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第57話 記憶の欠片

 朝の光が、まだ未完成の街を黄金に染めていた。

 再誕都市アルテリア――この世界で最初に再構築された街。

 だがその光景には、どこか継ぎ目のような違和感があった。


 まるで“誰かが描き直した世界”に住んでいるような。


 翼は宿の窓辺に立ち、静かに息を吐いた。

 昨夜から頭痛が止まらない。夢の中で誰かの声を聞いた気がする。

 ――「守って」

 そう、確かに誰かが呼んでいた。けれど、誰の声か思い出せない。


「おはよー! 起きてた?」


 勢いよくドアが開き、ミーナが顔を出した。

 元気そのものの少女だが、背の小さな体に不釣り合いなほど大きな槍を背負っている。


「朝ごはん行こ! ギルド登録も今日やるんでしょ!」


「ああ……頼む」


「ん、元気ないね。寝不足?」


 翼は曖昧に笑って、肩をすくめた。

 記憶がないというだけで、心がどこか宙ぶらりんのように感じる。


 食堂は朝から賑やかだった。

 冒険者たちが大声で笑い、酒を飲み、テーブルを叩く。

 だが翼は、その喧騒の中で、ひとり浮いたような気分になっていた。


 ――笑っているのに、なぜか寂しい。


 その違和感を打ち消すように、ミーナが声を張る。


「はいっ、こっちこっち! ギルドは向こうの中央塔の隣!」


 外に出ると、朝霧の中に巨大な塔がそびえ立っていた。

 光の粒が周囲を漂い、まるで塔そのものが息をしているかのようだ。


「アルテリア・ギルド本部、“光輪の塔”だよ。

 ここが第二世界の中心――って言われてる」


「……中心?」


「うん。“創造主”が初めて降り立った場所、って伝えられてるの」


 創造主――その言葉に、翼の胸がまた痛んだ。


(創造主……再構築……まさか)


 記憶の底で、誰かの泣き声が響く。

 破壊された空。黒い翼。

 そして――自分がそれを、止めようとしていた映像。


 だが、そこまで思い出した瞬間、視界がぐらりと揺れた。


「つ、翼っ!? 大丈夫!?」


「……ああ、ただの……眩暈だ」


 ミーナが慌てて翼の腕を支える。

 その掌が温かくて、どこか懐かしい。

 ――まるで、かつての“誰か”と重なっているような。


 ギルド内は活気に満ちていた。

 受付嬢の声、任務の貼り紙、武具の金属音。

 その中で、翼は登録のために端末に手を置いた。


「生体登録完了。……ん?」


 受付嬢が端末を覗き込み、眉をひそめる。


「あなた、属性データが……“未分類”? こんなの初めて……」


「未分類?」とミーナが首を傾げる。


「はい。通常は、火・水・風・土・光・闇のどれかに分類されるんですが……。

 あなたのデータ、“再構築不明”って表示されてます」


 周囲の冒険者がざわついた。


「再構築不明? まさか、“転来者”か?」

「いや、“彼方の残響”かもしれねぇぞ……」


 不穏な空気が流れる。

 受付嬢も困惑した様子で首を振る。


「……危険指定ではないので登録はできます。ただ、念のため――」


 その瞬間、ギルドの天井が激しく揺れた。

 地鳴り。外から爆音。


「魔獣襲撃! 東門方面に“再生獣”出現!!」


 警報のベルが鳴り響く。

 冒険者たちが一斉に走り出す。


「再生獣……また出たのね!」とミーナが槍を構えた。


「おい、ミーナ! 行く気か!?」


「当然でしょ! 街を守るのが冒険者の役目だもん!」


 そう言って駆け出すミーナを、翼は反射的に追った。

 胸の奥から、燃えるような衝動が湧く。

 ――守らなきゃ。


 東門に着くと、すでに混乱が広がっていた。

 地面を這うような黒い影が、次々と形を変えていく。

 腕を生やし、獣のような姿に変わり、冒険者を襲う。


「“再生獣”――壊しても再び蘇る、世界の欠片!」


 ミーナが槍を突き立て、炎を纏わせて突進した。

 だが、獣は焼け焦げても形を取り戻す。


 翼は目を細める。

 どこかで見た光景。

 崩壊と再生を繰り返す“歪んだ命”。


(……これは、“あのとき”と同じだ)


 思考より先に、身体が動いた。

 翼は右手を掲げる。


「――光よ、還れ」


 光が弾けた。

 世界が一瞬だけ静止したかのように、空気が張り詰める。


 そして、黒い獣が崩れ落ちた。

 再生せず、灰となって消えていく。


 ミーナが目を見開く。

「な、なにそれ……!? 再生獣が、消えた……!?」


 周囲の冒険者も息を呑む。

 誰もが見たことのない現象だった。


 翼は自分の手を見下ろす。

 掌からは、まだ微かな光が漏れている。

 それは“ヒール”の光にも似ていたが、もっと根源的だった。


「おい、あの男……まさか、“創造主の因子”を……?」


 誰かがそう呟いた瞬間、空に稲妻が走った。

 塔の上――光輪の塔の最上部に、黒い人影が立っている。


 風が吹き抜け、街中が静まり返る。


 その影が、翼を見下ろして言った。


「……やはり、見つけた。

 君が、“再誕の鍵”――《天城翼》だ」


 翼は息を呑んだ。

 その名を、確かに彼は“思い出した”。


「俺の……名前……」


 頭の奥で、封じられていた記憶が弾けた。

 セリア、リリア、アーク――仲間たちの顔。

 戦い。裏切り。崩壊。

 そして、自分が“世界を再構築”した瞬間。


 ――そうだ。俺は、一度この世界を壊した。


 目の前の黒い影が、静かに笑った。


「ようこそ、“再誕の世界”へ。

 創造主よ――君の罪を、もう一度始めよう」


 次の瞬間、塔の頂が爆発した。

 光の柱が空を裂き、アルテリア全体が揺れた。

 その光に包まれながら、翼の視界が白く染まっていく。


 そして――誰かの声が響いた。


『……ツバサ……今度こそ、終わらせよう』

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