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あの頃の夏を、何度でも君と  ―君を救えない時間を、僕は繰り返す―』  作者: 反抗的な爪楊枝


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第2話「数年後」


目を覚ます。


白い天井が、視界いっぱいに広がっていた。


数秒遅れて、ここがどこなのかを思い出す。


見慣れたはずの天井。

一人暮らしの部屋。


「……夢、か」


小さく呟く。


声に出しても、どこか現実味がなかった。


さっきまで見ていた光景が、まだ頭の奥に残っている。


夜の海。

波の音。

そして——


結衣。


「……」


無意識に、手のひらを見つめる。


何かを掴もうとして、掴めなかった感覚だけが残っている。


「……待ってるね、って」


ぽつりと漏れる。


夢の中の言葉のはずなのに、やけに鮮明だった。


まるで、本当に言われたことがあるみたいに。


——いや。


考えるのをやめる。


ベッドから起き上がり、スマホを手に取る。


画面を点ける。


表示された日付。


その下に、自分で入れていたメモ。


『結衣 三回忌』


指が、止まる。


一瞬で、現実に引き戻される。


「……そうか」


小さく呟く。


今日は——


結衣の三回忌だった。


高校を卒業して、まだ数週間しか経っていない。


大学の入学式までは、あと少し。


何もすることのない、この中途半端な時間。


十八歳になったばかりの春。


周りはそれぞれの新しい生活に向かっているのに、

自分だけが取り残されているような気がしていた。


スマホの画面を消す。


部屋の中は、やけに静かだった。


冷蔵庫の低い音だけが、かすかに響いている。


「……行くか」


誰に言うでもなく、そう呟く。


その一言が、思ったより重かった。


立ち上がる。


支度をする手が、どこかぎこちない。


数年ぶりの帰省。


あの日以来、一度も帰っていない。


帰らなかった、の方が正しいかもしれない。


理由は、分かっている。


分かっているのに、考えないようにしてきた。


玄関で靴を履く。


ドアに手をかけたまま、少しだけ止まる。


脳裏に浮かぶのは——


夕方の海。


結衣の後ろ姿。


『あとで行く』


それだけが、最後の言葉だった。


あのとき。


すぐに行っていれば。


あのとき。


違う選択をしていれば。


そんなことばかりが、何度も頭をよぎる。


でも——


もう、どうにもならない。


ドアを開ける。


外の光が、目に刺さる。


一歩、踏み出す。


それだけのことなのに、やけに時間がかかった気がした。


「……待ってる、ね」


誰にも聞こえない声で、呟く。


夢の中の言葉をなぞるように。


それが誰の言葉だったのか、分かっているくせに。


読んでくださりありがとうございます。

普段小説は多少読むのですが小説家になろうは今まで読んだりしたことなかったので意外と知ってる作品があったりして面白いです。

引き続きあの頃の夏を、何度でも君と一君を救えない時間を、僕は繰り返すー の応援よろしくお願いします。

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