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『雨の夜、兄妹と濁り酒』

作者: 蒼山ホタル
掲載日:2026/04/27

「まずいくせに、なんか落ち着くね。」


「だろ?」


『雨の夜、兄妹と濁り酒』


雨がしとしと降る夜。

古いアパートの一室に、焼けた肉の匂いが広がっていた。


「ちょっと、焼きすぎじゃない?」

妹が眉をひそめる。


「うるせぇな、これくらいがうまいんだよ。」

兄はフライパンを揺らしながら答える。


じゅう、と音を立てる豚肉。

油が跳ね、部屋の空気は少しだけ重くなる。


テーブルの上には、安い濁り酒の瓶が一本。

ラベルは少し剥がれていた。


妹はそれを見て、ふっと笑う。

「相変わらず、センスないよね。」


「いいだろ、飲めりゃ同じだ。」

兄はコップに白い酒をなみなみと注ぐ。


「ほら。」


妹は少しだけためらってから、それを受け取った。

くん、と匂いをかいで、顔をしかめる。


「…くさ。」


「それがいいんだって。」


二人は同時に口に運ぶ。


一瞬、沈黙。


「…あ、でもちょっと好きかも。」

妹がぽつりと言う。


兄は笑う。

「だろ?」


皿に盛られた豚肉に箸を伸ばし、二人でつつく。

言葉は少ないが、動きは自然だった。


外の雨音が、ゆっくりと続く。


「ねえ。」

妹が肉をかじりながら言う。


「何だよ。」


「たまにはさ、帰ってきなよ。ちゃんと。」


兄は少しだけ手を止める。

そして、すぐにまた肉をひっくり返した。


「…気が向いたらな。」


妹は何も言わず、濁り酒をもう一口飲む。


「まずいくせに、なんか落ち着くね。」


「だろ?」


二人は小さく笑った。


フライパンの音と、雨音。

それだけで十分な夜だった。



---


「たまにはさ、帰ってきなよ。ちゃんと。」


兄は少しだけ手を止める。

そして、すぐにまた肉をひっくり返した。


「…気が向いたらな。」

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