逃げようとするかもしれないし、母に嘘ついてメルルのせいにする可能性がとても高いから。


 証拠を目の前に置いておけば、姉だって下手に逃げられまい。母も目を鳥のようにキツくしている。今回のことは腹に据えかねているらしいから余計に怖い。


 母も聖女に憧れて昔やったことがあるらしいが、大変さに心が折れたのよ、とよくこちらを褒めてくれる。

 もしかして姉は褒められたいのかもしれない。今回はそうしたって、やりすぎだが。露見したら全聖女に憧れる女たちに眦を釣り上げられて袋叩きにされる内容。


 聖女を偽ろうとする行為は憧れの対象を持つ者達からすれば、騙そうとした悪女と変わらない。母も例に漏れず怒り顔だ。


 仕事が始まると姉は最初の三十分はニコニコしていたのだが、それからは無表情で飽きていた。ただただ、歌を歌うだけなので暇なのだろう。手元にある紙を見て歌うだけの作業がボランティアなのでお金が発生しない。


 純粋な行動だからこそやる気がない人ならば、やる気なぞないだろう。姉は歌い終わると帰りたそうにしていた。昨日は平民たちの小さい演劇をやるから、という前座だ。


 終わったら彼女はこちらに来て帰りたい、と言い出した。帰りたいって言われても帰れない。最後までこれを見るのが仕事なのだから。


 そばにいる人たちに聞こえないと思っているのだろうけど、聞こえているみたいで睨みつけられていることにも気付かない。わかるわかる。

 やる気のない人が来たらイラつくよね。こういうことをされるから聖女業界で働けなくなるかも、と思ったがその通りだった。がっくりと内心なる。やはり、参加させて良かった。


 まだこの人は聖女でもなんでもない、聖女の体験をしに来た女だ。だからまだ怒られる段階でもなく、怒られるわけもなく。視線だけなら、人を焦げつけさせられそうなのに。


 ただの娘が、わがままを言って家族やその周辺に迷惑を振り撒いているだけ、の状態だ。まだ傷は浅い。浅いだけで終わってくれとメルルは深く息を吸う。


 聖女を馬鹿にしたら、聖女や聖女に憧れる者たちに何をされるかわかったものじゃない。そういう空気を姉は早く知るべきだ。後戻りできなくなる前に。


 他のことをしたいわ!などと言ってまだ諦めない姉はやれやれと、詮無い言葉をかける気持ちにもなれない。ブリストも途中から見ていたらしく隣に並び、炊き出しの鍋をかき混ぜる呑気な姉ハウニーを見遣る。


 本気か?あの女?と問いかけてくる彼へ最早言う言葉も見つからない。炊き出しは鍋を混ぜるだけではない。案の定、人に配り始めて十分しか経過していないのに、げんなりした顔をし始めた。


 今はお昼で、残り一時間はこれを少なくともやり続けないといけない。たかが十分程度で飽きては、やってられないのだが。ハウニーはトイレと言って他の聖女に押し付けるとやはり、サボって帰ろうとしていた。


 同じく見ていた母からキツイ実績を受けて渋々、活動していた場所に戻ったが派手な活躍もない正面は嫌になったのか、裏方に回る。だからといって裏方も楽じゃない。


 延々と野菜を切ったり剥いたりして、常に手を動かしていなければいけない。知り合いがいたりしたら喋りながらできるのだが、初参加な上に速攻でサボろうとしたハウニーに話しかける聖女候補なんて、いないのだ

 なんていう姉なんだとブリストと母が同じ顔をして、自分も同じ色を浮かべているんだろうなと疲れた体を動かす。今日は活動する日でないから、動いてもランクに貢献されない。


 なので、手伝うこともせずただただ姉を監視する側に回る。今日でこちらの聖女の評判も落ちていてもおかしくない。


 この人が実姉ではなかったら良かったのに。このボランティアをさせることになってから随時思うようになった。

 前は家の外に問題がなかったから、そこまででもなかったのだが、今は縁を切りたくなっている。静かにできないのかと呆れる。


 炊き出しも段々サボり気味にダラける女。一体何がしたかったのか。は、知っているからこそ、サボるようになる予感はしていた。

 元々飽き性な人なのだ。長年家族をしていれば、一部分を嫌でも見つけてしまう。長所もあるのかもしれない。が、見たことはない。


 見たことがないまま短所ばかり見せつけられると、それはもう長所が短所だ。一緒に並びたくはないだろう。


 母も痛むのだろう頭を揉んでいる。遠くから炊き出しを見ているが、不合格一択の行為ばかり引き当てる。不合格なんてものではない、大失敗だ。

 聖女たちの間で明日には話が広がるだろう。自分の姉は聖女以前に人間として怠け者だと。評判も最悪になり、姉の縁談にも多大に影響が出る。


 今まで姉に聖女たる活動に参加させなかったのは、きっと今みたいなことが起こると家族は察していたから。そして、縁談にも影響が出るから。

 聖女を甘く見ていると、男性側にも影響がとてもある。そんな人を妻にしたい家なんてない。女性に対して最低な噂がある家だって、嫁に欲しがらないだろう。


 案の定、そこから数年一つも姉に釣書が届かなくなった。ハウニーはなんで!?と癇癪を起こしたが、己の行動の結果とは思ってないので救われない。救いたくもないが。


 メルルはブリストと一年前に結婚しており、姉の聖女を下に見ている行動をやめさせる案を出したっきり、やっぱりねとため息を吐いていた。


 姉とメルルと幼馴染なのだから、性格もわかった上で演壇も来なくなることを把握しており、それでもわからせるべきだと言ったのだ。


 自分もあれ以上バカな真似をする前に芽を潰しておきたかったから、聖女を体験させ二度となりたいなどと言われないためににも、その案には賛成した。

 母も父も納得の上で参加させた。家が多少泥を被るとしても、将来聖女関係で聖女だと名乗るよりは遥かにマシなのだ。


 名乗られたあとはただひたすらに落ちていくだけ。家名もなにもかも地面に落ちるのみ。そうなれば家族離散も現実になりそう。

 無関心に思いたい心を捩じ伏せて、全力で姉のやりたいことを体験させるしか生き残る道はない。


 そう思えば家族たちも軽く納得して、深く理解してからはあっという間。あの日姉は思ったよりも、派手にやらかした。


 聖女たちの目に入れば入るほど、うちが姉のことに四苦八苦している様は見ていて周りがわかってしまう。だからこそ同情が強く出た。

 彼女たちは聖女業を辞めると言った自分に、今まで頑張ってきたのだから続けなさいと言う。それに甘えるわけにはいかない。


 首を振ったがそこで背中をポンと押したのが今の夫であり当時は婚約者だったブリスト。


『聖女活動を終わらせるためにアドバイスしたんじゃないと言ったら怒るか?』


 その発言に首を傾げると彼はイタズラが成功した顔でこちらを見遣った。


『聖女活動を見ている人たちが多いことはわかったはずだ。お前のやってきたことを見ていたから、引き止められる。誇っていい』


 輪郭に指を這わす熱は強く、好きなことを辞めなくていいと訴えた瞳は真意を伝えてきた。


「私もやっぱり聖女に憧れる女性だったってことかぁ」


 聖女に憧れていたから、聖女の活動に身を委ねていたことを知られていたとはその時まで知らなかった。当時は驚いたが、幼馴染なんだぞ?と楽しそうに言うものだから。


 紅茶を飲みながら赤ん坊をあやす彼を、風で揺れるカーテン越しに見つめていれば、あの時と寸分変わらない温度の目と合って優しく微笑まれた。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。華々しいのは外側だけなのかもしれません。

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