第49話 遺跡都市カレイド突入
昼下がりの陽光を受けて、砂の地平線の先に黒くそびえる巨大建造物。
それが、古代文明の遺産――遺跡都市だった。
「……でかすぎでしょ。あれ、全部都市なの?」
リリアが半ば呆然とした声を漏らす。
「らしいな。昔は“空に届く魔導都市”って呼ばれてたらしい」
翼は答えながら、目を細める。
崩れた塔、魔力の残滓が漂う空気、そしてかすかに響く鐘の音。
まるで、誰かがまだここに“生きている”かのような錯覚を覚える。
セリアが地図を広げた。
「入口は……南門跡。けど、魔導封印がかかってる。突破するには古代文字の解読が必要ね」
リリアがニヤリと笑う。
「おっけー、それなら任せなさい。私の専門分野よ!」
翼が頷き、警戒を強めながら周囲を見渡す。
砂に覆われた石畳の下には、微かに魔力の脈動。
――この場所自体が、生きている。
「この遺跡、ただの廃墟じゃないな……」
「うん。まるで“魔法陣の中を歩いてる”みたい」
セリアが呟いた瞬間、風がざわりと動いた。
砂が浮き上がり、形を変える。
無数の魔力糸が地面から立ち上がり、人の形を成す。
「ゴーレム系!? ここ、もう敵陣扱いじゃない!」
リリアが叫ぶや否や、三人は一斉に構えを取る。
翼は拳を構え、魔力を練る。
「やるしかないな……《ヒール・エッジ》!」
白光を帯びた拳が、最前列のゴーレムを一撃で粉砕する。
だが、砕けた破片が再び結合し、形を取り戻した。
「回復するのかよ!」
「いや、違う……こいつら、再構成系魔導体だ!」
リリアの分析が飛ぶ。
「じゃあ、完全に“消滅”させるしかないのね」
セリアが短剣を逆手に持ち替える。
「翼、やれる?」
「ああ……限界突破で行く」
翼の周囲に、淡い金色の魔法陣が浮かび上がる。
それは回復術の応用――癒しの魔法を“破壊の力”に転換した禁術。
「――《ヒール・オーバードライブ》!」
爆発的な光が走り、遺跡の通路を貫く。
ゴーレムたちは、癒しの光の中で構造そのものを“正しい形”に修復され、
結果として――存在意義を失い、砂塵となって崩れ落ちた。
リリアが口をぽかんと開ける。
「……ねえ、今の、回復で殺したよね?」
「語弊があるけど、まあそんな感じだ」
「え、もう“治療界の災厄”じゃん!」
「言い方がひどい!」
セリアが吹き出し、戦場の緊張が少し和らいだ。
だが、奥から響く低い共鳴音が、その空気を一瞬で凍らせた。
――ゴウン。ゴウン。ゴウン。
巨大な石扉がゆっくりと開く。
中から現れたのは、黒い鎧を纏った騎士だった。
その胸には、あの三日月と槍の紋章。
「監視者の直属部隊……“虚影騎士団”か」
翼の目が細くなる。
リリアが魔導書を開きながら呟く。
「数……六体。しかも全員、半魔族由来の強化体。普通に戦ったら危険」
セリアが一歩前に出た。
「でも、退く選択肢はない」
「だな。ここで負けたら、何も掴めない」
翼が構え直す。
戦闘開始。
リリアが詠唱を短縮し、雷の壁を展開。
「《サンダー・グリッド》!」
電撃が通路を走るが、騎士たちはものともせず突っ込んでくる。
「魔力無効化か……!」
翼は即座に反応。
「なら、力で叩くまでだ!」
光速の踏み込み。《ヒール・ストライク》の連撃。
癒しの光を纏った拳が、黒鎧を次々と砕く。
セリアの短剣が、そこに風のように滑り込む。
「今よ!」
「了解!」
翼の拳が最後の一体を貫いた瞬間、鎧の内部から人の声が漏れた。
「……助けて、くれ……」
「!? 中に人間が……!」
リリアが駆け寄ろうとしたが、遅かった。
黒い魔力が騎士の身体を包み、強制消滅。
残されたのは焦げた紋章だけだった。
セリアが拳を握りしめる。
「使い捨て……人間兵器として、完全に管理されてる」
翼は唇を噛んだ。
「監視者……お前ら、どこまで人を道具にすれば気が済むんだ」
その時だった。
遺跡の奥、巨大な魔法陣が光り出す。
淡い青白い光が天井まで届き、刻印が浮かび上がる。
「……転移門だ」
リリアが息を呑む。
「どこに繋がってるの?」
「分からない。でも、これが“本命”だろうな」
翼はゆっくりとその光に手を伸ばす。
「ここが、アークの言っていた“選別の終着点”……」
セリアが頷き、リリアが笑った。
「もう後戻りはできないね」
「最初からそのつもりだ」
翼は微笑んだ。
そして三人は、光の中へと足を踏み入れる。
その瞬間、世界が反転した。
視界が歪み、音が消え、全ての魔力が渦を巻く。
――遺跡都市カレイドの深層、《永劫回廊》。
そこは、かつて“神々が降り立った場所”と呼ばれる禁断の領域。
そして、翼たちが知る“現実”そのものを覆す真実が眠る場所でもあった。
翼は目を開け、静かに呟いた。
「行こう。ここで――全ての答えを掴む」
光が三人を包み、闇へと溶けていった。




