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第58話 創造主の影

 白光の嵐が、世界を呑み込んだ。


 視界が焼ける。耳鳴りが止まらない。

 翼は立っているのか倒れているのかも分からない。

 ただ、光の中心で“何か”が再生し、そして崩壊していくのを感じていた。


 ――再誕都市アルテリアが、ゆっくりと壊れていく。


 空に浮かぶ光輪が裂け、塔の上部が崩れ落ちる。

 地上では悲鳴と怒号。再生獣が次々と暴走し、街を焼いていった。


 ミーナが瓦礫の中から這い出し、叫ぶ。

「翼っ!! どこ!? 返事して!!」


 その声に導かれるように、翼は目を開けた。

 光がまだ残る中、手を伸ばし、彼女の肩を掴む。


「……ミーナ。無事か?」


「っ、翼っ! あんた、さっきの光……いったい何したのよ!」


 答えようとして、言葉が出ない。

 代わりに、胸の奥から熱があふれる。

 それは“記憶の断片”――失われていたはずのものが、急速に蘇っていく感覚だった。


 セリア。リリア。アーク。

 王都の戦い。裏切り。再構築。

 そして――“世界の終わり”。


(ああ……そうか。俺は……もう一度、世界を創ったんだ)


 光輪の塔の残骸の上に、黒い影が降り立つ。

 それは人の形をしているが、顔は仮面で覆われていた。

 ただ、その気配は、翼の記憶の奥にこびりついている。


「……久しいな、天城翼」


 その声を聞いた瞬間、翼の背筋が凍る。


「……お前は……誰だ?」


「“誰だ”か。面白い。

 ならば名乗ろう――“監視者オーバーロード”だ。

 お前が創った世界を、観測し、保つための存在だよ」


 監視者――かつて、翼が世界を再構築する際に、

 “世界の均衡を保つため”自らが造った存在。


「まさか……俺が……お前を……?」


「そうだ。

 そして、お前が消えたあの日、俺は新たな使命を受けた。

 “創造主を再び起こし、罪を果たさせること”」


 オーバーロードの背後に、光の粒が集まり、

 それが人の形を取っていく。

 崩壊した街の空を覆うように、数百、数千の影が現れた。


 ――再生獣たちが融合し、ひとつの群体となる。


「アルテリアは、試験区画にすぎぬ。

 再誕世界は、今また“修正”の時を迎えた」


「ふざけるな……! 人の命を、実験みたいに言うな!!」


 翼が叫ぶと、ミーナが彼の隣に立った。

 震える手で槍を握り、しかし目は強い。


「ねえ、翼。あんた……世界を創ったって、本当なの?」


「……ああ。だけど、全部が間違いだった。

 俺は壊して、作って……そして、また壊した」


 ミーナは少し黙ってから、にっと笑った。


「なら、今度は“守り直せば”いいじゃない。

 私は信じるよ、あんたが創った世界を」


 その言葉に、翼の中で何かが弾けた。

 胸の奥に眠る“創造の光”が、静かに揺らぎ始める。


「……ありがとう、ミーナ」


 オーバーロードが手をかざすと、群体が一斉に動き出した。

 無数の再生獣が地を這い、空を裂き、炎の津波のように押し寄せる。


「――創造主。お前の矛盾を、今こそ正す」


「やれるもんならやってみろ」


 翼は左手を突き出した。

 瞬間、光の紋章が展開する。

 ――回復術の陣。しかし、それは癒やしではなく、“再構築”の魔法だった。


再生術リジェネレイト・コード!」


 光が走る。

 地面のひび割れが一瞬で修復され、倒壊した家々が元に戻る。

 それと同時に、翼の体から大量の魔力が流れ出た。


 だが、その力は暴走することなく、世界に馴染んでいく。

 ミーナの頬に風が当たる。

 優しい――それは確かに“創造主”の力だった。


「この世界は……俺が壊した。

 でも、今度は俺が“治す”。」


 そう言って、翼は跳んだ。

 崩壊する光輪の塔を蹴り上げ、黒い空へと突き進む。


 オーバーロードがそれを追い、空中で激突した。

 閃光。轟音。二人の間に、世界のひずみが広がる。


「無駄だ。お前の力は、すでに制限されている」


「制限されてる? ……なら、壊せばいいだけだろ」


 翼の拳が、光を帯びる。

 殴り合い。光と闇の激突。

 それは、神話の戦いのように空を裂いた。


 ミーナは下からその光景を見上げ、涙をこぼした。


「翼……!」


 オーバーロードが反撃の魔力を放つ。

 黒い光弾が翼を包み、空を貫いた。

 その瞬間、世界が静止する。


 時間が止まったかのように、音が消えた。


「……やはり、お前は完全ではない」


 オーバーロードの声が響く。

 だが、翼は笑っていた。血まみれになりながらも、微かに。


「完全なんて……最初から、なるつもりなかった」


「……何?」


「人間は、不完全だからこそ、前に進める。

 俺が創った世界も同じだ。

 壊しても、直しても、また誰かが笑えば――それでいい」


 その言葉と同時に、翼の体からまばゆい光が広がった。

 世界そのものが震え、オーバーロードの影が崩れる。


「馬鹿な……! この力、制御できるはずが……!」


「できるさ。俺は“創造主”じゃない。

 “回復術師ヒーラー”だからな」


 笑いながら、翼は拳を叩き込んだ。

 光と闇が衝突し、巨大な爆音とともに空が裂ける。


 アルテリア全体に光の雨が降り注いだ。

 炎が消え、瓦礫が修復され、人々が息を吹き返す。


 その中心で、翼はゆっくりと地面に降り立った。

 オーバーロードの姿はもうない。

 ただ、風だけが静かに吹いていた。


「……終わった、のか?」


 ミーナが駆け寄ってきて、泣き笑いの顔で翼を叩く。


「もう……心配かけすぎなんだから!」


 翼は苦笑して、空を見上げた。

 光輪の残骸が、朝日に照らされてきらめく。


「いや、これで……“始まり”だ」


 その言葉に、ミーナが目を瞬かせる。


「始まり?」


「ああ。この世界の再構築は、まだ終わっていない。

 ――奴が消えたってことは、まだ“誰か”が後ろにいる」


 遠くの空に、薄く亀裂が走る。

 そこから、赤い光がにじみ出ていた。


「創造主の影……“もう一つの俺”が、動き出す」


 翼の瞳に、炎が映る。

 それは恐れではなく、決意の光だった。

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