『雨の夜、兄妹と濁り酒』
「まずいくせに、なんか落ち着くね。」
「だろ?」
『雨の夜、兄妹と濁り酒』
雨がしとしと降る夜。
古いアパートの一室に、焼けた肉の匂いが広がっていた。
「ちょっと、焼きすぎじゃない?」
妹が眉をひそめる。
「うるせぇな、これくらいがうまいんだよ。」
兄はフライパンを揺らしながら答える。
じゅう、と音を立てる豚肉。
油が跳ね、部屋の空気は少しだけ重くなる。
テーブルの上には、安い濁り酒の瓶が一本。
ラベルは少し剥がれていた。
妹はそれを見て、ふっと笑う。
「相変わらず、センスないよね。」
「いいだろ、飲めりゃ同じだ。」
兄はコップに白い酒をなみなみと注ぐ。
「ほら。」
妹は少しだけためらってから、それを受け取った。
くん、と匂いをかいで、顔をしかめる。
「…くさ。」
「それがいいんだって。」
二人は同時に口に運ぶ。
一瞬、沈黙。
「…あ、でもちょっと好きかも。」
妹がぽつりと言う。
兄は笑う。
「だろ?」
皿に盛られた豚肉に箸を伸ばし、二人でつつく。
言葉は少ないが、動きは自然だった。
外の雨音が、ゆっくりと続く。
「ねえ。」
妹が肉をかじりながら言う。
「何だよ。」
「たまにはさ、帰ってきなよ。ちゃんと。」
兄は少しだけ手を止める。
そして、すぐにまた肉をひっくり返した。
「…気が向いたらな。」
妹は何も言わず、濁り酒をもう一口飲む。
「まずいくせに、なんか落ち着くね。」
「だろ?」
二人は小さく笑った。
フライパンの音と、雨音。
それだけで十分な夜だった。
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「たまにはさ、帰ってきなよ。ちゃんと。」
兄は少しだけ手を止める。
そして、すぐにまた肉をひっくり返した。
「…気が向いたらな。」




