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火の国の物語  作者: たくぼあき


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カーレヌ

火の国の王太子、ケイシー王子は、深く悩んでいた。


ここは、代々女王を国王に戴く四大大国の一つ火の国の王都ラーダ。


これは、火、水、風、地の四つの大国に分かれた世界の中で最強の軍事力を誇る火の国に生きる人々の物語である。


火の国の王都にはラーダ宮殿という漆黒の黒曜石で作り上げられた火の国の王の居城がありあちらこちらに炎が湧き上がる火の塔があり炎が渦を巻いて天空に立ち昇っている。



そんなラーダ宮殿内において女王の息子の王太子の邸宅では邸宅の主人ケイシー王太子が可愛らしい紅のドレスの娘の手を引いて庭園を散策していた。


「お父様。あれは水晶?」


可愛らしいよちよち歩きの幼い娘は庭園の中の紫水晶の庭石を指差しとても美しい水の国の言葉で父に尋ねた。


「そうだよ。カーレヌ。全て水の国から取り寄せた水の国の水晶だ」


何と愛らしい声でしっかりと話すようになった事だろう。


幼いのに彼女の水の国の言葉の発音はとても美しい。


父として娘の成長に感動しつつ優しく語りかけながらケイシーはまたもため息をつく。


娘を優しく抱き上げ水晶の岩を指し示しながら

「愛しいカーレヌ。そろそろ火の国の言葉で話すようにはできないかな?ほら、あれは水の国から運んだ水晶の岩。ゆっくりでいいから火の国の言葉で話をしてご覧」

と言いながら火の国の言葉でゆっくり話かけてみてもなかなか理解できないようだ。


「あれ、は、すい?」


そう、幼いカーレヌは、火の国に引き取られたばかりで生まれた国の水の国の言葉しか話せないし理解できなかったのである。


火の国の王族として水の国の言葉ばかり話すのも娘が人々に非難されそうだ、それが父の悩みの一つであった。


「では、カーレヌ。掌をこうして空に向けて差し上げてご覧」


と、水の国の言葉を使い父が言えばカーレヌは素直にニコニコ自分の手のひらを表に向けて差し上げた。


すると父の背丈をはるかに超えるような強火の炎が渦を巻いて噴き上げた。


(何という強力な炎の力だ。言葉が通じないとは言えこの力ならこのまま成長すれば王位を継げるのか?)


と驚くケイシー王太子とキョトンとしている幼いカーレヌ。


数奇な運命のもとにこの世に誕生し、手元で育てる事になった彼の娘のカーレヌ姫を腕に抱き上げ、自身の趣味で作らせた趣ある水の国の庭園を眺めていたケイシー王太子。


目の前の水晶の岩はぼんやりと紫色に、輝いているがやはり本場の水の国の水晶の王宮の輝きとはくらぶるべくもない。


ケイシーは、火の国の女王の息子として生まれたが、火の国の王位継承は女性優先のためすぐ下に生まれた妹が跡取りとなっていた。


そのため、彼自身は、とても気楽な気分で王位を継承する事などないと安心していたのだが、悲しいことに愛する妹エルザがなくなってしまい次期王位継承人に指名されることになってしまった。


現在、跡取りのエルザ姫を失った母女王の嘆きは深く、自身の国際結婚離婚の問題も重なり心労のあまりどれほど炎を煽っても体調不良が続いているという。

これまで母に過保護に育てられたケイシー王子は、頼りにしていた妹亡きいま自身が母と娘と王国を支えなければならない立場になっていた。


「これまで自由にさせてもらいすぎたのだな」とようやく思い至るお気楽な男性王族。


しかしながら身体のうちから不安が湧いてくるようで不吉な気がしてならない。


帰国したとはいえまだ水の国への憧れが消えていなかったし、かつて愛した元妻のソフィーニとの恋の忘形見の我が娘の事も愛おしくてならなかった。


ケイシー王子は、子どもの頃から男子の自分に王位が巡ってくる可能性はほぼ無いと思っており、王位に関心を抱いたことがなかった。


彼は幼い頃に家庭教師から話をされた歴史の授業での華やかな水の国の文化に憧れ、男子王族としては珍しく文化大使という肩書を与えられてついにその国に長期滞在の夢が叶った時は、本当に嬉しかった。


文化大使の仕事とは世界的に文化の中心地と言われる水の国で火の国の文化を広めて国際協調や平和外交に力を入れて行くように、という役割が漠然とした名誉職であった。


はっきり言えばケイシー王子を溺愛する母親のカレナ女王が息子があまりにも水の国に行きたがるので彼に名誉職を与えてしばらく滞在させてやったのである。


火の国では女性が王位継承順位で優先される為、跡取りとして育つ王女と異なり、火の国の王子には重い役割が無かった。


また若いうちは炎をあまり摂取しなくても身体が耐えられるため火の国では、外国旅行は若いうちにさせるものと言われている。


かくして、母に甘やかされて水の国に向かったケイシーは、憧れの水の国の言葉は完璧に操っており、さらに金色の髪と瞳、背が高くパッと華やかな顔立ち、趣味は語学、特技は剣舞というこの若者は、水の国で大歓迎されてしまう。


幸か不幸か長く平和が続き文化が爛熟した水の国で空前の火の国ブームが起きていたからだ。


ケイシーの評価は、祖国火の国では

「世継ぎの君ではないので女王陛下が甘やかされて火の国の政事より水の国の文化が大好きな残念なお方。せめて軍に入られればよろしいのに」

と言った少々残念なもの。


それが水の国では

「金色の髪と瞳がとにかく美しい。火の国の女王の第一王子さま。第一王子といえばいずれ火の国の王様になられる方のはず」


という高評価になる。


水の国では、王位継承順位は男子優先であるが、火の国では女子優先だったのだがそれ以外の文化を知らないし学ぼうともしない水の国の人々からは第一王子というだけでもてはやされてしまった。


こうして詳細は他で記すがケイシー王子は、水の国で女性たちから憧憬の眼差しでみられ熱烈に歓迎されモテまくってしまった。


自分の祖国火の国では、母や妹の影に隠れて存在感が薄い男扱いであったというのに水の国の人々からすると火の国からきたというだけで何をしても褒められるのだ。


そして、そんな中で彼は出会ってしまったのである。


美しいと評判の水の国の王女ソフィーニ姫と。


それは両者どちらから見ても運命的な恋。


長年憧れてきた水の国の人々に熱狂的に歓迎された火の国の王子様と流行を追いかける事が生きる意味、くらいに思っている有閑姫君。


2人は一目惚れに近い勢いで恋に落ちてしまう。


特に思い込みの激しいところがあるソフィーニ姫が熱烈にケイシーを愛し強く婚姻を望んだという。


慌てたのは2人のそれぞれの家族である。


両王家は、恋愛まではともかく婚姻を許すかどうかで蹇々囂々の大騒ぎとなってしまう。


結果は、2人の強い気持ちで結婚に進み愛によって結ばれ双子の姫君が生まれる。


これで水の国と火の国が同盟国として強く結ばれるならば、と火の国の女王も水の国の国王も自分達を納得させたのだった。


娘のうち1人は水色の髪と瞳。

ローレヌと名付けた。

もう1人は金色の髪と瞳の娘。

こちらは、カーレヌと名付けた。

両親それぞれからの髪や瞳の色を受け継いで生まれた愛らしい双子の姫君達と種族を超えて結ばれた二人。


しかし、家族4人での幸せは大層短くそう長くは続かない。



問題は、水の国の結婚というのがパートナーを裏切ってはならない、生涯貞節をまもり、ただ一人の人を愛し続けることを国王と神に誓って結婚をするものだったということだ。

一夫一婦制の水の国の婚姻制度について自由恋愛の火の国出身のケイシー王子が深く理解していなかったからである。


ケイシー王子の周りには火の国から連れてきた幾人ものお気に入り女性の武官がいて、王子はごく自然にその武官達とも親愛の情を超えた親しい関係を持っていた。


火の国では、結婚してもお互いに伴侶への貞操を守るモラルが男子にも女子にも義務付けられていなかったのだ。


ケイシーは、水の国の文化を愛し、言葉も流暢に操る事ができ、その国で出会ったお姫様を深く愛していたけれど根本的な部分で水の国の人間にはなりきれなかったのである。


火の国では、男女関係は非常に軽いものでケイシー王子は、水の国のお姫様と結婚したのちも気楽にお気に入り側近の女性武官とも身体の関係を持っていた。

ところが反対に男女の貞操観念が非常に強いのが水の国の習わしで、結婚後の不倫は、不義密通罪として断罪されるお国柄なのが水の国だったのだ。


かくして自分の夫が自分と結婚していながら他の女性たちともごく自然に交際していた事を知った水の国のソフィーニ。


精神に変調をきたすほど怒り、嘆き悲しみ手がつけられなかった。


ケイシー王子はそのまま王立裁判所で断罪され、国外退去を命じられた。


火の国ではごく当たり前の自分の振る舞いが水の国では、そこまで非常識な事になると彼は思っていなかった。



そこまで思い返してケイシー王子はまたもため息をついた。


「もしも私が王位を継承する場合女王たる母上はカーレヌをどう処することだろう?ましてや水の国のローレヌは」


だが、跡取りの妹が亡くなった今自分が王位を継がなかったら、幼いカーレヌに王位継承順位が回ってしまうだろう。


それはあまりにも可哀想だ。



ケイシー王子は、密かに決意した。


「母上にたとえ直系の血筋という王族とはいえこの子を後継者から外して下さるようにお願いしてみよう」


と。


ケイシー王子は、大恋愛の後結ばれた水の国の姫君ソフィーニとの仲がうまく行かなくなる。


理由は、ケイシーの異国暮らし、子育て、さらに互いの生まれ育った文化の壁などなど。


ソフィーニは王立裁判所に離婚の申し立てをして人の間に産まれたカーレヌとローレヌの双子の姫は当初人とも母であるソフィーニが引き取る事になっていたのだが、火の精の特徴を色濃く持つカーレヌ姫は水の国では暮らしにくいとのことで改めて火の国に引き取られる事になった。


そして父としての悩みがまた一つ増えたのである。


父とようやく話せるようになった。かわいい娘との微笑ましい会話。


混血の娘が火の精の容姿を持って生まれてしかも火の精が持つ炎の力もあって本当に良かった。


だからこそこうして一人だけは火の国の王家に引き取る事ができた。


水の国から運ばせた巨大な水晶が彼の住む離宮の庭園に置かれ火塔の炎に照らされてキラキラ輝いている。


(やはり銀の湖の青と白に光る水晶の美しさには及ばないな)


水の国の水晶の輝きは本当に美しかった。


しかし、水の国で生まれ育ち最近やっと火の国にきた娘は、火の国の言葉を全く話せなかったのだ。


金色の髪と瞳、水色の髪と瞳の元妻のソフィーニにそっくりな我が娘水の国に残したローレヌの方は元気にしているだろうか。


せめて人とも私の手で育てたかったものを。言葉がよく分かるものはいないものか。


かつて殿下が寵愛されていた武官の人シズカの甥に水の国産まれで流暢な言葉を話すフレディ・ローズという男がいるそうです。


このままでは、姫は言葉に不自由する。


自分が継承者になれば公務や儀式で忙しくなる水の国の言葉を忘れないようにもしてやりたい。


「親衛隊に水の国生まれの兵士がいたと聞くが」


王子は、側近から伝え聞いた話を思い出した。


「は。フレディローズという親衛隊員の若者が武勇に優れ語学にも長けております」


「よし、その者を連れてくるように」


王子は即断した。


自分が再婚して新たな 火の精霊の伴侶と共に次の子をもうけようとは少し心によぎったが乗り気にならなかった。


あの人は、私の振る舞いを許さなかったのだ。

水の色の髪の軽やか動きと花のような笑顔のあの人は。


そして、愛しいもう一人の我が娘ローレヌ、いつか会える日は来るのか。


ケイシー王子は、打ち沈んだ。






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