104アルスランテペ準国家「絵」
イオンは魔族と人間のハーフなので角がありません。
地底からの汚穢 ―― 崩壊する平穏
アルスランテペ準国家。まだ「国家」という枠組みが未成熟なこの地は、それゆえに多様な種族、そして魔族をも受け入れる度量を持っていた。準国王Anittaは、名産品であるアルスランテペ剣の鋭い輝きを愛で、自国の緩やかな成長を確信していた。
しかし、その足元の地底から、人類の倫理を置き去りにした「異形」が這い出してきた。
「うぇーい……」「オオオオオ……!」
メファテアフ、ネシェク、ビヨロギ、ヤツラーン。かつて知性の最先端にいた科学者たちは、今や「飢え」という衝動だけで動く肉塊に成り果てていた。Anittaはその光景に、本能的な嫌悪感を覚える。
「何だ……こいつらは……。生命の理を冒涜しているような、この不快な気配は……!」
ゾンビたちが無辜の国民に牙を剥いた瞬間、アルスランテペの平和は断末魔へと塗り替えられた。Anittaの鋭い号令が飛ぶ。
「傭兵ども! あの珍妙かつ醜悪な生物を根絶やしにせよッ!」
傭兵パラルとアスケルが即座に動く。彼らの放つ弓矢は正確にゾンビ・メファテアフの頭部を貫いた。
「ブヒー!」という豚のような鳴き声と共に、ゾンビの巨体が泥のように崩れ落ちる。
:敗残兵の再起と、残酷な「咬傷」
その混乱の渦中に、一人の男がいた。元アニムス軍二等曹士、イオン。
彼は運良くアルリム王の精神操作を免れ、この新天地で「第二の人生」を始めようとしていた。
(……メソポタミアの連中は文明もチート級だし、化け物揃いだ。だが、この準国家なら、俺の培った経験で一旗揚げられる。今度こそ、俺は俺自身の力で生きていくんだッ!)
その決意は、あまりにも唐突に、そして呆気なく踏みにじられた。
「ガブリッ!!」
「……あ……?」
背後から迫ったゾンビ・ネシェクが、イオンの逞しい左腕にその腐った牙を沈めた。
「ちょ! ふざけんな! 俺の腕を咬むなッ、離せ!!」
イオンは必死に抵抗するが、傷口から流し込まれた「死のウイルス」が、瞬く間に血管を通じて全身へと侵食を開始する。
傭兵アスケルの放った一矢がゾンビ・ネシェクを射殺したが、手遅れだった。
:変質する自我 ―― 獣への転落
「魔族の者、怪我はないか?」
アスケルが駆け寄る。イオンは荒い息をつきながら、自身の腕の傷を見つめた。
「咬み傷……だけだ。助けてくれて、ありがとう……。うっ……なんだ、この感覚……?」
イオンの視界が急激に彩度を失い、モノクロームの闇へと沈んでいく。
(熱い……体が内側から焼かれるようだ。脳が、俺の記憶が、熱に溶かされていく……。俺は……俺はここで、やり直すはずだったのに……!)
アスケルが救護班を呼ぼうと背を向けたその瞬間、イオンの意識は完全に「獣」へと明け渡された。理性の火が消え、残ったのは生きた肉に対する、抗いがたい食欲。
「フッシャーーー!」
「うわーーーーーァ!」
アスケルの悲鳴が響く。魔族としての筋力を備えたゾンビ・イオンは、アスケルのうなじに深く牙を立て、その温かい生血を啜った。
アスケルは、自身の細胞が一方的に蹂躙され、人間としての尊厳が崩壊していく絶望的な感覚に震えた。
「……何だ、これ……。俺の体が……俺のものではなくなる……」
理性を失った魔族のゾンビ。それは、従来のゾンビを遥かに凌駕する「災厄」の誕生であった。
:腐敗の連鎖
アルスランテペの美しい街並みは、今や感染者たちの呻きと、捕食される者の悲鳴に包まれている。
Anittaは、自慢の剣を手に戦慄した。敵は死なず、倒してもなお増え続ける。
果たして、青銅器時代の傑作「アルスランテペ剣」は、この呪われたバイオハザードを断ち切ることができるのか?
次回:『汚染された王国 ―― 孤立するAnittaと魔族の猛威』
準国家の崩壊が、静かに、そして確実に始まった……!
メファテアフ ネシェク
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