-再び夢の中で君と-
波の音がしていた。
夜の海だった。
月明かりに照らされた水面が、静かに揺れている。風は弱く、ただ規則的に寄せては返す波の音だけが、やけに鮮明に響いていた。
懐かしいはずの景色なのに、どこか現実感が薄い。
まるで記憶の奥に沈んでいた光景を、そのまま引き上げてきたような、不思議な感覚だった。
「……湊」
後ろから声がした。
その声に、心臓がわずかに跳ねる。
ゆっくりと振り向く。
そこに立っていたのは——
「久しぶり」
結衣だった。
制服姿のまま、あの頃と変わらない笑顔で。少しだけ首を傾げて、当たり前のようにそこにいる。
「……なんで」
喉の奥で言葉が引っかかる。
現実のはずがないと分かっているのに、目の前の存在があまりにも自然で、否定しきれない。
「遅いよ」
結衣はそう言って、少しだけ頬を膨らませた。
その仕草さえ、懐かしい。
胸の奥が、じわりと痛む。
「……何が」
どうにか、それだけ返す。
結衣は少しだけ視線を外して、それからまたこちらを見る。
何かを言おうとして、ほんの一瞬だけ迷ったように見えた。
そして——
「……私、待ってるね」
少しだけ照れたように笑って、そう言った。
その言葉が、やけに強く胸に残る。
なぜか分からない。
でも、それを聞いてはいけなかったような気がした。
一歩、結衣の方へ近づこうとする。
でも、距離が縮まらない。
歩いているはずなのに、同じ場所に取り残されているような感覚。
足元が、不自然に重い。
「……待てよ」
思わず声が出る。
今、行かないといけない気がした。
ここで何かを置いていったままにしてはいけない。
そんな焦りだけが、胸の奥で膨らんでいく。
もう一度、足を踏み出す。
今度こそ届くはずだと、半ば強引に信じて。
その瞬間——
視界が歪んだ。
海も、空も、結衣の姿も、すべてが崩れるように溶けていく。
「——湊」
最後に、もう一度だけ声が聞こえた。
それがどんな表情だったのか。
もう、分からない。
読んでくださりありがとうございます。
初めまして反抗的な爪楊枝です。
今高校生を卒業して暇なので小説を書いてみたいと思い
書いてみました。
次回から少しずつ話の展開が広がるので読み続けてくださると幸いです。




