第48話 遺跡都市カレイドへ──監視者の残響
翌朝。
自由都市ヴァレクの空は珍しく晴れ渡っていた。
昨日の戦いで、翼たちの疲労は限界に達していたが――眠っている暇などない。
「……まさか、監視者が直接現れるとはな」
翼が呟く。
宿の部屋には、セリアとリリアの姿。
テーブルの上には、昨日の戦闘後に拾った“黒い羽”と、アークから預かっていた暗号文が広げられている。
リリアがペンで紙を叩きながら言った。
「この文字、普通の王国語じゃない。魔導古語の一種ね。しかも、王立魔導院の中でも上級研究員しか読めないやつ」
セリアが目を細める。
「つまり……王都関係者が関わってる可能性が高いってこと?」
「そうなるな」
翼は腕を組んだ。
「監視者も、“王都の選別計画”とか言ってた。俺たちを試すような口ぶりだったし……何か、裏で大きな実験が動いてる」
静寂が流れる。
そして、リリアが暗号文の隅に書かれた小さな記号に気づいた。
「……これ、地図の一部じゃない?」
「地図?」
「そう。古代都市カレイドの南門跡にある、地下迷宮の座標と一致する。
ここ――“遺跡都市カレイド”。数百年前、魔導文明が栄えてた場所よ」
セリアが息を呑む。
「……そこに、監視者の目的があるのね」
「行くしかないな」
翼は立ち上がる。
「アークがこの暗号を残したってことは、何か知ってたってことだ。
放っておいたら、また誰かが傷つく」
リリアがにやりと笑う。
「決まりね。じゃ、出発準備と行こうか!」
* * *
ヴァレクの西門。
そこには、馬車に荷物を積み終えたセリアとリリアが待っていた。
「補給完了。食料とポーションも揃ったわ」
「あとついでに、宿屋の受付の子に“戻らなかったら荷物処分して”って言っといた」
「死亡フラグ立てんな」
翼が即ツッコミを入れると、リリアは悪戯っぽく笑う。
「フラグをへし折ってこその冒険者でしょ?」
「そういう言い方やめろ」
そんな軽口を叩きながら、三人は街を後にした。
遺跡都市カレイドまでは、約三日の旅路。
魔獣の棲む湿地帯と、砂の平原を越えなければならない。
セリアが地図を見ながら言う。
「昼は陽射しが強くて、夜は冷え込むわ。体力管理をちゃんとしないと」
「了解。俺が回復でカバーする」
リリアが口笛を吹いた。
「頼もしいわね~。昔は“ポーション係”とか言われてたのに」
「うるせぇ」
翼は笑いながら返した。
そんな和やかな時間も束の間――道の先に、不穏な影が現れた。
黒いマントを羽織った数人の男たち。
その胸元には、見覚えのある三日月と槍の紋章。
「……あいつら、監視者の手下だ」
セリアが即座に短剣を構える。
「ここで始末しておこう」
翼の目に冷たい光が宿る。
敵は五人。
しかし全員が、異様な魔力を帯びていた。
「《フェイズ・シフト》、発動」
敵の一人が呟いた瞬間、彼らの姿がぶれる。
空間をずらす転移術。通常の攻撃が当たらない。
リリアが舌打ちする。
「めんどくさい系だわね!」
「セリア、前衛固定! リリア、支援魔法優先!」
「了解!」
翼は深呼吸をし、拳を握る。
掌に光が宿る。
「――《ヒール・ブレイズ》!」
白光が爆ぜ、転移の波動を焼き払う。
敵の一人が悲鳴を上げ、姿を現した。
「ちっ……なぜ当たる!?」
「回復魔法は“存在”を癒す力だ。お前らの歪んだ転移、治してやっただけだよ」
「理不尽すぎるだろ!?」
リリアが笑いながら叫ぶ。
「出た! 回復で理屈ぶっ壊すタイプ!」
セリアは冷静に動く。
短剣を回転させ、敵の魔導器を切り裂いた。
火花が散り、男が吹き飛ぶ。
「三人目、無力化!」
「残り二人だ!」
最後の二人は合体術式を発動し、黒い竜の幻影を生み出した。
それは咆哮とともに翼たちに襲いかかる。
「くっ……!」
リリアが魔力障壁を展開するが、押し負けそうになる。
翼が前に出た。
「お前らの作った“偽りの竜”……本物の命の力で上書きしてやる!」
「――《ヒール・バースト・ドラグ》!!!」
純白の竜の光が、黒い幻影を飲み込んだ。
爆風が起こり、地面が裂ける。
敵は全員、倒れた。
だが、その中の一人がかすれた声で笑った。
「……選別は、終わらない……」
そのまま、黒い霧となって消滅した。
リリアが息を整えながら呟く。
「やっぱり、ただの手下じゃないわね。完全に“作られた存在”……」
セリアが頷く。
「王都の魔導実験で生み出された、使い捨ての戦士……」
翼は空を見上げた。
「……なら、なおさら止めないとな」
風が吹き抜ける。
遠く、砂の向こうに見える巨大な塔。
それが――遺跡都市カレイドだった。
陽光を反射して輝くその塔は、まるで空へと伸びる刃のよう。
そこに、すべての“始まり”が待っている。
翼は拳を握り、静かに呟いた。
「行こう。今度こそ、全部終わらせるために」
仲間たちは頷き、歩き出す。
空は青く、しかしその奥には、暗い雲の影が潜んでいた。
誰も知らない“真実”が、少しずつ顔を出そうとしていた。




