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火の国の物語  作者: たくぼあき


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まぶたの父

「伯母上!今なんとおっしゃいましたか?」



青年は狼狽するあまりに思わず声を荒げてしまった。


ここは、火の国の王都の一角にある邸宅。

青年の名前は、フレディ・ローズという。


一つに縛った長めの金色の髪と金色の瞳、整った顔立ちとすらりとした体躯。

気合を入れて手のひらを振りかざせば炎を出現させる事も可能。

能力的にもルックス的にも、どこからどうみても完璧に火の精霊と言って良い。


幼い頃も長じてからも、火の精としての能力に恵まれ、軍人としての才能にも恵まれ、志願して火の国の王家を守る親衛隊員としての任務を命じられている。


現在もその赤い軍服と金糸の入ったマントを羽織り、非常によく似合っている。

性格も真面目で誠実で有能な若者だ。


普段から仲間達の中で冷静沈着な男としても知られている。


そんな彼が驚きのあまり思わず声をあげてしまっていた。


彼の驚きの理由は、彼を親代わりに育ててくれた父方の伯母からの突然の告白。


王宮を護る親衛隊員として厳しい訓練や任務に勤しんでいる日々の中、伯母に呼び出されて育った館に帰ってきてみれば突然真実告知をされたのだった。


「私の実の母が水の精だと言われるのですか?ハマヨ伯母さま」


「ハマヨ伯母様と呼ばれたのは随分と久しぶりだな」


幼い頃から甥っ子のフレディ・ローズを我が子のように可愛がって育ててきた伯母は感慨深くつぶやいている。


なんと、彼のルーツに関わる出生の秘密を育ての伯母から突然に暴露されたのだった。


「幼いころはおばさまおばさまとしたってくれた。あの頃のお前は本当に可愛かった」


自分の生涯に関わる出生の秘密を暴露されてしまうこの状況下でそんな話をされてもほっこりできるはずもなくフレディ・ローズは立ちすくみ、頭の中は冷静に考えようとすればするほど憮然とするばかり。


彼の目の前には火の精をダメにするソファーと呼ばれる粒子の細かなふわふわした詰め物で作られた低反発ソファーに見事に沈み込み、気だるげに横たわる若々しく美しい伯母がいる。


彼女は、元々火の国の王家に仕え、駐在武官として水の国に派遣されたこともある有能な武官だった。

この伯母に鍛えられることによって競争率の激しい親衛隊に入隊するほど立派な青年となった通称フロイと呼ばれる甥を満足気に眺めながらかたる。


「王家への純粋なる火の精としての忠誠の誓いを立てたばかりのお前にこのようなことを告げて誠にすまぬな。お前がこんな立派なお役目についた事は正に我が家の誉だというのに」


火の精は、歳を取ればとるほどに身体が炎を欲するようになる。

炎を摂取していなければ身体がだるくなるのだ。

倦怠感が続くと体内の炎が不足して人によってはそのまま力尽きてしまう事もあり炎の摂取は非常に大切とされる。


若いうちは、あまり炎を摂取せずに平気で異国暮らしが出来ても次第にそれでは体がいう事を聞いてくれなくなり火の国に戻り常に炎を摂取しなければ体調を崩してしまう。

フロイの伯母は、かなり炎を必要とする年齢に差し掛かっており炎の壺が手放せない。

炎の燃え盛る炎の壺に吸引器を引き寄せ、黄金色のキセルをクルクル回しながら炎に突っ込んで巻き取った炎を優美な仕草で吸い上げながら言った。


「仕方ないのだ。お前の父が、水の国で少々、いや盛大に羽目を外すから」


「どういうことなのです。私の身体に水の精の血が流れているとは!」


「声が大きい。慎め」


これが黙っていられますか!と思いつつも青年は思わず一瞬黙るもののまた口を開く。


「私は、幼い頃から王家の親衛隊員となる事を夢に見ており、ついに火の国の王家に正式に任官し、ありがたい炎の俸給も決まって王太子様をお守りする親衛隊員となったばかり、王家に忠誠を尽くし、正統なる純粋な火の精であると命をかけて誓った上でです。もしもそんなことが知られれば、私も伯母上もただではすまない事でしょう。それがなぜ今になってそのような重大事を?本当のことなのですか?せめてもっと早く伝えていただきたかった」

火の国の親衛隊員は、純粋な火の精でなければならないという古風なしきたりがあり、それを違える場合は死刑もあり得る王家反逆罪として断罪される可能性もあるのだ。



ここは四大大国の一つ、火の国の首都ラーダ。

火の国は、炎を操る精霊が興した国で、火の国でくらす人々は、炎を操る能力をもって生まれてくる。


しかし今回の話の中心人物は火の精を父に水の精を母に持って生まれた事を突然知らされ愕然としていた。


「確かに私は母の記憶がありません。幼い頃に亡くなったとばかり」


「確かにお前の母君は、亡くなってしまったのだよ。リオウと仲睦まじい夫婦になると思っていたのに様々な要因が重なってしまって気の毒なことだった。それで、とりあえず遠い身内から引き取ったということにし、混血であることを伏せて火の国で育てる事にしたのだが、お前があまりにも火の精として完璧な容姿を持ち、さらに炎を操る能力も高く、武術にも優れた男なのでこのまま火の精として育てていけるかと思ったのだ」


「なんと無責任な」


「そういうな。その当時混血の子どもを火の国に連れ帰る事が難しい時代だった。私の弟でお前の父のリオウは火の精霊で私が水の国の駐在武官をしていた折、同じく武官として帯同したのだが、現地で水の精の娘と恋仲になってしまいお前が産まれたのだ」


周囲は反対した。


火の精と水の精の恋はとかく、不幸に終わりやすいからだ。


畏れ多いことにケイシー王子様とお妃でさえうまくいかないほどなのだから。


当時は今以上に、火の国と水の国の混血はあまり喜ばしいことではなく、慰謝料や養育費を渡して産まれた赤子を現地に置いて帰る事も考え、話し合いの結果

「水の国の連中は問題を解決しようとした私が女だとみると侮ってきて話し合いが決裂してしまったのだ。全く水の精の男どもめ」


水の国は男性社会なので話し合いの席に火の国の側から女性が出て来ると侮った態度を取り幼いフロイを見捨てるわけにもいかないため火の国にひっそりと連れ帰ってきたのだという。

また

「これは我が家の名誉や家族の命に関わる事になる、よってお前にも真実を告げずにかくしとおす事にしていた。だが、この度ケイシー王太子殿下からお呼び出しが来てしまったのだ」


とも言う。


それで知らせておく事にした。


「現在のケイシー王太子様のお屋敷の庭園に見事な水晶の庭が造られていて驚いたよ。紫色にぼんやりと輝いて美しかった。殿下は水の国から取り寄せたとおっしゃっていた」

「いや、伯母上、水の国では水晶は掘り尽くしていて今は全て地の国でしかほれませんよ。紫がかった色合いのものは確実に地の国産です」

「そうか、やはりケイシー王子殿下は、うっかりした方だな。見る目もないのか外国産を水の国産出と騙されたか」

「それ以上はあまり口外なさらない方が宜しいかと」


伯母と甥の話はわきにそれてしまった。

そして時間もなくなってきた伯母は

「お前の見事な水の国の言葉をケイシー王子殿下が欲しておられるのだよ」

と甥っ子に告げた。


フレディ・ローズは、自分には選択肢がないのだと気付き項を垂れたのだった。

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